私はあなたの婚約者ではないんです!

凪ルナ

文字の大きさ
上 下
9 / 21
女神の審判と婚約者

第九話 女神の審判・その②

しおりを挟む

 「カレン嬢」


 エディック殿下の視線がカレン嬢に移ると、この『女神の審判』が始まってからは黙っていたカレン嬢が顔を上げ、エディック殿下をキリッと睨みつけた。


 「君はアレクを洗脳したのか?」


 「洗脳なんてしてないわよ。ただ、私はアレクにあなたの婚約者はアメリアだって言い続けただけよ。だって、私はアメリアのことをアレクの婚約者だと思っていたもの」


 チラリとエディック殿下は女神に嘘をついていないのかを確認し、女神がそれに頷いて嘘をついていないことを伝えた。それを見て、エディック殿下は納得したように頷いた。
 まあ、確かに、ゲームでは、私はアレキシス殿下の婚約者だったからね。カレン嬢がそう思っていても仕方ない。とはいえ、あの学園に通っていたら、少しくらいは、噂話とか耳にすると思うんだけどな。私がエディック殿下の婚約者だって。


 「人間にんげん他人ひとに言い続けられたことを、例え事実とは異なることでも、「そうだったかもしれない」と思い込んでしまう生き物だ。特にが、
---自分が望んでいることである場合、その作用はさらに強いものへとなる。
人の心理を利用した一種の洗脳のようなものだ」


 え?どういうこと?場合?


 私には、エディック殿下が言っていることをよく理解できなかった。

 私の混乱は他所に、エディック殿下は続ける。


 「おかしいとは思っていたんだ。私たち皇族は、生まれながらに、能力を使った洗脳には大なり小なり耐性があるからな」


 ふぅと息を吐いたエディック殿下は、さらに続けて自身の考察を述べていく。


 「本来であれば、こういった洗脳に対しても、皇族は自らの精神力によって洗脳はされないんだが。まあ、対象がアレクだ。今回の場合は、特にアレクの弱い所を突かれたからな。普通、こんなことはあってはならないんだが、アレクなら仕方ない部分もある。然るべき処分はくだるがな」


 そう言って締めくくったエディック殿下に、途中顔に喜色を浮かべたり、うっと苦い顔をしたりと忙しそうに表情をコロコロと変えていたアレキシス殿下は、最終的には諦めたように項垂れてしまった。


 「あ、あのー、エディック殿下。アレキシス殿下が望んでいる?って?弱い所?って?どういうことですか?」


 私が婚約者だということを望んでいるって聞こえたんだが、幻聴かな?
 それだとまるで、アレキシス殿下が私のことを好き、みたいじゃない。


 「あー、そうか。リアは知らなかったか」


 しまった、みたいな顔をしたエディック殿下は、その後、苦笑して、アレキシス殿下に言った。『あら、まだ言ってなかったのね』と驚いた様子の女神。

 「もう、いいだろう?アレク」

 エディック殿下のその言葉を聞いて、アレキシス殿下は、眉を下げて情けなさそうな泣きそうな顔をして、コクリと小さく頷いた。


 「リア。アレクはな、リアに初めて会った時から、私とリアの婚約が正式に決まったあたりまで、


---リアのことが好きだったんだよ」



 「え?」


 アレキシス殿下が、私のことをすき?

 あれ?すきってなんだったっけ?

 え?すき?隙?空き?

 好き!?


 混乱している私に、エディック殿下は、苦笑して、「やっぱり気づいてなかったか。リア以外の…ヴィンスとかは気づいていたし、アレクは結構分かりやすかったと思うんだけどな」と、小声で言っていたのには、私は気づかなかった。


 「うそだ…」


 やっぱり信じられなくて小さく呟いた私。


 「嘘じゃない。たしかに、私は君に酷いことをした。だが、私の気持ちを君が否定しないでくれ」


 真剣な顔でそう言ったアレキシス殿下。


 その顔は、エディック殿下が真剣な時の顔とそっくりで、ああ、アレキシス殿下は本気なんだ、と自然とそう思えた。


 「本当は、つい最近まで、君のことが好きだったんだ。…やっぱり諦めきれなくて」


 そう言って儚く笑うアレキシス殿下の姿は、さすがは攻略対象者、とても綺麗で、ああ、やっぱりエディック殿下の兄弟なんだな、血は争えないな、とそう思えた。


 「その想いを利用されたんだな」


 そう問いかけたエディック殿下に、そうですね、とようやく、今日珍しくも皇子らしい凛とした姿で、ハッキリと頷き、そして、彼の彼自身に起きたことを告げた。


 「おそらくはそうかと。好きな人が兄上と婚約、なんて私自身信じたくなかった」


 「私だってリアを譲る気はなかったからな」


 さらりとそう宣言するエディック殿下に、分かってますよ、と言いたげにアレキシス殿下は肩を竦めた。


 「誰が見ても二人は両想いで、私が入る余地はないと分かっていたので、アメリアが幸せなら、と何も妨害さえなければ、あの時、身を引くことを決められたんですが」


 目を伏せながらハハっと自嘲した笑いを浮かべたアレキシス殿下は、何だか、勘違いでもなく憑き物が堕ちたように見えた。


 「って?」


 いつだろう、と単純にそう思って聞いたその答えは、私にとって、衝撃だった。


 「本来であれば、兄上とアメリアの婚約発表が行われるはずだった日だよ」


 そう、その日は、私にとって、ゲームの設定は変えられないのかと、絶望した日だった。


──────────

作者です。

アレキシス殿下は、ちょっとバカだけど憎めない、そんなキャラにしたいと思って書いてきましたが、今回、バカ皇子、そう呼ばれる彼の素顔が出せたかな、思います。第一話で、アレキシス殿下をアメリアがバカ皇子、と称していましたが、それは、元々は仲が良かったゆえです。軽口を叩けるくらいの仲だったんです。しかし、学園に入り、アレキシス殿下がカレン嬢に騙され、今に至る、的な経緯が実はあります。本編で書ききれるか分からないので、一応ここで補足。

そして、『女神の審判』のはずなのに、『女神の審判』があまり出てこない、という…。

ちょーっとシリアスが出てきましたが、直ぐに終わる予定です。
しおりを挟む
感想 39

あなたにおすすめの小説

【完】断罪イベントが始まりましたが破滅するのは私ではありません2

咲貴
恋愛
王立魔法学園の卒業パーティー。 卒業生であり、王太子ルーファスの婚約者である公爵令嬢のジェシカは、希少な光属性で『白百合の乙女』である子爵令嬢のユリアに断罪されそうになる。 身に覚えの無い罪を認めるように言われ、絶体絶命かと思われたその時……。

最愛の亡き母に父そっくりな子息と婚約させられ、実は嫌われていたのかも知れないと思うだけで気が変になりそうです

珠宮さくら
恋愛
留学生に選ばれることを目標にして頑張っていたヨランダ・アポリネール。それを知っているはずで、応援してくれていたはずなのにヨランダのために父にそっくりな子息と婚約させた母。 そんな母が亡くなり、義母と義姉のよって、使用人の仕事まですることになり、婚約者まで奪われることになって、母が何をしたいのかをヨランダが突き詰めたら、嫌われていた気がし始めてしまうのだが……。

公爵令嬢は見極める~ある婚約破棄の顛末

ひろたひかる
恋愛
「リヨン公爵令嬢アデライド。君との婚約は破棄させてもらう」―― 婚約者である第一王子セザールから突きつけられた婚約破棄。けれどアデライドは冷静な態度を崩さず、淡々とセザールとの話し合いに応じる。その心の中には、ある取り決めがあった。◆◆◆「小説家になろう」にも投稿しています。

下げ渡された婚約者

相生紗季
ファンタジー
マグナリード王家第三王子のアルフレッドは、優秀な兄と姉のおかげで、政務に干渉することなく気ままに過ごしていた。 しかしある日、第一王子である兄が言った。 「ルイーザとの婚約を破棄する」 愛する人を見つけた兄は、政治のために決められた許嫁との婚約を破棄したいらしい。 「あのルイーザが受け入れたのか?」 「代わりの婿を用意するならという条件付きで」 「代わり?」 「お前だ、アルフレッド!」 おさがりの婚約者なんて聞いてない! しかもルイーザは誰もが畏れる冷酷な侯爵令嬢。 アルフレッドが怯えながらもルイーザのもとへと訪ねると、彼女は氷のような瞳から――涙をこぼした。 「あいつは、僕たちのことなんかどうでもいいんだ」 「ふたりで見返そう――あいつから王位を奪うんだ」

婚約破棄をいたしましょう。

見丘ユタ
恋愛
悪役令嬢である侯爵令嬢、コーデリアに転生したと気づいた主人公は、卒業パーティーの婚約破棄を回避するために奔走する。 しかし無慈悲にも卒業パーティーの最中、婚約者の王太子、テリーに呼び出されてしまうのだった。

【完結】旦那様、わたくし家出します。

さくらもち
恋愛
とある王国のとある上級貴族家の新妻は政略結婚をして早半年。 溜まりに溜まった不満がついに爆破し、家出を決行するお話です。 名前無し設定で書いて完結させましたが、続き希望を沢山頂きましたので名前を付けて文章を少し治してあります。 名前無しの時に読まれた方は良かったら最初から読んで見てください。 登場人物のサイドストーリー集を描きましたのでそちらも良かったら読んでみてください( ˊᵕˋ*) 第二王子が10年後王弟殿下になってからのストーリーも別で公開中

断罪される一年前に時間を戻せたので、もう愛しません

天宮有
恋愛
侯爵令嬢の私ルリサは、元婚約者のゼノラス王子に断罪されて処刑が決まる。 私はゼノラスの命令を聞いていただけなのに、捨てられてしまったようだ。 処刑される前日、私は今まで試せなかった時間を戻す魔法を使う。 魔法は成功して一年前に戻ったから、私はゼノラスを許しません。

婚約破棄を求められました。私は嬉しいですが、貴方はそれでいいのですね?

ゆるり
恋愛
アリシエラは聖女であり、婚約者と結婚して王太子妃になる筈だった。しかし、ある少女の登場により、未来が狂いだす。婚約破棄を求める彼にアリシエラは答えた。「はい、喜んで」と。

処理中です...