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「だからね、俺は孤高の吸血鬼だからさぁ、集団行動が苦手なんだ。それでね、間違って味方の射線上に入ってしまって、気が付いたときには頭ブチ抜かれてたよねぇ」

 しみじみと俺は言った。

 ここは人外専用の病院兼研究所だ。

 灯に会うのは、あれから1週間も経ってからだった。

 思いの外血を流し過ぎたせいで、まあ、半分は灯を庇ったせいでもあるけれど、とりあえず俺は1週間病院で寝込んでいたのだ。

 そしてこの1週間で、灯に何んて言おうか考えに考えたけど、出てきたのはそんな言い訳のような言葉だった。

「お前は……おれは本当に肝が冷えたんだぞ!」
「まあまあ落ち着いてよ。俺が本当に死んでたらさ、灰になってるよ。存在ごと消えるように。だからそんなに悲しむことないよ。最初から俺なんかいなかったみたいに、灯は何も悲しまなくていいんだ」

 ヘラヘラと笑う俺に、灯は何も言ってくれなかった。

 病院を出て、そのまま帰宅する俺に、またもお節介な灯がこんなことを言い出した。

「まだ全回復とは言えないと聞いた。よかったらうちに来ないか?お前が回復するまでの間、」
「いやいや、いいよ。寝て食って寝たら治るから!」

 恐ろしい。また俺を介護しようとしている。これだから灯は油断ならない。

「じゃあせめて送らせてくれ。お前の食べたいもの買ってやるから」

 責任感の強い灯の事だから、俺が大人しく入院している間に、誰かに何かを言われたのかもしれない。

 歴代のバディは、俺が怪我をしようが何しようが、知らない顔をする奴が多かったから。

「ん、それならいいよ」

 こしてまた、病院からの帰り道を灯と歩いた。途中でスーパーに寄って、夕食の材料を買った。というのも、俺がすき焼きが食べたいと言ったからだ。

 主人不在のためいつにも増して哀愁の漂う我が家に帰りつき、俺はちゃぶ台に突っ伏し、灯は静かに夕食の支度を始める。

「お前、アルコールは強いって言ってたよな?」
「まあね。人間と比べるまでもない、くらいには強いよ」
「じゃあ飲むか。おれも明日は非番だ」

 なんて珍しい、と俺は心の中で拍手喝采した。何か、酔って紛らわせたいことでもあるのだろうか。

「いいよ、俺でよかったら付き合うよ」

 まだ万全とは言えないが、灯の珍しい提案に、俺は素直に嬉しかった。

 いつのまに買い込んでいたのか、灯は俺の家の冷蔵庫からビールを取り出した。何故そこに?と俺は驚く。いかに自分が無頓着かを思い知った。

「乾杯でもするか」
「ん、乾杯!」

 缶ビールを傾けて、俺たちはそれを一口煽る。安いビールもどきの味が広がって、何とも言えない開放感に浸る。

 ちびちびと飲んでいると、灯がグツグツの鍋を持ってきた。甘辛い醤油と砂糖の匂い。取り皿に生卵を割り入れて丁寧に溶きほぐす。そこにちょっと高かった、味の染みた牛肉を浸して口に入れる。

「はぁ、すき焼きって特別感があって美味いよね」
「まあそうだな。特別な時にすることが多い気はするな」

 しばし黙々と食事を続ける。病院の素っ気ない食事に飽きていたから、味の濃いすき焼きは特別美味く感じた。

 ビールの缶が三つほど流しに並ぶ頃、灯は顔を赤くして少し眠そうだった。

 俺は最初に開けた缶を、まだちびちびと飲んでいた。正直言って、ビールはあまり好きではない。しかしここは大人の対応でもって、灯に付き合っていたのだが。

「あの時、おれは本当にルナが死んでしまったんだと思ったんだ」

 何だ?思い出話か?と据わった目の灯に耳を傾ける。

「だから、俺は頭砕かれたって死にはしないって」
「それでも痛かったはずだろ」

 と、灯は言うが、頭を撃たれると瞬時に意識が飛ぶので、そこまで痛いとは思わないのが現実である。

 灯が徐に冷蔵庫を開けて、五つ目のビールを開けた。

「おい、そんなに飲んで大丈夫か?」
「おれだってそれなりに酒は強いんだ」

 と言っているが、もう目の焦点がどこか他所を見ている。

「いい加減に帰った方がいいんじゃないか?後片付けくらい自分でできるよ?」
「いや……おれがやるから、ルナは黙ってろ」
「本当に大丈夫か?」

 いよいよ怪しくなってきた。俺は灯を手伝って、流しに食器を運ぶ。灯はそれを丁寧に、かつ全て洗い切り、そしてまたビールを飲む。

「ねぇ、灯?泊まってもいいけど、布団とかないよ?」

 これはもう、帰宅は困難だと判断した俺は、タクシーを呼ぼうか悩んだ。

「大丈夫だって言ってんだろ!」

 そう叫ぶように言った灯が立ち上がり、フラッとよろけた。俺は咄嗟に支えて、しかしバランスを崩して床に倒れてしまう。

 灯が俺の上で、目をぱちぱちと瞬く。それから、至近距離でお互いの視線が合った。

「悪い……」
「いや、別に大丈夫だけど」

 人間の力なんて俺にとっては非力な赤子くらいにしか思わないけれど、灯に見つめられたこの瞬間、あの、恥ずかしい風呂場でのことと、エレベーターでのことを思い出してしまって力が抜けた。

 多分、今俺は、茹蛸のように赤くなっている事だろう。そういう経験値の低さが、この時もろに出てしまった。

「ルナ」
「な、何?」

 とろんとした、でも真剣な眼差しに晒され、どうしたものかと思案する。俺の方が人生経験豊富なはずなのに、どうしてこの灯という人間にだけは叶わないのか。

 お酒の匂いのする灯が、徐々に顔を近付けてくる。心臓がドクドクと早鐘を打つが、それが自分のなのか、灯のなのかわからなかった。

「ん、ふぁ……」

 熱い舌が俺の唇をなぞり、吐息を漏らすとその隙間を抉じ開けるようにして中へと侵入してくる。

 口の中を無理矢理貪る灯の舌の感触が気持ちよくて、いつのまにかそれに応えようと、俺自身も灯に合わせて口を開けていた。

「ふ、ぅ……はぁ、あっ」

 離れる唇に縋り付くように、俺は灯の首に両手を回していた。もう、頭がボーッとして、何も考えたくないな、と思った。

「ルナ……好きだ。お前がおれのそばにいてくれて良かった」

 それは突然の告白で、でも、バディとしてなのか、人としてなのかわからなくて、だから俺も、深く追求することはしなかった。

「俺も灯が好きだよ」

 まるで慣れ親しんだ社交辞令のようにそう返すと、灯はまた、でもさらに激しくキスを落とす。

 良い加減息苦しくなってきた頃、灯が俺の服に手を差し入れてきた。病院で借りたロンTしか着ていない俺の素肌に、灯のゴツゴツした手が触れる。洗い物をした後だからか冷たくて、俺はヒッと息飲んだ。

「と、灯…?あの、どこまでやるの?」

 しかし灯は聞いていないようで、俺の体を隅々まで弄ろうとしている。

 これで最後まで、と答えられても困るのだけど、今でも十分に困っている。

 俺には、かろうじて童貞ではない、という経験値しかないわけで。そこであの……お尻がどうとか言われても、俺にはどうしたら良いのかわからなくて……

 そんな俺の葛藤など、アルコールのせいでぶっとんでしまっている灯には、多分想像もできないだろう。

「灯、も、ダメだって……ぅあっ、そこ、やめてっ」

 ギュッときつく乳首を摘まれて、思わず声が漏れた。捲り上げられてしまったシャツから顔を出した胸に、灯は顔を埋めて敏感な先端を舐める。

「ひぁっ!?ちょ、ホントにっ、んぅ…!」

 もうダメだ、俺は灯に喰われるのだ。そんな気持ちになった。実際本当に、灯は俺の上半身を舐めまくり、首筋を何度も噛んだ。

 もはや満身創痍でなす術もなくて。ぐったりと床に押さえつけられたまま、ただ灯に身を任せるしかなかった。

「ルナ、おれは本気だから」

 いや、何が?と思ったが、もうどうでもいい。灯が俺の上半身を指でなぞり、ヘソの辺りをくすぐって、ズボンと下着を同時に下げた。俺のそこは、意識していなかったけれどちゃんと反応していて、明るい蛍光灯の下で灯に見られるのがとんでもなく恥ずかしかった。

 一度抜いてもらっているとは言え、だ。

「や、見ないでよ…ねぇ、灯?聞いてる?」

 全く聞いていないであろう灯。その大きな手が、俺の急所を掴み、ゆるゆると動かし始める。

「はっ、やめ!ぅううっ…イヤだ、ね、もうやめっ、あぁっ」

 グチュグチュと卑猥な音が響く。腰に鈍くて甘いものが溜まっていく。

 普段自慰行為なんてしないから、人にされるそれはとんでもない快感だった。思わず涙が出てしまうほどに。

「ぅ、うぐっ……はぁ、はぁ」

 ビュル、と少なくはない量の白濁を吐き出して、肩で息をする俺に、灯がなんだか愛おしそうな表情で目を合わせてくるのだ。

 どういうつもりだよ、と声に出す前に。

「本当に何やってんの!?」

 俺はビクッとして叫んだ。

 俺が出したものを尻に塗りたくった灯が、何の躊躇いもなく、そこに指を入れたのだ。

 何と言うか、それまでの快感が一気に消し飛ぶような違和感だった。よくもそんなところで気持ちよくなれるものだな、と無い知識なりに思ったわけだけど。

「灯、もうダメ、抜いて!そんなとこ気持ちよくないよ!」
「いや大丈夫だ。もう少しだから」

 もう少しってなに?

 そう反論しようとした時だ。

「ひゃあっ!?」
「ほら、気持ちよくなっただろ?」

 体の内側に気持ちよくなるボタンでも付いているのか、とにかく、そこを押されると堪らなかった。

「ゃ、ああっ!?ダメ、イク!!ぅう、あっ、はぁ、あんっ!」

 同時に前を弄られて、腰が勝手にビクビクと震えた。頭がボーッとして、もう何も考えられない。

「ヒッ、あ、ぁ…ンッ!!」

 二度目の射精は、意思とは関係なく出さされたみたいで、それが本当に快感だった。

 ぐったりした俺を灯がうつ伏せにする。

 もうどうにでもしてくれ、と言う状態の俺だった。無理矢理四つん這いの姿勢を取らされて、灯は俺の太腿の間に、自分の熱く激ったそれを出し入れし出した。

「うぁっ、はぁ、あ、っう……」

 これはもう、セックスと同じでは?とかちょっと思ったけれど、灯はそうしながらも俺の一番敏感な、肩甲骨の間の濃い筋をなぞる。そうしながら、首筋を容赦なく噛んでくる。

「ひゃあっ、やめっ……あっ!?あぅ、う、痛いよ、とも、り……」

 病み上がりの体に、さすがにこれはキツすぎた。

 ガクッと体勢が崩れて、床に突っ伏してしまったところまでは覚えている。気持ちよくて、不思議とイヤじゃなくて……

 そもそも俺は吸血鬼だ。淫魔と同じように、人間を快楽に溺れさせ、その生き血を貰う種族なわけで。

 これは仕方がないことだったのだ。灯はきっと、俺のそういう力に屈してしまったのだろう。

 ……そう信じたい。
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