【本編完結】【BL】愛を知るまで【Dom/Sub】

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　岡山が何度も通話をかけてくるので、仕方なく手にしていた資料をデスクに置いた。

　本当は残業をする気はなかったが、部下の仕事の進捗が悪いと、最終確認のために残業せざるを得ない。

　ちょっとしたミスが続いていたその部下は、最近体調があまり良くなかったようだ。それは誰にでもあることなので仕方ない。むしろ早くに気付いて仕事を割り振っておけばよかった。

　恵介くんのことさえなければ、そのくらいのフォローは余裕を持ってできたのだが。

　平静を装っているのはわかる。努めて明るくしようと笑顔を保っていることも。

　死にたいと言うことはなくなった。でも、彼はきっとずっと心の奥に隠しているだけで、どうしたって根本にある思いは消してあげられない。

　それほど辛かった人生だ。僕には今を幸せにしてあげることしかできない。

　過去は、どう足掻いたって消してしまうことはできない。

　このストーカー事件だってそうだ。過去の亡霊のくせに、恵介くんの心を蝕み、日常をも脅かす。

　今日のところは偶然でも岡山がいてよかった。いつもおふざけをする若い社員だが、仕事に対しては熱心で真面目で、人柄も良くて好感の持てる若者、という感じだ。それなりに信用している。

　その岡山がしつこく電話してくるのが気になった。もしかして恵介くんに何かあったのだろうか？

　何度目かの通話に出ると、岡山はいきなり話し出した。

『部長！出るの遅いっすよ！』
「どうした？」
『恵介さん、突然帰るとか言って飛び出してったんす！なんか、友達からのメール見たあと慌てて』

　ドキリと、心臓が大きく鼓動を打った。嫌な予感しかしない。

「そう。岡山は、」
『おれ、そのメール一緒に確認したんすよ。最近再開発が進んでる地区の、今取り壊し真っ最中の建物で！部長になかなか繋がんないんで、タクシー拾って今向かってます！』

　なんて優秀なヤツなんだろう。今すぐ岡山を褒めてやりたくなる。

「悪い、すぐに行く」
『いいっすよ、これくらい。ストーカー被害のことも聞いたっす。場所教えますね』
「いや、それは大丈夫だ。恵介くんの居場所ならすぐにわかる」

　そう言うと、岡山が電話の向こうで笑った。

『部長、やっぱりヤバい人っすね！羨ましいっす！』

　岡山が電話を切った。

　よくわからないが、僕も早く恵介くんを追わないと。

　スマホでアプリを立ち上げる。GPS追跡アプリだ。それを彼に贈ってから、使うのは初めてだった。

　ただの保険のつもりだったのに、こんなに早くに役立つ時が来るなんて、思ってもいなかった。

　心臓がドキドキとありえないくらい鼓動を打ち鳴らしている。喉がひりついて、息苦しくさえある。

　嫌な予感がする。

　掴んだはずのものが、砂粒となって手のひらからこぼれ落ちていくような、そんな焦燥感があった。