あんなこと、こんなこと

近江こうへい

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あれからの、あんなこと、こんなこと

7.七瀬に、あんなこと、こんなこと ①

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※七瀬視点※
──────────────────

 秋学期が始まってしばらくった頃。
 マンションの前まで帰ってきて学生証がないのに気付いた有川ありかわは、押していた黒のクロスバイクにまたがって大学に引き返していった。一緒にいた歩きの俺と宇山うやまはその場に放置され、俺は慌ただしく押し付けられた合鍵スペアキーをあぜんとして握りしめている。

「え、あいつ大丈夫かな」
「平気でしょ、さっきまであったんだし。多分どっかに落ちてるってー」

 まあ確かにさっき出欠取られた時にはあったけど。つか相変わらず宇山は楽天的だな。誰かが拾って悪用とかしたらどうすんだ。
 とはいえ他にすることもない俺は、とりあえず借りた鍵で有川の部屋に上がりながら、スマホで大学のサイトをチェックした。どうやら、見つかんなかった場合は再発行になるらしい。

「マジか。手数料二千円も取るって」
「あ、再発行? そんなもんじゃない?」

 バイトしてない学生の二千円舐めんな。宇山の家は微妙に金持ちで、こういうとこでは分かり合える気がしない。サイドワゴンなんてかわいいもんで、未遂だがでかいベッドまで持ち込もうとしたことだってある。
 つかこれ、学生課に紛失届と再発行交付願いも出さなきゃいけない、とか。

「どのくらいで戻ってこれそうか聞いとく?」
「え、そんなの別にいいよー。聞いてもどうせやること変わんないじゃん」

 まあ確かに。この二人とやる時はいつも3Pじゃなくて有川が後攻の輪姦になるし、先に宇山とやってても問題なさそうだけど……。
 とか思ってたら、宇山が後ろから腰に腕をまわしてのしかかってきた。つか、体格の変わらねえ男が本気で体重かけんな。

「ちょ、重い重い!」
「んー。俺もう待てない……あれ?」

 するりと滑り降りた手がデニムの上から俺のちんこの状態を確認する。いや、さすがにこの流れでつかよ。

「なーなー、早くれたい」

 やわやわと揉みながら俺の肩に額をぐりぐり押し付けてくる宇山は、相変わらずどこか犬コロっぽい。井田いだの犬だけど。

「いーけど、昨日きのう井田とやったんじゃねーの?」
「ん? んー、それはそれ、これはこれ。だってあいつすぐプラグとかちんことか挿れたがるしさー。ちょっと疲れてんの。お前ん中で慰めて」
「あー……」

 ちなみに、いつも宇山が尻に挿れられてるアナルプラグの出どころは俺である。
 あれは俺とやる時にも大活躍で、プラグ入りの宇山にフェラさせた井田がそのちんこを俺に挿れたり、宇山は宇山でプラグを挿れたまま俺とやったり、って流れが多い。こいつ、あれが俺のお下がりだって知ったらどうすんだろ。俺ならとりあえず一回泣く。
 そんなわけで、なんとなく宇山が挿れられる側に回った経緯やら今の境遇やらに責任を感じてる俺は、ちょっとくらいがっつかれても文句は言えないのだった。



「あー……気持ちいい。すげ。うー、やっぱこれだよなー」
「……あっそ」

 風呂にかったおっさんか。井田と同じで、いまだにこいつの残念感は健在である。
 とはいえ、最初みたいにガツガツ腰を振るのをやめたのは、受け身になってみて思うところでもあったのかもしれない。俺がいない時には、プラグだけじゃなくてちんこも挿れられまくってるんだろうし。
 宇山は、肘をついて四つんばいになった俺の穴にゆっくりと奥までちんこを挿れると、すぐには動かずになじむのを待った。太さがなくてまっすぐな宇山のちんこは元々負担が少ない。先端から根元までが、長さをかして穴の中をゆっくり満遍なくこすりながら何度も出入りすると、少しずつ熱が下腹部にたまっていく。

「ねえ、気持ちいい?」
「うっせ。黙ってやれよ」
「えー。だってお前、有川とやってんのとかすげー気持ちよさそうじゃん。どういうのがいいのか教えてよ。なあ、どうやったらあんなふうになんの?」

 いや、別にお前にあいつと同じもんなんて求めてないんですけど。
 でも多分これはそういうことじゃないんだろうな。さっきの感じからしても、井田のちんこで気持ちよくなる方法を知りたい、とかそんなとこか。つか、えないのがすごいけど、やりながらお悩み相談室とか勘弁してくれ。

「……ん、そこ」
「ここ?」
「そ。そこ、もっとこすってみて」
「うん。……どう? ここが気持ちいいとこ?」
「っ……だから、聞くなって」
「あー、何だろこれ、うねる。俺もすげえ気持ちいい」
「ん」
「あーすげ。あっあっあっ、なあ、ここ? ここ気持ちいい? 俺、俺もっ、も、イきそ」

 いや待て、いつもどおり俺は置いてけぼりか。つか早い。ついでにうるさい。いちいち実況すんな。

「宇山、タオルタオル」
「あっ、う、んぅぅっ。んんっんっんっ、んーっんんーっ」

 イく時の声がやたらでかい宇山は、騒音対策としてハンドタオルをくわえるようになった。もし近所から苦情が来たりしたら、俺たちは大事なヤリ部屋を失ってしまう。
 ここは、近隣の大学や予備校の学生が多く住む、鉄筋七階建てマンションの二階角部屋だ。交通量の多い大通り沿いで閑静な住宅街ってわけじゃないけど、用心するに越したことはない。どんなに興奮してても、これだけは忘れてはいけないのだ。



「はあー、マジで気持ちよかったー。お前ほんと最高」

 後ろから俺を抱きしめたまま宇山がつぶやいた。
 最近のこいつは、イった後もすぐにはちんこを抜かない。こんなふうに抱きしめたり、唇にはしないけど背中や首筋には吸い付いてきたりする。多分、井田が有川のまねをするようになったのをさらにまねしてるんだろうけど、意外とこいつの方がしっかり実践してくるんだよな。
 とはいえ、最中が最中だし最初も最初だっただけに、宇山にやられても違和感しかない。つか、たまには井田みたいに雑でもいいから、とりあえず一回くらいイかせてくれ。中からあおられるだけ煽られてイってない俺はどうしたらいいんだ。

「んー、でもさ。なんかごめんな」

 急に謝られて、宇山が自分だけイったことかと思ったが、他にも思い当たることがありすぎて返答に困る。

「ほら、なんだかんだ俺らばっか経験積んじゃってるし?」
「お、おお……」

 マジか……、そこか。
 つか言われるまで気付かなかったけど、俺だけまだ童貞だった。でも意外とショックはない。まあ、別に俺は男の尻……というか最近は挿れること自体に興味がないし、正直つるむのも遊ぶのも性欲解消するのも、こいつらで充分すぎるほどに間に合ってる。「彼女が欲しい」「リア充爆発しろ」なんてことも不思議なくらい思わなくなったしな……。
 そういえば、宇山と二人きりなのも不思議な感じだ。外だとこいつは大抵井田とセットでいるし、ここで会う時にはいつも部屋の主である有川がいるし。
 こんな機会は次にいつあるか分からない。そう思って、前からちょっとだけ気になってたことを聞いてみたら、宇山は「有川とは何もやってない」って当然のように返してきた。いや、まあそんな気もしてたけど。それでも、有川があんなことするのは俺だけだってはっきり分かってほっとするとか、子供じみた独占欲に我ながらちょっと引く。

「でも本当は俺さー、井田がやってるとこ見たりすんのと、自分がやってるとこ井田に見られたりすんのが一番好きなんだよね。あと、井田がお前とやってんの手伝うのも楽しいし?」
「あー」

 なんとなく分からんでもない。俺も有川に見られながらやるのは好きだ。
 つか、こいつマジで井田が好きだな。本当は挿れられるより挿れる方が好きそうな気はするけど、まあ、それはどうでもいいか。井田が俺とやってても平気どころか楽しいっていうのは謎だとしても、そうやって二人の興奮材料みたいに使われるのは俺も好きだし、そこが変わらなければ問題ない。

「そ。だからさ、これからも井田と俺にいっぱいいっぱい突っ込まれてよ」

 耳たぶを甘噛あまがみされながらちょっとだけ腰を揺すられる。俺に見えない角度からの有川をまねたような行為に、思わず有川との3Pを想像した俺は、まだ尻の中にある宇山のちんこをぎゅっと締めつけてしまった。

「うっせ。遊んでないで早く抜けよ」

 ごまかすように突っぱねたけど、ゆるゆると揺すられる宇山のちんこが俺の中で勃ち上がってくのが分かった。俺も、中途半端で不完全燃焼だった熱がまだ腹の中でくすぶってる。
 ──あいつまだ帰ってこねえのかな。早く有川のちんこで奥の方まで拡げられてこすられたい……。でも、遅くなるんだったら、この際こいつのでもいいからもう一回……。
 ぼんやりと宇山との二回戦目に傾きかけた思考が、ガチリと玄関を開ける音で引き戻された。
 有川だ!
 後ろにひっついてた宇山をとっさに押しのけると、思ったより簡単に身体が離れて、その勢いで長いちんこが俺の中からずるりと抜ける。

「……っぁ」

 思わずあえいでしまった口を押さえて引き戸の方を見ると、ちょうど有川が鞄を下ろしながら部屋に入ってくるところだった。
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