11 / 14
ときに戦争は。『この本をかくして』
しおりを挟む私が子どもの頃、父方の祖父は南方の激戦で亡くなったのだと聞かされ、母方の祖母の親族で生還したものの片腕を失った方とお会いしましたが、我がことと認識できず、戦争とはもう終わったことで二度とないと信じ、世の中が発展していくにつれ、国々は仲良くなっていくものだと思い込んでいました。
しかし大人になるにつれ、平和というものがいかに困難なものなのかということを痛感しています。
情報さえ共有されれば、善悪が明確になり、世の中に悲しいことは起こらないと思っていたけれど、情報は受け手によってさまざまな形に変わる。
それでも、知識や文化がいつか助けてくれないかと、私はつい願ってしまうのです。
今回紹介するのは、戦争と、一冊の本について描かれた絵本です。
『この本をかくして』
文: マーガレット・ワイルド
絵: フレヤ・ブラックウッド
訳: アーサー・ビナード
出版社: 岩崎書店
あらすじとしては以下の通りです。
ピーターの住む町が空襲に遭い、図書館も破壊されます。
本はすべて木っ端みじんになって紙吹雪が散るのを人々は惜しみました。
そんななか、実は一冊だけ無事の本がありました。
ピーターの父親が貸し出ししていた物語の本。
敵に街を占領され退去命令が出た時に、父親はそれを大切に布に包んで持ち出しました。
『ぼくらにつながる、むかしの人たちの話が ここにかいてある。
おばあさんのおばあさんのこと、
おじいさんのおじいさんのまえのことまでわかるんだ。
ぼくらがどこからきたか、それは金や銀より、もちろん宝石よりだいじだ』
(原文引用)
そうして父子は難民として長い旅に出ることになります。
しかし、道半ばで父は衰弱していき…。
父の遺志を継ぐピーター。
どのような方法で彼が本を守ったのか、それは実際に絵本を読んでみてくださいね。
なぜ、本がそれほどまでに大切なのか。
そして、本とは図書館とは、人にとってどのようなものなのか。
それを静かに、そして強く語りかけてきます。
本とは、何だろう。
私は、文化の一つと思います。
そして、文化とは、人が人である証であり、財産であり、砦だと思います。
人は記憶または想像したものを誰かに伝えたいまたは残したいと思った時、その手段としておおむね文字を使います。
文字がなければ口伝や絵で、また歌や踊りや音、身振りなどを使って受け継ぎ、広めます。
こうして人々は誰かの作り出したものを頭と心でなぞって楽しみ、共感するのだと思います。
しかし、それらを受け継ぐ力がなくなったとき、ぱたりと途絶えてしまうのも文化です。
本は記録であり、記憶です。
そして、世界を開くであり、心の支えでもあります。
ときに、戦争は。
ひとを根だやしにしてしまいます。
それは、爆弾の力だけではなく。
正義を掲げて攻め込む側は人の心をなくして化け物になり、攻め込まれる側はただの的であり人とはみなしてもらえません。
そんななか、人が、人であることはとても難しい。
生きていくために必要なものはもちろん安定した衣住食です。
しかし、人として必要なものは文化だと私は思います。
その導き手の一つが本です。
誰かを思うとき、考える時、自分一人では限界があります。
何かを知れば、その答えを見つけられるかもしれません。
無用な争いを避けることができるかもしれません。
辛いことや悲しいことがあって心が波立っているとき、違う世界へ連れて行き、視線を変えてくれるのも、また本だと思います。
戦争とはなんだろう。
人とはなんだろう。
一瞬でも、一人でもいいから考えるきっかけになるために、本は存在しているのではないでしょうか。
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。


ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
髪寄りな話~完全ノンフィクション
結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
エッセイ・ノンフィクション
【これは……完全なる実話です】
10代の頃は髪の毛が多すぎて悩んでいたあの頃……今ではすっかり抜け毛に怯える日々。抜け毛を減らし、毛量を増やす為の日々を切実と綴らせて頂きます。
完全ノンフィクションなので、色々と突っ込みどころ満載かもしれません
※特に何か目新しいことや変化があった場合に投稿するので不定期更新になる予定です。ご了承下さい。
※他サイトでも投稿あり
荒くれ者
藤堂Máquina
エッセイ・ノンフィクション
コロンビアでの生活を文章にまとめた謂わば日記帳のようなものです。
あくまでも旅の記録であり、まとまった文章でないことをご理解ください。
また文章を見返す気がないのも本文の通りであり、おそらく誤字脱字が多いのもご容赦ください。

【完結】初めてアルファポリスのHOTランキング1位になって起きた事
天田れおぽん
エッセイ・ノンフィクション
アルファポリスのHOTランキング一位になった記念のエッセイです。
なかなか経験できないことだろうし、初めてのことなので新鮮な気持ちを書き残しておこうと思って投稿します。
「イケオジ辺境伯に嫁げた私の素敵な婚約破棄」がHOTランキング一位になった2022/12/16の前日からの気持ちをつらつらと書き残してみます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる