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脳震盪
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彼女或いは彼の話。
『よく考えたら今回って
お互い様じゃないのか?
状況的に』
スキンヘッドの男の人が言うと
おかま口調の男の人が
『いや、
この場合 男が理解してないから
こうなったんでしょ!?』と
怒り混じりに言葉を返した。
そもそも何故、
おかま口調の男の人が
怒っているのかと言うと
少し時間を巻き戻して…
『はい、
よろしいですか?』
眼鏡をかけた女の人が
手を叩きつつ言うと
全員が眼鏡をかけた女の人の方を見た。
『彼…いや、
彼女ですかね? は、
20代の男の人と付き合っていました。
彼…いえ、
彼女は彼にとても尽くし…』
眼鏡をかけた女の人がそこまで言うと
おかま口調の男の人が
『ストップ!!
彼なの?彼女なの?
いったいどっちよ!?
はっきりなさい』と言った。
『う~ん、
見た目は彼女だよな?』
私の前の男の人がそう言うと
スキンヘッドの男の人が
『確かに。
だが 性別表記は
男性ってなってるぞ?』と言葉を返した。
『う~ん、
写真はすごく美人なのに
性別が男性って…』
マシュマロヘアーの女の人がそう言うと
アンジェラアキ風の女の人が
『男の人なのにこんなに美人って
なんか複雑な気持ちになるかも…』と言った。
確かに。
資料の写真に写った彼…いや、
彼女はとても美人で
雑誌のモデルさんみたいだった。
女子力?って
この前マシュマロヘアーの女の人に
教えてもらったけど
半死の彼女にこそ
ふさわしいかもって思うくらい…。
そんな事を思っていると
オカマ口調の男の人が
ため息を吐きつつ
『自分で言っておいて
こだわる事じゃなかったわ。ごめん。
それより、
彼女はなんで半死したの?』と言った。
『そうでした。
彼氏に「見た目 女のくせに
料理1つ出来ないとか」と罵られ
口論になり その後、
取っ組み合いの喧嘩になって
彼氏がビール瓶で…』
眼鏡をかけた女の人がそこまで言うと
おかま口調の男の人が
『よし、
彼氏は 死に値するわ』と言った。
『気持ちはわかる。
だけど、
今は彼女の彼氏についての
話し合いじゃないだろ?』
スキンヘッドの男の人が言った瞬間、
おかま口調の男の人が
『知らないわよ!!
だいたい、
料理が出来ようが出来まいが
それを女の仕事みたいに言う考えが
穢らわしいわ!!』と
怒り混じりに言葉を返した。
『いや…今は
彼女の半死について話し合わな…』
スキンヘッドの男の人が言いかけて
おかま口調の男の人が
『だいたい、
自分の意見が通らなければ
何々が出来ないお前が悪いとか言って…』と
誰の声も聞こえないのか
怒り混じりにぶつぶつ呟き始めた。
『確かに、
そうかもしれない』
アンジェラアキ風の女の人が
おかま口調の男の人の言葉に
共感するように呟くと
スキンヘッドの男の人が
『いや、
今は半死した彼女について
話し合わなきゃ…』と言いかけて
ギャル男が『確かに、
彼氏は酷い奴だ。
言い方的に彼女が
料理を作れないことを知ってて
女が料理を作るのは当たり前みたいな
言い方をするなんて…』と言った。
『ストップ!!
今は半死の彼女について話し合う時間です』
茶髪の女の人が大きな声で言うと
ギャル男とアンジェラアキ風の女の人が
『ごめんなさい』と全員に謝り
おかま口調の男の人は ふん!!とそっぽ向き
眼鏡をかけた女の人が
『大丈夫ですよ。
それより、
呼び方は彼女で統一します。
その方が
話し合いをしやすいと思うので』と言った。
『1つ気になったんだが、
彼女はビール瓶で頭を殴られたんだよな?
大丈夫なのか?』
男の人が言うと
スキンヘッドの男の人は
『う~ん、
判例というかケース的に全てが全て
大丈夫とは言わないが
彼女は運が良かったんだろう。
とりあえず、
脳震盪を起こし出血はしてるみたいだが
資料的に大丈夫だ』と言った。
良かった。
ビール瓶って結構重いから
そんなもので頭を殴られたら…うん?
そもそも、
彼はそんなもので殴って
もし彼女が死んでしまったらって
考えなかったのかな…
『ねぇ、
彼女は運が良かったんだろうって言ったけど
脳震盪ってそうそう起こる事じゃないの?』
私がそう言うと
スキンヘッドの男の人は
『まぁ、
状況にもよるし
殴られる以外でも
脳震盪になる事があるから
頻度は答えられないが
大人の男性が
ビール瓶で上から叩きつけるように
人を殴った場合
殴られた方は最悪 死ぬだろうな』と
言葉を返した。
…つまり、
彼は彼女が死ぬかもしれないのに
口論の末に彼女をビール瓶で殴った…
『うん?
なぁ、
12ページの
彼氏との関係のページを見てみろ』
男の人がそう言い
全員が言われたページを見た。
『「彼は、
新宿歌舞伎町の有名ホストクラブLegendの
No. 1ホスト」?』
スキンヘッドの男の人が言うと
おかま口調の男の人が
『ははは…クソね』と
吐き捨てるように言った。
『どうしたんだ?
今回は一段と毒々しいぞ』
スキンヘッドの男の人が
おかま口調の男の人に言うと
おかま口調の男の人が
『まるで、
昔の私を見てるみたいで
腹が立つのよ』と言った。
そういえば、
おかま口調の男の人は
情死の彼女の時に
自分の事を話してくれたっけ…
『だいたい、
「彼は私が会いに行けば
いつも優しく接してくれる…」って
金を出してくれるんだから
彼はそりゃ彼女に優しくなるわよ。
どうせ彼女も…』
おかま口調の男の人がそこまで言うと
私が『ストップ!!
それ以上は言っちゃダメだよ』と言った。
『なっ…はぁ~、
わかったはあんたには話したわね。
私の過去…。
なら、
あんたは私を止める権利があるわ』
私の目を見て言うとおかま口調の男の人は
椅子に座った。
『うん?
ここに書いてあるけど、
彼女と彼って
結構喧嘩する事が多かったみたいだよ』
マシュマロヘアーの女の人が
資料のグラフを指差しつつ言うと
男の人がグラフを見ながら
『確かに半死する直前にも
犬を飼う飼わないの話で口論になって
殴り合いの大喧嘩をしてるなぁ…』と言い
子供が『しょうもな…』と
吐き捨てるように言った。
う~ん、
しょうもないはわからなくもないけど
犬を飼う飼わないで
普通 そんな大喧嘩をするものなのかな…。
『なぁ、
彼女の来歴に
学生時代 ボクシング フライ級で優勝し
24歳で世界大会に初出場して
スーパーフェザー級の
チャンピオンになったって書かれてるぞ』
スキンヘッドの男の人が言うと
男の人が『元世界チャンピオンの彼女と
殴り合いの大喧嘩…いや、
ボクサーは殴り合いの喧嘩を
しちゃいけないって聞いたことあるぞ。
なのに殴り合いの大喧嘩をしてたのか?』
と言葉を返した。
『いや、
ボクサーだけじゃなく
人を殴るのは一般人でもダメな事だ。
それと、
その話はたぶん
ボクサーの拳は一般人の拳と違って
凶器扱いになるからダメだって意味だろ?
それって
法律でそう言う一文がある訳じゃなく
過去の判例にそう言う事があったから
言われてるだけで
空手家や柔道家、
その他武術家が傷害事件を起こしても
ボクサー同様罪が重くなる可能性は
十分あるから
ボクサーに限った話じゃないぞ。
まぁ…元世界チャンピオンと
殴り合いの大喧嘩をする
No.1ホストはすごいが…』
スキンヘッドの男の人が言うと
マシュマロヘアーの女の人が
『悪い事かもだけど
ちょっと見てみたいかも…』と言った。
う~ん、
少し気になるけど
荒っぽいのは好きじゃないかな…。
けど、
世界チャンプと喧嘩するホストって…
しかも 一度じゃなく
付き合ってる時に何度も…
何者なんだろ…この彼氏…
そんな事を考えていると
『よく考えたら今回って
お互い様じゃないのか?状況的に』と
スキンヘッドの男の人が言った。
すると、
『いや、
この場合 男が
理解して無いからこうなったんでしょ!?』と
おかま口調の男の人が怒り混じりに言った。
ビール瓶で彼女の頭を殴った彼氏…
資料的に
彼女はただ無抵抗で殴られたんじゃなく
拳で抵抗していたはず…
私もスキンヘッドの男の人と
同じ意見なんだけど
何か違和感を感じる。
『ねぇ、
元 世界チャンピオンなら
前方から振り下ろされたビール瓶くらい
避けれると思うけど
何で避けれなかったんだろう?』
私がそう言うと
全員が『確かに』と口を揃えて呟いた。
『確かに そうだよね。
それにボクサーって
動体視力が良いって聞くし
ビール瓶じゃなくても一般人の
パンチくらい簡単に避けれるだろうし…
なんで避けれなかったんだろう?』
マシュマロヘアーの女の人が言った。
『う~ん、
わかんないけど
彼氏が好きすぎて避けれなかったとかか?』
男の人が言うと
スキンヘッドの男の人が
『それは無いな』と言い
資料のあるページを
全員に見えるように開いた。
『ボクサー脳症?
何それ?』
マシュマロヘアーの女の人が
開かれた資料に書かれた一文を
読みつつ言った。
『ボクサー脳症って言うのは、
激しい打ち合いを長年にわたり行った
ボクサーに起きる病気で
認知機能低下や人格変化などの精神症状が
出現する疾患であり、
引退したボクサーに
深刻な問題をもたらす病気だ。
程度がどうとかは
正直 わからないが
彼女が彼女になってしまったのは
これが理由だと思われる』
スキンヘッドの男の人が言い終えると
私が『つまり、
ボクサー脳症の影響で
彼の拳や振り下ろされたビール瓶を
避ける事が出来なかったと?』と言った。
『あくまで予測だがな。
それに、
資料の16ページ目の下部に書かれている
現役引退の理由のところに
脳震盪を繰り返すようになり
これ以上続行不可と考えられるため
現役引退を決意 って書かれてるところから
彼女は脳震盪癖を
起こしてたんじゃないか?』
スキンヘッドの男の人がそう言うと
マシュマロヘアーの女の人が
『脳震盪癖?
脳震盪に癖があるの?』と言った。
『あぁ、
脳震盪は繰り返すと癖がついて
だいたい3回以上
脳震盪を起こした事がある場合
脳震盪癖がついてる可能性がある。
軽い衝撃で頭痛やふらつきを
自覚するようになったり
若くして認知症や
ちょっとしたことで怒りやすくなるなどの
性格変化が起き
酷い場合には 重い障害が残ったり
頭蓋内で出血を起こし
死に至ることがある』
スキンヘッドの男の人が言い終えると
私が『…もしかして、
ビール瓶を避けれなかったのは
脳震盪癖からの影響かも…』と言った。
『うん?
どう言うことだ?』
スキンヘッドの男の人が言うと
私は『つまり、
ビール瓶で殴られる前
彼と喧嘩をしてる最中
脳震盪癖による脳震盪からうずくまり
頭を押さえた彼女を
彼がビール瓶で殴ったとしたら…』と言った。
『なるほど…だが、
それだと彼は彼女が
脳震盪をよく起こす事を
知ってることになるが…』
スキンヘッドの男の人がそこまで言うと
私は『知ってたと思う』と応えた。
『はぁ?
知ってて彼女を殴ったのか?』
男の人が言った。
『うん。
まぁ、
殺す意志があったかはわからないけどね』
私がそう言うと
マシュマロヘアーの女の人が
『けど、
彼女が脳震盪癖で
現役を引退してることって
彼氏なら知ってるんじゃ…』と言いかけて
私が『元世界チャンピオンって
彼氏は知らなかったんじゃないかな』と
言葉を返した。
『知らないって…』
男の人が言いかけて
私が『ただの女装家として
過去の栄光を言わずに生きてたとしたら?
知らないから殴り合いの大喧嘩が
出来たんだとしたら?
過去を自慢するんじゃなく
過去から踏み出す為…いや、
病気と向き合うために
第二の人生に踏み出したんだとしたら…
彼女はきっと彼が
すごく好きだったんだと思う。
だから、
言えなかったんだと思う。
脳震盪癖のこと』と言った。
『そういうことか…』
男の人がそう言うと
眼鏡をかけた女の人が
『…彼女は生きないといけませんね』と呟き
『では、
採決を採ります』と言った。
それからしばらくして
ビール瓶で彼女を殴った彼は
彼女を殺してしまったと思い
彼女の住んでたマンションから逃亡するも
その後 喧嘩の声にうるさいと文句を
言いに来たご近所さんによって
頭から出血し倒れた彼女が発見され
事件性ありと判断した
警察の捜査によってすぐに逮捕された。
『エリス、
私はあなたのこと 思い出したよ』
その様子を見ていた私が
ポニーテールの少女にそう言うと
少女が『エステル…でも、
記憶を取り戻したらあなたは…』と言いかけ
私が『残らせてもらったよ』と
微笑み言った。
『えっ…』
意外そうな顔をする少女に
私が『いろいろ聞いたし
エリスが私なんかのために
ずっと頑張っててくれてたこと
とても嬉しかったよ。
だから、
今度は私が
エリスを護りたいって…』と言うと
少女が『エステル…ありがとう。
けど、
私は大丈夫だよ。
それに孤児院の頃から考えて
私がエステルより先に居たから
本当は私がお姉ちゃんみたいなものだし』と
照れ臭そうに笑いながら言った。
『えぇ~、
私の方が背高いし
エリスにお姉ちゃんって言われるの
嫌じゃなかったよ?』
私がそう言うと
少女は『そういう問題じゃないよ』と言い
私の顔を見てフフフって笑いつつ
『エステル、
私 とても嬉しいわ』と言った。
『エリス、
私もだよ』
それからしばらく、
ご近所さんに発見され
救急車で搬送された彼女は
ビール瓶で殴られたせいか
脳動脈瘤を起こしてることがわかり
緊急手術が行われ 手術は無事成功した。
「私…生きてるの…」
病室のベットの上で目を覚ました彼女を
お見舞いに来た彼女の母親は抱きしめた。
「生きてて良かった…」
たった一言、
彼女にそう言うと
力強く彼女を抱きしめ
肩を振るわせつつ黙り込んだ。
それからしばらくして
刑事が彼女の病室に聞き込みに来ると
彼についていくつか質問されたが
脳動脈瘤による記憶障害の所為か
刑事の質問に彼女は
応えることが出来なかった。
「お母さん、私…」
彼女がそう言うと
母親は彼女に
「大丈夫。
今はしっかり休んで
身体を治しなさい」と言った。
数ヶ月後、
彼女は病院を退院し
部屋を引き払うと
母親の暮らす実家へ帰った。
~~~脳震盪~~~
END
『よく考えたら今回って
お互い様じゃないのか?
状況的に』
スキンヘッドの男の人が言うと
おかま口調の男の人が
『いや、
この場合 男が理解してないから
こうなったんでしょ!?』と
怒り混じりに言葉を返した。
そもそも何故、
おかま口調の男の人が
怒っているのかと言うと
少し時間を巻き戻して…
『はい、
よろしいですか?』
眼鏡をかけた女の人が
手を叩きつつ言うと
全員が眼鏡をかけた女の人の方を見た。
『彼…いや、
彼女ですかね? は、
20代の男の人と付き合っていました。
彼…いえ、
彼女は彼にとても尽くし…』
眼鏡をかけた女の人がそこまで言うと
おかま口調の男の人が
『ストップ!!
彼なの?彼女なの?
いったいどっちよ!?
はっきりなさい』と言った。
『う~ん、
見た目は彼女だよな?』
私の前の男の人がそう言うと
スキンヘッドの男の人が
『確かに。
だが 性別表記は
男性ってなってるぞ?』と言葉を返した。
『う~ん、
写真はすごく美人なのに
性別が男性って…』
マシュマロヘアーの女の人がそう言うと
アンジェラアキ風の女の人が
『男の人なのにこんなに美人って
なんか複雑な気持ちになるかも…』と言った。
確かに。
資料の写真に写った彼…いや、
彼女はとても美人で
雑誌のモデルさんみたいだった。
女子力?って
この前マシュマロヘアーの女の人に
教えてもらったけど
半死の彼女にこそ
ふさわしいかもって思うくらい…。
そんな事を思っていると
オカマ口調の男の人が
ため息を吐きつつ
『自分で言っておいて
こだわる事じゃなかったわ。ごめん。
それより、
彼女はなんで半死したの?』と言った。
『そうでした。
彼氏に「見た目 女のくせに
料理1つ出来ないとか」と罵られ
口論になり その後、
取っ組み合いの喧嘩になって
彼氏がビール瓶で…』
眼鏡をかけた女の人がそこまで言うと
おかま口調の男の人が
『よし、
彼氏は 死に値するわ』と言った。
『気持ちはわかる。
だけど、
今は彼女の彼氏についての
話し合いじゃないだろ?』
スキンヘッドの男の人が言った瞬間、
おかま口調の男の人が
『知らないわよ!!
だいたい、
料理が出来ようが出来まいが
それを女の仕事みたいに言う考えが
穢らわしいわ!!』と
怒り混じりに言葉を返した。
『いや…今は
彼女の半死について話し合わな…』
スキンヘッドの男の人が言いかけて
おかま口調の男の人が
『だいたい、
自分の意見が通らなければ
何々が出来ないお前が悪いとか言って…』と
誰の声も聞こえないのか
怒り混じりにぶつぶつ呟き始めた。
『確かに、
そうかもしれない』
アンジェラアキ風の女の人が
おかま口調の男の人の言葉に
共感するように呟くと
スキンヘッドの男の人が
『いや、
今は半死した彼女について
話し合わなきゃ…』と言いかけて
ギャル男が『確かに、
彼氏は酷い奴だ。
言い方的に彼女が
料理を作れないことを知ってて
女が料理を作るのは当たり前みたいな
言い方をするなんて…』と言った。
『ストップ!!
今は半死の彼女について話し合う時間です』
茶髪の女の人が大きな声で言うと
ギャル男とアンジェラアキ風の女の人が
『ごめんなさい』と全員に謝り
おかま口調の男の人は ふん!!とそっぽ向き
眼鏡をかけた女の人が
『大丈夫ですよ。
それより、
呼び方は彼女で統一します。
その方が
話し合いをしやすいと思うので』と言った。
『1つ気になったんだが、
彼女はビール瓶で頭を殴られたんだよな?
大丈夫なのか?』
男の人が言うと
スキンヘッドの男の人は
『う~ん、
判例というかケース的に全てが全て
大丈夫とは言わないが
彼女は運が良かったんだろう。
とりあえず、
脳震盪を起こし出血はしてるみたいだが
資料的に大丈夫だ』と言った。
良かった。
ビール瓶って結構重いから
そんなもので頭を殴られたら…うん?
そもそも、
彼はそんなもので殴って
もし彼女が死んでしまったらって
考えなかったのかな…
『ねぇ、
彼女は運が良かったんだろうって言ったけど
脳震盪ってそうそう起こる事じゃないの?』
私がそう言うと
スキンヘッドの男の人は
『まぁ、
状況にもよるし
殴られる以外でも
脳震盪になる事があるから
頻度は答えられないが
大人の男性が
ビール瓶で上から叩きつけるように
人を殴った場合
殴られた方は最悪 死ぬだろうな』と
言葉を返した。
…つまり、
彼は彼女が死ぬかもしれないのに
口論の末に彼女をビール瓶で殴った…
『うん?
なぁ、
12ページの
彼氏との関係のページを見てみろ』
男の人がそう言い
全員が言われたページを見た。
『「彼は、
新宿歌舞伎町の有名ホストクラブLegendの
No. 1ホスト」?』
スキンヘッドの男の人が言うと
おかま口調の男の人が
『ははは…クソね』と
吐き捨てるように言った。
『どうしたんだ?
今回は一段と毒々しいぞ』
スキンヘッドの男の人が
おかま口調の男の人に言うと
おかま口調の男の人が
『まるで、
昔の私を見てるみたいで
腹が立つのよ』と言った。
そういえば、
おかま口調の男の人は
情死の彼女の時に
自分の事を話してくれたっけ…
『だいたい、
「彼は私が会いに行けば
いつも優しく接してくれる…」って
金を出してくれるんだから
彼はそりゃ彼女に優しくなるわよ。
どうせ彼女も…』
おかま口調の男の人がそこまで言うと
私が『ストップ!!
それ以上は言っちゃダメだよ』と言った。
『なっ…はぁ~、
わかったはあんたには話したわね。
私の過去…。
なら、
あんたは私を止める権利があるわ』
私の目を見て言うとおかま口調の男の人は
椅子に座った。
『うん?
ここに書いてあるけど、
彼女と彼って
結構喧嘩する事が多かったみたいだよ』
マシュマロヘアーの女の人が
資料のグラフを指差しつつ言うと
男の人がグラフを見ながら
『確かに半死する直前にも
犬を飼う飼わないの話で口論になって
殴り合いの大喧嘩をしてるなぁ…』と言い
子供が『しょうもな…』と
吐き捨てるように言った。
う~ん、
しょうもないはわからなくもないけど
犬を飼う飼わないで
普通 そんな大喧嘩をするものなのかな…。
『なぁ、
彼女の来歴に
学生時代 ボクシング フライ級で優勝し
24歳で世界大会に初出場して
スーパーフェザー級の
チャンピオンになったって書かれてるぞ』
スキンヘッドの男の人が言うと
男の人が『元世界チャンピオンの彼女と
殴り合いの大喧嘩…いや、
ボクサーは殴り合いの喧嘩を
しちゃいけないって聞いたことあるぞ。
なのに殴り合いの大喧嘩をしてたのか?』
と言葉を返した。
『いや、
ボクサーだけじゃなく
人を殴るのは一般人でもダメな事だ。
それと、
その話はたぶん
ボクサーの拳は一般人の拳と違って
凶器扱いになるからダメだって意味だろ?
それって
法律でそう言う一文がある訳じゃなく
過去の判例にそう言う事があったから
言われてるだけで
空手家や柔道家、
その他武術家が傷害事件を起こしても
ボクサー同様罪が重くなる可能性は
十分あるから
ボクサーに限った話じゃないぞ。
まぁ…元世界チャンピオンと
殴り合いの大喧嘩をする
No.1ホストはすごいが…』
スキンヘッドの男の人が言うと
マシュマロヘアーの女の人が
『悪い事かもだけど
ちょっと見てみたいかも…』と言った。
う~ん、
少し気になるけど
荒っぽいのは好きじゃないかな…。
けど、
世界チャンプと喧嘩するホストって…
しかも 一度じゃなく
付き合ってる時に何度も…
何者なんだろ…この彼氏…
そんな事を考えていると
『よく考えたら今回って
お互い様じゃないのか?状況的に』と
スキンヘッドの男の人が言った。
すると、
『いや、
この場合 男が
理解して無いからこうなったんでしょ!?』と
おかま口調の男の人が怒り混じりに言った。
ビール瓶で彼女の頭を殴った彼氏…
資料的に
彼女はただ無抵抗で殴られたんじゃなく
拳で抵抗していたはず…
私もスキンヘッドの男の人と
同じ意見なんだけど
何か違和感を感じる。
『ねぇ、
元 世界チャンピオンなら
前方から振り下ろされたビール瓶くらい
避けれると思うけど
何で避けれなかったんだろう?』
私がそう言うと
全員が『確かに』と口を揃えて呟いた。
『確かに そうだよね。
それにボクサーって
動体視力が良いって聞くし
ビール瓶じゃなくても一般人の
パンチくらい簡単に避けれるだろうし…
なんで避けれなかったんだろう?』
マシュマロヘアーの女の人が言った。
『う~ん、
わかんないけど
彼氏が好きすぎて避けれなかったとかか?』
男の人が言うと
スキンヘッドの男の人が
『それは無いな』と言い
資料のあるページを
全員に見えるように開いた。
『ボクサー脳症?
何それ?』
マシュマロヘアーの女の人が
開かれた資料に書かれた一文を
読みつつ言った。
『ボクサー脳症って言うのは、
激しい打ち合いを長年にわたり行った
ボクサーに起きる病気で
認知機能低下や人格変化などの精神症状が
出現する疾患であり、
引退したボクサーに
深刻な問題をもたらす病気だ。
程度がどうとかは
正直 わからないが
彼女が彼女になってしまったのは
これが理由だと思われる』
スキンヘッドの男の人が言い終えると
私が『つまり、
ボクサー脳症の影響で
彼の拳や振り下ろされたビール瓶を
避ける事が出来なかったと?』と言った。
『あくまで予測だがな。
それに、
資料の16ページ目の下部に書かれている
現役引退の理由のところに
脳震盪を繰り返すようになり
これ以上続行不可と考えられるため
現役引退を決意 って書かれてるところから
彼女は脳震盪癖を
起こしてたんじゃないか?』
スキンヘッドの男の人がそう言うと
マシュマロヘアーの女の人が
『脳震盪癖?
脳震盪に癖があるの?』と言った。
『あぁ、
脳震盪は繰り返すと癖がついて
だいたい3回以上
脳震盪を起こした事がある場合
脳震盪癖がついてる可能性がある。
軽い衝撃で頭痛やふらつきを
自覚するようになったり
若くして認知症や
ちょっとしたことで怒りやすくなるなどの
性格変化が起き
酷い場合には 重い障害が残ったり
頭蓋内で出血を起こし
死に至ることがある』
スキンヘッドの男の人が言い終えると
私が『…もしかして、
ビール瓶を避けれなかったのは
脳震盪癖からの影響かも…』と言った。
『うん?
どう言うことだ?』
スキンヘッドの男の人が言うと
私は『つまり、
ビール瓶で殴られる前
彼と喧嘩をしてる最中
脳震盪癖による脳震盪からうずくまり
頭を押さえた彼女を
彼がビール瓶で殴ったとしたら…』と言った。
『なるほど…だが、
それだと彼は彼女が
脳震盪をよく起こす事を
知ってることになるが…』
スキンヘッドの男の人がそこまで言うと
私は『知ってたと思う』と応えた。
『はぁ?
知ってて彼女を殴ったのか?』
男の人が言った。
『うん。
まぁ、
殺す意志があったかはわからないけどね』
私がそう言うと
マシュマロヘアーの女の人が
『けど、
彼女が脳震盪癖で
現役を引退してることって
彼氏なら知ってるんじゃ…』と言いかけて
私が『元世界チャンピオンって
彼氏は知らなかったんじゃないかな』と
言葉を返した。
『知らないって…』
男の人が言いかけて
私が『ただの女装家として
過去の栄光を言わずに生きてたとしたら?
知らないから殴り合いの大喧嘩が
出来たんだとしたら?
過去を自慢するんじゃなく
過去から踏み出す為…いや、
病気と向き合うために
第二の人生に踏み出したんだとしたら…
彼女はきっと彼が
すごく好きだったんだと思う。
だから、
言えなかったんだと思う。
脳震盪癖のこと』と言った。
『そういうことか…』
男の人がそう言うと
眼鏡をかけた女の人が
『…彼女は生きないといけませんね』と呟き
『では、
採決を採ります』と言った。
それからしばらくして
ビール瓶で彼女を殴った彼は
彼女を殺してしまったと思い
彼女の住んでたマンションから逃亡するも
その後 喧嘩の声にうるさいと文句を
言いに来たご近所さんによって
頭から出血し倒れた彼女が発見され
事件性ありと判断した
警察の捜査によってすぐに逮捕された。
『エリス、
私はあなたのこと 思い出したよ』
その様子を見ていた私が
ポニーテールの少女にそう言うと
少女が『エステル…でも、
記憶を取り戻したらあなたは…』と言いかけ
私が『残らせてもらったよ』と
微笑み言った。
『えっ…』
意外そうな顔をする少女に
私が『いろいろ聞いたし
エリスが私なんかのために
ずっと頑張っててくれてたこと
とても嬉しかったよ。
だから、
今度は私が
エリスを護りたいって…』と言うと
少女が『エステル…ありがとう。
けど、
私は大丈夫だよ。
それに孤児院の頃から考えて
私がエステルより先に居たから
本当は私がお姉ちゃんみたいなものだし』と
照れ臭そうに笑いながら言った。
『えぇ~、
私の方が背高いし
エリスにお姉ちゃんって言われるの
嫌じゃなかったよ?』
私がそう言うと
少女は『そういう問題じゃないよ』と言い
私の顔を見てフフフって笑いつつ
『エステル、
私 とても嬉しいわ』と言った。
『エリス、
私もだよ』
それからしばらく、
ご近所さんに発見され
救急車で搬送された彼女は
ビール瓶で殴られたせいか
脳動脈瘤を起こしてることがわかり
緊急手術が行われ 手術は無事成功した。
「私…生きてるの…」
病室のベットの上で目を覚ました彼女を
お見舞いに来た彼女の母親は抱きしめた。
「生きてて良かった…」
たった一言、
彼女にそう言うと
力強く彼女を抱きしめ
肩を振るわせつつ黙り込んだ。
それからしばらくして
刑事が彼女の病室に聞き込みに来ると
彼についていくつか質問されたが
脳動脈瘤による記憶障害の所為か
刑事の質問に彼女は
応えることが出来なかった。
「お母さん、私…」
彼女がそう言うと
母親は彼女に
「大丈夫。
今はしっかり休んで
身体を治しなさい」と言った。
数ヶ月後、
彼女は病院を退院し
部屋を引き払うと
母親の暮らす実家へ帰った。
~~~脳震盪~~~
END
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