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第五章 大忙し

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「solemnityは、シンガポールの企業再生ファンドが買った。
他社の2倍、30億で入札だ」
田中氏から情報が入った。

「買われるとどうなるの?」

「転売されるか、再生されるか。どっちにしても、動き出すよ」

solemnityは、大好きなブランドだ。
再生されれば、また仕事をするチャンスもある。

「それより、CM決まったぞ」

「コンタクトの?」

「ああ、TVCMじゃないけど、netで公開されるドラマCMに出演出来る」

「ドラマの主役は誰?」

「TVCMとドラマCM共に、栗栖千鶴だ」
だから、男役について聞いていたのか。

「どこで繋がるか、わからないだろう。だから義理や人情が大事なんだ」
この前は、大手は数字って言ってたのに。

「弓使いの衣装、貸して良かったね」

「お陰で男に戻れただろ。あれは、お前の決断が良かったんだ」
やっと褒めてくれた。

……

日曜日に、学校を借りて撮影がある。
CM監督はafterglowのMV、土砂降りの中で俺を立たせた三角寛だった。

「真凛ちゃん、久しぶり」

「また一緒に仕事が出来るなんて、幸せです」

「この役は真凛ちゃんしかいないと思って、推薦しておいた」

「それで、オーディションに呼ばれたんですね」

「主役じゃないが、大事な役だ」

「どんな事でも大丈夫です」

「あの雨の仲だもんな」

「ええ」二人で笑いあった。
やっぱり義理人情の世界だった。

チャコールグレイのパンツにネイビーのブレザーを着て、ネクタイを月奈に締めてもらう。
ヒール付きのローファーを履いて、黒髪をランダムに流す。
うっすらピンクメイクをして、ユニセックスな仕上がりだった。

「カッコいい。高校時代に出会ってたら、絶対に恋しちゃう」
月奈が、褒めてくれる。

「最近はジェンダーレスな制服が増えている、女子生徒がブレザーにパンツ、ネクタイも普通なんだ。
男子か女子か、判らない感じで頼む」
三角監督の指示が明確で、意図が理解出来た。

「今日一日、真凛ちゃんを好きになるね」栗栖千鶴が宣言する。
「私は密かに想ってる」共演の植木遥が言った。

「ああ、その想いをカメラにぶつけろ」

渡り廊下に遙と二人でいる、千鶴の横を通り抜ける。
ただそれだけだが、何回も録り直す。

「真凛ちゃん、モデルウォークになってる。もっと緩めて」

「緩め過ぎてだらしない。もう一回」

髪がなびくように大型扇風機で風を送られる中、take10でOKが出た。

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