私はあなたの婚約者ではないんです!

凪ルナ

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私の婚約者は

第二話 兄と皇太子殿下

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 皇太子である彼に、公の場での正式なカーテシーをする。


 頭を上げるように言われ、顔をあげると、そこにはいつも通り笑みを浮かべた彼。でも、その瞳には、隠しきれない怒りが宿っている。


 彼はそのまま私の隣へ来て、私を抱き寄せ、『リア』と私の愛称を耳元で甘く囁き、自身の愚弟に代わり謝罪をする。

 (うぅ。私がエディック殿下の声好きだってわかってやってる!)


 「すまない。嫌な思いをさせたな。アレクは馬鹿だ馬鹿だとは思っていたが、ここまでとは思っていなかったんだ」


 第三皇子たる彼の腹違いの弟をそう軽く貶しながら、謝罪を口にし、彼は私を離さない。しかし、それを許さない者がいた。
 その人物は、わざとらしく、咳払いをしたかと思うと、力づくでエディック殿下を私から引き離した。


 「殿下。過度な接触はおやめ下さい」


 ニッコリと目が笑ってない笑顔でそう言った、エディック殿下を私から引き離した人物。その人物とは私の実の兄、ヴィンセント・レンドールだ。
 私が桜色の髪にエメラルドのような深い緑色の瞳を持ち、母様そっくりな儚げ系美少女なのに対して、ヴィンセント(ヴィンス兄様)は父様に似ていて、銀髪にアイスブルーの瞳の冷たい美貌の持ち主だ。父様も同じ色の冷たい美貌を持ち、自身の懐に入れた者達以外には冷酷になれるが故に、氷の宰相と恐れられているのだが、ヴィンス兄様はそんな父様の遺伝子を受け継いでいるのがよく分かる性質と容姿だ。
 ヴィンス兄様はエディック殿下の側近候補(ほぼ確定)だ。幼い頃から、将来皇帝になるための教育を受けていたエディック殿下に対して、ヴィンス兄様はその側近になるための教育を受けていた。元々生まれた時から側近候補だったヴィンス兄様なので、幼い頃から、信頼関係を育むために2人(ヴィンス兄様とエディック殿下)はよく一緒に行動していた。そして、私は、前世を思い出した後には、ヴィンス兄様に引っ付いて皇宮について行き、前世の時から大好きだったエディック殿下(とついでにヴィンス兄様)の後をちょこちょこ雛鳥のようについて回ったというわけだ。だから、ヴィンス兄様とエディック殿下は主従という関係だけでなく、幼馴染みで気の置けない仲だ。



 「これは周りへの牽制だよ。リアを私のものだとアピールしておかないと、また勘違いしたものが出てくるかもしれない。だから、いいだろう?ヴィンス」


 いつも正式な場では私のことをアメリア嬢と他人行儀な呼び方をする彼。だが、今は普段呼ぶように私のことを『リア』と愛称で呼び、再び私を自らの腕の中に収め、にっこりと笑顔でそうヴィンス兄様に告げるエディック殿下。


 (これは、かなり頭にきてるな)

 ヴィンスが真っ先に思ったのはそれだ。ヴィンスは、エディック殿下の表情を見て、表情とは裏腹に、普段リアを見る時には甘く妖しげな色気を携えているそのアメジストのような綺麗な深い紫色の瞳は、今は完全に冷えきっていることに気づいたからだ。そして、ヴィンスはこれは殿下を止めるのは無理だと諦めた。ご愁傷さま、アレキシス殿下。まあ、リアに迷惑かけた罪は重いし、俺も許すつもりはないけどな。そう思いつつも、ヴィンスはエディック殿下から目をそらす。


 「兄上!?こいつが兄上のものってどういうことですか!?それに、馬鹿って、何でですか!?」


 アレキシス殿下のその言葉を聞いて、エディック殿下の彫刻のように整ったその顔から、一瞬、先程まで貼り付けていた笑みが消え、表情という表情全てが消えたように見えたが、ほんの僅かな瞬きの間には、既に元のような、いや、先程よりも深い笑みを浮かべている。


 (あれ?今、一瞬だけ、笑顔が消えた…?気の所為?)

 全く気の所為ではないが、ついそう思いたくなる程には、今、エディック殿下は怒っている。
 ぶっちゃけこわい。

 普段のエディック殿下を知るものは、きっと私に賛同してくれるだろう。現に、ヴィンス兄様はアレキシス殿下を哀れむような目で見つつも、ってあれ?ヴィンス兄様も怒ってる?いやいや、ここでヴィンス兄様が止めなきゃ一体誰がエディック殿下を止めるの!?
 あ、やっぱりそうだよね!?父様の直属の部下さん!(マリウスさん。27歳既婚者。苦労人なイケメンさん。来月第一子が生まれるらしい)彼も、エディック殿下の普段の姿をある程度知っている1人だが、顔を青くして、今にも倒れそうなのが遠目でも分かる。


 「さっき言った通りだ」


 そうエディック殿下に言われても、納得出来ないような表情を浮かべているアレキシス殿下。


 (これは、お前、絶対分かっていないだろう)


 私はそう思ったが、エディック殿下もそう思ったからか、呆れながらもわざわざ、だいぶ端折って説明をしてあげるエディック殿下。


 「自分のしていることが馬鹿だと気づかないから、お前は馬鹿なんだ。あと…」



 そこまで言って、エディック殿下は、サラサラなプラチナブロンドの髪を揺らしながら、父様と陛下がいる方を振り返る。


 (?エディック殿下何するつもりなんだろう?)




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