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女神の審判と婚約者
第八話 女神の審判・その①
しおりを挟む『ゴホンっ。それで、本題に入っていいかしら?』
二人の世界に入りかけた私達を現実に戻したのは女神のわざとらしい咳払いだった。
それに答えたのは、やはりエディック殿下。
「ああ、すまない。そうだな。本題に入ろう。今回の『女神の審判』は、アレクがリアにしてもいない婚約を破棄したこと、及び、リアに対する侮辱、これに関してのカレン嬢の関与、これを明らかにし、さらにはそれ相応の罰を与えるためだ」
最後に不敵な笑みを浮かべたエディック殿下は、臨戦態勢だ。バチバチだ。いつでもどこからでもかかってこいという表情だ。
よくよく考えてみると、エディック殿下が私のこととなると敏感で過激で過保護なのは血筋なのかもしれない。陛下も今は亡き皇妃様を溺愛していらっしゃったらしいし。きっと大切なものに手を出されると、黙っていられないのも血がなせる技なのだろう。その大切なものっていうのが私のことっていうのは少し照れるけど。
『なるほどね。アメリアのあることないことをアレキシスに吹き込んだ可能性、つまりはアメリアを大勢の前で陥れようとしたことに対しての審判ね』
「そういうことだ」
ええと、わざとカレン嬢が私を陥れようとしたってこと?
まあ、そうでしょうよ。私、カレン嬢をいじめてもないのに、それどころか関わったことすらないのに、さっきの婚約破棄つまり断罪イベントが起きて、さらにカレン嬢をいじめたって、アレキシス殿下が言ってたもんね。
『分かったわ。進行はエディックに任せるわ。では、始めましょう』
ニッコリと笑った女神に、これまたニッコリと心なしか黒い笑みを浮かべたエディック殿下が進行を担当し、早速『女神の審判』を開始する。
うぇぇ。こわっ。
「ああ。では、まずはアレクに聞こう」
あ、まずはアレキシス殿下に聞くんだ。うん。頑張って生きて、アレキシス殿下。
エディック殿下は、事の中心たるアレキシス殿下に最初に話を聞くことにしたらしい。
「アレク。知っているとは思うが、『女神の審判』では虚偽の証言は許されない。いいな?」
そうエディック殿下は、アレキシス殿下に忠告し、確認した後、アレキシス殿下に質問し、話を聞いていく。
「リアがお前の婚約者だというお前の勘違いはどこから来たんだ?誰からそんな話を聞いた?」
おそらく、エディック殿下が一番聞きたいであろう話から、エディック殿下はアレキシス殿下に質問していく。
「……カレンが、…私に事ある毎に、婚約者であるアメリア様に申し訳ない、と言っていたり、何かにつけて「婚約者のアメリア」というのを言葉にされた。他にもアメリア嬢に関することを話された。…その内容は主にアメリア様に嫌がらせをされたというものだった。例えば教科書を切り刻まれた、など言っていて…ついさっきまで何故かそれを本当のことだと信じていた。今考えると、何故カレンが言っていたことを信じていたのだろうと思う」
ん?アレキシス殿下、まさかの洗脳されていた説が出てきました。カレン嬢の罪状がさらに重くなっていく…。
でも、なぜにカレン嬢はアレキシス殿下を洗脳出来たのかっていう話になるよね。そもそも、洗脳を使えるってことになるし。
本当に洗脳されていたっていうことが、この『女神の審判』で分かれば、アレキシス殿下の罪状は少しは軽くなるかな。
「なるほどな。一応だが、リア。この嫌がらせについて身に覚えは?」
ないとは思うが、というような表情で聞いてくるエディック殿下にキッパリと否定する。
「ありません。そもそも、私、カレン嬢のことを同じ学園だから見かけることはありましたが、カレン嬢と話したのは今日が初めてです」
「だよな。リアがカレン嬢について話しているのを私は聞いたことないからな。女神エレーナ、アレクとアメリアの証言に嘘はあるか?」
基本、私は学園の帰りに皇宮に寄って、エディック殿下と話をして帰るのが日課で、その時に学園で何があったか、私が何をしたのかをエディック殿下に話すから、エディック殿下は私の学園の様子を知っている。
さらに言うと、私の同級生にいるエディック殿下の側近候補に私の様子を報告させているらしく、私の交友関係はエディック殿下に完全に把握されている。
私が嫌がらせをするような人間ではなく、むしろそういう人間を好いていないことを知っているエディック殿下は、まず嫌がらせとかそんなことありえないと思っているようだ。それでも私に聞いてくるのは、立場上、あくまでも中立にいなくてはならないからで、この質問は形式上必要なのだ。
『ないわ』
んー、と口に人差し指を当てて、少し考えた様子の女神が一度瞬きをした後、キッパリとそう答えた。
「では、次に移ろう」
エディック殿下がそう言った時、今まで少し和らいでいたエディック殿下の空気が冷たいものに変わった。
サラサラのプラチナブロンドの髪を揺らし、ゆっくりとカレン嬢の方を向いたエディック殿下は、そのアメジストのような深い紫色の瞳を妖しく光らせて、その目を細めゆっくりとその薄い唇が弧を描いた。
「カレン嬢」
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