147 / 332
黒い瞳に映るのは
しおりを挟む
「それから。ベージル・ヒルは俺たち近衛がもらう。……というか、もらったから」
そう告げるなりモルダーは胸元から書類を一枚出して、リチャードへ見せた。
「……どういうことだ」
近衛騎士団の入団申請。
ベージル・ヒルの直筆の署名がはっきりと記されていた。
「さっき、サインさせた。俺としては念願かなって感無量だよ」
見せ終わると、さっさと畳んで仕舞った。
「リチャード・ゴドリーがどのような理由で解雇しようがしまいが、こちらとしては問題ない。兄弟剣を授けた時から王妃様はヒルを近衛に欲しがっていたのはお前も知っているだろう。俺がこの狩猟会に参加したのは、あいつを口説くよう指示されていたからだ。でないと来るかこんなとこ」
鴉の頭頂部を指でかきながら、めんどくさげに吐き捨てる。
「俺、十五で帝都へ出てからずっとアビゲイルの女房に狙われているんだよ。おかげでここでは自分で汲んできた井戸水以外怖くて飲めなくて。初日に食事を部屋に運ばせてイズーの鑑定にかけると全部盛られていて、義妹も俺も食べられるものがなかった時には爆笑したよ。すぐに義妹が侍女頭と関わった侍女呼んでがんがん食わせて、次に食事に細工したらアビゲイルを全力で潰すって脅したら食事に関しては普通になった」
宴会や茶会など人目の多い場で、給仕が媚薬入りの飲み物を何かと押し付けてくることに関しては放っておいた。
指示系統が別なのではないかと義妹は推測したからだ。
少しは泳がせておかないと、次にどんな手を打ってくるかわからないからだ。
「でさ。この流れで言うけれど、お前も盛られているよな。『彼女』に」
両手でイズーを撫でさすりながらモルダーは強い視線をリチャードへ投げかけた。
「俺に『処方』されてからの今、だるさも眠気も何もなく、思考能力も割と回復しているよな? 完全だとは言えないけど。物証がないから確定はできないけれど、少なくとも今日は、強制的に『眠らされていた』。ヒルの処分が変わらぬようにな」
「…………」
昨夜。
リチャードは解雇を口にして部屋に戻ってすぐに、後悔していた。
ヒルとノーザンの発言の検証も行っていない。
実際、探しに行ったという侍女のドナはいまだに行方不明のまま。
公平性を欠いているのは明らかだ。
ヒルはあの時言った。
『私は確かに、酒に酔って前後不覚になり、奥様に対して不埒な真似を行ってしまった過去があります。しかし、それは決して今夜ではない』
コンスタンスをヒルが。
そう思っただけで頭に血が上った。
しかし。
『あれは、植民地を離任して帰国の途へ就く直前の休日でした』
めったに休みを取らなかったヒルが、帰国準備の慌ただしいなか、申し訳なさそうに休んだ日のことは覚えている。
あれは。
ヒルの母親と妹の命日だった。
それに気づいたときは頭を殴られたような衝撃を受けた。
だからと言って、コンスタンスに関係を強いたのは許されることではない。
しかし、彼がそのような行為に及んでしまった原因は自分に行きつく。
どうしたら良いのか考えがまとまらなかった。
何かがおかしい。
噛み合わない。
正直、自分に縋り付いて泣くコンスタンスを慰めている最中、気もそぞろだった。
朝になったら。
話を聞こう。
そして、ベージル・ヒルにとって最善の道を考えるべきだ。
そう思っていたのに。
「……起きられなかったのは……」
否定したい。
憶測にすぎないと。
しかし、いくらなんでも不自然過ぎることは、自らの身体が証明していた。
「コンスタンスに言っておけ。『今日の薬は身体に合わない。副作用がひどく悪夢ばかり見る上に疲労がたまりすぎるから別の物にしてくれ』と」
「そんなこと……」
言えるはずがない。
「なら、好きにするがいい。お前の人生だ。だが、ヒルを巻き込むな。あの女はアビゲイル伯爵の女房と同族だ。手に入らないと気づいたものは片っ端から壊す。他人が手に入れると腹が立つんだろう、ヒルが嵌められた理由はそれしかない」
「…………嵌められた」
投影画像が頭の中を駆け巡る。
潔白は間違いない。
それでも、コンスタンスとノーザンは言い張った。
「たとえ、冤罪だったから処分はなしだとしても、お前の女は次の手を打つ。今度は間違いなく殺されるだろうな。俺とヒルに媚薬を飲ませようと躍起になった給仕みたいに」
モルダーの言葉に、リチャードはアクアマリンの瞳を見開いた。
「…………え? 殺された? いったい誰が」
普段は後ろに流しているプラチナブロンドの髪が頬にぱらりと落ちる。
「……アビゲイルの給仕長、カルロスです」
それまで二人の会話を見守り続けていたホランドが口を開いた。
「今朝、捕らえられているヒルに俺は会いに行きました。その時、別れ際に教えてくれたのです。昨夜コンスタンス様の側仕えをしていながら行方不明になったドナは男に襲われ、そいつは最中に急死したと。それ以上聞き出す暇はありませんでしたが、アビゲイルの使用人を探ったところ、コンスタンス様がヒルとドナと三人で宴会場を退出したあたりから行方知れずだと」
暖炉の火に照らされる瞳を瞬かせながら、ホランドは続けた。
「そこから考えられるのは、ドナは報酬だったということです」
何の、とは今更言う必要はない。
さすがのリチャードも問うことはなかった。
「しかし、彼女は抵抗して……。おそらく、閃光弾をヒルがあらかじめドナに渡していた。それを作動させたから、ヒルはドナの居場所へ向かった。ところが行ってみると男は死んでいた。だから、ヒルはドナと死体を隠すためにそこをすぐに出て、およそ三時間戻らなかった」
「……やるねえ」
モルダーの賛辞が何に対してなのかはわからない。
とにかく、話の辻褄は合う。
……合ってしまった。
「そういう、ことか……」
両手を額に当ててリチャードは呻いた。
「それでも、お前は、まだ……」
「ああ。それでも、だ。すまない。すぐには、無理だ……」
自分でもわからない。
でも、手放す気になれなかった。
断罪すべきと解っていても。
「なら、ヒルを王宮が保護するのに異存はないな?」
近衛騎士は基本的に王宮内勤務。
そしてそこは、他国の男爵の養女という肩書を金で手に入れたコンスタンスには、決して入ることが許されない場所だった。
とりあえずは安全な場所だろう。
「…………。すまない。頼む」
リチャードは、モルダーに頭を深く下げた。
「ベージル・ヒルを、護ってくれ」
今更、彼に謝ることなどできない。
コンスタンスと別れられないなら尚更。
「了解した」
顔を上げると、鴉が自分を覗き込んでいることに気付く。
真っ黒な瞳に、やつれ果てた哀れな男の姿が映っていた。
「これが、俺か……」
虚しい思いだけが、胸に広がった。
そう告げるなりモルダーは胸元から書類を一枚出して、リチャードへ見せた。
「……どういうことだ」
近衛騎士団の入団申請。
ベージル・ヒルの直筆の署名がはっきりと記されていた。
「さっき、サインさせた。俺としては念願かなって感無量だよ」
見せ終わると、さっさと畳んで仕舞った。
「リチャード・ゴドリーがどのような理由で解雇しようがしまいが、こちらとしては問題ない。兄弟剣を授けた時から王妃様はヒルを近衛に欲しがっていたのはお前も知っているだろう。俺がこの狩猟会に参加したのは、あいつを口説くよう指示されていたからだ。でないと来るかこんなとこ」
鴉の頭頂部を指でかきながら、めんどくさげに吐き捨てる。
「俺、十五で帝都へ出てからずっとアビゲイルの女房に狙われているんだよ。おかげでここでは自分で汲んできた井戸水以外怖くて飲めなくて。初日に食事を部屋に運ばせてイズーの鑑定にかけると全部盛られていて、義妹も俺も食べられるものがなかった時には爆笑したよ。すぐに義妹が侍女頭と関わった侍女呼んでがんがん食わせて、次に食事に細工したらアビゲイルを全力で潰すって脅したら食事に関しては普通になった」
宴会や茶会など人目の多い場で、給仕が媚薬入りの飲み物を何かと押し付けてくることに関しては放っておいた。
指示系統が別なのではないかと義妹は推測したからだ。
少しは泳がせておかないと、次にどんな手を打ってくるかわからないからだ。
「でさ。この流れで言うけれど、お前も盛られているよな。『彼女』に」
両手でイズーを撫でさすりながらモルダーは強い視線をリチャードへ投げかけた。
「俺に『処方』されてからの今、だるさも眠気も何もなく、思考能力も割と回復しているよな? 完全だとは言えないけど。物証がないから確定はできないけれど、少なくとも今日は、強制的に『眠らされていた』。ヒルの処分が変わらぬようにな」
「…………」
昨夜。
リチャードは解雇を口にして部屋に戻ってすぐに、後悔していた。
ヒルとノーザンの発言の検証も行っていない。
実際、探しに行ったという侍女のドナはいまだに行方不明のまま。
公平性を欠いているのは明らかだ。
ヒルはあの時言った。
『私は確かに、酒に酔って前後不覚になり、奥様に対して不埒な真似を行ってしまった過去があります。しかし、それは決して今夜ではない』
コンスタンスをヒルが。
そう思っただけで頭に血が上った。
しかし。
『あれは、植民地を離任して帰国の途へ就く直前の休日でした』
めったに休みを取らなかったヒルが、帰国準備の慌ただしいなか、申し訳なさそうに休んだ日のことは覚えている。
あれは。
ヒルの母親と妹の命日だった。
それに気づいたときは頭を殴られたような衝撃を受けた。
だからと言って、コンスタンスに関係を強いたのは許されることではない。
しかし、彼がそのような行為に及んでしまった原因は自分に行きつく。
どうしたら良いのか考えがまとまらなかった。
何かがおかしい。
噛み合わない。
正直、自分に縋り付いて泣くコンスタンスを慰めている最中、気もそぞろだった。
朝になったら。
話を聞こう。
そして、ベージル・ヒルにとって最善の道を考えるべきだ。
そう思っていたのに。
「……起きられなかったのは……」
否定したい。
憶測にすぎないと。
しかし、いくらなんでも不自然過ぎることは、自らの身体が証明していた。
「コンスタンスに言っておけ。『今日の薬は身体に合わない。副作用がひどく悪夢ばかり見る上に疲労がたまりすぎるから別の物にしてくれ』と」
「そんなこと……」
言えるはずがない。
「なら、好きにするがいい。お前の人生だ。だが、ヒルを巻き込むな。あの女はアビゲイル伯爵の女房と同族だ。手に入らないと気づいたものは片っ端から壊す。他人が手に入れると腹が立つんだろう、ヒルが嵌められた理由はそれしかない」
「…………嵌められた」
投影画像が頭の中を駆け巡る。
潔白は間違いない。
それでも、コンスタンスとノーザンは言い張った。
「たとえ、冤罪だったから処分はなしだとしても、お前の女は次の手を打つ。今度は間違いなく殺されるだろうな。俺とヒルに媚薬を飲ませようと躍起になった給仕みたいに」
モルダーの言葉に、リチャードはアクアマリンの瞳を見開いた。
「…………え? 殺された? いったい誰が」
普段は後ろに流しているプラチナブロンドの髪が頬にぱらりと落ちる。
「……アビゲイルの給仕長、カルロスです」
それまで二人の会話を見守り続けていたホランドが口を開いた。
「今朝、捕らえられているヒルに俺は会いに行きました。その時、別れ際に教えてくれたのです。昨夜コンスタンス様の側仕えをしていながら行方不明になったドナは男に襲われ、そいつは最中に急死したと。それ以上聞き出す暇はありませんでしたが、アビゲイルの使用人を探ったところ、コンスタンス様がヒルとドナと三人で宴会場を退出したあたりから行方知れずだと」
暖炉の火に照らされる瞳を瞬かせながら、ホランドは続けた。
「そこから考えられるのは、ドナは報酬だったということです」
何の、とは今更言う必要はない。
さすがのリチャードも問うことはなかった。
「しかし、彼女は抵抗して……。おそらく、閃光弾をヒルがあらかじめドナに渡していた。それを作動させたから、ヒルはドナの居場所へ向かった。ところが行ってみると男は死んでいた。だから、ヒルはドナと死体を隠すためにそこをすぐに出て、およそ三時間戻らなかった」
「……やるねえ」
モルダーの賛辞が何に対してなのかはわからない。
とにかく、話の辻褄は合う。
……合ってしまった。
「そういう、ことか……」
両手を額に当ててリチャードは呻いた。
「それでも、お前は、まだ……」
「ああ。それでも、だ。すまない。すぐには、無理だ……」
自分でもわからない。
でも、手放す気になれなかった。
断罪すべきと解っていても。
「なら、ヒルを王宮が保護するのに異存はないな?」
近衛騎士は基本的に王宮内勤務。
そしてそこは、他国の男爵の養女という肩書を金で手に入れたコンスタンスには、決して入ることが許されない場所だった。
とりあえずは安全な場所だろう。
「…………。すまない。頼む」
リチャードは、モルダーに頭を深く下げた。
「ベージル・ヒルを、護ってくれ」
今更、彼に謝ることなどできない。
コンスタンスと別れられないなら尚更。
「了解した」
顔を上げると、鴉が自分を覗き込んでいることに気付く。
真っ黒な瞳に、やつれ果てた哀れな男の姿が映っていた。
「これが、俺か……」
虚しい思いだけが、胸に広がった。
46
お気に入りに追加
470
あなたにおすすめの小説

もう長くは生きられないので好きに行動したら、大好きな公爵令息に溺愛されました
Karamimi
恋愛
伯爵令嬢のユリアは、8歳の時に両親を亡くして以降、叔父に引き取られたものの、厄介者として虐げられて生きてきた。さらにこの世界では命を削る魔法と言われている、治癒魔法も長年強要され続けてきた。
そのせいで体はボロボロ、髪も真っ白になり、老婆の様な見た目になってしまったユリア。家の外にも出してもらえず、メイド以下の生活を強いられてきた。まさに、この世の地獄を味わっているユリアだが、“どんな時でも笑顔を忘れないで”という亡き母の言葉を胸に、どんなに辛くても笑顔を絶やすことはない。
そんな辛い生活の中、15歳になったユリアは貴族学院に入学する日を心待ちにしていた。なぜなら、昔自分を助けてくれた公爵令息、ブラックに会えるからだ。
「どうせもう私は長くは生きられない。それなら、ブラック様との思い出を作りたい」
そんな思いで、意気揚々と貴族学院の入学式に向かったユリア。そこで久しぶりに、ブラックとの再会を果たした。相変わらず自分に優しくしてくれるブラックに、ユリアはどんどん惹かれていく。
かつての友人達とも再開し、楽しい学院生活をスタートさせたかのように見えたのだが…
※虐げられてきたユリアが、幸せを掴むまでのお話しです。
ザ・王道シンデレラストーリーが書きたくて書いてみました。
よろしくお願いしますm(__)m

公爵夫人アリアの華麗なるダブルワーク〜秘密の隠し部屋からお届けいたします〜
白猫
恋愛
主人公アリアとディカルト公爵家の当主であるルドルフは、政略結婚により結ばれた典型的な貴族の夫婦だった。 がしかし、5年ぶりに戦地から戻ったルドルフは敗戦国である隣国の平民イザベラを連れ帰る。城に戻ったルドルフからは目すら合わせてもらえないまま、本邸と別邸にわかれた別居生活が始まる。愛人なのかすら教えてもらえない女性の存在、そのイザベラから無駄に意識されるうちに、アリアは面倒臭さに頭を抱えるようになる。ある日、侍女から語られたイザベラに関する「推測」をきっかけに物語は大きく動き出す。 暗闇しかないトンネルのような現状から抜け出すには、ルドルフと離婚し公爵令嬢に戻るしかないと思っていたアリアだが、その「推測」にひと握りの可能性を見出したのだ。そして公爵邸にいながら自分を磨き、リスキリングに挑戦する。とにかく今あるものを使って、できるだけ抵抗しよう!そんなアリアを待っていたのは、思わぬ新しい人生と想像を上回る幸福であった。公爵夫人の反撃と挑戦の狼煙、いまここに高く打ち上げます!
➡️登場人物、国、背景など全て架空の100%フィクションです。

子供が可愛いすぎて伯爵様の溺愛に気づきません!
屋月 トム伽
恋愛
私と婚約をすれば、真実の愛に出会える。
そのせいで、私はラッキージンクスの令嬢だと呼ばれていた。そんな噂のせいで、何度も婚約破棄をされた。
そして、9回目の婚約中に、私は夜会で襲われてふしだらな令嬢という二つ名までついてしまった。
ふしだらな令嬢に、もう婚約の申し込みなど来ないだろうと思っていれば、お父様が氷の伯爵様と有名なリクハルド・マクシミリアン伯爵様に婚約を申し込み、邸を売って海外に行ってしまう。
突然の婚約の申し込みに断られるかと思えば、リクハルド様は婚約を受け入れてくれた。婚約初日から、マクシミリアン伯爵邸で住み始めることになるが、彼は未婚のままで子供がいた。
リクハルド様に似ても似つかない子供。
そうして、マクリミリアン伯爵家での生活が幕を開けた。

偉物騎士様の裏の顔~告白を断ったらムカつく程に執着されたので、徹底的に拒絶した結果~
甘寧
恋愛
「結婚を前提にお付き合いを─」
「全力でお断りします」
主人公であるティナは、園遊会と言う公の場で色気と魅了が服を着ていると言われるユリウスに告白される。
だが、それは罰ゲームで言わされていると言うことを知っているティナは即答で断りを入れた。
…それがよくなかった。プライドを傷けられたユリウスはティナに執着するようになる。そうティナは解釈していたが、ユリウスの本心は違う様で…
一方、ユリウスに関心を持たれたティナの事を面白くないと思う令嬢がいるのも必然。
令嬢達からの嫌がらせと、ユリウスの病的までの執着から逃げる日々だったが……
婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪
naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。
「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」
まっ、いいかっ!
持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!
傾国の美兄が攫われまして。
犬飼春野
恋愛
のどかな春の日差しがゆるゆるとふりそそぐなか、
王宮の一角にある庭園ではいくつものテーブルと椅子が据えられ、
思い思いの席に座る貴族の女性たちの上品な話声がゆったりと流れていた。
そんななか、ひときわきりりとした空気をまとった令嬢がひとり、物憂げなため息をついていた。
彼女の名はヴァレンシア。
辺境伯の娘で。
三歳上の兄がひとりいる。
彼は『傾国の』が冠される美青年だった。
美女と見紛う中性的な美貌の兄と
美青年と見紛う中性的な風貌の妹。
クエスタ辺境伯の兄妹を取り巻く騒動と恋愛模様をお届けします。
※ 一年くらい前に思いついた設定を発掘し練り直しておりますが。
安定の見切り発車です。
気分転換に書きます。
※ 他サイトにも掲載しております。

十三月の離宮に皇帝はお出ましにならない~自給自足したいだけの幻獣姫、その寵愛は予定外です~
氷雨そら
恋愛
幻獣を召喚する力を持つソリアは三国に囲まれた小国の王女。母が遠い異国の踊り子だったために、虐げられて王女でありながら自給自足、草を食んで暮らす生活をしていた。
しかし、帝国の侵略により国が滅びた日、目の前に現れた白い豹とソリアが呼び出した幻獣である白い猫に導かれ、意図せず帝国の皇帝を助けることに。
死罪を免れたソリアは、自由に生きることを許されたはずだった。
しかし、後見人として皇帝をその地位に就けた重臣がソリアを荒れ果てた十三月の離宮に入れてしまう。
「ここで、皇帝の寵愛を受けるのだ。そうすれば、誰もがうらやむ地位と幸せを手に入れられるだろう」
「わー! お庭が広くて最高の環境です! 野菜植え放題!」
「ん……? 連れてくる姫を間違えたか?」
元来の呑気でたくましい性格により、ソリアは荒れ果てた十三月の離宮で健気に生きていく。
そんなある日、閉鎖されたはずの離宮で暮らす姫に興味を引かれた皇帝が訪ねてくる。
「あの、むさ苦しい場所にようこそ?」
「むさ苦しいとは……。この離宮も、城の一部なのだが?」
これは、天然、お人好し、そしてたくましい、自己肯定感低めの姫が、皇帝の寵愛を得て帝国で予定外に成り上がってしまう物語。
小説家になろうにも投稿しています。
3月3日HOTランキング女性向け1位。
ご覧いただきありがとうございました。

夫の隠し子を見付けたので、溺愛してみた。
辺野夏子
恋愛
セファイア王国王女アリエノールは八歳の時、王命を受けエメレット伯爵家に嫁いだ。それから十年、ずっと仮面夫婦のままだ。アリエノールは先天性の病のため、残りの寿命はあとわずか。日々を穏やかに過ごしているけれど、このままでは生きた証がないまま短い命を散らしてしまう。そんなある日、アリエノールの元に一人の子供が現れた。夫であるカシウスに生き写しな見た目の子供は「この家の子供になりにきた」と宣言する。これは夫の隠し子に間違いないと、アリエノールは継母としてその子を育てることにするのだが……堅物で不器用な夫と、余命わずかで卑屈になっていた妻がお互いの真実に気が付くまでの話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる