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【番外編】

1.【大学二年生/春】七瀬と縦割れアナル ①

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※七瀬視点※
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「お前ら、しばらく俺にちんこれんの禁止な」
「え? は、なんで?」

 いつもなら風呂上がりはタオル一枚の俺がきっちり服を着てるのを見て、全裸で待機してた井田いだがベッドの上で立ち上がった。なぜかちんこも既にがっつりち上がってる。けど、残念ながら今日はそいつの出番はないのだ。



 事の起こりはついさっき。準備してシャワーを浴びた後、いつもどおり鏡で尻の穴の最終チェックをした時のこと。

「え、うそうそ。ちょ、え、待って何これ」

 俺は気付いてしまった。穴の形が縦長になってる……気がする。四日前に見た時には気付かなかったくらいだし気のせいかもってレベルだけど、尻の穴がアスタリスクみたいな形じゃなくなってる……気がする。いわゆる『縦割れアナル』ってやつだ。

「……マジか」

 つか、なんで縦割れって言うんだろな。縦割れじゃねえのかよ。
 思わず心の中で八つ当たり気味にぼやいてみたけど、アナルだろうがアヌスだろうが縦に割れるのは困る。俺の理想は丸くすぼまった穴で、色もピンクでどう見たって処女なのに「え、こんなん入っちゃうの?」っていう魅惑の穴だ。断じてあんなビッチみたいな穴じゃない。
 それにしたって、なんでこんなことになってんだ。エロいことに関して暴走しがちな俺らは、徹底的に自主ルールを守ってきたはずなのに。
 去年の秋の終わり、俺たち四人はあの紳士協定に替わる新しいルールを決めた。俺に挿れるのは一日に二人までで、間は三日あけるのが基本。例外として週末だけ4Pしてもいいけど、やったら次回まで一週間以上あける、っていう身体に優しいルールだ。
 ……いやいやいや。これ身体に優しいか? 冷静に考えたらこのスケジュールおかしくね?
 日数だけならアナニー時代に毛が生えた程度だから気にしてなかったけど、そもそも輪姦や3P、4Pが前提とかどうかしてる。むしろ、半年近くもこんな生活続けてて今までよく頑張ったと、俺の尻の穴を褒めてやってもいいのかもしれない。



「……急にどした? どっか具合でも悪い?」
「や、違うけど。とにかくしばらく禁止だから」

 俺だってこんなこと言いたくはない。正直、今も有川ありかわと井田にちんこ挿れられたくてうずうずしてる。それでも、今ならまだ元に戻るんだとしたら、その可能性を捨てるわけにはいかないのだ。

「え、まさか性びょ」
「はあっ!? ふっざけんなてめー! つか、だとしたら誰が持ち込んだんだって話だろ! つかお前よそでもこんなことやってんのかよ、宇山うやまに言いつけんぞ!!」
「あ、わりわり。やってません、スミマセン」

 明らかに心配してる様子の有川と違って、井田が馬鹿なことを言いだしたので食い気味に否定しておく。残念ながら今の俺はこいつの冗談に構ってやれる余裕がない。つか、ちんこは早くしまってほしい。
 大げさにこぶしを握ってみせると、立ち上がってそばに来た有川が俺の頭を撫でて隣に座らせた。……まあ、有川に撫でられるのは好きだけど、なんでこれでなだめられるとか思われてんだ俺は。

「……とにかく。理由は言えない。けど、しばらくはマジで無理」
「ええー……よく分かんないんだけど、しばらくってどんくらいだよ」
「一か月、とか」

 それで穴の形が戻るかなんて知らないけどな。

「んん? とにかく、理由は言えないけど性病とかじゃなくて、一か月くらいしたらまたやっていいってこと?」
「多分な」

 納得はしてなさそうだけどそれ以上の追求をやめた井田は、意外にもあっさり服を着ると、スマホでポチポチ宇山に連絡を入れながら立ち上がった。

「オッケー、分かった。んじゃ俺帰るな。宇山と夏物でも見に行くわー」



 あ、しまった。俺も一緒に出ればよかった。なんて気付いた時にはもう遅かった。玄関から戻ってきてはす向かいに座った有川に無言で見つめられて、思わず目が泳ぐ。
 ……やばい、こいつ本気で心配してる。

「なあ、しばらく駄目って俺ら何かした? それか、ほんとはどっか具合悪かったりすんの? 理由とかあんなら隠さずに言ってほしいんだけど」

 だよな。有川がさっきみたいな説明で納得するわけなかった。くっそ、だからって『縦割れアナル』とかアホすぎて言えるかよ。俺には死活問題だけどな!
 とはいえ、不安そうに俺の様子をうかがう有川に隠し事なんてできるはずもなく。しどろもどろになりながらも、結局俺は縦割れ疑惑どころか理想の穴の形や色まで白状させられたのだった。


 あー……、沈黙が痛い。居たたまれない。ビッチのくせに何言ってんだ、ってあきれてんのかも。なんだそんなことか、なんて笑い飛ばしてくれた方がまだよかった。いや、それはそれでムカつくな。

「なあ。だったらさ、今日は普通にデートしねえ?」
「でーと」

 沈黙を破る有川の急な提案に、ローテーブルの黒い木目を数えてた俺はアホみたいに復唱してしまった。
 いや、まあ、今日は土曜日だし、まだ昼過ぎだし天気もいい。健全で正しい提案な気はする、けど。……セフレってデートとかするんだっけ??
 この関係は何なのか、俺は有川に確認するタイミングをあれから完全にのがしたままだ。それでも多分、友達兼セフレっていう認識で合ってるはずなのに。

「俺ら今までそういうのしたことないじゃん。どっか出かけてみる?」

 確かに、外で遊ぶ時はいつも四人だし、それ以外だとやってばっかりな気がする。デートなんてどうせもう縁がないと思ってたけど、セフレでもしていいものなんだったら、このままここに座ってるよりはいいかもしれない。俺にだって、こじらせまくった中高生時代に憧れたシチュエーションの一つや二つはあるし。
 例えば、一緒に登下校したりとか。帰りは寄り道して、少ない小遣いで買った食いもんを半分こにしたりとか。修学旅行で二人だけ班と別行動するのも外せないイベントだよな。休日デートで見慣れない私服姿にドキドキするのもいい。
 あとは、映画館の暗闇でこっそり手をつないだり。ファーストキスは観覧車のてっぺんですんのが理想だけど、誰もいない放課後の教室でっていうのも捨てがたい。
 けど、そこまで想いを巡らせてから気が付いた。有川と手なんてセックスしながらよくつないでないか、と。
 登下校にしたって、大学とこの部屋の間を何度も一緒に行き来してるし。食いもん半分こだって、知り合ったその日のうちにファミレスでやったし、まあ、今でも普通にやってるな。修学旅行はもうないし、私服はデフォだし。むしろ制服着た有川とか、そっちの方がドキドキしそうだ。
 映画とかは……、暗いとこで有川に手をつながれて二時間もじっと座ってられる気がしない。ファーストキスはこの部屋だったけど、なかったことにしようにも有川とはしょっちゅうディープキスしてるし。井田と宇山にいっつも見られてるし。むしろちんこ突っ込まれてるし。……あれ、これ詰んでんじゃね?
 え、マジか。俺の憧れのデートとファーストキスが……。
 いやいやいや、待て。思考が完全に中高生レベルで止まってる気がする。そういえば、デートって普通何すんだろ。

「……有川は? どっか行きたいとことかあんの?」
「んー、別にないけど。七瀬ななせと一緒ならどこでもいいよ」

 こいつ! 自分で誘っといて!
 ローテーブルに肘をついた有川が笑いながら俺を見てたのに気が付いて、思わず眉間にしわが寄る。こういう余裕な態度で忘れがちだけど、こいつだっていまだに女子とまともな会話すらできないヘタレだ。どうせ頭の中なんて俺と似たり寄ったりで、ちんこ突っ込む以外の過ごし方なんて思いつきもしないくせに。

「行きたいとことか別にないし、今日はもう帰ろっかな」
「なんで? やらなきゃ俺といても意味ない?」
「そんなことはないけど……」

 してもしなくても、有川と一緒にいるのは心地いい。初めて有川の部屋に泊まったあの日から、季節は春に変わり、寒いから帰りたくないなんて理由がなくなっても、俺は時々週末を有川の部屋で過ごすようになった。でも、一緒にいると有川のちんこを欲しがるどうしようもない身体の俺にとって、セックスできないお泊まりなんて罰ゲームでしかない。
 元々インドア派の俺と有川は、大抵は部屋でごろごろして、井田と宇山がいなくてもなんとなくセックスして遊ぶ流れになる。まあ、たまには真面目な学生らしく勉強してることもあるけど。
 余分な布団がないから、寝る時なんかシングルベッドにでかい男二人がぎちぎちだ。そのせいか、肩がぶつからないように背中を向けて寝ても、目が覚めたらいつも抱き枕にされてるし。
 普段だったらそれでも問題ないけど、さすがに今日ばかりは困る。

「じゃあ帰るなよ。デートが嫌なら別に無理に出かけなくてもいいし。つか今日泊まるって言ってきたんだろ? 急に帰ったりしたらエツコさん心配すんじゃん。もらったおかずも俺一人じゃ食いきれねえんだけど」

 エツコさんていうのはうちの母親のことで、おかずっていうのは泊まりの日に持たされるようになった手土産のことだ。保存容器に移し替えてるだけで、ほとんどはパート先のスーパーの惣菜だけど。
 最初にここに泊まった日に有川がうちに電話してくれて以来、二人は何かにつけて連絡を取り合う仲だ。有川の人見知りは若い女子限定で、母親世代には発動しないらしい。「うちの子をよろしくね~」なんて、昔っから俺の友達に言ってるのはよく聞いてたし、母親の方からぐいぐい行ったのは想像にかたくないけど。
 いや。だとしても、だ。ちんこ突っ込まれに行くのに手土産持たされるとか、後ろめたさが半端ない。反抗期ですら、あの「よろしく」はここまで痛くはなかったはずだ。有川が嫌がってないのは救いだけど、切実に、今は放っておいてほしい。
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