上 下
37 / 40

魔導師と魔道具師はひたすら深い溝を掘る

しおりを挟む
 ところでオーロラの寝室で三姉妹パジャマパーティが開催できたのは、もちろんフェイを崇拝…いや溺愛する魔道具師たちの尽力によるものだ。

 続き部屋にもともと据え付けられていたワードローブ、ようは大きな洋服箪笥の中を改造し、転移魔法陣を刻み込み、フェイとミシェルが外へ出ることなく気軽にオーロラと会えるようにした。
 もちろん逆も可能で、オーロラはワードローブの扉を開けて中に入り行き先を念じて扉を開けるだけで、魔道具師ギルドのフェイかライト男爵家のミシェルのワードローブから登場できる。

 この発明の元ネタはフェイとミシェルで小学生の頃に図書館で読んだイギリスのファンタジーの一場面で、思いっきりパクリだそうだ。

 とにかく、どれも敷地及び建物の奥で行われる魔術ゆえにオーロラの周辺に張り巡らされている監視の目をかいくぐることができ、情報交換など可能になった。


「そういや、この間の会談どうなったの」

「あーあれね。ますます深い溝が刻まれて、もう修復不可能じゃね? って感じ」

 フェイはポテトチップスをぱりぱりと嚙みながら首をすくめた。
 番茶を飲むオーロラとミシェルは顔を見合わせる。

「なんて表現すればいいかなあ、前世のホワイトカラー対ブルーカラー的なヤツ? 魔導師と魔道具師ってさ…」

「なるほど」

 この世界で魔導師は花形職業の一つだ。
 多大な魔力を持ち、それを使いこなせるだけではなく、魔物を撃退する姿は子どもたちの憧れで、魔導師、騎士、聖騎士たちの姿を見かけると人々は賞賛のまなざしを送る。

 それに対し、同じく魔力を持ち使いこなしているにもかかわらず、道具作りを主としている魔道具師はなぜか一段下の存在として扱われる。
 貴族から庶民まで生活に根ざした製品を提供しているにもかかわらず、いささか地味な立場にいるのが魔道具師だ。

「あ、陽キャと陰キャ的な?」

「それをあんたが言うの、フェイ…」

 単純に、花形職業の方に貴族だの血統の良い人々が多くコネだの資金力もあるせいで制服も派手で高級な素材が使われているせいではないかと、ミシェルは内心思っている。

 魔道具師たちが揃いの服を着るのは営業または会議で魔導師と殴り合いをするときぐらいだろうか。
 その殴り合いな会議は国の取り決めで一月に一度、行われる。
 情報交換と連携のためだが、なんせ。

「魔導師の奴らがマウントとるばっかで、会議になりゃしねえ」

 つまりは、せっせと深い穴を掘り続けているらしい。
 フェイの立案で作られた便利魔道具の報告しようとしたが、けんもほろろで、爺馬鹿もたいがいにしろと聞く耳を持たず、魔道具師たちはテーブルの下で呪陣を開きかけたとか。

「あ、そうそう。逆ハーの魔導師いたよ。急に声かけられたけど、ほんっといけすかねえヤツでさあ」

「魔導師? ええと…名前なんだったっけ」

 ゲームを少し見ただけのオーロラにとって、五人の男の記憶はイベント成功時の静止画のみ。ぎりぎりで袖口に金糸の刺繍をほどこされた白いローブ姿の茶髪のちょっと弟キャラだったという印象だけはなんとか掘り出せた。

「ラース。リンジ―伯爵の次男坊なんだけど、多分アイツ、ねえちゃんを弱らせるしかけに絡んでる」

「え?」

「だって、いつもならあたしのことそのへんの石ころみたいに無視してたくせに、今になってわざわざ近寄って話しかけてきたんだもん。なんかそれってさ、殺人犯が人だかりの現場に様子見に来るのにそっくりじゃん」






 魔道具師ギルド長である祖父はいつも会議にフェイを伴って出席するが、魔導師たちに却下され、騎士から転向した魔道具師を護衛がわりに建物のどこかで待つ様式美を繰り返している。

 先日は天気が良かったので庭園を散歩していると、薔薇の垣根からいきなりラースが登場した。

「ねえ、ギルド長が溺愛している孫って、君?」

 べっこう飴のような髪にエメラルドのキラキラした瞳と薔薇色にうっすら染まった頬と形の良い唇。さらに透明な甘い声で話しかけられたとくれば、普通の少女なら頬を染めただただ見とれるばかりだろうが、フェイは残念ながら違う。

「そうだけど、あんただれ」

 無敵の八歳は上段の構えで応じた。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

番だからと攫っておいて、番だと認めないと言われても。

七辻ゆゆ
ファンタジー
特に同情できないので、ルナは手段を選ばず帰国をめざすことにした。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

屋台飯! いらない子認定されたので、旅に出たいと思います。

彩世幻夜
ファンタジー
母が死にました。 父が連れてきた継母と異母弟に家を追い出されました。 わー、凄いテンプレ展開ですね! ふふふ、私はこの時を待っていた! いざ行かん、正義の旅へ! え? 魔王? 知りませんよ、私は勇者でも聖女でも賢者でもありませんから。 でも……美味しいは正義、ですよね? 2021/02/19 第一部完結 2021/02/21 第二部連載開始 2021/05/05 第二部完結

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

彼を追いかける事に疲れたので、諦める事にしました

Karamimi
恋愛
貴族学院2年、伯爵令嬢のアンリには、大好きな人がいる。それは1学年上の侯爵令息、エディソン様だ。そんな彼に振り向いて欲しくて、必死に努力してきたけれど、一向に振り向いてくれない。 どれどころか、最近では迷惑そうにあしらわれる始末。さらに同じ侯爵令嬢、ネリア様との婚約も、近々結ぶとの噂も… これはもうダメね、ここらが潮時なのかもしれない… そんな思いから彼を諦める事を決意したのだが… 5万文字ちょっとの短めのお話で、テンポも早めです。 よろしくお願いしますm(__)m

一家処刑?!まっぴらごめんですわ!!~悪役令嬢(予定)の娘といじわる(予定)な継母と馬鹿(現在進行形)な夫

むぎてん
ファンタジー
夫が隠し子のチェルシーを引き取った日。「お花畑のチェルシー」という前世で読んだ小説の中に転生していると気付いた妻マーサ。 この物語、主人公のチェルシーは悪役令嬢だ。 最後は華麗な「ざまあ」の末に一家全員の処刑で幕を閉じるバッドエンド‥‥‥なんて、まっぴら御免ですわ!絶対に阻止して幸せになって見せましょう!! 悪役令嬢(予定)の娘と、意地悪(予定)な継母と、馬鹿(現在進行形)な夫。3人の登場人物がそれぞれの愛の形、家族の形を確認し幸せになるお話です。

【完結】わたしはお飾りの妻らしい。  〜16歳で継母になりました〜

たろ
恋愛
結婚して半年。 わたしはこの家には必要がない。 政略結婚。 愛は何処にもない。 要らないわたしを家から追い出したくて無理矢理結婚させたお義母様。 お義母様のご機嫌を悪くさせたくなくて、わたしを嫁に出したお父様。 とりあえず「嫁」という立場が欲しかった旦那様。 そうしてわたしは旦那様の「嫁」になった。 旦那様には愛する人がいる。 わたしはお飾りの妻。 せっかくのんびり暮らすのだから、好きなことだけさせてもらいますね。

処理中です...