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 それから。

 それから、俺と灯は、約10年機動班にいた。

 深山明希とトーヤの教育は、不甲斐ないことに2人とも優秀すぎて、俺たちをすっ飛ばして2年でA班に行ってしまったことで終わった。

 でも俺たちは公私共に仲良しで、頻繁に4人で食事をしたり遊びに行ったりした。

 ひ孫だという明希だけど、その性格は総司にそっくりで、しかも大食いで、トーヤも含めて沢山食べる俺たち3人を前に、灯はいつも呆れた顔をしていた。

 俺は総司との思い出を明希とも語ることができて、徐々に、かなり遅まきながら、想いをただの思い出にしていくことができた。

 10年経って、灯だけ異様に惜しまれながら機動班を辞めて、俺たちは、俺の実家の平屋に移り住んだ。

「灯」
「何だ?」

 俺は隣で横になっている灯の顔を見つめて、それから軽くキスをして、硬い胸板に顔を埋めた。

「あのさ、今度アリアナの家で小さなパーティーをするんだ。あいつの100歳の誕生日会なんだけど」
「……100歳、なぁ」
「ババアになっても誕生日会って、俺には何が嬉しいのかわかんないんだけどね。まあとりあえず、お前も呼んでくれって言われてて」

 灯かクスリと笑った。

「イギリスに行こうよ。ついでに観光もしよ?」
「別に構わないが」
「あ、お仕事があったりする?」
「いや、それは別に、そんなに忙しくはないからいいんだ」

 灯はこの平屋に住み始めてから、細々と探偵業を始めた。事務所を構えるのではなく、ホームページを利用して電話やメールで依頼を受けている。

 その売り込み方が、元機動班のバディが浮気調査からペットの捜索を行います、という、なんとも適当なものなのだけれど、これが以外に仕事の依頼がくるのだから、世の中変だなぁと俺は思っている。

 それに俺は完全に巻き込まれているんだけど。

 だから俺は自分のお役目と並行して、灯と各地へ周りペットを捕まえたりしているのだった。

「じゃあ何か他に問題がある?」
「そうじゃなくて……おれが行ってもいいのか?」
「なんで?」

 俺は首を傾げながら灯を見た。なんだか複雑な顔をしていらっしゃる。

「おれは人間だ」
「…?知ってるよ?」
「お前たち吸血鬼に混ざってもいいのか?」

 ああ、と俺はやっと納得がいった。それからニッコリ笑って答える。

「前にも言ったけど、アリアナは俺のいとこだよ。参加するのは俺の親族だけだし、俺たちはまあ、言わば公認だからさ。何も問題はないよ」
「でも前に、お前もいずれ結婚して子どもを作らなくてはならないと言っていただろ?」

 ちょっとムスッとしている灯が可愛くて、俺は少し硬い灯の短髪に手を差し込んでわしゃわしゃした。

「それはただ、周りの貴族連中はそうした方がいいって思ってるだけだ。俺も何も考えずにお役目だけをやっていたら、無感情に言われるがままそうしていたかもね。でも俺の叔父は生涯独り身だったよ。別に、ベルセリウスとしてはそんなのどうでもいいんだ。お役目を負っているからこその自由も許されてる。まあ、だからこそ、ルーカスやルイスにはそういう責任が重くついてまわるんだけどね……」

 だから俺は、初めから、灯と想いが通じ合った時点で、自分の生涯は決めていた。

「ね、だから、イギリス行こうよ。あ、ついでにルーマニアとかも行ってみる?面白いものがたくさんあるよ。俺はそういうの、いっぱい灯と分かち合いたい」

 一緒にいられる時間には限りがあるから。

 そしてそれは、俺が焦るほど短いから。

「お前のしたいようにしよう。おれは全部楽しみだから」
「うん、ありがと」

 また深く唇を合わせる。そうやって何度もお互いの唇を奪い合っていると、どうしても欲しくなってしまって。

「あのさ、もっかいしよ?お願い」
「お前のその可愛らしい顔を見て、お願いなんて言われて、断れるわけないだろ」
「それって灯は別にしたくないけどってこと?ヒドい!」

 今度は俺がムスッとした顔をした。でも、灯はクスクスと笑い出した。

「そんなわけないだろ。いつでも、どこにいてもルナに触れたい。お前の全部が愛しい。おれがいくつになったって、この気持ちは変わらない」

 俺は嬉しくてニッコリ笑い、灯は姿勢を変えて俺の上にのしかかった。

 互いの舌を絡ませて、わざと音を立てるように口内を舐め、それから灯は、俺の耳を舐め出した。

「ふああっ、ちょ、くすぐったい!」
「お前、本当に耳弱いな」
「だ、だって、音がっ、ひゃあ!?だめ、クチュクチュ言わないで!頭んなか、えっちな音が響いてっ、ぁ、灯、ねちっこいよねほんと、」
「……なんか、バカにされてる気分になるな」
「そんなことないよ?ただ、しつこくて粘着質なのは変わらないなって」

 険しい顔の灯が、いつものように俺の口を塞いだ。黙れってことだ。あと、食べてもいいってことでもある。

 俺はいつものように、灯の手に噛みついて、甘い血に集中した。

 その間に灯は、俺の敏感なところに触れて、舐めて、吸い付いた。

「うひゃあっ!ち、乳首がぁ……ね、もっと吸って?それでね、キツく噛んで、引っ張って……くれたら、嬉しいです……」

 キッと睨まれ、俺はまた口を閉じた。ダメだ、気持ちよくなっちゃうと口が勝手に余計なことを喋り出してしまう。

 この変なクセは結局、ずっと治らなかったわけだ。

 灯が呆れた、と顔を顰めながら、それでも行動を再開した。その日二度目の俺の後ろは、すぐに受け入れられるほど柔らかいままだったから、灯は早急に内部へと侵入する。

「はぁ、ぁ……あっ、ン……灯の、熱いね……あの、そこの浅いとこ擦って?あ、そこっ!ゆ、ゆっくり、出し入れしてっ、グポグポって、ヒャアァッ」
「ちょっと、本当に、黙ってくれ」

 グッといきなり奥まで押し込まれて、気持ち良すぎて頭が真っ白になった。それから俺がまた余計なことを言う前に、灯は俺の唇を自分ので塞いでしまう。

 呼吸が上手くできなくて、気持ち良くて、俺はただ体をビクビクと震えさせながら灯に身を委ねた。

 そしてお互いに欲を吐き出して、俺は疲れてそのまま眠った。もう、お腹も胸もいっぱいいっぱいで幸せだった。

 こうして俺たちは、適度に仕事をしたり、時々母屋の方で家族と灯と食事やお茶をしたり。

 春には、越して来てすぐに植えた桜の木の下で花見をした。魔界都市にはそんな綺麗なものなかったから。

 夏は裏の川で、妹たちも入れて水遊びをした。ルーカスの子どもが少し大きくなってからは、一緒に誘って、魚をとって焼いて食べたりもした。夏祭りにも行って、花火を見ながら屋台の何かを食べた。

 秋は、灯を抱えて飛んで、裏山の紅葉を見たこともあった。

 冬にはまた狩りをして、イノシシや鹿を仕留めて食べた。灯は年々猟銃の使い方が上手くなって、2人の良い趣味になった。時々雪合戦をしたり鎌倉をつくって、中でボタン鍋をしたこともあった。

 なんでもない時にはお互いに仕事をこなしたり、ただ家にいて寛いで。

 定期的に体を繋げたり、いつもどこか触れていた。

 そりゃ小さなケンカはしたけれど、俺も灯も、笑っていることの方が断然多かった。

 灯と打ち解け始めた頃、俺は様々な国の、綺麗な景色や美味しいものの話をした。だから、時間が許す限り俺は灯を連れて、実際に色々な国を旅行した。もちろん、アジア圏はお役目もあって、定期的に色々な国に行くので、都合が合えば灯もついてきた。

 灯が風邪を引いたりするたびに俺は慌てたけれど、灯は俺が怪我をして帰ると、同じように慌てた。

 それがどこか滑稽で、俺たちは声をあげて笑った。どちらも、とても心配性になったなって。

 そうやって、月日は流れていった。
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