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あれからの、あんなこと、こんなこと

13.みんなで、あんなこと、こんなこと ①

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※七瀬視点※
──────────────────

「紳士協定? 何だそりゃ」

 いや、別に言葉の意味を知らないわけじゃない。たしか、お互いに守る前提の暗黙の了解、みたいなやつだ。俺が今言ってるのは、なんでそんなもんをこいつらが結んでんのか、ってことで──。



 十一月下旬の連休初日。雨だというのに、俺と宇山うやまはコンビニで買ったおやつを片手に、昼過ぎから有川ありかわの部屋に遊びに来ていた。遊びというのはもちろん例のエロい遊びのことである。井田いだは時々やってる登録制の単発バイトで不在。まあ、このメンツだと3Pはないから、宇山が先攻で有川が後攻のいつもの輪姦コースかなと思いつつ、準備をして軽くシャワーを浴びた。
 前に宇山と二人きりでやってしまった後、帰ってきた有川にえらい目に遭わされたけど、そんなふうに様子がおかしかったのは結局あの一回だけだ。それからのあいつはいつもどおりで、こういう遊び自体に参加しないこともあるし、やったらやったで最中と事後の切り替えもはっきりしてる。
 あの時、有川もこれがセックスだって勘違いしてるんじゃないかなんて思ったのは、それ自体が俺の勘違いだったのかもしれない。

 腰にタオルだけ巻いて風呂から出てきたら、いつもはすぐにれたがる宇山が、なぜかまだ服も脱がないで有川としゃべっていた。俺にも気付かないとか珍しい。

「えー、それで井田呼んじゃったわけ? 俺はいいけど、見てるだけとかあいつにしてみたらただの苦行じゃん」
「井田来んの? つか苦行って何?」
「うわっ!」

 うわ、って何だ。うわ、って。
 後ろから声をかけると、宇山が分かりやすく驚いて有川に目配せした。

「あー……、有川どうするー? なあ、もうあれ言っちゃってよくね? 隠す意味とか俺イマイチよく分かんないんだけど」
「まあ、俺は別にいいけど」

 何だよ、二人だけで分かり合ってて気分悪いな。思わず眉間にしわを寄せて見下ろすと、宇山が自分の隣をたたいた。

「あ、ごめんごめん。ちょっと説明するからここ座って?」

 いやいやいや、俺裸なんですけど。
 なんかこれ話長くなりそうだな。じゃなくても宇山にやる気がないんだったら俺だけ裸でも仕方ないし、ゆるくエアコンがついてるとはいえ、さすがにタオル一枚は寒い。
 脱いであった服をもう一度着ようとすると、有川が部屋着にしてる自分のスウェットの替えを持ってきた。俺が持ってる高校ジャージみたいなのとは違って、下は腰回りがだぼっとしてて膝下くしゅくしゅシルエットのサルエルパンツっぽいやつ。上はやたらでかいフードの付いたビッグシルエットのパーカーだ。部屋着にするには無駄におしゃれで、いかにも有川らしく上も下も黒い。

 で、変に感動しながら着慣れないそれを着てる間に宇山が語ったのが、くだんの紳士協定である。
 一、俺と一日にやっていいのは二人まで。
 一、宇山が井田に挿れられてる、っていう俺の誤解をそのまま守ること。なぜならその方が俺が安心するから。
 ……いやいやいや、これどっからツッコめばいいんだ。ほんとなんでこいつら俺を無視していろいろ決めるかな。
 つまり、最初みたいに四人でやることがなかったのは、俺の意思を完全に置き去りにしたこの紳士協定のせいだった、と。なんとなくローテーションが決まったのかと思ってたけど、まさか意図的なやつだったとは。
 まあ、こいつらなりに俺の身体を気遣ったと言われれば文句も言えない。けど、二コ目のは何なんだ。ちんこの頭数が減るわけじゃないなら、宇山が処女かどうかなんて俺には全然関係ないのに。これどう考えたって、宇山とやる口実が欲しいだけの井田の詭弁きべんだろ。

 んで。目下の問題は、単発バイトが雨天中止になった井田を有川が勝手に呼んだはいいけど、このままだと井田は一人見学コースになってただの苦行みたいだ、ってことらしい。
 いや、別に俺は三人に輪姦まわされたっていいんだけど。つか、むしろ輪姦まわされたいんだけど。……まあ、自分からそんなビッチ発言できるはずもない。

「つか、だったら井田は宇山とやってりゃいいんじゃねえの?」
「は!? え、人の話聞いてた? だからそれは誤解だし無理なんだってば」

 聞いてたけども。

「だってお前いっつもプラグでちんこってんのに、今さら無理だとかやったことないとか言われても信じらんないんですけど」
「あー、それ俺も思ってた。あれマジで無理そうなわけ?」
「いや……まあ、確かにプラグは気持ちいいけどさあ。でも、ちんこはちょっと無理っていうか、なんか怖いじゃん。実際やってみてがっかりされたら絶対立ち直れないし」
「はあ? 怖いってそっち? あいつがお前にがっかりとかねーだろ」
「んー……あ、そっか。七瀬ななせは知らないんだっけ。なんかさあ、井田って俺にお前みたいな感じ求めてたんだよねー」
「あー、それな」

 有川が同意した。
 え、マジか。俺がいないとこで何やってんだ。ほんとあいつのデリカシーはどこ行った。
 元々、井田のことも気持ちいいことも大好きな宇山だ。聞けば、最初の頃に無理だったのは本当だけど、プラグに慣れた頃には井田のちんこなら一回くらい挿れてみてもいいかなあと思いはしたらしい。
 だけど、俺みたいな反応ができると信じてそうな、井田のでかすぎる期待を目の当たりにするとやっぱり無理で。がっかりされたりすぐに飽きられたりするくらいなら現状維持が一番いいと思って、ずっとのらりくらりと逃げ回ってたんだそうだ。
 それなのに、もう二週間も前からぱったりと尻を狙われなくなって、それどころか俺とやる時にも誘われなくなった、とか。
 ……何だそれ。あんなにガツガツしてる井田からは想像もできねえ。いや、でも、確かに俺も二人との3Pはしばらくやってない気がするな。
 記憶を探りながら曖昧な相づちを打つだけの俺に、宇山はへらりと力なく笑った。

「多分これ、もう俺とはエロい遊び自体やる気がなくなった、ってことでしょ。まあ、そういうのもあって俺に井田の相手はできねーの。おけ?」

 いや全然オッケーじゃねえわ! つか何考えてんだか知らないけど、井田も変な誤解されるようなことすんなよ。

「……あいつ馬鹿だろ」

 まあ、俺も人のことなんか言えないけど。宇山は井田の言動に流されやすくても自分のやりたいことには忠実で、いつでも何に対してでも楽観的だと思ってたし。

「んー、馬鹿それは俺の方かも。なんていうか、どんだけ拒否っても井田はずっとあの調子なんだろう、ってなんとなく思い込んでたんだよね。……でも、やらなくても結局飽きられるんだったら一回くらいやっとけばよかったかなぁ」

 後半、独り言みたいにこぼして宇山がうつむいた。
 え、待て待て待て、誤解、だよな? だって、あんなに宇山宇山言ってんのに井田が簡単に飽きたりするか? つか、俺らのこの関係ってそんなに簡単に終わるようなもんだった?
 思わず有川を見ると、なぜか気まずそうに後頭部をかきながら視線をそらされた。

「あー。まあ、たまたま都合が悪かったとかじゃね? 最近あいつ結構バイト入れてたし、来たらちゃんと話してみたら?」

 怪しい。何か知ってそうな有川の膝をローテーブルの下でつついたら、ペットボトルを俺に渡しながらこっそり裏事情を耳打ちされた。実は、最近二人がやってないのは有川の入れ知恵によるもの、だとか。
 ……いや、何だそれ。お前も変なアドバイスとかすんなよ。がっつりすれ違ってんじゃん。確かにあの井田が狙ったもんを簡単にあきらめるわけがないけど、まさかそんな回りくどいことまでしてるとか、普通は思わねえだろ。
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