私はあなたの婚約者ではないんです!

凪ルナ

文字の大きさ
上 下
8 / 21
女神の審判と婚約者

第八話 女神の審判・その①

しおりを挟む


 『ゴホンっ。それで、本題に入っていいかしら?』


 二人の世界に入りかけた私達を現実に戻したのは女神のわざとらしい咳払いだった。

 それに答えたのは、やはりエディック殿下。


 「ああ、すまない。そうだな。本題に入ろう。今回の『女神の審判』は、アレクがリアにしてもいない婚約を破棄したこと、及び、リアに対する侮辱、これに関してのカレン嬢の関与、これを明らかにし、さらにはそれ相応の罰を与えるためだ」


 最後に不敵な笑みを浮かべたエディック殿下は、臨戦態勢だ。バチバチだ。いつでもどこからでもかかってこいという表情だ。
 よくよく考えてみると、エディック殿下が私のこととなると敏感で過激で過保護なのは血筋なのかもしれない。陛下も今は亡き皇妃様を溺愛していらっしゃったらしいし。きっと大切なものに手を出されると、黙っていられないのも血がなせる技なのだろう。その大切なものっていうのが私のことっていうのは少し照れるけど。


 『なるほどね。アメリアのあることないことをアレキシスに吹き込んだ可能性、つまりはアメリアを大勢の前で陥れようとしたことに対しての審判ね』


 「そういうことだ」


 ええと、わざとカレン嬢が私を陥れようとしたってこと?
 まあ、そうでしょうよ。私、カレン嬢をいじめてもないのに、それどころか関わったことすらないのに、さっきの婚約破棄つまり断罪イベントが起きて、さらにカレン嬢をいじめたって、アレキシス殿下が言ってたもんね。


 『分かったわ。進行はエディックに任せるわ。では、始めましょう』


 ニッコリと笑った女神に、これまたニッコリと心なしか黒い笑みを浮かべたエディック殿下が進行を担当し、早速『女神の審判』を開始する。
 うぇぇ。こわっ。


 「ああ。では、まずはアレクに聞こう」


 あ、まずはアレキシス殿下に聞くんだ。うん。頑張って生きて、アレキシス殿下。
 エディック殿下は、事の中心たるアレキシス殿下に最初に話を聞くことにしたらしい。


 「アレク。知っているとは思うが、『女神の審判』では虚偽の証言は許されない。いいな?」


 そうエディック殿下は、アレキシス殿下に忠告し、確認した後、アレキシス殿下に質問し、話を聞いていく。


 「リアがお前の婚約者だというお前の勘違いはどこから来たんだ?誰からそんな話を聞いた?」


 おそらく、エディック殿下が一番聞きたいであろう話から、エディック殿下はアレキシス殿下に質問していく。


 「……カレンが、…私に事ある毎に、婚約者であるアメリア様に申し訳ない、と言っていたり、何かにつけて「」というのを言葉にされた。他にもアメリア嬢に関することを話された。…その内容は主にアメリア様に嫌がらせをされたというものだった。例えば教科書を切り刻まれた、など言っていて…ついさっきまで何故かそれを本当のことだと信じていた。今考えると、何故カレンが言っていたことを信じていたのだろうと思う」


 ん?アレキシス殿下、まさかの洗脳されていた説が出てきました。カレン嬢の罪状がさらに重くなっていく…。
 でも、なぜにカレン嬢はアレキシス殿下を洗脳出来たのかっていう話になるよね。そもそも、洗脳を使えるってことになるし。
 本当に洗脳されていたっていうことが、この『女神の審判』で分かれば、アレキシス殿下の罪状は少しは軽くなるかな。


 「なるほどな。一応だが、リア。この嫌がらせについて身に覚えは?」


 ないとは思うが、というような表情で聞いてくるエディック殿下にキッパリと否定する。


 「ありません。そもそも、私、カレン嬢のことを同じ学園だから見かけることはありましたが、カレン嬢と話したのは今日が初めてです」

 
 「だよな。リアがカレン嬢について話しているのを私は聞いたことないからな。女神エレーナ、アレクとアメリアの証言に嘘はあるか?」


 基本、私は学園の帰りに皇宮に寄って、エディック殿下と話をして帰るのが日課で、その時に学園で何があったか、私が何をしたのかをエディック殿下に話すから、エディック殿下は私の学園の様子を知っている。
 さらに言うと、私の同級生にいるエディック殿下の側近候補に私の様子を報告させているらしく、私の交友関係はエディック殿下に完全に把握されている。
 私が嫌がらせをするような人間ではなく、むしろそういう人間を好いていないことを知っているエディック殿下は、まず嫌がらせとかそんなことありえないと思っているようだ。それでも私に聞いてくるのは、立場上、あくまでも中立にいなくてはならないからで、この質問は形式上必要なのだ。


 『ないわ』

 んー、と口に人差し指を当てて、少し考えた様子の女神が一度瞬きをした後、キッパリとそう答えた。


 「では、次に移ろう」


 エディック殿下がそう言った時、今まで少し和らいでいたエディック殿下の空気が冷たいものに変わった。


 サラサラのプラチナブロンドの髪を揺らし、ゆっくりとカレン嬢の方を向いたエディック殿下は、そのアメジストのような深い紫色の瞳を妖しく光らせて、その目を細めゆっくりとその薄い唇が弧を描いた。


 「カレン嬢」

しおりを挟む
感想 39

あなたにおすすめの小説

【完】断罪イベントが始まりましたが破滅するのは私ではありません2

咲貴
恋愛
王立魔法学園の卒業パーティー。 卒業生であり、王太子ルーファスの婚約者である公爵令嬢のジェシカは、希少な光属性で『白百合の乙女』である子爵令嬢のユリアに断罪されそうになる。 身に覚えの無い罪を認めるように言われ、絶体絶命かと思われたその時……。

最愛の亡き母に父そっくりな子息と婚約させられ、実は嫌われていたのかも知れないと思うだけで気が変になりそうです

珠宮さくら
恋愛
留学生に選ばれることを目標にして頑張っていたヨランダ・アポリネール。それを知っているはずで、応援してくれていたはずなのにヨランダのために父にそっくりな子息と婚約させた母。 そんな母が亡くなり、義母と義姉のよって、使用人の仕事まですることになり、婚約者まで奪われることになって、母が何をしたいのかをヨランダが突き詰めたら、嫌われていた気がし始めてしまうのだが……。

公爵令嬢は見極める~ある婚約破棄の顛末

ひろたひかる
恋愛
「リヨン公爵令嬢アデライド。君との婚約は破棄させてもらう」―― 婚約者である第一王子セザールから突きつけられた婚約破棄。けれどアデライドは冷静な態度を崩さず、淡々とセザールとの話し合いに応じる。その心の中には、ある取り決めがあった。◆◆◆「小説家になろう」にも投稿しています。

下げ渡された婚約者

相生紗季
ファンタジー
マグナリード王家第三王子のアルフレッドは、優秀な兄と姉のおかげで、政務に干渉することなく気ままに過ごしていた。 しかしある日、第一王子である兄が言った。 「ルイーザとの婚約を破棄する」 愛する人を見つけた兄は、政治のために決められた許嫁との婚約を破棄したいらしい。 「あのルイーザが受け入れたのか?」 「代わりの婿を用意するならという条件付きで」 「代わり?」 「お前だ、アルフレッド!」 おさがりの婚約者なんて聞いてない! しかもルイーザは誰もが畏れる冷酷な侯爵令嬢。 アルフレッドが怯えながらもルイーザのもとへと訪ねると、彼女は氷のような瞳から――涙をこぼした。 「あいつは、僕たちのことなんかどうでもいいんだ」 「ふたりで見返そう――あいつから王位を奪うんだ」

婚約破棄をいたしましょう。

見丘ユタ
恋愛
悪役令嬢である侯爵令嬢、コーデリアに転生したと気づいた主人公は、卒業パーティーの婚約破棄を回避するために奔走する。 しかし無慈悲にも卒業パーティーの最中、婚約者の王太子、テリーに呼び出されてしまうのだった。

【完結】旦那様、わたくし家出します。

さくらもち
恋愛
とある王国のとある上級貴族家の新妻は政略結婚をして早半年。 溜まりに溜まった不満がついに爆破し、家出を決行するお話です。 名前無し設定で書いて完結させましたが、続き希望を沢山頂きましたので名前を付けて文章を少し治してあります。 名前無しの時に読まれた方は良かったら最初から読んで見てください。 登場人物のサイドストーリー集を描きましたのでそちらも良かったら読んでみてください( ˊᵕˋ*) 第二王子が10年後王弟殿下になってからのストーリーも別で公開中

婚約破棄を求められました。私は嬉しいですが、貴方はそれでいいのですね?

ゆるり
恋愛
アリシエラは聖女であり、婚約者と結婚して王太子妃になる筈だった。しかし、ある少女の登場により、未来が狂いだす。婚約破棄を求める彼にアリシエラは答えた。「はい、喜んで」と。

妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢

岡暁舟
恋愛
妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢マリアは、それでも婚約者を憎むことはなかった。なぜか? 「すまない、マリア。ソフィアを正式な妻として迎え入れることにしたんだ」 「どうぞどうぞ。私は何も気にしませんから……」 マリアは妹のソフィアを祝福した。だが当然、不気味な未来の陰が少しずつ歩み寄っていた。

処理中です...