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許す者・許される者

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………の理由。


私がその手紙に気づいた時、
至上者は既に居なくなっていた。

手紙には、
【後任状
シャルロット・エステルに
全ての権限を譲り渡す】とだけ書かれていて
どうしていいかわからなかった。

至上者…アラン・スミシー…
この半死者の生き死にを決める場で
裁きを下す絶対的な実権を握っていた人物。

彼は、
いったいどうして居なくなったのか…

そんなことを考えていると
半死者の資料が届いたことを告げる
アナウンスが流れ
私は話し合い場へ戻った。


『至上者がいなくなったって言うのに
半死者は関係無いんだな』

私が椅子に戻ると
私の前の男の人が嫌味のように言い
それをなだめるように
スキンヘッドの男の人が
『まぁまぁ、
半死者には関係無い話なんだから
嫌味を言いなさんな』と言葉を返した。

『その通りです。
至上者が留守とは言え
あくまでも半死者には関係無い話なので
文句を言っても意味はありませんよ』

眼鏡をかけた女の人が言うと
男の人が『わかってるよ』と
言葉を返した。

『でも、
至上者はいったいどこへ行ったんだろう?』

マシュマロヘアーの女の人が言うと
子供が『家出でもしたんじゃね?
退屈すぎて』と言った。

『いやいや、
それは無いでしょ。
至上者って神様なんだし』

子供の言葉に
アンジェラアキ風の女の人が言うと
ギャル男が『なら、
案外 仕事が激務過ぎて
バックれた的な?』と言った。

『それは無いでしょ?
あくまでここを管理していた
トップなんだから』

サイドテールの女の人が言うと
子供が『トップだって
馬車馬はごめんだろ?』と言葉を返した。

『ふぅ~ん、
馬車馬ねぇ~。
あなたはどう思うかしら?』

サイドテールの女の人が言うと
サイドテールの女の人の
目の前の席に座っていたスーツ姿の女の人が
『わっ私ですか?
えっと…その…私的には
馬車馬もありだと思います。
なんか、
頼られてる気がして』と言い
アンジェラアキ風の女の人が
スーツ姿の女の人に
『その考えは危ないわ』と言葉を返した。

『えっと…1、2、3…
まだ人数が足りませんね』

眼鏡をかけた女の人が言うと
誰も座っていなかった椅子に
いつのまにか
執事のような格好の男の人が
座りつつ足を組み現れ
『待ってくれ!!』と遅れながら
スキンヘッドの男の人が
いつもの椅子に座った。

『…はい、
これで全員ですね。
では、
始めます』

眼鏡をかけた女の人が言うと
茶髪の女の人が
半死者の資料を配り始めた。

『うん?
今回は殺人か?』

資料のページを捲り見て
スキンヘッドの男の人が言った。

『おっさん、
まだ始まって 1分も経って無いのに
結論が早すぎだ』

子供が言うと
執事のような格好の男の人が
『ふふふ…そうですよ。
一見 殺人に見えても
殺人の裏側にいろいろあるかもですから』と
私の方を見つつ言った。

明らかな嫌味な気がしたけど
執事のような格好の男の人の意見も
間違いでは無い。

今まで半死者の生き死にを話し合ってきた
私達にとって
至上者の定めたルールは絶対…だけど
半死者にもいろいろな事情がある。

だから、
決めつけるよりまずは…

『話し合おう。
いつもみたいに』

私がそう言うと
男の人が『そうだな』と言った。

『はい、
よろしいですか?』

眼鏡をかけた女の人が
そう言いつつ手を叩くと
全員が眼鏡をかけた女の人に
視線を向けた。

『彼は…赤ん坊ですが
スキンヘッドの男の人が言うように
殺人を犯しました。
被害者は
彼より2歳下の赤ん坊で…うん?』

資料を読んでいた眼鏡をかけた女の人が
途中で困ったような声を上げると
スキンヘッドの男の人が
『どうした?』と言い
眼鏡をかけた女の人が
『いえ、
途中から文章がおかしいというか…』と言い
私が眼鏡をかけた女の人の見ていた
ページを開いて見た。

『うん?
【1柱の神は1人の人へと転生し
田舎の夫婦の下に産まれた。
その時、
共に産まれた弟が居り
命という意味を込めた
アベルという名を付けられ
兄は
夫婦の仕事から
鍛治の意味を込めた
カインと名付けられた。
カインは15歳になると
穀物を作ることを教わり
夫婦の仕事を継ぐのではなく
自分の畑を持ち
教わった穀物を育て始め
アベルは 9歳の時に
たまたま夫婦の工房に来た
旅団が引き連れていた
羊のお世話をさせてもらったことから
羊の飼育方法を教わり
羊飼いとなった。
カインもアベルも
夫婦の信仰していた
大地の神 ヤハスクを信仰しており
毎年 夏の始まりに 必ず
自分のところで取れた物や作った物を
ヤハスクへ捧げていた…】』

私がそこまで読むと
スキンヘッドの男の人が
『聖書か…いや、
話の内容が違うな…』と呟き
『すまない、
話を途中で切った』と言った。

『うんうん、
大丈夫だよ。 えっと…
【ある年の夏の始まり、
いつものように
カインは自分のところで取れた穀物を
ヤハスクへ捧げていると
アベルが 子羊を連れて現れ
ヤハスクに連れてきた子羊を捧げた。
すると、
大地の神 ヤハスクは
カインの穀物よりも
アベルの子羊を気に入り
夫婦も「ヤハスク様に気に入られるなんて」と
小躍りして喜んだ。
「僕だって…」とその様子を見ていた
カインは怒り
次の日、
アベルが見ていない隙に
アベルの羊達を谷へ落とした。
すると、
夫婦はアベルの大切な羊達を探すように
カインへ命じ
面白く無かったカインは
日に日にエスカレートした言い方をする
夫婦に苛立ち
アベルを丘の上へ呼び出し
「やめてくれ!!兄さん」と叫び
命乞いをするアベルの声を無視し
何度も殴り 殴殺した】』

私がそこまで読むと
子供が『両親も両親だな』と言い
マシュマロヘアーの女の人が
『う~ん、
確かに 比べるのは良く無いかも。
けど、
それに苛立って
羊を谷へ落としたり
弟を殺した兄もめちゃくちゃだよ』と言った。

『そうだな。
競争社会の縮図は
家庭環境にもありなんて
話があるし この両親は
意図していたのかわからないが
兄の手により弟が殺されるなんて
事態を引き起こしたのは
両親の責任でもあるな』

スキンヘッドの男の人が言うと
執事のような格好の男の人が
『さて、
それはどうなんでしょうね』と言った。

『うん?
どうなんでしょうねとは
どう言う意味だ?』

スキンヘッドの男の人が言うと
執事のような格好の男の人が
『いえ、
兄が弟を殺したのは
兄の意思ですよね?
捧げ物として自分の穀物が選ばれず
弟が育て産まれたジンギスカン…いえ、
子羊が選ばれたことに嫉妬して
弟の飼っていた羊達を谷へ落としたのも
兄の意思ですよね?
両親の責任ではありませんよ』と言った。

『確かに…』

スキンヘッドの男の人が言うと
私は『続きを読むね』と言い
資料の続きを読み始めた。

『【弟を殺し
遺体をセナド(川)に流した帰り道、
ヤハスクと出会った兄は
ヤハスクから弟の行方を聞かれ
「知りません。
僕は弟の番人なのですか?」と言い
立ち去ろうとした。
けど、
大地の神であるヤハスクは
兄が嘘を吐き 弟を殺して川に流したことを
知っていて わざと兄に
弟の行方を聞いていた。
嘘を吐いた兄は
大地に染みついたアベルの血と
対話したヤハスクにより見抜かれ
暗闇に落とされた】…う~ん、
昔話?それとも…』

私がそこまで読みつつ考えていると
少女が『神様は正しいと思うわ。
何故なら、
嘘を吐いた罪人を裁いたのだから』と
言った。

裁く…ふと、
話し合いが行われる前に見つけた
あの手紙の内容が思い出された。

【後任状
シャルロット・エステルに
全ての権限を譲り渡す】

裁く…私1人では
至上者がやっていたことなんて
到底出来ない。

なのに、
どうして至上者は
私なんかに…


『けどさ、
川に流して遺棄って
すぐに発見されそうなのに
なんでそんなところに
遺棄してんだって感じだよな』

ギャル男が言うと
スキンヘッドの男の人が
『う~ん、
文章的にこの話は
現代では無いな。
とすれば、
羊を谷へ落としたって部分もだが
捜索の手が伸びそうに無い
川の下流…そうだな…
神様であるヤハスクが見抜かなければ
兄の完全犯罪で終わってたかもな』と
言葉を返した。

『完全犯罪って…』

ギャル男が言いかけて
眼鏡をかけた女の人が
『確かにそうですね。
DNA型検索システムや
指紋採取技術がある訳でもないし
見抜かれなければ
その可能性は十分にあります』と言った。

『う~む、
それでこの話は
今回の半死者とどう繋がってるんだ?』

男の人が言い終えると同時に
上から破棄と書かれた紙が降ってきた。

『うん?
破棄って…まさか、
今回の半死者が亡くなったってことか?』

スキンヘッドの男の人が言うと
破棄と書かれた紙を拾い
裏側を見た眼鏡をかけた女の人が
『…いえ、
違うみたいです』と言葉を返した。

『違うって…』

私がそう言いかけて
椅子の置かれていない暗闇の奥から
聞いたことのあるような声で
『やぁ、
元気にしてたかい?』と声が聞こえた。

『えっ!?あなたは…』

眼鏡をかけた女の人が
驚き暗闇の方を見ると
暗闇の方からカツンコツンと
こちらへ歩いて来るような
ブーツの音が聞こえてきた。

『あ~、
かしこまらないでくれる?
僕はもうこの空間の主ではないから
君達の雇い主では無いんだ』

そう言いつつ
靴音を鳴らし白いタキシードを着た
男の人が現れた。

『アラン・スミシー…?』

私が言うと
白いタキシードを着た男の人は
私の方を向き
『やはり君は最後まで
興味深い人だね』と呟いた。

『アラン・スミシーって…
確か 架空の監督の名前だろ?』

男の人が言うと
白いタキシードを着た男の人は
男の人の方を向き
『正解であり不正解かな』と
言葉を返した。

『至上者…ですよね?』

眼鏡をかけた女の人が言うと
私と少女と
執事のような格好をした男の人と
眼鏡をかけた女の人以外
全員 『はぁ?』と驚いた顔で言った。

『ははは…そうだよ。
確か、
君にはこの姿を見せてたっけ?』

白いタキシードの男の人が言うと
眼鏡をかけた女の人が
『いえ…ただ、
語りが似ていたと言いますか…』と
言葉を返した。

『さすが この場の誰よりも
優れた観察眼を持ち合わせてるだけあるね。
そう、
眼鏡の彼女が言う通り
僕が君達の元主人 至上者である
アラン・スミシーさ』

白いタキシードの男の人が言うと
私以外の全員が
何か考えているのか沈黙し
私はあの手紙のことを聞こうと思ったけど
目の前にしてどう聞いていいか
わからなくなった。

『…まぁ、
各々何か
僕に言いたいことがあるみたいだけど
今はそこを応える時では無いから
申し訳ないね。
さてと…
それじゃあ本題と行こうか?』

白いタキシードの男の人は言い終えると
意見を聞く前に
何処から取り出したか
資料を取り出し全員に配った。

『これは…』

私が言うと
白いタキシードの男の人が
『その資料は、
ある半死者の資料で
現在 彼は精神病棟に入院していて
植物状態だそう。
詳しいことは
その資料に載っているから
君達なりの見解を聞かせてあげて』と言い
再び暗闇の方へ歩いていこうとして
私が『手紙、
受け取りました。
けど、
私はまだ…』と言いかけ
白いタキシードの男の人が
背を向けた状態で
『君だからお願いしたんだ。
頼んだよ』と言い 去って行った。

『私だからって…』

私がそう呟いていると
眼鏡をかけた女の人が
『えっと…
とにかく至上者から
渡された資料を見ましょう』と言い
資料を見始めた。

4世紀中頃、
………という人物は
民衆をたぶらかし
あたかも自分が神だと偽り
嘘を吐いたとされ
ローマ軍によって捕まり
十字架刑に処されることが決まった。

………は
刑が決まった裁判の際も
「私は神ではなく神の代弁者であり
民衆を騙してなどいません」などと言ったが
真実は定かではない。

………の十字架刑はすぐに行われ
十字架刑に処す前に
………の手により
………は 背中を動物の骨や金属片がついた
特製の鞭で何度も叩いた後
茨の冠を頭に被せられ
頭から血をダラダラ流し
………自ら十字架台を運ばせた後
見ぐるみを剥がされ
十字架の上に寝かされたうえ
両手足を固定する為に釘を打たれ
その様子を見ていた兵士は
………に向かって
「神の子なら十字架から降りてみろ!!」と
絶え間ない罵声を浴びせていた。

その後、
悶え苦しみながら………は息絶え
彼はそんな………が本当に死んだかを
確認するために
ピクリとも動かなくなった
………の心臓目掛けて
持っていた槍を何度も突き刺した。

そして、
絶命したことを確認すると
彼を含めたローマ軍は
大声を上げ 勝ちを喜んだ。


『…なんだこれ…』

資料には、
名前こそ書かれていないが
………と称される人物が
十字架刑に称される様子が
図と共に説明されていた。

『惨いな…』

スキンヘッドの男の人が言うと
執事のような格好の男の人が
『戦争とは
どちらかが勝ち
どちらかが負けて
負けた方は
壮絶な苦しみと恥辱の中で
絶命していくんです。
何も不思議ではありません』と言った。

『いや、
そんな説明とかじゃねぇよ。
なんつうか…
こんな風に図と一緒に説明されたら…』

男の人が言いかけて
私が冷静に
『彼って書かれてるのが
半死者なのかな?』と言った。

『いや、
この書き方的に
現代じゃないだろ?』

男の人が言うと
少女が『時代は関係無いよ。
だって、
私達だって
死んだ年代はバラバラでしょ?
なのに、
こうやってみんな一緒に居るし』と言った。

『…そうね。
殺人鬼も居れば
王女も居るし
名前すら残らない人も居る』

サイドテールの女の人が言い
スーツ姿の女の人が
『そうですね。
時代は関係無いと思います』と言った。

『う~ん、
図から考えると
………の死因だが窒息死だな』

スキンヘッドの男の人が言うと
マシュマロヘアーの女の人が
『えっ…でも、
鞭で背中を抉られるようにされて
両手足に釘を打たれてるのに
それらじゃなく窒息死なの?』と言った。

『あぁ、
鞭はたぶん
わざと加減したんだろう。
背中の肉が抉れて
傷を負っても生き残ることもあるし
手足の釘は
わざと出血が少ない位置に打ったから
出血死は無い。
まぁ、
考えるにこの2つは
………を苦しめるためにやった
嫌がらせだろうな』

スキンヘッドの男の人が言うと
男の人が『嫌がらせって…』と呟いた。

『まぁ、
嫌がらせも
拷問って言い方だったら
やっていた理由はわかるんじゃないのか?
それに、
この図の姿勢だと
十字架を立てられた時に
………の両手に全体重がかかり
肩が脱臼するな。
そして、
両手から胸に全体重がかかり
横隔膜に負担がかかり
呼吸困難になる。
そこから、
血中酸素濃度が低下して
心拍数が高まることで
さらに血中酸素濃度が低下し
その内 磔にされた当人の
全身の筋肉が疲れ果て、
酸素が尽き果て死に至る』

スキンヘッドの男の人が言うと
男の人が『聞いてるだけでも
苦しくなってくるな…』と言った。

『その通りだな。
磔にされる前に
散々ボロボロにされてることを考えると
俺が言ってるより
実際はもっとエグい状態だっただろうな』

スキンヘッドの男の人が言うと
眼鏡をかけた女の人が
『それで、
本題はこの
処刑された………ではなく
亡くなった………に槍を突き立てた彼が
半死者ってことなんですよね?』と言った。

『そうだね。
資料の文章的にも
そう書かれてるし』

私が言うと
子供が『おっさんの話だと
………は槍を突き立てられる前に
窒息死してんだろ?
なら、
関係無いんじゃないのか?』と言った。

確かに。

スキンヘッドの男の人の言う限り
………は槍で心臓を突かれる前に
窒息死してる訳だし殺人ではない…

『えっ…でも、
完全に亡くなったかどうかで
刺したって書いてあるけど
もしかしたら、
トドメで刺したのかもしれないよね?』

マシュマロヘアーの女の人が言うと
スキンヘッドの男の人が
『うむ…いっそ、
頭を吹き飛ばしたとかなら
はっきりするんだがな』と言った。

『どう言うこと?』

私が言うと
スキンヘッドの男の人が
『例えば、
脳死ならそこから
回復の可能性は無いから
完全な死と言える。
あくまで、
図からの見解だから窒息死も
完全な根拠があって言った訳じゃ無い。
もしかしたら、
虫の息だったところに
槍で心臓を…なんて
可能性もあるかもしれない』と
言葉を返した。

『えっ…だとしたら、
………は槍で心臓を貫かれて…』

アンジェラアキ風の女の人が言いかけて
男の人が『だけど、
図的には貫かれた
………の心臓から
血は流れなかったんだろ?』と言った。

『あ~、
心臓から血というか
返り血みたいに血飛沫が出なかったのは
心臓に十分な血液が
回っていなかったからだと思われる。
そうだな…
さっき………は
呼吸困難により亡くなったって言っただろ?
たぶん、
磔によって酸欠となり
その関係で 心臓に十分な
血液と酸素が回らなくなり
起きたことだと思う。
たぶんだが、
………が亡くなったところで
心臓を槍で貫いたんだと
俺は予想する』

スキンヘッドの男の人が言い
マシュマロヘアーの女の人が
『えっと…じゃあ、
………は殺されたのではなく
拷問の末の病死…ってこと?』と言った。

『拷問の末の病死…ってことは
殺人では無いの?』

私が言うと
眼鏡をかけた女の人が
『けど、
………が呼吸困難を起こしたのは
文章から考えて
磔にされたことによってなので
磔にしたローマ軍の人が
………を殺したと
解釈することも出来ますよね?』と言った。

『だが、
………は
自ら十字架を背負って
歩いたとも書かれてるし
ローマ軍は釘を両手足に打って
………を磔にした十字架を立てただけで
………を直接殺した訳じゃ無い。
だから、
ケース的に
ローマ軍の人間が
彼を殺害したとは言えない』

スキンヘッドの男の人が言うと
スーツ姿の女の人が
『残酷は人の性ですよ。
対象に恨みがあれば
必然的に残酷な殺し方をしますし』と
言った。

残酷な殺し方…

そう言えば、
私も包丁で人を…

そんなことを考えていると
執事のような格好をした男の人が
『そうですね。
ずっと前に
肋骨をすり抜け
心臓を一突きなんて
殺し方をする輩もおりましたし…』と言った。

『あっ…えっと…』

私が迷っていると
エリスが私の隣まで歩いてきて
『お姉ちゃん、
雑音に耳を傾けず
真実を見極めて』と言った。

…うん、
エリスの言う通りだ。

確かに、
私の過去の話なんか
今はどうでもいいんだ。

それよりも
今はこの半死者の生き死にを決めなきゃ…

『例えば、
殺すつもりで拷問した訳じゃなく けど
結果 拷問で殺してしまった場合
どうなるのかな?』

私がそう言うと
スキンヘッドの男の人が
『故意ではなく過失って事か?』と言った。

『うん。
悪気があったとか
無かったとかの前に
拷問って口を破らせるためにするんだよね?
でも、
………は状況的に
拷問の末 窒息死してる』

私がそう言うと
サイドテールの女の人が
『えぇ、
拷問は口を破らせたり
服従させる為に行うもので
人を殺す為には行わないわね』と言った。

『けど、
故意じゃなかったとしても
結果的にローマ軍が行った鞭や
十字架磔の所為で
………は亡くなったようなもんだろ?
なら、
槍を突き立てた
半死状態のローマ軍の兵士は
殺人を犯したようなもんだから
死の値でもいいんじゃね?』

ギャル男が言うと
執事のような格好の男の人が
『えぇ、
至上者が定めたルールにおいて
殺人と自殺は 問答無用で死の値となります。
ローマ軍の行いは
………を殺していますので
問答無用で死の値となるでしょう』と
言った。

確かに、
至上者が定めたルールにおいて
半死者が殺人や自殺を行っていた場合
問答無用で死の値になる。

けど、
それは 至上者が定めたルール…

至上者は、
私に【後任状
シャルロット・エステルに
全ての権限を譲り渡す】って
手紙を残してくれた。

『確かにそうだね…けど』

全ての権限…

半死者を裁くためのルール…

なら、
私は…

『それは、
至上者の定めたルールだよ。
今はもう 至上者はここにいない。
そして…』

私は 全員に見えるように
至上者からの手紙を見せ
『私は 至上者から
後任状を受け取った』と言った。

『なっ…後任状!?』

口々に驚く声が聞こえる。

けど、
私はそのまま
『手始めに
半死者を裁くためのルールを
私は変えようと思う』と言った。

『ルールを変える?
いやいや、
だいたいその手紙も
本物とは限りませんよね?』

執事のような格好の男の人が言った。

『本物かどうか
信じられる根拠は示せないけど
もし本物だったなら
私は 半死者の生き死にを定めたルールの
殺人と自殺は問答無用で死の値にするって
部分を
半死者は全て
ここに居るみんなで
話し合った後 公平に裁く と
書き換える』

私がそう言うと
まるで私の意志を汲み取ったように
資料が眩い光に包まれ
光が止むとページ数が増えていた。

『えっと…どういうことですか?』

状況が飲み込めなかったのか
眼鏡をかけた女の人が
私の方を向き 言うと
私は眼鏡をかけた女の人ではなく
執事のような格好の男の人に
『証明はこれで十分?』と言った。

すると、
執事のような格好の男の人が
突然頭を抱え苦しんだかと思うと
正気に戻ったかのように
『そうか…俺は…』と呟き
私の方を向いて
『どうやら、
長い夢を見ていたようだ』と言った。

『さてと、
じゃあ いつものように
半死者の為に話し合いをしよう』


それからしばらくして
話し合いの結果
私は半死者が精神病院へ入院した事実を
こう書き換えた。

ローマ軍は………を処刑した後
処刑に関わった者達は
槍を突き立てた者も含め
殺すつもりの無かった………への
償いの気持ちを込め
お墓を建てた後 そこに………を
崇拝していた者達が暮らす街を築いた。


『やぁ、
彼女はうまくやれたかい?』

『うん。
私やアランが思ってたみたいに
エステルはすごく優しい人だったよ。
でも、
アランは
いつから彼女に
任せようと思ってたの?』

『う~ん、
最初からかな。
神が罪を償い終え
人の魂に戻りあの世へ向かう
芽吹きの時が来たのもあったけど
彼女の優しさは
自らの罪と向き合い続けてる証拠さ。
だから、
半死者も死者も生者も
平等に向き合う事ができる。
ふふふ…なかなか 出来ない事だよ』

『アラン 嬉しそうだね』

『まぁね。
それにこれで
やっと生者に戻る事が出来る』

そう、
今度生まれ変われたら
僕は君を殺してしまった罪を
生きて償おうと思う。

シャルロット・エステルの考えに見習って。




~~~許す者・許される者~~~

END
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