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私の婚約者は
第三話 婚約者の怒り
しおりを挟む振り返ったエディック殿下に、何か察したのか重々しく頷く陛下。私はエディック殿下が何をするのか予想もつかないが、陛下はその事に対して、何やら悟った状態で、覚悟のようなものを決めているように見えた。
(え?エディック殿下、本当に何する気?)
エディック殿下は、そのまま私をエスコートするように背中に腕をまわして、陛下と父様の方向に歩き始めた。
そのまま陛下の御前まで進み、作法通りに膝をつく。
ついでに、アレキシス殿下とカレン嬢も私達を慌てた様子で、追いかけてきて近くまで来た。カレン嬢は、キッとこちらを睨みつけていて、そのことを隠す気もないようだ。きっと二人は、「まだ話は終わってない」とかそんな気持ちで追ってきたんだろう。カレン嬢は、さっきまで、やけに大人しいなと思っていたが、彼女は今の今まで固まっていた。カレン嬢は、やっぱり私のことをアレキシス殿下の婚約者で悪役令嬢だと思い込んでいるらしい前世の記憶持ちだったようで、私のアレキシス殿下の婚約者ではないという答えに、「ゲームと違う」やら「何で?」やら、ブツブツ言っていて、その後のエディック殿下の登場に、「なんで…?」と小さく呟き、混乱していたようだった。しかし、その混乱も、今動き出したということはフリーズ状態、いや混乱から復活した、ということだ。しかも、私への敵対心を隠す気もなさそうである。これからキャンキャン吠える犬のようにうるさくなるんだろうな…。
(それで、エディック殿下はどうするんだろう?)
膝をつき、頭を下げた状態でちらりとエディック殿下の方を見る。エディック殿下は真剣な表情で、陛下を見つめ、口を開く。
「陛下、私から二つほどお願いしたいことがございます」
「何じゃ?言ってみよ」
陛下がそう言った時、一瞬エディック殿下の紫色の目が獲物を狙う肉食獣のように鋭くキランと光った。この場合、もちろん獲物としてロックオンされているのは、アレキシス殿下とヒロインのカレン嬢だ。
(ひぇっ。え?何?まさか、エディック殿下おこ?激おこなの?)
思わず脳内でそうふざけ、怖さを和らげようとするくらいには怖い。あれは、獲物を逃す気はなさそうな目である。
「はっ。ありがたき幸せ」
エディック殿下は、にこやかに陛下に向かって深々と頭を下げ、そのまま言葉を繋げた。
恐ろしい。何が恐ろしいのかって、にこやかな笑顔なのが、逆に恐ろしい。油断させておいて、ガブッと一口でいきそうである。
「では、まず一つ目に、三ヶ月後を予定していた私、エディック・フィン・フォーサイスとアメリア・レンドール嬢の婚約発表ですが、今ここにいる皆様に一足早くお知らせすることをお許しください」
(えっ!?)
そう、私とエディック殿下の婚約は限られた一部のものにしか伝えられていない。もちろん、その一部にはアレキシス殿下含め、両家の身内も入っていた。いや、入っていたはずだった。
とはいえ、エディック殿下はパーティーのパートナーなどに私を選ぶ、など、婚約を隠す気はほとんどなかった。つまり、貴族社会にとって、私とエディック殿下の婚約は暗黙の了解になっていた。しかし、エディック殿下はここではっきりと婚約を公言するという。エディック殿下はよっぽどのことがない限り、暗黙の了解となっている私との婚約を予定を早めて宣言する必要はない。あるとすれば、今、勘違いしているアレキシス殿下の誤解を解くためであろう。無論、優しく勘違いを解く気はエディック殿下にはなさそうではあるが。それほどまでに、アレキシス殿下の発言に怒りを覚えていたということだ。嫉妬してくれた、とエディック殿下の私への愛を感じることは出来るが。
エディック殿下の怒りを感じ取ったのか、若干顔を引き攣らせながらも、陛下は「許可しよう」と言葉を返す。
ついでに言うと、父様は陛下の傍に控えながらも、エディック殿下の言葉にうんうんと大きく頷いていた。父様は全くエディック殿下の怒りを怖がっていないようである。それどころか、ふざけたことを抜かしたアレキシス殿下に対する怒りに同調し、エディック殿下のことを応援している始末である。
そんなこととは全く知らないアレキシス殿下は、ポカンと口を開けて間抜け面を晒している。
「では、」とエディック殿下が私を伴って、再びホールの方へと振り返り立ち上がった時だった。
「ちょっと待ってください!」
そう声を上げた、この場で、空気を読めない勇者が1人。
言わずと知れた、ヒロイン、カレン嬢である。
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