出遅れた転生ヒロインは恋を蹴散らす

犬飼春野

文字の大きさ
上 下
20 / 40

まさかのダウジング

しおりを挟む

「確かに……。これは胃袋を掴まれるでしょうな」

 食後の紅茶と果物を出すと、上品に口元を拭いながら魔道具師ギルド長フランコはゆっくりと言葉を紡ぐ。

「ありがとうございます。公爵令嬢が他に何を振舞ったかは定かでありませんが、今日のようにどちらかというと若い男性向けの、しっかりお腹にたまる料理ではないかと思います」

 フェイの駄々は、オーロラが隣に座って次々と給餌してやると次第に落ち着いた。
 先ほどの暴れん坊ぶりはお腹が空いていたせいなのかもしれない。
 そう思うことにした。

「そういや、スズねえ。今日飛んできて思ったけど、この屋敷なんか妙だね」

 うさぎ型に切った林檎をデザートフォークに刺してぱくりとかぶりつき、小さな口でもぐもぐしている姿は…。
 とてもとても可愛らしい前世の妹。

「ほっぺたがリスみたいになってる…。そういや、めるるもこうだった…」

 末っ子ゆえに溺愛していた芽瑠の幼いころを思い出して内心ちょっといやかなり悶え、我に返ったオーロラは慌てて両手を胸に当ててゆっくりと深呼吸をした。

「お嬢様? もしかして、また体調が悪くなったのですか?」

 ナンシーが慌てて駆け寄ろうとするのを首を振って制す。

「ううん。違うの。紛らわしくてごめんなさい。ここのところ体調が悪いと感じたことはないわ」

 そんな主従の会話にフェイとフランコは険しい表情で顔を見合わせた。

「ねえ、『また』ってことは、どこか身体が悪いの? 病気?」

「ああ、ううん…。はっきり病名が付く病気には罹っていなかったと思うのだけど…。頭痛とか眩暈とか吐き気とか毎日何かしら不調で、何も症状がない日でも逆にいつ具合悪くなるかと怖くて、家の外へはあまり出ていなかったわね」

 それは就学年齢に達したらますますひどくなった。
 体調の良い日に少しだけ街に出てみるとやはり頭痛がひどくなりすぐに引き返してしまうため、次第に出かけたいとも思わなくなっていく。

「うーん。初めて会った時になんか変な人だなと思ったんだけど、それは転生者特有の何かかなと結論付けていたんだよね。これは早計だったかもね、じいさま」

「うむ。私たちはあくまでも魔道具師だから、その辺の感応力や知識がない故かと思いましたが…。嫌な波動を感じます」

「え…?」

「この屋敷…、いや、敷地内に。なにか仕掛けられているかもしれませんな」

 オーロラとその場にいた使用人たち全員は驚き、青ざめた。

「仕掛けられている? それは、どうすれば良いのでしょうか」

 ロバートが一歩進み出てすがるように尋ねると、フランコは深くうなずき孫へ視線をやる。

「フェイ。あれを…。今持っているか?」

「もちろんだよ、じいさま」

 フェイは先日の便利ポーチに手を突っ込んでごそごそと掻きまわしたのち、にゅっと針金を出した。

「じゃん。探査棒でぇーす」

 現れたのはL字型に曲げられた二本の針金で、一本ずつ短い部分をそれぞれの手に持ち、びしっと前に出してフェイはポーズをキメた。

「それって…。もしかしなくても…」

 現世で怪しげなネタとして見たことがある。
 確か、水脈か鉱脈を見つける装置?
 いや、ツチノコだったか?

「ねえちゃん、ツチノコ違う」

 ああ、心の声が漏れてしまったらしい。

「……ダウジング棒とかいうのだよね、それ」

「うん。面白いから、これでセンサー作っちゃった。やっぱね。こっちの世界でもいるんだよ、魔道具で盗聴とか盗撮しかけたり、呪いの札貼ったりとか。だからちょっと面白半分にそういうの探す仕事始めてみたら、これがまた儲けになってさ。あ。ねえちゃんは安くしとくよ、身内値引きで」

 てへ、と可愛らしく舌を出し、針金を構えて天使が笑う。

「…それは、また…」

 色々な意味で少し気が遠くなりかけたオーロラに、魔道具師チームはやる気みなぎる様子で席を立った。

「改良を重ねて、精度はかなり上がっているし、もちろん悪いモノの回収もすぐにばれない仕掛けもとっくに製造済みだよ。いや~。あたしが早くに覚醒して良かったね、ねえちゃん」

 ぴょんぴょんとスキップしながら出口にフェイは向かう。

「さ、行くよ。時間は金なりだからね」

「ハイ、ゴアンナイシマス…」

 前世でも現世でも。
 私の妹は偉大だ。

しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

【完結】その令嬢は、鬼神と呼ばれて微笑んだ

やまぐちこはる
恋愛
マリエンザ・ムリエルガ辺境伯令嬢は王命により結ばれた婚約者ツィータードに恋い焦がれるあまり、言いたいこともろくに言えず、おどおどと顔色を伺ってしまうほど。ある時、愛してやまない婚約者が別の令嬢といる姿を見、ふたりに親密な噂があると耳にしたことで深く傷ついて領地へと逃げ戻る。しかし家族と、幼少から彼女を見守る使用人たちに迎えられ、心が落ち着いてくると本来の自分らしさを取り戻していった。それは自信に溢れ、辺境伯家ならではの強さを持つ、令嬢としては規格外の姿。 素顔のマリエンザを見たツィータードとは関係が変わっていくが、ツィータードに想いを寄せ、侯爵夫人を夢みる男爵令嬢が稚拙な策を企てる。 ※2022/3/20マリエンザの父の名を混同しており、訂正致しました。 ∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞ 本編は37話で完結、毎日8時更新です。 お楽しみいただけたらうれしいです。 よろしくお願いいたします。

なにひとつ、まちがっていない。

いぬい たすく
恋愛
若くして王となるレジナルドは従妹でもある公爵令嬢エレノーラとの婚約を解消した。 それにかわる恋人との結婚に胸を躍らせる彼には見えなかった。 ――なにもかもを間違えた。 そう後悔する自分の将来の姿が。 Q この世界の、この国の技術レベルってどのくらい?政治体制はどんな感じなの? A 作者もそこまで考えていません。  どうぞ頭のネジを二三本緩めてからお読みください。

ドアマット扱いを黙って受け入れろ?絶対嫌ですけど。

よもぎ
ファンタジー
モニカは思い出した。わたし、ネットで読んだドアマットヒロインが登場する作品のヒロインになってる。このままいくと壮絶な経験することになる…?絶対嫌だ。というわけで、回避するためにも行動することにしたのである。

絵姿

金峯蓮華
恋愛
お飾りの妻になるなんて思わなかった。貴族の娘なのだから政略結婚は仕方ないと思っていた。でも、きっと、お互いに歩み寄り、母のように幸せになれると信じていた。 それなのに……。 独自の異世界の緩いお話です。

怖いからと婚約破棄されました。後悔してももう遅い!

秋鷺 照
ファンタジー
ローゼは第3王子フレッドの幼馴染で婚約者。しかし、「怖いから」という理由で婚約破棄されてしまう。

思わず呆れる婚約破棄

志位斗 茂家波
ファンタジー
ある国のとある夜会、その場にて、その国の王子が婚約破棄を言い渡した。 だがしかし、その内容がずさんというか、あまりにもひどいというか……呆れるしかない。 余りにもひどい内容に、思わず誰もが呆れてしまうのであった。 ……ネタバレのような気がする。しかし、良い紹介分が思いつかなかった。 よくあるざまぁ系婚約破棄物ですが、第3者視点よりお送りいたします。

私は逃げます

恵葉
恋愛
ブラック企業で社畜なんてやっていたら、23歳で血反吐を吐いて、死んじゃった…と思ったら、異世界へ転生してしまったOLです。 そしてこれまたありがちな、貴族令嬢として転生してしまったのですが、運命から…ではなく、文字通り物理的に逃げます。 貴族のあれやこれやなんて、構っていられません! 今度こそ好きなように生きます!

どうぞお好きに

音無砂月
ファンタジー
公爵家に生まれたスカーレット・ミレイユ。 王命で第二王子であるセルフと婚約することになったけれど彼が商家の娘であるシャーベットを囲っているのはとても有名な話だった。そのせいか、なかなか婚約話が進まず、あまり野心のない公爵家にまで縁談話が来てしまった。

処理中です...