女難の男、アメリカを行く

第２章 Freshman

８

「Chloeクロエ、俺ってゲイに見えてる？」

スタジオの帰り、カフェテリアで夕食を取る。
アジアンメニューで焼きそばがあったので、サラダとビーフを一緒に盛り付けて貰う。
Chloeと向かい合って食べながら、アメリカ人の意見を聞いてみた。

「アメリカ人からは、ゲイに見られてもしょうがないね。
みんな無知だから異質なものが怖いんだ、だからレッテルを張りたがる」

「異質なもの？」

「Amatoは英語が問題なく話せるし、アジア人の中では長身で筋肉もある。
オシャレで可愛い顔のくせに、行動は大人だし堂々としてる。
馬鹿なアメリカ人が信じてる、ステレオタイプのアジア人とは真逆なんだ」

「俺って、そうみられてるんだ」

「アメリカ人って、外の世界を知らないんだよ。
だから偏見の塊なの」

「Chloeは大丈夫なの？」

「私は、母のルーツがフランスなんだ。
今でも年に１回は母親と里帰りしてるし、アフリカも行ったことがある」

彼女は文化人類学も学んでいて、俺を興味深いサンプルだと言った。
そのまま１時間ほど、話が盛り上がる。
俺はChloeの話を聞いて、このままでいいという確信を持つことが出来た。

翌日、英語の教授がOffice hourを始める前に、Braydenブレイデンと会う。
談話室で予習した短編について、意見交換した。
どうやら短編の内容に、キリスト教的な倫理観に縛られているが故の葛藤があったようだ。
宗教のバックグランドが違っているので、表面上しか理解出来ていなかった。
教授の部屋で話していると、宗教観について聞かれる。
日本的な宗教観を短く説明するのは難しいし、多分理解されないだろう。

「全く異質の宗教観を持っています、ただ今の自分には説明が出来ません」
逃げだが、正しい答えだと確信している。
教授は、いつか君の宗教観を聞くのを楽しみにしていると言ってくれた。

Office hourの後、Braydenが話が有るという。
カフェテリアでランチをしながら、相談に乗ってみる。

「留学生の Rennaレンナ Ylvisイルヴァスって女性を知ってるか？」

「ああ、語学学校で一緒だったよ。一度、お茶を振舞ったことがある」
一瞬で、相談の内容が判ってしまった。
Rennaは金髪碧眼でスタイルがいい、アメリカ人が大好きなタイプだ。
顔立ちが整ってるので冷たい印象を与えるが、Aurelija思いで優しい。

「デートしたいなら、誘えばいいだろ」

「誘いたいが、彼女の好みがわからない」

「好みなんか、どうでもいいだろ。
映画でもドライブでも食事でもいい、早くしないと他の奴に盗られるぞ」

シャイなアメリカ人に強気な日本人、これって、どう考えても逆だろ。
言いながら、可笑しくなった。