出遅れた転生ヒロインは恋を蹴散らす

犬飼春野

文字の大きさ
上 下
8 / 40

なるほど?

しおりを挟む
「二十四年前、王立学院の夏のパーティで、第四皇子が婚約中のご令嬢を断罪し、婚約破棄を宣言しました。その時旦那様は王子のとりま…、いえ側近の一人でした」

 二人はいったん魔道具を止め、カーテンを開けた窓際のソファセットで向かい合う。
 普通は執事が主人と向かい合って茶を飲むなどあり得ないが、そもそもオーロラは平民。
 不敬罪もへったくれもない。

「なるほど。まあ、好きな女の子と正々堂々とお付き合い又は結婚するためにありもしない罪を擦り付けたのがばれて、自分たちが公的な処分を受けるありがちな話かしら」

「ご名答です。ただし第四王子たちは二つ年上で成人しておりましたゆえ、かなり重い処罰となりましたが、旦那様はまだ十五歳。学年が離れていたのは幸運でした。金魚のフンとしてくっついているだけで、さほどの罪は犯していませんでした。ですが」

 ロバートの重低音囁きボイスがずんとさらに一段低く鳴る。

「そもそもが。当時のロバート様はとある伯爵家の一人娘の婿養子候補として数年前からそのお宅で息子同然の待遇で暮らしておりました。ですが、お嬢様が控えめで大人しいことを良いことに、そうとう調子に乗っていたことが前々から問題になっていたので。…まあ、あちらには好機でしたな」

 前からなんとなく感じていたが、ロバートはトンプソン家の執事ではあるけれど、父に対してそうとう思うところがあるようだ。
 そして、平凡な男爵家の能天気な三男坊と思っていた父は、けっこうな過去があるらしい。

「なるほど?」

 ばっさり切られて、実家へ送り返されたという事か。

「それにまあ、断罪された令嬢は公爵家の愛娘です。伯爵家が縁を切っただけでは示しがつかぬ上に、世間体も悪く、何より本人が全く反省しておりませんでしたので、二年間修道院へぶち込まれました」

「…ほう」

 ほら。
 もう、嫌悪を隠そうともしない。

 つまびらかになる過去事態もなかなかだが、常に礼儀正しく執事の鑑のようにふるまうロバートの言葉がどんどん崩れていくことが何より面白いったらない。

「で、二年なんかでは性根はちっとも変わらなかったということで合ってる?」

「そうですね。養子縁組の話が出た時と同じです。しおらしい演技をするのは得意のつもりでしょうが、見る人が見ればバレバレです」

 意気揚々と還俗した十七歳の少年に対し、実家及び連なる親戚筋の高位貴族たちの判定は、『平民として一生を終えさせる』。

「ちょうど同じく別件でやらかして女子修道院へ三年投げ込まれていた準男爵の令嬢がおりまして…」

「この話の流れで行くと、お母さまと言う事ね」

「そうです。丁度よいから二人をくっつけようとなりましてね。まあ、二人とも顔は良いので、不満はありませんでした。彼らがこれ以上やらかさないためにまずは商家で一年学ばせて独立。資本金などは旦那様のご実家が持ちましたし、私をはじめとした幾人かの監視…いえ、お目付け…いえ、まあ、とにかく使用人と屋敷も用意して、やらかさないよう、ほどほどの生活をさせることとなりました」

「ずいぶん甘いわね。普通、地べたを這いつくばって泥水を飲ませる展開でないの?」

「それは誰もが思ったでしょうね。しかし二人とも甘え上手ですし、どちらの家も母君が甘いので…。とりあえずしばらく様子を見てどうにもならなくなったらその時は…という、温情措置ですね」

 そして、顔だけ人並み以上性格と脳みそは人並み以下のカップルが爆誕した。

「不思議なことにですね。あの二人、運が良いのですよ…。未だに謎なのですが」

「そうよねえ。不思議よねえ」

 二人はいわゆる商社というより趣味でぬるくやる雑貨店に近い商いで、なぜか今まで不良在庫を抱えたこともなく、大半を投資で財産を運営している。

 それについても、なぜかほとんど損をすることもなく逆に増益像収入となり、実家に与えられていた家にオーロラを残して飛び出し、ほぼ一等地に大きな屋敷を建て『本宅』と称している。

「もうね、ここまできたら皿まで食うから、もうゲロっちゃ…んん。いえ、白状なさいなロバート」

 あやうく鈴音のノリでゲロっちゃえよとか言いそうになり、オーロラは一瞬ぱたりと口に蓋をした。

「はい?」

「私はいったい誰の子なの? 目の色は辛うじて母親譲りだと思うのだけど、同族嫌悪にしては行き過ぎているよわねえ」

 母の髪は明るい茶色。
 父も兄も似たような色だ。

 そんななか、このローズ色は異質で、だから軟禁されているのかなと思っている。

「…オーロラ様。貴女は本当に十六歳で?」

「ええ。ぴっちぴちの十六歳」

「ぴっちぴちって…。お嬢様」

 得意気に胸を張るオーロラを、生まれる以前から執事であるロバートは深々とため息をついた。

しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢ですか?……フフフ♪わたくし、そんなモノではございませんわ(笑)

ラララキヲ
ファンタジー
 学園の卒業パーティーで王太子は男爵令嬢と側近たちを引き連れて自分の婚約者を睨みつける。 「悪役令嬢 ルカリファス・ゴルデゥーサ。  私は貴様との婚約破棄をここに宣言する!」 「……フフフ」  王太子たちが愛するヒロインに対峙するのは悪役令嬢に決まっている!  しかし、相手は本当に『悪役』令嬢なんですか……?  ルカリファスは楽しそうに笑う。 ◇テンプレ婚約破棄モノ。 ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇なろうにも上げてます。

その国が滅びたのは

志位斗 茂家波
ファンタジー
3年前、ある事件が起こるその時まで、その国は栄えていた。 だがしかし、その事件以降あっという間に落ちぶれたが、一体どういうことなのだろうか? それは、考え無しの婚約破棄によるものであったそうだ。 息抜き用婚約破棄物。全6話+オマケの予定。 作者の「帰らずの森のある騒動記」という連載作品に乗っている兄妹が登場。というか、これをそっちの乗せたほうが良いんじゃないかと思い中。 誤字脱字があるかもしれません。ないように頑張ってますが、御指摘や改良点があれば受け付けます。

魅了が解けた貴男から私へ

砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。 彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。 そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。 しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。 男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。 元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。 しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。 三話完結です。

思わず呆れる婚約破棄

志位斗 茂家波
ファンタジー
ある国のとある夜会、その場にて、その国の王子が婚約破棄を言い渡した。 だがしかし、その内容がずさんというか、あまりにもひどいというか……呆れるしかない。 余りにもひどい内容に、思わず誰もが呆れてしまうのであった。 ……ネタバレのような気がする。しかし、良い紹介分が思いつかなかった。 よくあるざまぁ系婚約破棄物ですが、第3者視点よりお送りいたします。

私は〈元〉小石でございます! ~癒し系ゴーレムと魔物使い~

Ss侍
ファンタジー
 "私"はある時目覚めたら身体が小石になっていた。  動けない、何もできない、そもそも身体がない。  自分の運命に嘆きつつ小石として過ごしていたある日、小さな人形のような可愛らしいゴーレムがやってきた。 ひょんなことからそのゴーレムの身体をのっとってしまった"私"。  それが、全ての出会いと冒険の始まりだとは知らずに_____!!

もしかして寝てる間にざまぁしました?

ぴぴみ
ファンタジー
令嬢アリアは気が弱く、何をされても言い返せない。 内気な性格が邪魔をして本来の能力を活かせていなかった。 しかし、ある時から状況は一変する。彼女を馬鹿にし嘲笑っていた人間が怯えたように見てくるのだ。 私、寝てる間に何かしました?

冤罪で殺された聖女、生まれ変わって自由に生きる

みおな
恋愛
聖女。 女神から選ばれし、世界にたった一人の存在。 本来なら、誰からも尊ばれ大切に扱われる存在である聖女ルディアは、婚約者である王太子から冤罪をかけられ処刑されてしまう。 愛し子の死に、女神はルディアの時間を巻き戻す。 記憶を持ったまま聖女認定の前に戻ったルディアは、聖女にならず自由に生きる道を選択する。

才能は流星魔法

神無月 紅
ファンタジー
東北の田舎に住んでいる遠藤井尾は、事故によって気が付けばどこまでも広がる空間の中にいた。 そこには巨大な水晶があり、その水晶に触れると井尾の持つ流星魔法の才能が目覚めることになる。 流星魔法の才能が目覚めると、井尾は即座に異世界に転移させられてしまう。 ただし、そこは街中ではなく誰も人のいない山の中。 井尾はそこで生き延びるべく奮闘する。 山から降りるため、まずはゴブリンから逃げ回りながら人の住む街や道を探すべく頂上付近まで到達したとき、そこで見たのは地上を移動するゴブリンの軍勢。 井尾はそんなゴブリンの軍勢に向かって流星魔法を使うのだった。 二日に一度、18時に更新します。 カクヨムにも同時投稿しています。

処理中です...