蒼い海 ～女装男子の冒険～

第十二章 新機軸

１

植木遥と古田美那の卒業公演が、１０月の第２週、土日に行なわれる。

卒業コンサートではなく、公演なのはアンダーライブに長く出ていた二人の希望だった。
場所は渋谷エンデバーホール、アンダー公演のメイン会場だ。
遥には沙織が、美那には田中氏が関連するので、差し入れを出す。
一ノ瀬グループのネットワークに差し入れの件を流すと、立候補が集まった。

「こんなに関連会社があるんだ」
田中社長は驚いている。

「これからは、田中社長が選んでね」
聖苑が意地悪を言っている。

「この中から選ぶとなると、迷うな」

「アイドルが食べるって事を忘れないように。
SNSにメンバーがあげるから、センスが問われますよ」
誰かに言われたことを、言い返していた。

「アップルパイいいな、洋梨のパウンドケーキも食べたい」
沙織がリストを見ながら、物色している。

「情報を漏らすなよ」

「分かってる」
妹は高校からレッスン場に直行して、夜遅くに帰ってくる。
可哀想になるが、自分で選んだ道だ。

「遥先輩から最後まで教わりたい。美雪も泣きながらレッスンしてる」
二人にとっても、巣立ちの時だった。

……

土曜日は植木遥の卒業公演だ、受付を済ませると楽屋裏に呼ばれた。

「真凛ちゃんが初めてfortunaTVに出た、スチール写真バトルから始まったね」

「大学のfortuna応援サークルから、植木遥には気をつけろ。
狂信的なファンがついているからって、言われてた」

「視聴者投票で負けた後、真凛ちゃんの言葉で救われたよ」

「CMでカップルにもなったしね」

「なのに、目の前でkissシーンを見せつけられた」

「沙織を鍛えてくれて、ありがとう」

「今日は、最高の沙織が見られると思うよ」

「期待してる」

植木遥と別れて、田中社長の差し入れを見に行った。
一ノ瀬流通グループが大型ショッピングモールに展開する、焼菓子工房からパティシエが来ていた。
洋梨やリンゴ、巨峰のタルト、アップルパイなどを、ワンプレートに盛り付けてくれる。
アイスクリームやコンポートなども選べる。
これなら、好き嫌いがあっても大丈夫だ。

リハーサルが終ったメンバーが、群がっていた。
「巨峰のタルト、美味しい」
「アップルパイの生地が、サクサク」
「洋梨のコンポート、大人の味」

美味しいものを食べているメンバーは、騒がしい。
すぐに、メンバーのSNSにUPされていた。