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【番外編】

8.【大学四年生/秋】有川と幸せ同棲計画 ③

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 俺の部屋の隅に、井田と宇山が居心地悪そうに黙って座っている。本当なら今日は4Pの予定だった二人を無理やり引っ張ってきたのは俺だ。珍しく空気を読んで帰ろうとしてたけど、こいつらだってがっつり関係者だし。つか、もし俺がフラれたら慰めてほしい。健全な意味で。
 いつもは俺のはす向かいか股の間に座る七瀬を、ローテーブルの正面に座らせて正座する。ちらちらと二人に視線を送っていた七瀬は、つられるように居住まいを正した。
 俺はタブレットで資産管理アプリを立ち上げて、その目の前に置く。

「これ、俺の今の収入」
「は? えっと……。え、なんで俺マウントされてんの?」
「いや、そうじゃなくて」

 アプリの内容を理解した七瀬が、本当に分からないといった顔で井田と宇山を見た。だけどこいつらも知るわけがない。「就職しない」とは言ったけど、その中身を身内以外に説明するのは初めてだ。
 高校生の時、貯めたお年玉を元手に資産運用を始めたこと。学費は別だけど、大学生になってからの一人暮らしの家賃と生活費はずっと運用益で賄っていること。プラス、ゼミで学んだことをかして、データ分析や統計解析の他、そういった記事の作成とか、フリーランスの仕事をしていること。現時点でも大学新卒の初任給くらいの稼ぎがあること。その収入の証明。
 それから、今後もデイトレードを生計の主軸に、フリーランスの仕事も続けていくこと。それから……。

「七瀬と一緒に暮らしたい」
「……は?」
「七瀬が好きだ。家賃は俺が出すけど、予算内ならお前の住みたいとこに決めていいし。収入も、これからはもう少し増やせる予定」
「え、ちょ、待って」
「家事は全部俺がやる。飯とかはまだ簡単なのしか作れないけど、レパートリーも増やすし」
「いやいやいや、そんなん別にスーパーの惣菜でもいいし……じゃなくて!」
「実家にいるのと変わらないくらい、七瀬には不自由させないようにする」
「や、だから」
「もしかしたら変に詮索する奴もいるかもしれないけど、あきらめられない。七瀬が嫌でも一緒に暮らしたい」
「ちょっ、おい有川」
「ちゃんと七瀬に好きになってもらえるように努力するから」
「だから待てって!! 勝手に決めんな、人の話聞け!」

 膝立ちになった七瀬が、黙った俺を見下ろして、長いため息をついて、うつむいた。

「別に俺、お前にそういうの求めてねえんだけど。……俺、そんなふうに見えた?」

 え、分かんねえ。って……恋人みたいに扱ったこと、か?
 今まで過ごした時間を全部否定されたみたいで、喉の奥が絞られるように痛んだ。信じたくなくて、七瀬から目が離せない。

「つか、そういうのが目的みたいに言われたら腹立つ」
「え」
「……俺だって、お前のために何かしてえし」
「え」

 立ち上がった七瀬がローテーブルを回り込んできて、俺の隣に正座する。慌ててそっちに向き直ると、正面からにらみつけられた。

「お前がさ、俺のこといつも一番に考えてくれてんの知ってる。大事にしてくれて、喜ばせようとしてくれて、すげえ嬉しいし。……でもさあ、そんな一方的なのとか、なんか違うじゃん。俺だってお前のことすっげえ好きなのに、……なんで今さらそんなこと言ってんだよ」
「……俺のこと、すっげえ好き、なんだ?」

 喉の奥が詰まる。七瀬に言われたことを馬鹿みたいに繰り返す以外に、言葉が出てこない。俺の視線から逃げるように七瀬がうつむく。太ももの上に握られたこぶしに手を重ねると、小さく震えていた。

「うるせ。……くっそ、知らねえよ」
「……ごめん七瀬。俺もすっげえ好き」
「知らねっつんてんだろ。もう、お前なんか嫌いだ」
「うん、分かってる。大好きだよ七瀬」

 うつむいたままの頭を抱き寄せると、言葉とは裏腹に七瀬がしがみついてきた。ふと上げた視線の先、井田と宇山は静かに鞄を持って立ち上がって、何度も玄関の方を指さしてはうなずいてみせている。俺はそんな気遣いができるようになった二人にちょっとした感動すら覚えながら、壁にぶら下げてある合鍵を持って出るように手だけで合図した。

 崩した膝の上に抱き上げて、七瀬の背中をとんとんとゆっくりたたく。だんだん足がしびれてきてどうしようかと思い始めた頃、俺の首筋に顔をうずめて鼻をすすっていた七瀬が顔を上げた。

「……あれ。あいつらは?」
「だいぶ前に出てったけど、気付かなかったんだ?」

 いろんなことをごまかすように、「あいつらそんな気ぃ使えたのかよ」なんて言ってしわを寄せる七瀬の眉間を、親指でぐりぐり伸ばしてやりながら軽くキスをする。相変わらず夢中になると周りが見えなくなる七瀬がかわいい。

「そういえば、七瀬の話って何だった?」
「あー……、えっと、有川と同じ。同棲、っていうか同居の話」
「マジか」
「や、親が急に家出て自立しろとか言いだしたんだよ。けど、有川と一緒なら借りる部屋の保証人になってやるから、とかさー。……矛盾してんだろ」

 マ ジ か。

「わり。俺もお前に甘えすぎだと思って、ちょっと、ちゃんとしようと思ったんだけど。うちの親どっちも過保護っていうかさあ……。いくら心配だからって、有川に頼りすぎだよな」
「……いや、俺は甘えてほしいけど。つか、保証人になってくれんのは助かる」

 七瀬がよそよそしくなってた原因が分かってほっとした。けど。
 いやいやいや、マジか。ていうかこれ。なんとなくだけど、俺らのこと気付かれてんじゃね?
 宇山がいろいろアテレコできるくらいの七瀬だ。家で俺のことをどう話してんのかは知らないけど、考えてみれば、親が見て何も分からないはずがない。それに俺も、エツコさんにレシピとか聞いたりしたのはさすがに必死すぎた気がする。『普通』の男友達はそんなことしないはずだ。多分、おそらく、……絶対。
 大ざっぱすぎる分量に思わずツッコんだ時、「別にうちの味にこだわんなくても、二人でいいように調整してけばいいんじゃない? 正解とかないんだしー」って言われたのを思い出した。ていよくごまかされたと思ってたけど、あれ、多分もう気付いてただろ。気付いてて、それで、俺にまかせてくれたんだと思う。
 うわ、マジか。

「……信頼されすぎててあんまり変なことできねえな」

 七瀬を想う気持ちだけは胸を張れるけど、さすがに4Pとかは知られたら駄目なやつだ。

「変なことって。あー……、えっと。つか俺ら、その……付き合ったら、あいつらどうすんの?」
「ん?」
「だから、俺があいつらと……やってんのとか、嫌じゃねえの?」
「ああ、全然。つか、俺が最初に好きになったのって、そういう七瀬だし。あいつらのちんこで気持ちよくなってんのとか、すげーかわいい」
「……は?」
「それに、俺以外のちんこなんか七瀬の中じゃディルドと一緒だろ?」
「はっ?」

 七瀬が弱い耳元で、わざと低めにささやく。

「だから、これからもあいつらでアナニーしてるとこいっぱい見せてよ」
「ばっ、馬鹿じゃねえの? つかお前それっ、そんなの変態じゃん!」
「じゃあ七瀬とおそろいだな」
「……何だそれ。知らねーよ」

 真っ赤に染まった耳たぶに優しくキスをする。首筋にも、頬にも。こんなに分かりやすい七瀬の気持ちをなんで分からないなんて思ったのか、もう思い出せない。

「ん。……なあ、有川」
「ん?」

 唇にもキスしようとする俺の頭を両手でつかんで、七瀬が俺の目をじっとのぞき込んだ。

「俺、有川のこと親に話す。……話してもいい?」

 めったに見ない、七瀬のまっすぐで強い視線。こんな不意打ち反則だろ。素直じゃないくせに、こういう思い切りの良さ。時々井田が七瀬を「男前」って表現するのが分かる気がする。
 育ちが良さそうなのに口が悪いとこも、口が悪いくせに優しいとこも。沸点が低くてすぐ怒るけど、気持ちの切り替えが早いとこも。意地っ張りだけど分かりやすいとこも。身体だけは素直でエロくて敏感なとこも。甘やかされるのが大好きなくせに、肝心な時にはちゃんと一人で戦えるとこも。
 何度好きになればいいんだろう。全部、大好きで、いとしくて仕方ない。

「七瀬。俺も一緒に話す」
「いや、でも、怒られるかもしんねえし」

 エツコさんのことだから、保証人とか言いだす前に父親への根回しなんて済んでると思うけど。

「いいよ。そしたら一緒に怒られよう?」
「……何だそれ。お前かっこよすぎだろ」
「だったら、いくらでも惚れ直していいよ」



 風呂上がりの七瀬の肌が上気して俺を誘う。チェックと手入れを怠らない尻の穴とちんこは濃いピンク色で、産毛レベルの陰毛では何も隠せてないそこに背徳感でいっぱいになる。相変わらず男なんて知らなさそうに見える七瀬の身体。それなのに、時間をかけてやわらかくほぐしたきれいな穴が、押し拡げようとする俺のちんこを優しく飲み込んで、包み込んで、吸い付いて放さない。

「七瀬、中あったかい」

 頭を撫で、キスをして、見つめ合い、指を絡めて、またキスをして。耳元で愛をささやきながらゆっくりと腰を揺する。気持ちいい。俺に身も心もゆだねてくる七瀬がかわいくて仕方ない。ほとんど動いてないのに胸が苦しい。イくのがもったいない。このままずっとつながっていたい。

「七瀬。七瀬かわいい。七瀬、大好きだよ」
「俺も、好き。有川……、大好き」

 何度でも、何度でも。俺に惚れ直して、七瀬。
 随分優しくしたはずなのに、イキ癖の付いた七瀬の身体は俺の腕の中でびくびく跳ねて、何度も何度も、筋肉の薄い腹の上を濡らした。




「なあ有川ぁー。新しい部屋、壁の分厚いとこがいい」
「あ、やっぱ気にすんのそこなんだ?」

 俺の腹の上に乗っかった七瀬に宇山と同じようなことを言われて、思わず笑ってしまう。

「だって、毎回宇山の声とか気にすんの面倒じゃん」

 まあ、確かに。だけど本人が気付いてないだけで、イキっぱなしになった七瀬のあえぎ声は宇山にも負けないくらい大きい。
 隣と接してないベッドルームのある角部屋を、実はもう既にいくつかピックアップしてるって言ったら、俺のかわいい恋人はまた眉間にしわを寄せるんだろうか。狭いベッドでぎゅうぎゅうに寝るのも好きだけど、七瀬が望むならでかいベッドを買っても構わない。
 そこまで妄想して、井田と宇山が小躍りする未来が目に浮かんだ。
 うわ、結局あいつらの思うつぼか。もうこうなったら、うんざりするほど自慢話聞かせてやるから待ってろよ。

 七瀬の両親にあいさつしたら、今度は二人で手をつないで部屋を見に行こう。誰にも文句なんて言わせない。ずっと一緒にいよう。絶対に後悔させない。覚悟は決まった。
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