あんなこと、こんなこと

近江こうへい

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【こぼれ話】それぞれの、あんなこと、こんなこと

4.【有川・社会人一年目/冬】二月の茶番劇 ④

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 ◇

「はあ……、あっつい……」

 ようやく呼吸が落ち着いてきた七瀬が、けだるげに上半身を起こしながらのろのろとトレーナーを脱いだ。
 俺に背を向けてもう一度ベッドにぱたりと倒れ込むと、横向きに丸まった七瀬の尻の割れ目から、泡立った俺のちんこ汁がゆっくりと流れ出る。ティッシュを二、三枚持って七瀬の尻たぶを開いてみたら、赤くなった尻の穴も、七瀬の呼吸に合わせてぱくりぱくりと口を開いた。

 朝にカードを読んで決めた予定どおり、今日はあらかじめベッドに防水の敷きパッドを敷いてある。だから別にいくら濡らしたって構わないんだけど、これからまた七瀬にしてしまうあんなことやこんなことを考えると、まだ今のうちぐらいはちゃんと始末をしておいてやりたい。それなのに、排出を促すためにティッシュを添えて中に指を挿れた途端、七瀬がきゅっと締めつけて腰をくねらせてきた。

「こーら七瀬。人の指で勝手にアナニーすんなって」
「う。……し、してねーし」

 悪態をつくだけの元気はまだ残ってるらしい。
 七瀬の身体を一通りきれいにした後、一緒に毛布の中に潜り込んでちょっとだけ休憩する。俺に背を向けたままの身体を右腕で抱き込むと、すっかり落ち着いた七瀬がぽつりと口を開いた。

「なあ、もしかして俺以外からもチョコもらったりした? ……義理じゃないやつとか」
「ん? 全然。今日誰にも会ってねえし」
「ふーん、そっか」
「何。嫉妬?」
「違いますー。けど、お前本気になったら絶対モテるし、もしかしたらって思っただけ」
「へえ……」

 そんないい男に見えてるのは嬉しいけど、はっきり言って、俺は誰にでも優しくしたり世話を焼いたりするわけじゃない。ただでかいだけの愛想がない男に、他のどこで需要があるっていうんだか。
 ありもしない妄想で嫉妬する七瀬はかわいい。だけど、少しでもよそ見する可能性があるなんて思われるのは心外だ。そんな妄想をする余裕もなくなるくらい、俺のことだけ考えてたらいいのに。
 七瀬の腰をぎゅっと抱き寄せて尻たぶにちんこを押し当てると、それまでこっちを向いてくれなかった七瀬が俺を振り返った。

「ええ、ちょ、嘘だろ。まだできんの?」
欲しい、って言ったの七瀬だろ? 俺まだまだイけるから、最後までちゃんと面倒見てくれる?」
「……聞こえてたんじゃん」

 眉間にしわを寄せながらまた前を向いてしまう。だけど、七瀬は本当に俺の声に弱い。

「七瀬。俺、七瀬以外に本気出すとか絶対ないし、よそでモテたいとも思わないから」

 逃げようとする耳元で、わざといつもより低い声で優しくささやくと、腕の中の身体が小さく跳ねた。
 三人で輪姦まわす時のルールだと一人一回までだけど、今日は俺だけだ。あいつらの分だと思えば三回までは許される、かもしれない。それに七瀬だって、今でも月二回ペースで4Pをこなしたりはできてるわけで。

「なあ、もう一回ちんこ挿れてもいい?」

 俺のちんこは、一回吐き出したくらいじゃ収まらなくてまだまだ硬い。挿れさせてくれたらすぐに完全復活する気配しかない。
 汗ばんだ髪を手ぐしできながら顔をのぞき込むと、七瀬が一瞬だけ見上げるようにちらりと視線をよこす。前に向き直って口をとがらせている姿は不機嫌そうにも見えるけど、まあ、これはあれだ。こじらせて「べっ、別に女子に話しかけられたからって喜んでなんかねえし!」とか思ってた頃と同じ表情かおだ。耳も赤い。
 つか、お互いの気持ちを伝え合ってからはだいぶ素直になったのに、たまにこういうそぶりとかを見せられると、それはそれでかわいくて仕方ないんだけど。

「……も、知らね」
「七瀬? 駄目ならちゃんと言わないと」

 つい意地悪な気分になって、尻たぶを割り開いてちんこを押し当てる。と、指先を捕まえたのと同じように、俺のちんこの先っぽを七瀬の穴がその粘膜でぱくりと誘い込む。

「ぁ、んん」
「ほら、早く言わないからもう入っちゃった」

 ほんの少し腰を前に進めただけで、いつも本気では拒んだりしない七瀬が、俺のちんこをもう一度あっさりと受け入れた。
 用意してあったたローションを足して、腰をゆっくり前後に揺する。そうやって少しずつ七瀬の中を埋めていくと、まだ中に残っていた俺のちんこ汁と混じり合って、ぐちゅりぐちゅりと音を立てた。

「あ……っ、は、駄目、だめ」
「これも駄目? かわいい、七瀬」
「あっ、んっ、あぁ……!」

 七瀬の呼吸を邪魔したくはない。遠慮がちに声を漏らす唇へのキスを我慢して、その代わりにちんこを奥まで押し挿れた。中がなじむのを待ちながら乳首の先を優しく撫でてやると、七瀬はそれだけで勝手にイって、ちんこの先をふるふると震わせて透明な液体をまき散らす。
 俺もその勢いに追い立てられるように、七瀬の中に二回目のちんこ汁を吐き出した。でも、まだ足りない。

「ごめん七瀬。もうちょっとだけ。……痛くはない?」
「ん……平気。きもちい。けど、も、マジで、あとちょっとだけだから」

 分かりやすくて、エロくてかわいい七瀬。口をとがらせてそんなこと言ったりするから、その「もうちょっと」がいつまでも終わらないのに。

 イっても硬さが残ったままの俺のしぶといちんこで、そのままゆっくりと七瀬の中を撫でていると、中で復活して、気が付いたらまた次に突入している。身体が痛くならないように体位は何度も変えてるけど、それでももう、一回の境目がどこなのかも曖昧で。

「んん……っ、気持ちいー……、ん、ぁあ、だめ気持ちい。っ好き。……すき、ありかわぁ、やあぁきもちいい。だめ、またっ、んんん、イく……っ」
「七瀬っ、俺も気持ちいい。またイきそう。七瀬、七瀬大好きだよ」

 七瀬が、目を潤ませてあえぎながら俺にすがりついてくる。
 俺のちんこを深くくわえた込んだまま小さく身体を跳ねさせて。ちんこ汁も吐き出さずに中を小刻みに収縮させて。繰り返し、繰り返し、浅いのも深いのも入り混じって、際限なく、何度でも。
 俺たちに終わりなんてない、と信じられるくらいに。

 ◇

 あの時、クローゼットでの告白を「マジで二度とやんねえ」なんて恥じらった七瀬は幻だったのか。そして、翌日起き上がれなかった七瀬を見て、新ルールの追加を考えるくらい俺が反省したのは一体何だったのか。
 一番の当事者である七瀬は、結局この『ままごと』みたいな茶番劇をすっかり気に入って、翌年以降、告白から始まる一連の流れを毎年の恒例行事にしてしまった。
 ……まあ、あそこまで激しいセックスをしたのは最初の年だけだし、ローションとかエロいパンツとか、渡される物がチョコじゃない年の方が多かった気もするけど。
 遠い目をした宇山が、「井田と七瀬ってさあ、なんとなく考えることが似てるよね」なんてつぶやいていたのは余談だ。

 ──そんな恒例行事イベントの始まりの夜を、七瀬と二人で懐かしく思い返したりするのは、まだ何十年も先のこと。
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