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第二章 公女去りて後のアシュフィールド国
美しき者たち
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王城の一角にある大聖堂の中は荘厳な雰囲気に包まれている。
国で一番品質の高い大理石を積み上げられた中心廊は、東西に細く長く続きそして天井は尖塔と共にとてもなく高く、真夏でも空気がひんやりと冷たいことで有名だ。
側面廊に歴代の聖人や王族を描いたとりどりのステンドグラスがはめ込まれた窓がぎっしりと並んでいるせいなのだろうか。中へ足を踏み入れるとなぜか巨大な洞窟を想像させる。
婚姻式への出席を希望した貴族たちは中心廊にそって作りつけられた席に座り、時を待つ。
しばらくすると香炉を手にした司祭たちが入場し、側廊を周回しながら聖堂内を清め、場が整ったところで最奥の部屋より枢機卿であるハーマンと王、そして王太后が現れた。
王妃と王太子夫妻の帰国を待たぬまま、婚約式は行われることに決定されている。
その東の奥内陣にはひときわ高い大理石の壇上があり、そこへ三人はゆっくりと上りそれぞれ椅子に座ると周囲を見渡す。
「では、始めよう」
王の一言で、空気が動く。
大聖堂の中間あたりに南北に袖廊が伸び、そこに豪華な控室がある。
それぞれ南北に配され時を待ち続けた恋人たちは、司祭たちの導きのもと部屋を出る。
まずは、北の控室で待機していた第三王子ジュリアンが証人役の兄のウォーレンと連れ立って中心廊へ進み、王たちのいる奥内陣を目指した。
二人が壇上の前に着くと、今度は南の控室からオリヴィアがネルソン侯爵家の新しい当主となった従兄のアランにエスコートされてゆっくりと中心廊を歩く。
ジュリアンの色を模した水色の柔らかなドレスは僅かな空気の流れにふわふわとそよぎ、艶やかな髪も薄い光を放ちながら波打つ。
白い額を飾る見事なサークレットからどれほどジュリアンの寵愛が深いか、誰の目にも明らかだ。
零れ落ちそうな大きなペリドットの瞳はまっすぐ聖堂の奥で待っている恋人を見つめ、笑みの形を作っていた。
「それにしても……。ネルソン家はなんと美しいこと」
ぽつりと列席者の一人が呟く。
優しく義妹の手を引く新当主アランは第二王子ウォーレンと年が近く、王子教育を受けていたころは側近の一人だった。
夏の空の色を思わせる髪と瞳の甘い顔立ちは令嬢たちに人気が高く、今も、既婚独身を問わず女たちの目をくぎ付けにしている。
そんな義兄妹が歩く姿もまた、眼福だと人々はため息をついた。
やがて、ネルソン家の二人は奥内陣へたどり着く。
「オリヴィア」
「ジュリアン様……」
主役の二人がようやく引き合わされた。
微笑み合う恋人たちは互いの手を取り合い、儀式を待ちきれずそっと口づけを交わす。
確かに、美しい眺めではあった。
青みがかったプラチナブロンドとアクアマリンを思わせる瞳をもつジュリアンは三人の王子たちの中で一番王妃の美貌を受け継いでいる。
そしてそんな彼に寄り添うオリヴィアもネルソン家の最高傑作と囁かれる美少女だ。
席に座っている出席者たちは互いの色を思わせる豪華な衣装に身を包む二人の姿に、感嘆のため息をつき、ほめそやした。
これぞ、神の定めた伴侶なのだと。
「それでは―――」
いつまでもうっとりと見つめ合う二人に、ハーマン枢機卿が軽く咳払いをする。
「我が国の第三王子ジュリアン殿下と、侯爵家長女オリヴィア・ネルソン嬢の婚約式を執り行います」
厳かな声に、居並ぶ者すべてが背を正した。
神聖なる儀式が、始まる――。
国で一番品質の高い大理石を積み上げられた中心廊は、東西に細く長く続きそして天井は尖塔と共にとてもなく高く、真夏でも空気がひんやりと冷たいことで有名だ。
側面廊に歴代の聖人や王族を描いたとりどりのステンドグラスがはめ込まれた窓がぎっしりと並んでいるせいなのだろうか。中へ足を踏み入れるとなぜか巨大な洞窟を想像させる。
婚姻式への出席を希望した貴族たちは中心廊にそって作りつけられた席に座り、時を待つ。
しばらくすると香炉を手にした司祭たちが入場し、側廊を周回しながら聖堂内を清め、場が整ったところで最奥の部屋より枢機卿であるハーマンと王、そして王太后が現れた。
王妃と王太子夫妻の帰国を待たぬまま、婚約式は行われることに決定されている。
その東の奥内陣にはひときわ高い大理石の壇上があり、そこへ三人はゆっくりと上りそれぞれ椅子に座ると周囲を見渡す。
「では、始めよう」
王の一言で、空気が動く。
大聖堂の中間あたりに南北に袖廊が伸び、そこに豪華な控室がある。
それぞれ南北に配され時を待ち続けた恋人たちは、司祭たちの導きのもと部屋を出る。
まずは、北の控室で待機していた第三王子ジュリアンが証人役の兄のウォーレンと連れ立って中心廊へ進み、王たちのいる奥内陣を目指した。
二人が壇上の前に着くと、今度は南の控室からオリヴィアがネルソン侯爵家の新しい当主となった従兄のアランにエスコートされてゆっくりと中心廊を歩く。
ジュリアンの色を模した水色の柔らかなドレスは僅かな空気の流れにふわふわとそよぎ、艶やかな髪も薄い光を放ちながら波打つ。
白い額を飾る見事なサークレットからどれほどジュリアンの寵愛が深いか、誰の目にも明らかだ。
零れ落ちそうな大きなペリドットの瞳はまっすぐ聖堂の奥で待っている恋人を見つめ、笑みの形を作っていた。
「それにしても……。ネルソン家はなんと美しいこと」
ぽつりと列席者の一人が呟く。
優しく義妹の手を引く新当主アランは第二王子ウォーレンと年が近く、王子教育を受けていたころは側近の一人だった。
夏の空の色を思わせる髪と瞳の甘い顔立ちは令嬢たちに人気が高く、今も、既婚独身を問わず女たちの目をくぎ付けにしている。
そんな義兄妹が歩く姿もまた、眼福だと人々はため息をついた。
やがて、ネルソン家の二人は奥内陣へたどり着く。
「オリヴィア」
「ジュリアン様……」
主役の二人がようやく引き合わされた。
微笑み合う恋人たちは互いの手を取り合い、儀式を待ちきれずそっと口づけを交わす。
確かに、美しい眺めではあった。
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そしてそんな彼に寄り添うオリヴィアもネルソン家の最高傑作と囁かれる美少女だ。
席に座っている出席者たちは互いの色を思わせる豪華な衣装に身を包む二人の姿に、感嘆のため息をつき、ほめそやした。
これぞ、神の定めた伴侶なのだと。
「それでは―――」
いつまでもうっとりと見つめ合う二人に、ハーマン枢機卿が軽く咳払いをする。
「我が国の第三王子ジュリアン殿下と、侯爵家長女オリヴィア・ネルソン嬢の婚約式を執り行います」
厳かな声に、居並ぶ者すべてが背を正した。
神聖なる儀式が、始まる――。
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