女難の男、アメリカを行く

第１章 Start

１７

「待たせたな、お姫様」

「Amato、今日はどうしたの？」

俺は卒業パーティーの為に、女子寮までCynthiaを迎えに行った。
Pale Blue淡いブルーのコードレーンスーツにネクタイ姿なので、彼女が驚いている。
日本を出発する前に、母親が夏用と秋冬のスーツを用意してくれた。
コットンスーツが必要になるとは想像して無かったので、母親には感謝している。

「Cynthiaをエスコートするのに、君に恥ずかしい思いはさせられない」

「もう、だから好きになっちゃう」
嬉しそうな彼女は、スリムな体にフィットしたロングのチャイナドレスだ。
白地に赤い花の刺繍がゴージャスで、深いスリットが色っぽい。

「やっぱり、本物は着こなしが違うな」

「似合ってる？」

「ああ、最高だ」
偶然だが、カラーコーディネートをしたようになった。

開放された女子寮のロビーには、色々なカップルが出来ている。
Minjuに振られたJackieは、チリ人のLeteciaをエスコートしている。
ルームメイトのFaruqは、エチオピアのMaazaに断られてMarikaと一緒に行く予定だ。
Minjuは、俺があまり知らないドイツ人と行くことになっていた。

意外なほど、女性は民族衣装が多い。
留学生がアピールする点を、みんな良く解っている。
日本は女なら振り袖だろうが、男は紋付き袴なのかな。
大学では留学生ウィークもあるし、考えておく必要がある。
Marikaが出てきたが、紺色に朝顔が染め抜かれた浴衣だった。
黃色の帯を後ろでリボン結びにして、赤い下駄の鼻緒が目立っている。

「何てシックで美しいんだ」Faruqが大げさに褒めている。

「口が上手いアラブ人には、気をつけろ」
俺がからかうと、みんなが笑った。

「Amatoと別の部屋になるのが、楽しみだ」奴が負け惜しみを言う。

「そうか？　俺はこのまま一緒でいいのに」
Faruqは、俺の答えに納得出来ないという顔をした。

みんなでパーティー会場に移動する。
受付を済ませて会場に入ると、スタッフが出迎えてくれた。
当然だが、Kellyはもういない。

「あの女がいないね？」
Cynthiaは、Kellyを探してるようだ。

「彼女は、Chicagoの大学に転校したんだ」
俺が説明すると、安心したようだ。

「Amato、素敵なスーツね。似合ってる」
隣のCynthiaを無視して、Aurelijaが話しかけてくる。

「エストニアの民族衣装なの？美しいよ」

「そうよ、自慢なの」
これ以上はCynthiaの機嫌を損なうので、さっさと切り上げる。

「Amatoを狙ってる女は多いんだから、気を付けて」

「アメリカで日本人の男なんて、一番モテないだろ」

「Amatoは、全然日本人っぽくないもの」

女には、俺の知らない評価基準があるようだ。
真に受けて調子に乗らないように、気を引き締めた。