出遅れた転生ヒロインは恋を蹴散らす

犬飼春野

文字の大きさ
上 下
17 / 40

ローリングプレイゲーム

しおりを挟む

 途中から姉妹同士の会話に突入してしまったため、この世界の知識に合わせた説明をすると、ギルド長が顎に手を当て思案する。

「そうなりますと…。おそらくその会食に居合わせたみなさんはお亡くなりになったと言う事でしょうな」

「ええ…。多分。祖父と、美兎と宇宙と芽瑠の四人も駄目だった可能性が高いでしょうね…」

 ガスが充満する前に誰か知人が尋ねてくれたなら、阿澄以外の誰かが助かる可能性は無きにしもあらずだが、最悪の場合、母と愛人が仕込んだ発火装置が起動してガス爆発を起こしているだろう。
 田んぼの中の一軒家だったおかげで近隣住民に迷惑をかけていないだろうことだけは良かったと思う。

「でもさ。おかしくね? スズねえが覚醒したのはほんの十日ほど前で、あたしは何年も前から自分の前世が分かっていたんだよ。時間軸どうなってんのさ、これ」

「そうなんだよねえ…」

「あたしさ。エレクトラが活躍しだしてからようやくこれゲームじゃんって気が付いたけれど、なんか展開が違うし。とりあえずオーロラ見つけたら殴るかって探していたんだけど、ハート伯爵んとこにいないし、なんか逆ハーエンドっぽいのエレクトラがさらってるし。いったいどうなってんのって」

「…阿澄の殺気のせいで覚醒が遅れたとかじゃないわよね…」

 また姉妹の会話に夢中になってしまっているなか、ナンシーが待ちきれずに割って入る。

「あの~。ゲームってなんですか。それと、逆ハーエンドって。それにもしかしてエレクトラって、まさかあの、公女様の事ではないですよね?」

「ああ…それは……」

 こればっかりは告げて良いものなのだろうかとまごつくオーロラを押しのけて、フェイが前に出た。

「なら、あたしが説明した方が良いかな。スズねえは変なところで甘いし、ゲームからっきしだし」

 言うなり、フェイはローブのウエストベルトに着けている小さなポーチから、例の石板タブレットをにょきっと取り出す。

「うわ、なにそれ。すごいね」

 鈴音の記憶の中で青い猫型ロボットの便利なポケットを思い出す。

「うちで一番高い魔道具。スズねえが何を想像したかわかるよ、用途はおおむねあっているからね」

 言いながら魔道具を起動させ、テーブルに置くと、宙に光を放つ。

「まず、あたしたちの世界では色々な娯楽があって、その中の一つに想像力で遊ぶというものがあったの。ちなみに今から説明するのは『ロールプレイングゲーム』というもので、始まりはボードゲームかな。多分、戦略を練る遊びみたいな感じだったんだと思う」

 フェイが宙に向かって指を滑らすと、浮かんでいる光の中に碁盤のようなものが現れ、そこに歩兵や槍を持った騎士、馬に乗った騎士、投石機などがざっと並び、チェスの駒を並べたように向かい合う。

「単純な駒並べではなく、駒の一つ一つが『個』で、能力や信条とか色々な人格設定からこれらがどう動くか想像する遊びなんだ」

 言いながら、フェイは画像を動かす。

 個性を持った駒たちは様々な動きを始めた。
 とある場所では馬を虐げて振り落とされたり、仲間と喧嘩を始めたり。
 向き合っている軍隊が戦いを始める前にそれぞれなぜか仲違いが始まり、崩れていく。

「これは、あたしの考えた双方自滅パターン。まあ、この件はここまでにして」

 パンと両手を叩くと、駒たちは消え、本が浮かび上がり、ぱらぱらとページをめくり始める。

「ゲームのルールは色々あるけれど、あたしとスズねえが話していた『ゲーム』にはシナリオが存在していて、プレイヤー…そうだな、ゲームを行っている人? その人が、こうしてページをめくるたびに選択肢が現れ、その中の一つを選ぶと次の展開へ飛ぶしかけなんだ」

 フェイがちらりと四人を見ると、なんとオーロラですら理解が出来ていない顔をしている。

「わかりづらいみたいだから、物語でいこう。じいさまがよく読んでくれた『はいかぶり』の話を、そのゲームに例えることしようかな。本筋はちょっと置いといて、自分たちで話を作るんだ」

 この国にも、『シンデレラ』と同じ内容のおとぎ話が存在していた。
 母を亡くした美しい娘が父の再婚相手と連れ子に虐げられているなか、伴侶を公募した王子の舞踏会へ魔法使いの力を借りて紛れ込み、見事王子の心を射止める成功物語だ。

 フェイはそれを指先で文字を連ねる。

「ではいくよ。とある裕福な家で奥さんが妊娠して具合が悪そうだ。旦那さんはどうする?」

 選択肢は二つ。

『妻が「大丈夫」というのを信じて何もしない』
『すぐに医者と産婆を呼んでしっかり休ませる』

 ギルド長たちはその文章に戸惑い、顔を見合わせた。

「例えばだけどね。最初の方を選んだとするとこうなる」

 フェイが「何もしない」に触れると、本のページがめくられた。
 現れたのは、『かわいい女の子を産み、妻は力尽きて死ぬ』。

「ちなみに後者を選ぶとこうなる」

 次にフェイが見せたのは『妻は子どもを産んだ後、順調に回復し幸せな生活を送る』。

「ようするにね。ヒロインの母親が死ぬ未来と死なない未来。選択一つで変わると言うこと。それを積み重ねて物語を作る遊びなんだ」

 フェイは話しながら次々と場面を展開していく。

 先ほど『何もしない』から寡になった父親は周囲の勧めで妻を娶ることにする。その時にだれを選ぶかで家庭環境が決まり、次に仕事の内容を選択しているうちに娘を再婚相手に託して遠方に行くことになり、仕事に失敗すると家計が厳しくなり娘は唯一の召使として暖炉の灰まみれの姿となる……。

「これが、まあ王道だね。それでまた例えばの話だけど、この物語の中で誰かが前世の記憶を持っていて、『自分は、物語の中の登場人物に生まれてしまった』と気づくとする。しかも幸せな結末を迎えるヒロインではなく、ざまあ…要するに最後に虐待が発覚して王子に罰として火にくべられて真っ赤になった鉄の靴を履かされる連れ子の一人とかね。そうしたらやっばり処刑を回避するために、その可能性を潰していくよね」

 例えば、母親が未亡人にならないよう父親の死を回避するとか、はいかぶりの父親と再婚しなくて良いように何らかの手を打つだろう。
 傲慢な性格にならないよう努力をするかもしれない。

「そうすると、下手をすればはいかぶりが南瓜の馬車に乗って舞踏会へ行く物語は消滅してしまうってこと」

「……要するに、フェイ。お前たちは……」

 額に手を当ててじっと聞いていたギルド長は、ゆっくりと口を開く。

「うん。あたしたちにとって、ここは前世でやったゲーム……。物語の世界なんだ。ただし、エレクトラ・クランツ公爵令嬢がエピソードの全てを綺麗に畳んで終わらせてしまったから、これから先の未来は全く分からないから予言とかできないけれど」

 はいかぶりは王子と結婚せず。
 はいかぶりを苛めて処刑されるはずの連れ子が王子に見初められ、王妃となって幸せになる世界。

 めでたしめでたしのその先の。

 それが今この現実なのだ。


しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢の追放エンド………修道院が無いじゃない!(はっ!?ここを楽園にしましょう♪

naturalsoft
ファンタジー
シオン・アクエリアス公爵令嬢は転生者であった。そして、同じく転生者であるヒロインに負けて、北方にある辺境の国内で1番厳しいと呼ばれる修道院へ送られる事となった。 「きぃーーーー!!!!!私は負けておりませんわ!イベントの強制力に負けたのですわ!覚えてらっしゃいーーーー!!!!!」 そして、目的地まで運ばれて着いてみると……… 「はて?修道院がありませんわ?」 why!? えっ、領主が修道院や孤児院が無いのにあると言って、不正に補助金を着服しているって? どこの現代社会でもある不正をしてんのよーーーーー!!!!!! ※ジャンルをファンタジーに変更しました。

冤罪から逃れるために全てを捨てた。

四折 柊
恋愛
王太子の婚約者だったオリビアは冤罪をかけられ捕縛されそうになり全てを捨てて家族と逃げた。そして以前留学していた国の恩師を頼り、新しい名前と身分を手に入れ幸せに過ごす。1年が過ぎ今が幸せだからこそ思い出してしまう。捨ててきた国や自分を陥れた人達が今どうしているのかを。(視点が何度も変わります)

まだ20歳の未亡人なので、この後は好きに生きてもいいですか?

せいめ
恋愛
 政略結婚で愛することもなかった旦那様が魔物討伐中の事故で亡くなったのが1年前。  喪が明け、子供がいない私はこの家を出て行くことに決めました。  そんな時でした。高額報酬の良い仕事があると声を掛けて頂いたのです。  その仕事内容とは高貴な身分の方の閨指導のようでした。非常に悩みましたが、家を出るのにお金が必要な私は、その仕事を受けることに決めたのです。  閨指導って、そんなに何度も会う必要ないですよね?しかも、指導が必要には見えませんでしたが…。  でも、高額な報酬なので文句は言いませんわ。  家を出る資金を得た私は、今度こそ自由に好きなことをして生きていきたいと考えて旅立つことに決めました。  その後、新しい生活を楽しんでいる私の所に現れたのは……。    まずは亡くなったはずの旦那様との話から。      ご都合主義です。  設定は緩いです。  誤字脱字申し訳ありません。  主人公の名前を途中から間違えていました。  アメリアです。すみません。    

彼を追いかける事に疲れたので、諦める事にしました

Karamimi
恋愛
貴族学院2年、伯爵令嬢のアンリには、大好きな人がいる。それは1学年上の侯爵令息、エディソン様だ。そんな彼に振り向いて欲しくて、必死に努力してきたけれど、一向に振り向いてくれない。 どれどころか、最近では迷惑そうにあしらわれる始末。さらに同じ侯爵令嬢、ネリア様との婚約も、近々結ぶとの噂も… これはもうダメね、ここらが潮時なのかもしれない… そんな思いから彼を諦める事を決意したのだが… 5万文字ちょっとの短めのお話で、テンポも早めです。 よろしくお願いしますm(__)m

「不細工なお前とは婚約破棄したい」と言ってみたら、秒で破棄されました。

桜乃
ファンタジー
ロイ王子の婚約者は、不細工と言われているテレーゼ・ハイウォール公爵令嬢。彼女からの愛を確かめたくて、思ってもいない事を言ってしまう。 「不細工なお前とは婚約破棄したい」 この一言が重要な言葉だなんて思いもよらずに。 ※約4000文字のショートショートです。11/21に完結いたします。 ※1回の投稿文字数は少な目です。 ※前半と後半はストーリーの雰囲気が変わります。 表紙は「かんたん表紙メーカー2」にて作成いたしました。 ❇❇❇❇❇❇❇❇❇ 2024年10月追記 お読みいただき、ありがとうございます。 こちらの作品は完結しておりますが、10月20日より「番外編 バストリー・アルマンの事情」を追加投稿致しますので、一旦、表記が連載中になります。ご了承ください。 1ページの文字数は少な目です。 約4500文字程度の番外編です。 バストリー・アルマンって誰やねん……という読者様のお声が聞こえてきそう……(;´∀`) ロイ王子の側近です。(←言っちゃう作者 笑) ※番外編投稿後は完結表記に致します。再び、番外編等を投稿する際には連載表記となりますこと、ご容赦いただけますと幸いです。

思わず呆れる婚約破棄

志位斗 茂家波
ファンタジー
ある国のとある夜会、その場にて、その国の王子が婚約破棄を言い渡した。 だがしかし、その内容がずさんというか、あまりにもひどいというか……呆れるしかない。 余りにもひどい内容に、思わず誰もが呆れてしまうのであった。 ……ネタバレのような気がする。しかし、良い紹介分が思いつかなかった。 よくあるざまぁ系婚約破棄物ですが、第3者視点よりお送りいたします。

〈完結〉遅効性の毒

ごろごろみかん。
ファンタジー
「結婚されても、私は傍にいます。彼が、望むなら」 悲恋に酔う彼女に私は笑った。 そんなに私の立場が欲しいなら譲ってあげる。

愚か者の話をしよう

鈴宮(すずみや)
恋愛
 シェイマスは、婚約者であるエーファを心から愛している。けれど、控えめな性格のエーファは、聖女ミランダがシェイマスにちょっかいを掛けても、穏やかに微笑むばかり。  そんな彼女の反応に物足りなさを感じつつも、シェイマスはエーファとの幸せな未来を夢見ていた。  けれどある日、シェイマスは父親である国王から「エーファとの婚約は破棄する」と告げられて――――?

処理中です...