あんなこと、こんなこと

近江こうへい

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あれからの、あんなこと、こんなこと

1.宇山も、あんなこと、こんなこと ①

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※宇山視点※
──────────────────

 めでたく一緒に童貞を卒業した、あの夏の日。あれからというもの、なぜか俺は親友だったはずの井田いだから尻の穴を狙われている。

「え、何これ硬い硬い。宇山うやまー、ちょっと力抜いて?」
「んんん!! んん!」

 ベッドの上であおむけになった俺の穴に、井田の凶悪なちんこの先っぽが押し付けられた。俺の両膝を抱えて今日こそちんこをれようとする井田の手を、俺は必死で何度もタップする。
 だって、ここでうっかり力抜いたりなんかしたら七瀬ななせの二の舞だよね。

「はいはい、どした?」
「や、これもう絶対無理だって」
「えー? 指とかプラグとかも大丈夫だったんだし、後はもう気合でいけんじゃねえの?」

 準備万端ゴムを着けてローションを塗りたくった井田のちんこの先っぽは、隙あらば俺の穴に侵入しようと繰り返し入り口を軽くつついてくる。とりあえず、力まかせに押し付けるのだけはやめてくれたけど、ちょっと見たことないくらい俺のちんこはしおしおだ。

 あの日、すっかり七瀬の身体にハマってしまった俺たち三人は、本人のいない所で紳士協定を結んだ。平たく言えば、七瀬を共有してやってく上でのルールみたいなものなんだけど。 
 一、七瀬とやるのは一日に二人までとすること。
 一、井田が俺にもちんこ挿れてるっていう七瀬の誤解をそのままにしておくこと。
 まあ、一コ目は分かる。初めての七瀬に無理をさせた自覚はありつつも、だからって今後は我慢できるかっていうとそんな自信は誰にもなかったし。
 だけど、二コ目がイマイチよく分からない。挿れられてる仲間がいた方が七瀬も安心するから、なんていう井田の理屈はほんとどこから来てんだか。
 そんな流れで、七瀬のいない時にはなぜか、井田は俺の尻を虎視こし眈々たんたんと狙うようになってしまった。別に本当にやる必要なんかないのに、完勃かんだちの井田のちんこを見てると、時々どこまでが冗談なのか分かんなくなる。

「いやほんと無理だってばー。そもそもそこ挿れるとこじゃないし」
「おま……それ七瀬に言ったら殺されんぞ。まあ、ちょっとずつ慣らしてけば挿れるとこにもなるんじゃね?」

 確かに、この夏の間中アナルプラグに慣らされはした。したけど、だからって七瀬と一緒にはされたくない。大体あいつのアナニー歴ってどれくらいなんだろ。

「だって怖いじゃん。ちんことかほんと無理だから」
「宇山くんあきらめんの早すぎー」
「そういうのは早くたっていいんですー」
「ははっ。つーかさー、いっつもあいつすげー気持ちよさそうにしてんじゃん。お前あれ見てて、自分も挿れられたい、とかなんないわけ?」

 やっと分かってくれたのか井田に足を解放されて、こわばってた身体からほっと力が抜ける。

「え、井田はなんの?」
「なるかよ。俺が気持ちいいだけー。有川ありかわは?」

 無駄にしてしまったゴムを外しながら、井田がローテーブルの向こう側を見た。
 うっかり存在を忘れそうになるくらい、有川はこの部屋の主のくせに一人で静かに課題のレポートなんかをやっている。一人暮らしの1Kで逃げ場がないのは分かるけど、毎回よくこの状況が平気だよね。
 しかも、すっかりやヤリ部屋になってしまったこの部屋には、ローションだのゴムだの、エロいことに使う備品をしまっとく用にサイドワゴンまで置いてある。まあ、そのワゴンを持ち込んだのは俺だけど。

「あー、俺もないな。マジであいつの穴気持ちよすぎ」

 急に話を振られても答えられるあたり、一応こっちの話は聞いてたらしい。

「だよね。俺もお前らと同じで挿れるのがいいんですー。七瀬は特殊。ほんとあれ基準にすんのとかやめて」
「あー……はいはい。まあいっか。じゃあ宇山、ちんこくわえて?」
「いいけど。ちゃんとやるからあんま動かないでよ? 苦しいのやだし」
「おけ」

 俺だけベッドの下に滑り降りてべろっと舌を差し出すと、先走りでぬらぬらと黒く光る井田のちんこが躊躇ちゅうちょなくそこに乗せられた。俺は、半勃はんだちでも充分に硬くて大きいそれの根元に手を添えて、唇でたぐり寄せるようにして太いカリをくわえ込む。
 なんだか井田のちんこを舐めるのにもすっかり慣れた。首の後ろを押さえられて勝手に腰を振られた時はちょっと苦しかったけど、くわえること自体には不思議と最初から抵抗はなかったな。
 知らない奴のとかだったら想像だけでも気持ち悪いけど、まあ、親友のだし。
 あと、俺が井田をイかせる、っていう作業に単純にかれたりもする。

 井田とは大学の入学式で出会った。
 高校デビューに失敗した俺は本気で大学デビューにかけてて、春休み中から準備してきたその日の髪も服も、自分の中では最高傑作のつもりだった。だけど、目の前を通り過ぎた井田を見た瞬間、「こうなりたい」って理想が服着て歩いてることにびっくりして、息をすることさえ忘れた。
 俺と同じようなアッシュブラウンに染めたツーブロックの髪の男。多分身長なんて俺とほとんど変わらない。それなのに、姿勢がいいのか足が長いのか頭が小さいのかコーデのせいか、まあとにかく雑誌から抜け出てきたみたいにすごく目立って見えた。
 気が付いたら引き寄せられるように後を追いかけてて、会場の入り口で配られたファイルが同じ学部の色なのを確認してから、偶然を装って隣の席に座った。
 そしたら、似たようなかっこの俺に気付いた井田が嫌がりもせず話しかけてきてくれて。近くで見たら、センターパートの前髪からのぞく直線で描いたような顔は大人びててかっこよくて。好きなショップとか音楽とか食べ物とか、いろんな好みがかぶってることも分かって嬉しくて。この人についてけば大学デビューも間違いないだろう、って胸が躍った。
 まあ、本当は二人とも何かとこじらせてる上にお互いを当てにしてた、って分かった時には微妙な空気にもなったけど。それでも井田が俺の理想だってことに変わりはなくて、童貞だとか結局大学デビューにも失敗してしまったとか、そんなことはもう別にどうでもよかった。

 タマの表面や会陰を優しく撫でながら、すっかり井田の形を覚えた舌で、井田のいい所を繰り返し丁寧に舐める。ベッドの端っこに座ってる井田の足が、かかとで床を蹴るようにぐっと伸びて、俺の身体を挟み込む太ももの筋肉が盛り上がった。
 そろそろかな。
 最後に一度だけ限界まで深く飲み込んで、カリ首に唇が引っかかる所まで引き抜いた。それから、俺の唾液でべたべたの裏筋を中心にしごきながら、一口ひとくち二口ふたくちと多めにくわえ直して、口の中でカリの裏側を重点的に舐め上げる。

 それにしても、自分があんな厄介な性癖だったなんて全然知らなかった。
 井田がやってるのを見るのも、自分がやってるのを井田に見られるのも、信じられないくらい興奮する、とか。それが初めてのせいだけじゃないってことは、あれから何度も七瀬と三人でHしたからもう分かってる。

「んぅ……」

 ああ駄目だ。思い出しただけでイきそう。イきたい。
 先っぽだけくわえて舌を絡めながら、井田の竿を握ってない方の手で自分のちんこをしごく。自分をしごくのに夢中で舌の動きがおざなりになると、井田が俺の頭を軽く押さえて腰を振り始めた。ちょっと苦しくても、寸止めみたいなタイミングで手を抜いた自分が悪いから文句は言えない。けど。



「ん……ぅえ、口ん中出すなよー」

 ティッシュを二枚重ねにした上に、唾液と混ぜながら井田のちんこ汁を吐き出す。別に嫌じゃないけど、好きな奴のでもまずいもんはまずい。

「だから、やならゴムかぶせりゃいいじゃん」
「やだよ。あれ変な味するし舐めにくい」
「……まあいーけど、お前も大概だよな。ちんこの方がよっぽど変な味なんじゃねーの?」

 井田は、俺がうっかり床とベッドの横にまき散らしたちんこ汁を拭き取りながら、あきれたように笑った。
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