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彼らの認識
しおりを挟む「混乱しているようだから、今一度、簡潔に言おう。これから二年間、ヘレナ様及び別邸に関わる全てにゴドリー伯爵家の使用人が関心を持ち悪意を抱くことを禁じる。そして、これは王命であり特別な任務ゆえに、外部への口外を固く禁じる。この件について納得いかない場合は、ウィリアム・コール、ヴァン・クラーク、ライアン・ホランドのいずれかに相談すること」
ウィリアムの発言が終わると、ライアンが台帳を掲げて前に出た。
「とりあえず、今、この話を聞いた使用人の名前の確認を行う。手前の者から一人ずつここのテーブルで署名をしてもらう」
さらにリド・ハーンは使用人たちが携帯する手帳ほどの小さな紙とペンをそれぞれ両手に持ち示す。
「一人につきこの用紙一枚の真ん中に『話を聞きました』と書いて下の方に自分の名前を署名してくださいね。ペンとインクはこちらにあります」
「これは、この通達を聞き漏らした者がいないかの確認のための作業だ。署名を終えた者から仕事に戻ってくれ。署名の提出がない場合は個別に呼び出す。では、そこの侍従たちから始めよう」
ヴァンは近くにいた侍従たちに手招きすると、彼らはおどおどと階段を上がった。
踊り場にはサイドテーブルの正面にスカーレット・ラザノが守護神のように腕組みして仁王立ちしており、そしてほんわかとほほ笑むリド・ハーンと静かに佇むウィリアム・コールが両脇を固める。
号令をかけるのはヴァン・クラークで、雇用台帳で本人確認をした上で書き方の指導をするのはライアン・ホランド。
署名しない限りこの場から離れられないことを理解した人々は、粛々と列に並んだ。
ようやく解放され、持ち場へと戻る使用人たちは廊下を歩きながら口を開いた。
「なあ、タピスリーってさあ…」
「だよなあ、機織りなんてさ、辺境とかの学のないやつらが食い扶持稼ぐためにやる仕事だろ」
彼らは都市暮らしで、機織りなど関わりがない。
「あ、私、王宮務めの人から聞いたことがあるの。王妃様が行き場のない年寄りとか使えない侍女に情けをかけて、機織りさせている建物があるとか…」
「なんだよ、やっぱりそういうことかよ」
「貧乏で貧相なガキがどう取り入ったか知らないけど…」
この会話はまたたくまに広がった。
使用人たちが玄関ホールに集められている頃、リチャードは夫婦の寝室のソファでコンスタンスを説得していた。
「これは、王妃陛下直々の依頼だ。理解してくれ、コンスタンス」
リチャードの物言いに、コンスタンスはわずかに片眉を上げる。
「…母親が、王妃様と顔見知りだったという事で、仕事が来たというわけなの?」
「ああ、そうだ。先日のお茶会の時に彼女の母親が製作したタピスリーが飾られていたのをみたが、見事な作品だった」
先日のお茶会。
コンスタンスは阻害され、ゴドリー侯爵夫妻、ヘレナ、そして彼女の親類が王妃と親睦を深めたという、あの。
偽装結婚のために買いたたかれた小娘が、王宮の最奥で正妻ぶってすまし顔をしたと思うだけでもはらわたが煮えくり返る。
舌打ちしたいのをこらえ、萎れたようにうつむき弱々しく反駁した。
「母親が名手だったからと言ってそうとは限らないじゃない…」
「ああ。それは本人もそう王妃陛下に訴えた。だから、まずは小規模な作品を作り、それの出来栄えで今後の予定も変わるかもしれない」
出来栄え次第。
なら、失敗したら?
どうなるのだろう。
「そうなのね…。素敵な作品が出来るといいわね、王命で、嫁入り道具だなんて、ゴドリー家の誉れですもの」
「コニーなら解ってくれると思っていたよ」
リチャードの腕の中で、青い瞳は暗く瞬いた。
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