上 下
14 / 40

実年齢は

しおりを挟む
「はあああーーーっ? あんた、マジであの能なしクソブリくそったれクソビッチ若作りBBA・ラフレシア・心愛なわけ? そんなら、ここで会ったが百年目。覚悟しな!」

 フェイという少女は顔のところで切りそろえられた綺麗なプラチナブロンドを逆立た。

 何気に心愛のリングネームが増えている。

 ローテーブルを飛び越え、オーロラにとびかかろうとする孫娘を慌ててギルド長が羽交い絞めにする。

「ふ、フェイ! フェイ! どうした!」

「はーなーせー! このくそだらしない巨乳メスネコをぶっ殺すために、あたしはここに呼ばれたんだーっ!」

「フェイっ。頼むからやめてくれーーっ」

 ギルド長の悲鳴が虚しく響き渡る。

 老いても二メートル近い長身のギルド長に対し、その半分ほどしかない子どもは宙に浮いたままじたばたともがく。
 申し訳ないが、子猫がキイキイ鳴きながら暴れているようにしかみえず、こんな時なのに呑気に笑ってしまった。

「『ここで会ったが百年目』とか、久しぶりに聞いたな…。まるで、阿澄みたいな口調だ…な?」

 つい思ったことが口に出ていたらしい。

 鬼のような形相でビチビチ跳ねていたフェイの動きが突然止まった。

「は?」

「え?」

 お互い、マジマジと見つめ合う。


「まさかあんた…。クソビッチじゃなくて、…スズ、ねえ?」

「…もしかして、あすみ?」


 名前を言った瞬間、フェイの金色の眼からぶわっと涙があふれ出た。

「スズねえ~! なんだよ、なんで、クソビッチなんかに憑依してんだよ~」

 先ほどまでのみなぎる闘気は消滅してしゅんと萎み、手足をだらんとさせたままうぉんうぉん泣き始めた子供に、全員唖然とする。

「あ、阿澄…。あすみ、わかったから。ねえちゃんが悪かった。…あのすみません、順を追って説明しますが、とりあえずその子を離してあげてください」

「あ、はい…。承知し…」

 ギルド長がそっと床に降ろした瞬間、なんとフェイはカっと目を見開き、ぴょんと跳ねてオーロラに向かってダイブした。

「なんだよなんだよ、すずねえ~。なんだよ、このけしからんチチは~」

 号泣しながらもしっかりオーロラの胸に顔をうずめ、ぐりぐりと涙と鼻水を擦り付けている。

「あ、あの…お騒がせしてすみません。この子、なんだっけな。脳みそは私の妹です。…あ、こら、阿澄! どさくさに紛れて揉むんじゃない!」

 ギルド長とロバートとナンシーに頭を下げている最中に、オーロラはかじりついたままのフェイの頭に手刀を下ろす。

「脳みそは、妹…」

 呟くロバートの後ろで、ナンシーは恨めし気にフェイを見つめた。



「大変申し訳ありません。私たち、見た目は十六歳と八歳ですが、実際は二十六歳と二十四歳です」

 オーロラは深々と頭を下げた。

「え、そこですか?」

 ナンシーの呟きが意外と大きく響き、本人もあわあわと慌てる。

 そもそも、この応接室に五人が顔をそろえた時点でギルド長は音声遮断の装置を起動させていた。
 なので、この騒ぎが外へ漏れることはない。

「……一歳になるころからでしょうか。孫はちょっとただものではないなと思っていたのですが、そうですか。前世の記憶が…」

 ギルド長の孫のフェイは彼譲りで実年齢より体が大きく、十二歳くらいに見えるが八歳だった。

 両親はフェイが生まれる前に喧嘩別れして、父方の祖父であるギルド長が引き取り育ててきたと言う。

「私が覚醒したのは三年くらい前かな。金をせびりに来た母親に突き飛ばされて頭打ったら、なんかもうがーっと全部記憶が戻って」

 フェイの母親は堕落し、ギルドの金を持ち出そうとしたらしい。
 しかし娘を殺してしまったと思い込み一度逃げたものの翌日には自ら出頭したため、今は更生施設に入れられている。

「なんか、前世でも現世でも母親がろくでなしって、何の因果なんだろうね」

「前世でも現世でも?」

 オーロラの隣にちょこんと座り大人びた表情をみせる孫に、ギルド長は悲し気に眉を寄せた。

「実はですね。私たちの母親はあちらの世界では未成年とされる年齢でまず私を産み、次に阿澄…この子を産み、だいたい一年か二年の間隔でぼろぼろ…本当に表現は悪いのですが、どんどん、父親の違う子供を産みました。正直、何人兄弟なのか把握できません。一緒に暮らしていない子もいるので」

 母親は『モテる』ことに異常にこだわっていた。
 今思えば承認欲求なのだろう。
 そこに付け込んだ男もいれば、誠実な人なのに、彼女が飽きて捨てたこともある。

「私が十二歳のころに母が出奔しました。その時残されたのは、私、阿澄、それから三人の幼い弟妹たちで、いったん孤児院のようなところへ入れられましたが、わりとすぐに阿澄の下の妹の祖父に当たる人が名乗り出てくれ、引き取ってくれたのです」

 祖父は、鈴音たちの人生で出会った二人目の善人だ。
 しかし、彼の住まいは片田舎の兼業農家で裕福とは言えない状態だった。
 とても独りで子供五人を養育するのは無理だ。

 なので、まずは鈴音が働き始めた。
 色々と小遣い稼ぎをしているうちに行きついたのが、モデルの仕事。
 量販店のチラシから始まり、どんな小さな仕事も受けた。
 そこからなんとか生活費をねん出することができるようになったのだ。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

殿下には既に奥様がいらっしゃる様なので私は消える事にします

Karamimi
恋愛
公爵令嬢のアナスタシアは、毒を盛られて3年間眠り続けていた。そして3年後目を覚ますと、婚約者で王太子のルイスは親友のマルモットと結婚していた。さらに自分を毒殺した犯人は、家族以上に信頼していた、専属メイドのリーナだと聞かされる。 真実を知ったアナスタシアは、深いショックを受ける。追い打ちをかける様に、家族からは役立たずと罵られ、ルイスからは側室として迎える準備をしていると告げられた。 そして輿入れ前日、マルモットから恐ろしい真実を聞かされたアナスタシアは、生きる希望を失い、着の身着のまま屋敷から逃げ出したのだが… 7万文字くらいのお話です。 よろしくお願いいたしますm(__)m

番だからと攫っておいて、番だと認めないと言われても。

七辻ゆゆ
ファンタジー
特に同情できないので、ルナは手段を選ばず帰国をめざすことにした。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

【完結】言いたいことがあるなら言ってみろ、と言われたので遠慮なく言ってみた

杜野秋人
ファンタジー
社交シーズン最後の大晩餐会と舞踏会。そのさなか、第三王子が突然、婚約者である伯爵家令嬢に婚約破棄を突き付けた。 なんでも、伯爵家令嬢が婚約者の地位を笠に着て、第三王子の寵愛する子爵家令嬢を虐めていたというのだ。 婚約者は否定するも、他にも次々と証言や証人が出てきて黙り込み俯いてしまう。 勝ち誇った王子は、最後にこう宣言した。 「そなたにも言い分はあろう。私は寛大だから弁明の機会をくれてやる。言いたいことがあるなら言ってみろ」 その一言が、自らの破滅を呼ぶことになるなど、この時彼はまだ気付いていなかった⸺! ◆例によって設定ナシの即興作品です。なので主人公の伯爵家令嬢以外に固有名詞はありません。頭カラッポにしてゆるっとお楽しみ下さい。 婚約破棄ものですが恋愛はありません。もちろん元サヤもナシです。 ◆全6話、約15000字程度でサラッと読めます。1日1話ずつ更新。 ◆この物語はアルファポリスのほか、小説家になろうでも公開します。 ◆9/29、HOTランキング入り!お読み頂きありがとうございます! 10/1、HOTランキング最高6位、人気ランキング11位、ファンタジーランキング1位!24h.pt瞬間最大11万4000pt!いずれも自己ベスト!ありがとうございます!

鉱石令嬢~没落した悪役令嬢が炭鉱で一山当てるまでのお話~

甘味亭太丸
ファンタジー
石マニアをこじらせて鉱業系の会社に勤めていたアラサー研究員の末野いすずはふと気が付くと、暇つぶしでやっていたアプリ乙女ゲームの悪役令嬢マヘリアになっていた。しかも目覚めたタイミングは婚約解消。最悪なタイミングでの目覚め、もはや御家の没落は回避できない。このままでは破滅まっしぐら。何とか逃げ出したいすずがたどり着いたのは最底辺の墓場と揶揄される炭鉱。 彼女は前世の知識を元に、何より生き抜くために鉱山を掘り進め、鉄を作るのである。 これは生き残る為に山を掘る悪役令嬢の物語。

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

元侯爵令嬢は冷遇を満喫する

cyaru
恋愛
第三王子の不貞による婚約解消で王様に拝み倒され、渋々嫁いだ侯爵令嬢のエレイン。 しかし教会で結婚式を挙げた後、夫の口から開口一番に出た言葉は 「王命だから君を娶っただけだ。愛してもらえるとは思わないでくれ」 夫となったパトリックの側には長年の恋人であるリリシア。 自分もだけど、向こうだってわたくしの事は見たくも無いはず!っと早々の別居宣言。 お互いで交わす契約書にほっとするパトリックとエレイン。ほくそ笑む愛人リリシア。 本宅からは屋根すら見えない別邸に引きこもりお1人様生活を満喫する予定が・・。 ※専門用語は出来るだけ注釈をつけますが、作者が専門用語だと思ってない専門用語がある場合があります ※作者都合のご都合主義です。 ※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。 ※架空のお話です。現実世界の話ではありません。 ※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。

アリシアの恋は終わったのです。

ことりちゃん
恋愛
昼休みの廊下で、アリシアはずっとずっと大好きだったマークから、いきなり頬を引っ叩かれた。 その瞬間、アリシアの恋は終わりを迎えた。 そこから長年の虚しい片想いに別れを告げ、新しい道へと歩き出すアリシア。 反対に、後になってアリシアの想いに触れ、遅すぎる行動に出るマーク。 案外吹っ切れて楽しく過ごす女子と、どうしようもなく後悔する残念な男子のお話です。 ーーーーー 12話で完結します。 よろしくお願いします(´∀`)

処理中です...