【完結】 悪女は今日もパンを焼く 【R18】

４

「うちに、土鍋無いよ」

別に、土鍋じゃないと鍋料理が出来ないわけじゃない。

「家庭料理だもん、鍋さえあればいいよ」
そう言って、水菜、舞茸、黒豚バラ肉のしゃぶしゃぶ用を買った。
生姜、豆腐、刻みネギ、柚子胡椒、カボスと日本酒などもまとめてカゴに入れた。
レジに行って私がお金を出した瞬間、彼がカードをレジのお兄さんに渡した。

「これくらい、俺に出させて」
私が出したお札を彼が返してきたので、仕方なく受け取った。

部屋に戻って、下ごしらえをする。
鍋でお湯を沸かして、豚肉を湯通し。
色が変わったところで引き上げ、氷水に浸ける。
ザブザブ洗って、アクを落としたらザルに上げて準備は出来た。

下ごしらえ中、水に昆布を浸けておいた鍋に料理酒を入れる。
火にかけて、生姜を一欠け入れた。
煮立ったところに豚肉、舞茸、水菜を入れて沸騰させる。

「器に取ったら、カボスをかけてお醤油を少し。
柚子胡椒を入れたら、青ネギを散らして食べてみて」

彼が器から、一口頬張る。
見てると、直ぐに笑顔になった。

「笑っちゃうほど、美味い。
え、この材料にしては、旨すぎるんだけど」

常夜鍋は、料理屋で出すような鍋とは違う。
ただずっと受け継がれているだけに、組み合わせは完璧だ。
外国暮らしが長かった高代祐樹氏には、珍しかったのかもしれない。

冷やした日本酒と、またこれが合う。

「紗栄子さんに胃袋を掴まれそうだ。
君は簡単に、美味しいものを作ってしまう」

「母から英語が喋れるより、鯛の三枚おろしが出来る方が将来、役に立つと教えられました」

「素晴らしいお母さんをお持ちだ。
紗栄子さんの秘密が少し判った気がします」