蒼い海 ～女装男子の冒険～

第十章 成長

２

「本当に切ってください、お願いします」

「ウィッグでいいんだぞ、考え直せ」

「いや、切ります」三角監督と沙織がやり合っている。
ヘアサロンでショートカットにするシーンで、沙織が背中まである髪を切ると言い出したのだ。

「プロデューサーにも、社長にもOKを貰ってます。
演技もまともに出来ない私は、格好から入るしかないんです」

監督が田中マネージャーに確認して、本当に切ることになった。

ヘアスタイリストは当然、超一流が呼ばれている。
監督がスタイリストと相談して、ショート・ボブに決めた。

TVCMが公開された。

朝、沙織がおぼつかない指でコンタクトレンズを入れた。
「コンタクトレンズ、デビュー！」
キャッチコピーが踊っている。
チャコールグレーのパンツに、ボタンダウンシャツ、ストライプタイを締めて、パーカーを着ていた。

「行ってきます」

駅から出たところで、月城美雪、渡辺由里香と出会う。
二人がびっくりした表情で見ているシーンで終わる。
「新しい、自分」のコピーがついていた。

記者会見が行われて、出雲沙織と後二人も参加した。
会社側からコンタクトレンズデビューに戸惑う、学生向けのキャンペーンだと発表があった。
三角監督からTVCMとWebのショートドラマのメディアミックスであると、説明がある。
登場人物も、今後追加される事も公表されてた。

「去年の出雲真凛ちゃんとは違う、もっとフレッシュな沙織を見ていただきたい」
俺はフレッシュじゃなかったんだ、ツッコみたくなる。
ただ違うことを強調されたのは、沙織には良かった。

web上に、ショートドラマ第１話が公表された。
非常階段でメガネを掛けた沙織が、誰かと話している。
女がその場を去り、沙織が遠くを見ていた。

沙織がヘアサロンに来て、カットを頼む。

「コンタクトデビューするんです」

「じゃあ、顔周りをスッキリしよう」

「お願いします」

本当のカットが進んで、ショート・ボブの完成だ。

「どう？新しい自分に出会えた？」

「ええ、私ってこんな顔だったんだ」

ここで終った。
さっそくnet上は、大騒ぎだ。

「沙織ちゃん、真凛をずっと若くした感じ」
「メガネ君をフッた女、誰だよ」
「コンタクトで可愛くなったんじゃない、元から可愛いんだ」

相変わらず、三角監督はみんなを楽しませていた。