私はあなたの婚約者ではないんです!

凪ルナ

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女神の審判と婚約者

第五話 婚約者との出会い

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 私たちを祝福する拍手の中、私は周囲を微笑みながら眺めている彼を静かに見つめる。
 いつ見ても、イケメンだ。たとえ、今、怒っていると分かっていても、カッコイイ。


 ようやく、だ。ようやく。3歳の時、前世の記憶を思い出して、彼と初めて会ったあの日から、前世からの最愛の人であるエディック殿下、彼と結ばれる日を夢見て、色々頑張って来たのだ。

 悪役令嬢だけど、私は幸せになりたかった。

 3歳の時、盛大に頭を打った衝撃で前世の記憶を思い出した私は、膨大な記憶が脳に流れ込んで来たために、知恵熱を出して寝込んでしまった。両親には心配をかけてしまって申し訳なかったのを今でも覚えている。彼らがものすごく過保護になったのは、それ以来だからそれが原因だろう。


 そして、私はここが乙女ゲームの世界で、私は悪役令嬢だということに気づいた。私は絶望した。どのルートに進もうと、私に待っているのは、破滅だったから。それでも、私が、幸せになることを諦められなかったのは、エディック殿下がこの世界にいると分かっていたから。前世の時から一番好きだったキャラの彼、彼と結ばれる可能性があるなら、私は諦めきれなかった。

 私が前世の記憶を思い出してから、まず、やったことは、ヴィンス兄様と仲良くなること。前世の記憶を思い出す前は、可もなく不可もなく、仲が良いとも悪いともどちらとも言えない兄妹だった。ヴィンス兄様は私に無関心だった。
 私がゲームのように、『サク君』のアメリアのように、断罪される時、(いや、もちろん悪役令嬢らしくヒロインをいじめるつもりはないけど、それでも何かあった時、)ヴィンス兄様と仲良くなったら、助けてもらえるかも、という打算もあったけど、純粋に当時6歳の可愛くてかっこいいヴィンス兄様と仲良くなりたいという気持ちもあった。私の中の『アメリア』もヴィンス兄様と仲良くなりたいと思っていたのもあった。
 仲良くなるにはどうすればいいのかと、必死に考えた3歳の私は、どこに行くにもトコトコとヴィンス兄様の後をついてまわり、ヴィンス兄様と目が合えばにぱっと笑い、ヴィンス兄様に名前を呼ばれれば、「にいしゃま!」とパタパタと駆け寄った。最初は少し迷惑そうに見られたけど、私はめげずに頑張った。できるだけ大人しくして、ヴィンス兄様の迷惑にならないようにした。それでも、ヴィンス兄様が私を見る時は、可愛い妹と思われる範囲で甘えまくった。結果、次第にヴィンス兄様は絆されて、見事シスコンへと進化したのだった。


 ヴィンス兄様が私に対して甘くなり、それからそんなに経っていない日のことだった。

 私とエディック殿下の出会いは、いつもの様に、ヴィンス兄様についてまわっていた時のことだ。ヴィンス兄様が皇宮に行く日、私はヴィンス兄様と離れたくない!と駄々を捏ねまくって、私にデレデレな父様はあっさりと許可をしてくれた。


 「いいかい?リア。はぐれないようにね?」


 父様にそう念を押されたものの、やはりと言うかなんと言うか。


 「にいしゃま?どこ?」


 予想が物の見事に的中し、私はヴィンス兄様とはぐれあっさりと迷子になった。


 当時3歳の私は、精神年齢が肉体年齢に引きずられることが多々あった。
 初めて来た皇宮の知らないところに一人だという不安、ヴィンス兄様や父様の言いつけを守れず迷子になってしまって怒られるかもしれないという不安で、ぐちゃぐちゃになっていた私は、もう泣きそうになっていた。

 泣きそうになって涙目な私に、声をかけてきた人物がいた。






 「どうしたの?迷子か?」


 その人物は、私が会いたかった、──幼き日のエディック殿下、その人だったのだ。


 「え?」



 ぱちぱちと瞬きをしてみるも、そこには『サク君』の時の面影を宿した幼いエディック殿下。瞬きをしたせいで涙がポツリと頬を伝ったが、それを気にせず頬を抓ってみてもそれは変わらない。


 私と目線を合わせるためか私の前にしゃがみこんで、そっと私の頬に触れるエディック殿下。
 キョトンと目の前のエディック殿下を見つめる私に何を思ったのか、頭をポンポンと撫でてくれた。


 「大丈夫だ。僕が君のお父様を見つけてあげるから」


 にこりと笑い自信満々にそう言って私を安心させようとする姿は、幼いにも関わらず、皇太子としての器があるのだと感じさせるものだった。


 「ほんとう?」
 「もちろんだ。君の名前を教えてくれる?」


 不安そうに尋ねる私に、もちろんだと言い切るその姿は頼もしい。


 「リア。わたしはアメリア・レンドール」
 「(レンドール…。あぁ、レンドール公爵家。宰相の娘か…)分かった。じゃあ、リアって呼ぶね」
 「うんっ!あなたは?あなたのおなまえは?」


 憧れのエディック殿下に愛称で呼ばれて喜ぶ私は、『サク君』のキャラとしては知っていたが、初めて会ったため、名前を知らないはずなので、エディック殿下に名前を聞く。


 「僕はエディック。エディック・フォーサイスだよ。エディって呼んで」



 (あぁ…。やっぱりエディック殿下だ…!会いたかった…。『サク君』では攻略対象者よりも能力値が高いのに、なぜかアレキシス殿下に皇太子の座を追われてしまう皇太子様)



 これが、私、アメリア・レンドールと、エディック・フォーサイスの出会いだった。



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