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女神の審判と婚約者
第九話 女神の審判・その②
しおりを挟む「カレン嬢」
エディック殿下の視線がカレン嬢に移ると、この『女神の審判』が始まってからは黙っていたカレン嬢が顔を上げ、エディック殿下をキリッと睨みつけた。
「君はアレクを洗脳したのか?」
「洗脳なんてしてないわよ。ただ、私はアレクにあなたの婚約者はアメリアだって言い続けただけよ。だって、私はアメリアのことをアレクの婚約者だと思っていたもの」
チラリとエディック殿下は女神に嘘をついていないのかを確認し、女神がそれに頷いて嘘をついていないことを伝えた。それを見て、エディック殿下は納得したように頷いた。
まあ、確かに、ゲームでは、私はアレキシス殿下の婚約者だったからね。カレン嬢がそう思っていても仕方ない。とはいえ、あの学園に通っていたら、少しくらいは、噂話とか耳にすると思うんだけどな。私がエディック殿下の婚約者だって。
「人間は他人に言い続けられたことを、例え事実とは異なることでも、「そうだったかもしれない」と思い込んでしまう生き物だ。特にそれが、
---自分が望んでいることである場合、その作用はさらに強いものへとなる。
人の心理を利用した一種の洗脳のようなものだ」
え?どういうこと?望んでいる場合?
私には、エディック殿下が言っていることをよく理解できなかった。
私の混乱は他所に、エディック殿下は続ける。
「おかしいとは思っていたんだ。私たち皇族は、生まれながらに、能力を使った洗脳には大なり小なり耐性があるからな」
ふぅと息を吐いたエディック殿下は、さらに続けて自身の考察を述べていく。
「本来であれば、こういった洗脳に対しても、皇族は自らの精神力によって洗脳はされないんだが。まあ、対象がアレクだ。今回の場合は、特にアレクの弱い所を突かれたからな。普通、こんなことはあってはならないんだが、アレクなら仕方ない部分もある。然るべき処分はくだるがな」
そう言って締めくくったエディック殿下に、途中顔に喜色を浮かべたり、うっと苦い顔をしたりと忙しそうに表情をコロコロと変えていたアレキシス殿下は、最終的には諦めたように項垂れてしまった。
「あ、あのー、エディック殿下。アレキシス殿下が望んでいる?って?弱い所?って?どういうことですか?」
私が婚約者だということを望んでいるって聞こえたんだが、幻聴かな?
それだとまるで、アレキシス殿下が私のことを好き、みたいじゃない。
「あー、そうか。リアは知らなかったか」
しまった、みたいな顔をしたエディック殿下は、その後、苦笑して、アレキシス殿下に言った。『あら、まだ言ってなかったのね』と驚いた様子の女神。
「もう、いいだろう?アレク」
エディック殿下のその言葉を聞いて、アレキシス殿下は、眉を下げて情けなさそうな泣きそうな顔をして、コクリと小さく頷いた。
「リア。アレクはな、リアに初めて会った時から、私とリアの婚約が正式に決まったあたりまで、
---リアのことが好きだったんだよ」
「え?」
アレキシス殿下が、私のことをすき?
あれ?すきってなんだったっけ?
え?すき?隙?空き?
好き!?
混乱している私に、エディック殿下は、苦笑して、「やっぱり気づいてなかったか。リア以外の…ヴィンスとかは気づいていたし、アレクは結構分かりやすかったと思うんだけどな」と、小声で言っていたのには、私は気づかなかった。
「うそだ…」
やっぱり信じられなくて小さく呟いた私。
「嘘じゃない。たしかに、私は君に酷いことをした。だが、私の気持ちを君が否定しないでくれ」
真剣な顔でそう言ったアレキシス殿下。
その顔は、エディック殿下が真剣な時の顔とそっくりで、ああ、アレキシス殿下は本気なんだ、と自然とそう思えた。
「本当は、つい最近まで、君のことが好きだったんだ。…やっぱり諦めきれなくて」
そう言って儚く笑うアレキシス殿下の姿は、さすがは攻略対象者、とても綺麗で、ああ、やっぱりエディック殿下の兄弟なんだな、血は争えないな、とそう思えた。
「その想いを利用されたんだな」
そう問いかけたエディック殿下に、そうですね、とようやく、今日珍しくも皇子らしい凛とした姿で、ハッキリと頷き、そして、彼の彼自身に起きたことを告げた。
「おそらくはそうかと。好きな人が兄上と婚約、なんて私自身信じたくなかった」
「私だってリアを譲る気はなかったからな」
さらりとそう宣言するエディック殿下に、分かってますよ、と言いたげにアレキシス殿下は肩を竦めた。
「誰が見ても二人は両想いで、私が入る余地はないと分かっていたので、アメリアが幸せなら、と何も妨害さえなければ、あの時、身を引くことを決められたんですが」
目を伏せながらハハっと自嘲した笑いを浮かべたアレキシス殿下は、何だか、勘違いでもなく憑き物が堕ちたように見えた。
「あの時って?」
いつだろう、と単純にそう思って聞いたその答えは、私にとって、衝撃だった。
「本来であれば、兄上とアメリアの婚約発表が行われるはずだった日だよ」
そう、その日は、私にとって、ゲームの設定は変えられないのかと、絶望した日だった。
──────────
作者です。
アレキシス殿下は、ちょっとバカだけど憎めない、そんなキャラにしたいと思って書いてきましたが、今回、バカ皇子、そう呼ばれる彼の素顔が出せたかな、思います。第一話で、アレキシス殿下をアメリアがバカ皇子、と称していましたが、それは、元々は仲が良かったゆえです。軽口を叩けるくらいの仲だったんです。しかし、学園に入り、アレキシス殿下がカレン嬢に騙され、今に至る、的な経緯が実はあります。本編で書ききれるか分からないので、一応ここで補足。
そして、『女神の審判』のはずなのに、『女神の審判』があまり出てこない、という…。
ちょーっとシリアスが出てきましたが、直ぐに終わる予定です。
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