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土の精霊を接ぐ(竜王物語エピローグ⑤)
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「やはり…。懸念していた通りとなりましたか」
「そうですな。なにもかも」
春の光を浴びて暖かいテラスで、リリアナ・ホランドとエルドは向かい合う。
そよ風が通り抜けるなか、犬たちとはしゃぎながら走り回る子どもの声が聞こえる。
「エスペルダの衰退が顕著ですと隣国として困りますが、まあこちらも色々掃除のし甲斐がありますわね」
リリアナは飾り気のない衣装に身を包み軽く髪を一つにまとめた姿で、手際よくアーモンドのタルトを切り分け皿に盛り苺とクリームをたっぷり添えて、エルドへ渡す。
「まったく。易々とは引退させてもらえぬようですな。この老骨を引っ張り出すとは」
ラズベリージャムの香りが甘酸っぱいデザートを受け取ったエルドは苦笑した。
「あら。本当は誰よりも好戦的な御方ではありませんか」
目を大きく見開いて大げさに驚いて見せる。
エスペルダ国は全てを隠蔽し、死したミゲル・ガルヴォに悪しきことを擦り付け噂を広めることに躍起になっている。
国の宝玉を自ら破壊してしまった愚王として歴に名を残すことだけを恐れて。
ミゲルが自害した瞬間、突然空から雷が落ち、一族の墓所は忽然と消えた。
更にガルヴォの栄華を具現化した屋敷と財を納めている筈の倉庫などへ幾筋もの落雷が直撃して火の手が上がり、一昼夜燃え続けた末に崩れ落ちた。
逃げ出した使用人たちで死した者はいないが、ガルヴォのものを盗み出そうとすると焼き鏝を掴んだ時のような大やけどを負い、また、以前から密かに持ち出していた場合はそれが保管場所で発火し、みな悲惨な結末を迎えた。
ミゲルの目をごまかして王家や家門の者たちが採掘していた鉱石も魔石も全てただの石に変わり、既に取引されていた相手との争いが勃発する。
直轄の鉱山においても価値あるものは見つからず刃物や魔術をもってしても掘ることが難しい程の岩盤へ変わり、無理に掘ろうとすると落盤やガスが発生し、人々は命からがら逃げだした。
もう、ガルヴォの地で富を得ることはかなわないのだと、人々は思い知る。
そして、七頭の竜たちは。
ガルヴォの邸内が全て廃墟と化し、欲ある者たちが失望し座り込む中、竜舎から一斉に飛び立った。
彼らはそれぞれ一声上げたのち、まるで越冬を終えた水鳥が飛び立つように空へ向かって羽ばたいた。長く暮らした地を一度も振り返ることなく。
高く高く高く。
遠い天を目指して一直線に竜たちは飛んだ。
優美な姿を民に知らしめながら。
こうして人に従った翼竜たちは二度と現れず、その行方はわからない。
翼竜騎士団という名はただの名称となり果て、心ある騎士は既におらず、やがて消えた。
おさまりが付かないのはガルヴォに寄生していたエスペルダの王家と有力貴族たちだ。
贅沢に慣れた彼らは急に生活をあらためられず、坂を転げ落ちていった。
立て直しを図るために王たちが行ったのは、ガルヴォ家に関する古文書を焼き払い、旅芸人たちに愚かな男の物語を流布させることだ。
竜の血を引く男が隣国の幼い少女に執着して全てを破壊する悲劇。
犠牲になったのは少女だけでなく、民草までも巻き添えになり、彼が死んで良かったと思わせようとした。
現在、国が突然衰退し始めたのは王のせいではなく。
全ては、神から過分な力を得た男が増長し、好き勝手に振舞ったせいだと。
ミゲルは神からの罰を受けて消え、今も地底で苦しんでいるのだと。
憎むべきは、ミゲル・ガルヴォ。
子どもにも信じ込ませようと人形劇や絵本など作らせた。
確かに、愚かな竜王の物語は誰もが知るものとはなった。
しかしガルヴォの領民たちの心は静かなままだ。
下々の民のこれから数年の生活の道筋をたててから消えた領主に対し、恨む者はいない。
朝陽と夕陽に感謝の祈りをささげ、いつもの通り地とともに生きる仕事を続けた。
「生き残るのは民草だけでしょうなあ」
ホランドで採れた葉で作られた紅茶の香りを堪能しながら、エルドはぽつりとごちる。
もともと、放牧と高原特有の作物を育てて慎ましく生きる民の国だった。
自然豊かな環境故に野獣と魔獣と遭遇することが多く、戦いに秀でてはいたが他国を脅かすほど好戦的ではない。
支配層が地下資源で自分たちだけ栄華を極めて謳歌し、それが尽きてしまう未来を考えなかっただけのこと。
「エスペルダのことは、エスペルダに任せて。これから私たちは自分たちに降りかかった火の粉を払わねばならないのだから」
クラインツ公爵と、ゴドリー侯爵、ストラザーン伯爵を中心に、アルバたちと結託していたサルマン側の人間を密かに探っている最中だ。
この数年の間に、ベンホルムがゴドリー侯爵家を継ぎ、カタリナの夫であるエドウィンは父の目をかいくぐって家臣たちをおおよそ掌握し、ようやく動きやすくなってきた。
しかしその分敵も多い。
「まあ、そうですな」
ふむとエルドは灰色の顎髭をひねる。
「ところで例の、これなのじゃがな」
懐から細心の注意を払って空色の包みを取り出してテーブルごしに差し出す。
「ガルヴォの、最後の精霊ですね」
リリアナが両手で受け取りゆっくりとハンカチを開くと、透明で小さなガラスの粒になってしまった土の民がころんと現れた。
目を閉じて縮こまり、薄いガラスの身体の中は透明な液体がちゃぷんと揺れる。
「ああ…。これは…」
指で優しく触れてみるが反応はない。
『す』は泣き顔のまま眠りの中にいる。
ジュリアとアベルを失い、仲間たちは消えた。
彼はひとりぼっちなのだ。
「なんていたましい」
静かに包み直した。
「預かってから今まで癒しの魔道具に包んでみたが変化の兆しがない」
魔女に命と魔力を吸い上げられ瀕死の状態だったアベルをカタリナが包み込み、彼女が自らの水の魔力を添加することで二年の命を取り戻せた魔道具だったが、同じようにはいかなかった。
そもそも精霊である『す』自身が生きることを拒絶しているのであれば、どれほど力を注ぎこんでも無理な話だろう。
「繊細な子だもの、そうでしょうとも」
『す』はちょこっと族の末っ子で元気が良く、マレナとリリアナの間の伝達係をよく務めていた。
ある日ライアンにみつかり、ままごと遊びに付き合わされたり、ポケットにいれられたりしたが、それはそれで楽しかったようだ。
しかし、ジュリアが亡くなったことを知らせにホランドへ行き、ライアンのポケットに入れられている間に仲間たちは全員アルバに殺された。
神の意志でまもなく現世へ戻されたが、ちょこっと族は結束の固い精霊たちだけに、一人ぼっちになってしまった心もとなさは心の傷になっていたのだろう。
実は半年ほど前の夕方、ライアンが突然倒れ意識を失った。
慌てて寝台へ運ぶと、高熱のを発しうなされるなか、うわ言を言い出した。
『だめ、だめだめ、だゃめよ、すーしゃん。ないちゃだゃめ~っ』
ライアンが泣きながら暴れる。
ミゲルの襲撃から二年以上たち、滑舌が悪い上にリリアナの影響で女言葉だったライアンは、兄たちを追いかけているうちに男の子らしい言葉を話すようになった。
それが、あの頃の口調に戻っている。
『いやいや。すーしゃん、いかにゃいで~』
わんわん声を上げて泣くライアンに、ただ事でないものを感じた。
間もなく分かったことだが、それはエスペルダでアベルが息を引き取り、土の精霊たちが哀しみのあまり次々と消滅していった頃とほぼ同時刻だった。
そして翌朝。
けろりと平熱に戻ったライアンは、何も覚えていなかった。
前夜の夢のことも、幼いころに遊んだ『すーしゃん』のことも。
「しばらくはこのまま眠らせましょう」
リリアナはハンカチの上から優しく両手で包み込み頬を寄せる。
そしてしばらく考えたのち、ふと思いついたらしく、顔を上げる。
「老師。魔導師の中には研究好きがおりますよね。例えば魔物や獣を改造するような」
「ふむ。奥方が言いたいのは、善き学びを究める者、ということじゃな」
「ええ、もちろんですわ。その方にこの件を託してはいかがでしょう」
「ううむ。奥方はどのような形を考えておる?」
「接ぎ木ですわね。手法としては芽接ぎ」
芽接ぎとは林檎などの繁殖や品種改良のために行うもので、台木の表皮に切り込みを入れ、穂木と呼ぶ繁殖したい方の木芽の部分を差し込み活着させる手法だ。
「して? 台木は何とする?」
「ゴーレムですわね。大きさは幼児ほど。性格はおおらかでやんちゃ…そう、図太いくらいが良いでしょう」
「あのようにか」
「そう。あのように」
二人の視線の先には、テラスの下で泥だらけになり大声で笑いながら犬と地面を転がっているライアンがいた。
もうどちらが犬か人かわからぬ状態だ。
いたずら盛りのやんちゃ盛りで泣いたり笑ったり忙しいが、生き生きとしてその命の輝きはなんと眩しいことか。
「なるほど。参考になった」
「それとこの子はなるべく早く、必ず天に返さねばなりません。ただ、この世を去る前に穂木になるかけらをほんの少しだけ分けてもらえるよう説得してください」
「む…。なかなか難しいことを言いよるのう」
「自由奔放な、土の精霊の要素を残したゴーレムを造ってくだされば、私がここで育てます。息子たちにも手伝わせますから大丈夫です。お任せください」
「あいわかった。早急に手配する」
「よろしくお願いいたします」
リリアナはもう一度。
目を閉じて手の中の土の精霊に頬を寄せた。
「優しくて可愛らしい貴方が大好きで、訪れを楽しみにしていたわ。『す』さん。今までありがとう。お元気で」
ほわり、と頬に温かさを感じた気がした。
「そうですな。なにもかも」
春の光を浴びて暖かいテラスで、リリアナ・ホランドとエルドは向かい合う。
そよ風が通り抜けるなか、犬たちとはしゃぎながら走り回る子どもの声が聞こえる。
「エスペルダの衰退が顕著ですと隣国として困りますが、まあこちらも色々掃除のし甲斐がありますわね」
リリアナは飾り気のない衣装に身を包み軽く髪を一つにまとめた姿で、手際よくアーモンドのタルトを切り分け皿に盛り苺とクリームをたっぷり添えて、エルドへ渡す。
「まったく。易々とは引退させてもらえぬようですな。この老骨を引っ張り出すとは」
ラズベリージャムの香りが甘酸っぱいデザートを受け取ったエルドは苦笑した。
「あら。本当は誰よりも好戦的な御方ではありませんか」
目を大きく見開いて大げさに驚いて見せる。
エスペルダ国は全てを隠蔽し、死したミゲル・ガルヴォに悪しきことを擦り付け噂を広めることに躍起になっている。
国の宝玉を自ら破壊してしまった愚王として歴に名を残すことだけを恐れて。
ミゲルが自害した瞬間、突然空から雷が落ち、一族の墓所は忽然と消えた。
更にガルヴォの栄華を具現化した屋敷と財を納めている筈の倉庫などへ幾筋もの落雷が直撃して火の手が上がり、一昼夜燃え続けた末に崩れ落ちた。
逃げ出した使用人たちで死した者はいないが、ガルヴォのものを盗み出そうとすると焼き鏝を掴んだ時のような大やけどを負い、また、以前から密かに持ち出していた場合はそれが保管場所で発火し、みな悲惨な結末を迎えた。
ミゲルの目をごまかして王家や家門の者たちが採掘していた鉱石も魔石も全てただの石に変わり、既に取引されていた相手との争いが勃発する。
直轄の鉱山においても価値あるものは見つからず刃物や魔術をもってしても掘ることが難しい程の岩盤へ変わり、無理に掘ろうとすると落盤やガスが発生し、人々は命からがら逃げだした。
もう、ガルヴォの地で富を得ることはかなわないのだと、人々は思い知る。
そして、七頭の竜たちは。
ガルヴォの邸内が全て廃墟と化し、欲ある者たちが失望し座り込む中、竜舎から一斉に飛び立った。
彼らはそれぞれ一声上げたのち、まるで越冬を終えた水鳥が飛び立つように空へ向かって羽ばたいた。長く暮らした地を一度も振り返ることなく。
高く高く高く。
遠い天を目指して一直線に竜たちは飛んだ。
優美な姿を民に知らしめながら。
こうして人に従った翼竜たちは二度と現れず、その行方はわからない。
翼竜騎士団という名はただの名称となり果て、心ある騎士は既におらず、やがて消えた。
おさまりが付かないのはガルヴォに寄生していたエスペルダの王家と有力貴族たちだ。
贅沢に慣れた彼らは急に生活をあらためられず、坂を転げ落ちていった。
立て直しを図るために王たちが行ったのは、ガルヴォ家に関する古文書を焼き払い、旅芸人たちに愚かな男の物語を流布させることだ。
竜の血を引く男が隣国の幼い少女に執着して全てを破壊する悲劇。
犠牲になったのは少女だけでなく、民草までも巻き添えになり、彼が死んで良かったと思わせようとした。
現在、国が突然衰退し始めたのは王のせいではなく。
全ては、神から過分な力を得た男が増長し、好き勝手に振舞ったせいだと。
ミゲルは神からの罰を受けて消え、今も地底で苦しんでいるのだと。
憎むべきは、ミゲル・ガルヴォ。
子どもにも信じ込ませようと人形劇や絵本など作らせた。
確かに、愚かな竜王の物語は誰もが知るものとはなった。
しかしガルヴォの領民たちの心は静かなままだ。
下々の民のこれから数年の生活の道筋をたててから消えた領主に対し、恨む者はいない。
朝陽と夕陽に感謝の祈りをささげ、いつもの通り地とともに生きる仕事を続けた。
「生き残るのは民草だけでしょうなあ」
ホランドで採れた葉で作られた紅茶の香りを堪能しながら、エルドはぽつりとごちる。
もともと、放牧と高原特有の作物を育てて慎ましく生きる民の国だった。
自然豊かな環境故に野獣と魔獣と遭遇することが多く、戦いに秀でてはいたが他国を脅かすほど好戦的ではない。
支配層が地下資源で自分たちだけ栄華を極めて謳歌し、それが尽きてしまう未来を考えなかっただけのこと。
「エスペルダのことは、エスペルダに任せて。これから私たちは自分たちに降りかかった火の粉を払わねばならないのだから」
クラインツ公爵と、ゴドリー侯爵、ストラザーン伯爵を中心に、アルバたちと結託していたサルマン側の人間を密かに探っている最中だ。
この数年の間に、ベンホルムがゴドリー侯爵家を継ぎ、カタリナの夫であるエドウィンは父の目をかいくぐって家臣たちをおおよそ掌握し、ようやく動きやすくなってきた。
しかしその分敵も多い。
「まあ、そうですな」
ふむとエルドは灰色の顎髭をひねる。
「ところで例の、これなのじゃがな」
懐から細心の注意を払って空色の包みを取り出してテーブルごしに差し出す。
「ガルヴォの、最後の精霊ですね」
リリアナが両手で受け取りゆっくりとハンカチを開くと、透明で小さなガラスの粒になってしまった土の民がころんと現れた。
目を閉じて縮こまり、薄いガラスの身体の中は透明な液体がちゃぷんと揺れる。
「ああ…。これは…」
指で優しく触れてみるが反応はない。
『す』は泣き顔のまま眠りの中にいる。
ジュリアとアベルを失い、仲間たちは消えた。
彼はひとりぼっちなのだ。
「なんていたましい」
静かに包み直した。
「預かってから今まで癒しの魔道具に包んでみたが変化の兆しがない」
魔女に命と魔力を吸い上げられ瀕死の状態だったアベルをカタリナが包み込み、彼女が自らの水の魔力を添加することで二年の命を取り戻せた魔道具だったが、同じようにはいかなかった。
そもそも精霊である『す』自身が生きることを拒絶しているのであれば、どれほど力を注ぎこんでも無理な話だろう。
「繊細な子だもの、そうでしょうとも」
『す』はちょこっと族の末っ子で元気が良く、マレナとリリアナの間の伝達係をよく務めていた。
ある日ライアンにみつかり、ままごと遊びに付き合わされたり、ポケットにいれられたりしたが、それはそれで楽しかったようだ。
しかし、ジュリアが亡くなったことを知らせにホランドへ行き、ライアンのポケットに入れられている間に仲間たちは全員アルバに殺された。
神の意志でまもなく現世へ戻されたが、ちょこっと族は結束の固い精霊たちだけに、一人ぼっちになってしまった心もとなさは心の傷になっていたのだろう。
実は半年ほど前の夕方、ライアンが突然倒れ意識を失った。
慌てて寝台へ運ぶと、高熱のを発しうなされるなか、うわ言を言い出した。
『だめ、だめだめ、だゃめよ、すーしゃん。ないちゃだゃめ~っ』
ライアンが泣きながら暴れる。
ミゲルの襲撃から二年以上たち、滑舌が悪い上にリリアナの影響で女言葉だったライアンは、兄たちを追いかけているうちに男の子らしい言葉を話すようになった。
それが、あの頃の口調に戻っている。
『いやいや。すーしゃん、いかにゃいで~』
わんわん声を上げて泣くライアンに、ただ事でないものを感じた。
間もなく分かったことだが、それはエスペルダでアベルが息を引き取り、土の精霊たちが哀しみのあまり次々と消滅していった頃とほぼ同時刻だった。
そして翌朝。
けろりと平熱に戻ったライアンは、何も覚えていなかった。
前夜の夢のことも、幼いころに遊んだ『すーしゃん』のことも。
「しばらくはこのまま眠らせましょう」
リリアナはハンカチの上から優しく両手で包み込み頬を寄せる。
そしてしばらく考えたのち、ふと思いついたらしく、顔を上げる。
「老師。魔導師の中には研究好きがおりますよね。例えば魔物や獣を改造するような」
「ふむ。奥方が言いたいのは、善き学びを究める者、ということじゃな」
「ええ、もちろんですわ。その方にこの件を託してはいかがでしょう」
「ううむ。奥方はどのような形を考えておる?」
「接ぎ木ですわね。手法としては芽接ぎ」
芽接ぎとは林檎などの繁殖や品種改良のために行うもので、台木の表皮に切り込みを入れ、穂木と呼ぶ繁殖したい方の木芽の部分を差し込み活着させる手法だ。
「して? 台木は何とする?」
「ゴーレムですわね。大きさは幼児ほど。性格はおおらかでやんちゃ…そう、図太いくらいが良いでしょう」
「あのようにか」
「そう。あのように」
二人の視線の先には、テラスの下で泥だらけになり大声で笑いながら犬と地面を転がっているライアンがいた。
もうどちらが犬か人かわからぬ状態だ。
いたずら盛りのやんちゃ盛りで泣いたり笑ったり忙しいが、生き生きとしてその命の輝きはなんと眩しいことか。
「なるほど。参考になった」
「それとこの子はなるべく早く、必ず天に返さねばなりません。ただ、この世を去る前に穂木になるかけらをほんの少しだけ分けてもらえるよう説得してください」
「む…。なかなか難しいことを言いよるのう」
「自由奔放な、土の精霊の要素を残したゴーレムを造ってくだされば、私がここで育てます。息子たちにも手伝わせますから大丈夫です。お任せください」
「あいわかった。早急に手配する」
「よろしくお願いいたします」
リリアナはもう一度。
目を閉じて手の中の土の精霊に頬を寄せた。
「優しくて可愛らしい貴方が大好きで、訪れを楽しみにしていたわ。『す』さん。今までありがとう。お元気で」
ほわり、と頬に温かさを感じた気がした。
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