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【こぼれ話】それぞれの、あんなこと、こんなこと
12.【井田・社会人三年目/秋~翌夏】愛の言霊 ④
しおりを挟む宇山が風呂に入って準備をしている間に、皿を洗って、ローテーブルを部屋の隅に寄せて場所をあける。
そこに敷いた布団の上で服を脱いで、あおむけに寝転がったところで、宇山がちょうど風呂から出てきた。今からやろうっていうのに、なぜかTシャツを着て下もハーフパンツをはいている。俺も一応ブリーフをはいてるしちんこだって勃ってはないけど、一人だけやる気みたいでなんだか馬鹿っぽい。
宇山は目を合わせないまま俺の隣にもそもそと寝そべると、俺の右肩に顔を伏せて口を開いた。
「井田ごめん。なんか、八つ当たりした……」
八つ当たりしたのは俺の方だ。普段は物分かりのいいふりをしてるくせに、あんないじけたようなことを言ったりして。宇山の気持ちを思うなら、どうしたら親に干渉されないかを一緒に考えてやるべきだったのに。
「いや、大丈夫。俺の方こそマジでごめんな」
「それは。もういい。……多分、俺が無神経だったし」
「そっか」
寝返りを打って宇山の頭を抱き寄せると、その身体からほっと力が抜けるのが分かった。
「じゃあ、もう仲直りHいらねえよな」
「ええー?」
冗談めかして言うと、宇山もさっきまでとは変わって、すねたような甘えた声で不満を返す。
だよな。尻の穴の準備までしておいてお預けされたらそうなるよな。でも俺は別にH自体がいらないとは言ってない。
「だからさあ、余計なこと考えずに普通のHしよ。ゆっくり気持ちよくしてあげる」
肩口でうなずいた宇山の耳はもう熱くて、俺は思わずそれを口に含んだ。
Tシャツをめくり上げて、しっとりとした背中を撫で下ろし、同時に耳元でわざと音を立てて舌を這わせる。首や胸にもキスしながら上を脱がせると、宇山はくすぐったそうに小さく笑いながら自分で下を脱いで、俺のブリーフにも手を伸ばしてきた。
ゆるく勃ち上がった無毛のちんこが、硬くなり始めた俺のちんこに押し付けられる。
七瀬の天然の身体と違って、宇山のつるつるの身体は永久脱毛の成果だ。知らない間にひげまでやってたから別に俺のためってわけじゃないんだろうけど、それでも俺とHするために準備されたみたいで全部がいとおしい。
布団に敷いたバスタオルの上で、ちんこ汁の飛び散り防止にゴムを着けた宇山が、あおむけになって自分で股を開く。
俺はその左足を脇に抱えて前かがみになると、宇山の横に片手をついて少しずつ尻の中を奥に進んだ。さっきまでローションで丁寧にほぐしていた穴は、ちゃんとゴムをかぶせた俺のちんこを危なげなく飲み込んでいく。それでも俺は、自分でもじれったくなるくらい、小さくゆっくりと腰を前後させた。
「も……っ、なんで。なんで、早くして?」
いつもよりずっと丁寧な動きに、口元を押さえた手の甲の隙間から、宇山がかわいい不満を口にする。
「だって、腹ん中いっぱいだろ?」
「え」
宇山は思いがけないことを言われたみたいに俺を見ると、潤んだ視線を泳がせて、恥ずかしそうに目を伏せた。それから、じわじわと胸元まで赤くしながら、自分のちんこが乗っかった下腹部をそっと撫でる。
「……うん」
「……」
ああー、そっちだと思っちゃったかー……。晩飯食ったばっかりで腹苦しいだろって、そのまんまの意味だったんだけど。つか、尻と腹は違うだろ。
何だこれ、くっそかわいすぎる。七瀬とやってる時なんかは結構オスっぽいのにな。嬉々としてやってるのは変わらないけど、なんかこういうのを見せられると俺だけが特別みたいで嬉しい。
下腹を大事そうに撫でているその右手を捕まえると、宇山は抵抗もせず、指を絡めて俺の手を握り返してきた。そんなしぐさに、腹の下がぎゅっと重くなる。
「宇山、好き」
「ん、俺も。……好き」
ギリギリまで腰を引くと、名残惜しそうに俺のちんこを締めつけてきた。逆にそれで押し出されてしまわないように気を付けながら、浅い所だけをカリでゆっくり刺激する。
「あ、それ好き。抜けそうで抜けないの好き。井田のカリ、入り口に引っかかるの気持ちいい」
知ってる。じらされるの好きだよな。つか、宇山は俺のちんこなら何でも好きだよな。
ゆっくり丁寧にしてるせいか、声を潜めてるせいか、宇山の実況までいつもより丁寧に聞こえる。抱えていた宇山の左足を放して動きを止めると、おなかの上で宇山のちんこが身じろぎした。ゴムの上からちんこの先をつまんでみたら、内側の潤滑剤と混じった先走りで滑って、ゴムの中でちんこがつるりと逃げる。
「すげーびしょびしょ。気持ちいい?」
「んっ、気持ちいい。やばいこれ」
先っぽを軽く握ってつるりつるりとわざと逃がしてやると、宇山は口元を左手で押さえたまま、視線でしっかりと俺の手の動きを追う。自分で腰とか揺らしちゃってんのは……、多分これ無意識だな。
「んぅ、ごめん。これ、俺ばっかり気持ちいい」
「なんで。俺もすげー気持ちいいって。エロい宇山ずっと見てんのも楽しいし」
「も、何それ」
「ほら、好きなとこ。もっといっぱいしたげる」
「あっ、あ、あ」
そのまま小刻みに腰の動きを再開すると、宇山が口から手を離して自分の乳首を撫で始めた。半開きになったままの唇からのぞく舌先が俺を誘う。
初めて宇山に俺のちんこが入った時の、身体中を駆け抜けた衝動を今でも鮮明に覚えてる。あの時、俺は初めての恋を自覚して、それできっと、残りの人生が決まったんだと思う。
だけど、それを少しも後悔したことはない。
「宇山、キスしてもいい?」
「あ。も、なんで聞くの」
少しでも、宇山の気持ちが知りたいから。俺の勘違いじゃないのを確認するように、宇山の反応を待って何度も何度も口づける。
「好き、宇山。すげー気持ちいい」
「ん……っ、んぅ、俺も」
ちんこの先をいじりつつ、尻の穴が俺の形を意識するほどゆっくり動かして、何度も「好き」とキスを繰り返す。わずかに返事を聞くだけの間を取りながら、何度も、何度も。宇山の五感が全部俺で満たされて、今この時だけでも、俺のこと以外は考えられなくなるように。
身を焦がすような激しい恋じゃない。それは、気が付いたら当たり前にそこにあって、だからこそ、こいつを失ってしまうことなんて想像もできなくて。
「すげー幸せ。ありがとな」
ゆっくりと身体を倒して抱きしめると、宇山はそれに応えるように俺の首にすがりついた。
◇
「あ、ちょっと待ってて」
ゴムの始末をした後で、俺はもう一度宇山を抱きしめようとして失敗した。宇山が俺の胸を押し返して、ぺたぺたと四つんばいで布団の上から這い出たからだ。
ええー……、ひでえ。恋人じゃないとゆっくりピロートークもさせてもらえないとか。行き場のない両腕が寂しいんですけど……。
無防備な尻をさらしたまま、宇山は壁際にある棚の引き出しを探り始めた。一番下の、大事な物をしまう、と決めてある所だ。
大体、それは今じゃなきゃいけないことなのか。そう思って背後から近づくと、引き出しを閉めた宇山に手を取られて、押し付けるように何かを握らされた。
「はい、これあげる」
反射的に受け取って、それから、それがこの部屋の合鍵だと理解した。宇山は俺の動揺に気付きもせず、またぺたぺたとラグの上を這って俺の布団に戻っていく。
「前から思ってたけど、持ってないとやっぱ不便でしょ。今日みたいに俺が出られない日とかあったらさあ、井田いつまでも帰ってこられないじゃん」
やばい。何だこの不意打ち。泣きそうだ。
結婚なんて考えてないって言って、あんなエッロいHして、合鍵とか渡して。
これでもまだ、ただの親友だとかセフレだとか言うんだったら、世の中の『恋人』の定義が崩壊する。
「なあ宇山。これって、俺らもう付き合ってるってこ」
「ちーがーいーまーすー!」
「ひでえ!」
食い気味に否定する宇山に、凹むどころか笑ってしまった。
顔を真っ赤にした宇山は、脱ぎ散らかしていた服を拾い集めて俺に背を向ける。裏表や前後を間違えながらの着替えを笑いながら見ている俺に気が付くと、裸で歩き回るなとか、いつもラグに俺の陰毛が絡んでて困るとか、理不尽で今さらな小言を言い始めた。
……どうすんだ、これ。すげえかわいいんだけど。
だったら俺を泊めなきゃいいのに。かわいいかわいい宇山の頭では、やっぱりそういう発想に至らないらしい。
まあ、いっか。肩書も言質も関係ない。一生変わらないなんて約束を、宇山にまで求めなくたっていい。こうやって俺に見せてくれる言動のひとつひとつが、今の嘘偽りない宇山の気持ちなんだろうし。
この先の人生はまだ長い。俺が宇山のそばにいるのが当たり前の毎日を、また今から積み重ねていけばいい。誰に何を言われたって離れたくないと思うほど。後から気付いたって遅いくらい。何度も何度も、「好き」を繰り返して。
いつの日か、俺の本気が宇山の心に届くまで。
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