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第1章:夏休み
第12話 入れ替わりの原因。
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午前九時頃。
「はい……はい……すみません……」
か細い俺の声が聞こえた。俺のスマホに耳をつけた芽衣(俺の身体)は、電話口の相手に向かって何度も繰り返し謝っている。たぶん、ものすごい剣幕で怒鳴られているだろうことは、想像するに難くない。俺の代わりに怒られてくれてすまんね。
疲弊しきった表情の芽衣に、俺は優しく声をかける。
「大丈夫?」
「……はい。このまま、ずっと休み続けるわけにもいかないので、明日には行こうと思います。あ、場所。書いてくれますか?」
「え? あ、いや。それはいいけど……別に無理することは……」
言いかけて、やめた。芽衣のルーズリーフを切り取って、そこに工場までの地図を描く。お金は、あればあるだけいい。無一文になる恐怖心が勝って自分から辞めるということは切り出せず、仕事を他人へ押しつけられるならそのほうがいい、と思ってしまった。
ほかに雇ってくれるようなところもないなら、このまま惰性で生きるのも悪くない。だが、神の悪戯か悪魔の罠か、俺は全くの別人へなってしまった。自分の人生など、正直どうでもいい。芽衣には悪いが、ひょっとしたら、人生をやり直せるんじゃないか? と淡い期待を抱いてしまった。
「トイレ……行ってきます……」そうすると芽衣は立ち上がりかけて、俺の顔(いや、自分の顔か)をじっと見つめる。手を太腿に挟み、身体をモジモジとくねらせた。「一緒に来てくれませんか?」
外の階段を下りて、共同トイレへ向かう。住民共同なのはもちろん男女共同でもあるため、入ってすぐのところに鍵が取りつけられていた。狭い中では、二人も入れば、もう身動きが取りづらい。目の前にある自分のズボンを、俺は脱がせる。その間、芽衣は顔を覆ったままだった。
「お、おい……ちゃんと、ち○こぐらい持って」
「う、うん……」
相変わらず目は逸らしたままだったが、俺は自分の手(中身は芽衣)をあそこへ持っていく。ぎこちない仕草で、芽衣は初めての、男根による放尿を経験した。……いや。なんだ、これ。介護か。
「まあ。ちょっとずつでもいいから、慣れていかないとな」
「ちょっとずつって言っても、叔父さんはパパが迎えに来て行っちゃうんじゃ……?」
ああ……そうだな、確かに。芽衣の指摘は、ごもっとも。しかも、その期日は今日だ。ここに住めるよう、兄貴に提案してみるか。
正午過ぎ。
お腹が空いたという芽衣が台所へ立ち、俺の身体で料理を再び始める。この見慣れない光景の横で、俺は夏休みの宿題をしていた。筆跡は身体のものらしく、芽衣の代わりに書くしかない。久しぶりに頭を使った俺は腹ペコだった。
食べ終わったのち、俺はこの状況を整理してみる。皿洗いを終えた芽衣が、一緒にテレビを見始めた。いろいろと考えてみたが、入れ替わった原因って、これしか考えられなくないか? あれが夢ではないとするのなら。
「もしかして、昨日のセックスが関係ある?」
「セッ……なんですか?」
テレビの音で掻き消された、というわけでもなさそうだ。目を丸くした芽衣が訊き返す。小学五年生なら、知っていても不思議ではなさそうだが。
「セックス。あれ? 保健体育で、習ってない?」
「それって、えーっと……あの、つまり、あの行為ってことですか」なんだ、恥ずかしがっているだけか? 夢の中の芽衣は積極的だったぞ。「それって、だ、誰が?」
「俺と、芽衣が……」
「えっ? わたし……えっ? なに、言ってるんですか?」
「……本当に、知らない?」
「は、はい……」
耳まで真っ赤にした芽衣は、心底戸惑ったような表情を見せる。眉根を寄せ、怪訝そうな面持ちだ。目を何度も瞬き、若干引いているようにも見える。
なんだ? これじゃあ、俺がセクハラしているみたいではないか! いや。実際、セクハラどころではないことを、姪っ子相手にしてしまったのかもしれないが。
そんな顔をしないでくれ。なんだか芽衣の戸惑いようは、下ネタにドン引きの女の子そのものだ。この表情を見る限り、本当に知らなさそうだった。じゃあ、やっぱりあれは、酔っていたときに見た夢だったのか?
そうなると、とんでもなくヤバイことを、俺は口走ってないか?
小学五年生の女の子を捕まえて、自分の妄想を話した童貞。これ、一発で逮捕案件じゃないか? 俺は急激な気恥ずかしさを覚え、取り繕うに慌てて言い放った。
「あ、いや、その……忘れてくれ!」
その日、兄貴が迎えに来るまで、俺たち二人は、気まずい時間を過ごすことになった。俺は宿題に逃げ、芽衣はぼーっと、いままで俺がしてきたのと同じように、怠惰な時間を過ごすばかりだ。
一通り宿題を終え、充電していたパソコンをコンセントから抜く。パスワードを入力するだけなので、こっちはすんなりと開いた。いま途中の原稿を、久しぶりに書き進めよう。下手すればこの状況が、次のヒットを生むアイディアに繋がるかもしれない。
ところが指は微動だにせず、俺は別のことに脳みそを使っていた。よくよく考えてみて、逆に言えば強制性交にならず、セクハラ程度で済んだのなら、そっちのほうがいいに決まっている。俺の妄言さえ忘れてくれれば、これはなかったことにできるだろう。
俺は神仏に願った。気まずい時間が、早く終わりますように。
「はい……はい……すみません……」
か細い俺の声が聞こえた。俺のスマホに耳をつけた芽衣(俺の身体)は、電話口の相手に向かって何度も繰り返し謝っている。たぶん、ものすごい剣幕で怒鳴られているだろうことは、想像するに難くない。俺の代わりに怒られてくれてすまんね。
疲弊しきった表情の芽衣に、俺は優しく声をかける。
「大丈夫?」
「……はい。このまま、ずっと休み続けるわけにもいかないので、明日には行こうと思います。あ、場所。書いてくれますか?」
「え? あ、いや。それはいいけど……別に無理することは……」
言いかけて、やめた。芽衣のルーズリーフを切り取って、そこに工場までの地図を描く。お金は、あればあるだけいい。無一文になる恐怖心が勝って自分から辞めるということは切り出せず、仕事を他人へ押しつけられるならそのほうがいい、と思ってしまった。
ほかに雇ってくれるようなところもないなら、このまま惰性で生きるのも悪くない。だが、神の悪戯か悪魔の罠か、俺は全くの別人へなってしまった。自分の人生など、正直どうでもいい。芽衣には悪いが、ひょっとしたら、人生をやり直せるんじゃないか? と淡い期待を抱いてしまった。
「トイレ……行ってきます……」そうすると芽衣は立ち上がりかけて、俺の顔(いや、自分の顔か)をじっと見つめる。手を太腿に挟み、身体をモジモジとくねらせた。「一緒に来てくれませんか?」
外の階段を下りて、共同トイレへ向かう。住民共同なのはもちろん男女共同でもあるため、入ってすぐのところに鍵が取りつけられていた。狭い中では、二人も入れば、もう身動きが取りづらい。目の前にある自分のズボンを、俺は脱がせる。その間、芽衣は顔を覆ったままだった。
「お、おい……ちゃんと、ち○こぐらい持って」
「う、うん……」
相変わらず目は逸らしたままだったが、俺は自分の手(中身は芽衣)をあそこへ持っていく。ぎこちない仕草で、芽衣は初めての、男根による放尿を経験した。……いや。なんだ、これ。介護か。
「まあ。ちょっとずつでもいいから、慣れていかないとな」
「ちょっとずつって言っても、叔父さんはパパが迎えに来て行っちゃうんじゃ……?」
ああ……そうだな、確かに。芽衣の指摘は、ごもっとも。しかも、その期日は今日だ。ここに住めるよう、兄貴に提案してみるか。
正午過ぎ。
お腹が空いたという芽衣が台所へ立ち、俺の身体で料理を再び始める。この見慣れない光景の横で、俺は夏休みの宿題をしていた。筆跡は身体のものらしく、芽衣の代わりに書くしかない。久しぶりに頭を使った俺は腹ペコだった。
食べ終わったのち、俺はこの状況を整理してみる。皿洗いを終えた芽衣が、一緒にテレビを見始めた。いろいろと考えてみたが、入れ替わった原因って、これしか考えられなくないか? あれが夢ではないとするのなら。
「もしかして、昨日のセックスが関係ある?」
「セッ……なんですか?」
テレビの音で掻き消された、というわけでもなさそうだ。目を丸くした芽衣が訊き返す。小学五年生なら、知っていても不思議ではなさそうだが。
「セックス。あれ? 保健体育で、習ってない?」
「それって、えーっと……あの、つまり、あの行為ってことですか」なんだ、恥ずかしがっているだけか? 夢の中の芽衣は積極的だったぞ。「それって、だ、誰が?」
「俺と、芽衣が……」
「えっ? わたし……えっ? なに、言ってるんですか?」
「……本当に、知らない?」
「は、はい……」
耳まで真っ赤にした芽衣は、心底戸惑ったような表情を見せる。眉根を寄せ、怪訝そうな面持ちだ。目を何度も瞬き、若干引いているようにも見える。
なんだ? これじゃあ、俺がセクハラしているみたいではないか! いや。実際、セクハラどころではないことを、姪っ子相手にしてしまったのかもしれないが。
そんな顔をしないでくれ。なんだか芽衣の戸惑いようは、下ネタにドン引きの女の子そのものだ。この表情を見る限り、本当に知らなさそうだった。じゃあ、やっぱりあれは、酔っていたときに見た夢だったのか?
そうなると、とんでもなくヤバイことを、俺は口走ってないか?
小学五年生の女の子を捕まえて、自分の妄想を話した童貞。これ、一発で逮捕案件じゃないか? 俺は急激な気恥ずかしさを覚え、取り繕うに慌てて言い放った。
「あ、いや、その……忘れてくれ!」
その日、兄貴が迎えに来るまで、俺たち二人は、気まずい時間を過ごすことになった。俺は宿題に逃げ、芽衣はぼーっと、いままで俺がしてきたのと同じように、怠惰な時間を過ごすばかりだ。
一通り宿題を終え、充電していたパソコンをコンセントから抜く。パスワードを入力するだけなので、こっちはすんなりと開いた。いま途中の原稿を、久しぶりに書き進めよう。下手すればこの状況が、次のヒットを生むアイディアに繋がるかもしれない。
ところが指は微動だにせず、俺は別のことに脳みそを使っていた。よくよく考えてみて、逆に言えば強制性交にならず、セクハラ程度で済んだのなら、そっちのほうがいいに決まっている。俺の妄言さえ忘れてくれれば、これはなかったことにできるだろう。
俺は神仏に願った。気まずい時間が、早く終わりますように。
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