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異変
しおりを挟む「ご令嬢…」
四人の男たちがヴァレンシアの異変に顔色を変える。
「…大丈夫だ。すまない。緊急事態が発生した。私は今すぐここを発たねばならない。とりあえず貴方がたはこの屋敷にとどまり寛がれるが良い。兄に関することは後ほど改めて話をさせてもらいたい」
胸を押さえたまま呼吸を整えようと試みるなか、彼らは一斉に立ち上がった。
「お待ちください。我々は人獣ゆえにさまざまな能力を有しています。緊急だからこそお役に立てるでしょう。どうかお使いください」
イヴァンは金色の瞳で弓矢を射るような強い光でヴァレンシアを見つめる。
ああ。だからこの男の名はイヴァン(射る者)なのだなと頭の片隅で思い、こんな時に…と自嘲した。
「役に立つ…か。もしそうならば兄たちの感謝する」
壁際の本棚から薄い書類入れを手に取り、その中の折りたたまれた紙を執務机の上に広げ、男たちに手招きをする。
「ちょうどここが機密室なのが幸いしたな」
広げたのはクエスタ家の領地の地図。
「今、我々の居場所はここで、私の父はこの北部の渓谷で魔物の討伐へ向かったはずだ」
とんとんと地図を指で叩きながら説明を続けた。
「貴方がたが兄の夫の腹心の部下ゆえに我が一族…父と私と兄の秘密を打ち明けるが、クエスタは魔物の巣を抱える地である故、直系たちは様々な特異体質を持っており、その一つが血族の危機を察知する能力だ」
顔を上げぐるりと四人の顔を見回すが、彼らは至って冷静だ。
「おそらく我が父は、今瀕死の状態だと思う。だが、死んではいない。まだ、な」
「魔物に、襲われたということでしょうか」
「ああ。腹を食われただろう。だが、それくらいでは死ねないのがクエスタの当主と言うものでな。魔導師が同行しているからあいつが魔法陣の中に置きぎりぎり保ってくれるだろう。しかしさらに不測の事態が起きないとも限らないし、直系の秘密はなるべく知られたくない。とにかく出来るだけ早く父を回収に行き、場を収めねばならない」
「ご令嬢」
「ヴァレンシアでいい」
「では、ヴァレンシア様。この場所までどれほどの時間がかかりますか」
「わが奇獣の足でも半日近くかかるだろうな」
「では、こうしましょう。我らが獣へ姿を変え、ヴァレンシア様をお運びいたします。私の背に乗って頂ければ半分以下…いえ、もっと早く着くことができます」
イヴァンはこともなげに告げる。
「イヴァン殿は」
「どうぞ我々の事は呼び捨てに。貴方様の家臣ですので」
「ではイヴァン。貴方は大猫族と書かれていたが…」
「私は黒豹です」
ふるりと軽く黒髪を振るとイヴァンの姿がふっと消え、大きな黒い獣が床に四つの足をしっかりとつけて金色の瞳でヴァレンシアを見上げた。
「これがイヴァンです」
赤茶色の髪の男が説明を始める。
「もちろん最大限の身体強化と魔力による防御も為されているゆえ、振り落とされることも怪我を負うこともありません。我々もそれぞれの姿で同じように後を追いますので、どうぞヴァレンシア様は一刻も早く」
「ありがとう。そうさせてもらおうか」
ヴァレンシアはイヴァンを従えて出口へ向かう。
「緊急事態だ」
部屋の外で待っていたレアンドラたちに向かってヴァレンシアは言い放つ。
一瞬、彼女の足元にぴたりとくっついている大きな黒豹に騎士たちは身構えたが、ヴァレンシアが軽く手を挙げて制す。
「北で異変が起きた。父はかなりの重傷を負ったと思われる。今からこのデュナーレの客人たちと救出へ向かう」
さすがの母も顔色を変えたが、ぐっとこらえて前に出た。
「…ご当主様は生きておられるのですね」
「ああ。マリアーノの夫君が腹心を贈ってくれた。さっそくだが有り難く力添えしてもらうこととする」
あの黒髪の男がすでに黒豹に身を変えていることから、他の三人もそれなりの力を持っていると理解した。
兄をあっさり攫って行ったのだ。
彼らほどの能力がある者は今この屋敷の中にはいないだろう。
素早く思考を巡らせたレアンドラは頷き、改めてヴァレンシアのそばにいる三人と頭を下げた。
「どうか当主と…当主代理をよろしくお願いいたします」
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