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第1部:窃盗と盗撮

第14話 カードボード・トイレット。

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 翌日。夜鍋して完成させた工作を、朝一番にマリヤへと見せた。それは、家に余っていたダンボールで作った、お手製の便座である。俺が実際に何度も座って実証したから、小学二年生の体重で壊れるほどの耐久性ではないはずだ。


「座ってみて。sit down please.シット・ダウン・プリーズ


 便器の上にかぶされたダンボールへ、マリヤはズボンを穿いたまま、おそる恐る腰をろす。すると、すぐにマリヤは「Здорово!ズドーロボ!」と歓声を上げる。


 ロシア語の意味はわからないが、とても喜んでくれているようで何よりだ。目測通り、少女の小さなお尻にぴったりとフィットした便座は、思った以上に安定している。これだったら何回でも使えて、早々に崩れることはないだろう。いちいち用を足すときに運び入れるのも面倒だし、教室で保管しておくにも場所を取ってしまう。校長にかけあって、このトイレ内に置かせてもらおう。


You can use it anytime.ユー・キャン・ユーズ・イット・エニタイム


Аригатоу.アリガトウ
 俺に対して、つたない日本語を返してくれる。そう言われ、俺は素直に嬉しく感じた。なんだか、教師らしいことをしたなあ……感慨にひたっていると、マリヤはさっそく、設置したばかりの個室に入って、内側から鍵をかけてしまう。


 このときになって、俺は気づいてしまった。これを作ったことによって、「手伝う」という大義名分を失ってしまったのだ。俺は、ドアの外から「ア、I'll anytime help you.アイル・エニタイム・ヘルプ・ユー」と声をかけるが、返ってきたのは「Thank you.」という寂しい反応のみだった。


 まずいことになってしまった、教師らしいことをするんじゃなかったと、今更ながら後悔が込み上げてくる。喜ぶ顔見たさに、とんでもないことをしてしまった。とんでもない……? いや、しようとしていたことのほうがとんでもないことで、これは教師として真っ当なことだ。もちろん、それはわかっているが……


 廊下から聞こえてくる、登校してきた児童たちの話し声が、次第に大きくなってくる。男子児童がトイレに入ってきて、個室の前で仁王立ちする俺のことを、いぶかしげにガン見してくる。子供っていうのは、どうしてそんなに、ジロジロ見てくるかね。これが幼女だったら嬉しいのに。


「じゃ、じゃあ……あとは一人ひとりでできるな? 先生は、もう……I'll be back to the class room, so take your time.アイル・ビー・バック・トゥ・ザ・クラス・ルーム・ソゥ・テイク・ユア・タイム


 少々芝居がかった「付き添いの、いい先生」を演じ、個室に向かって声をかけた後、俺は教室へと戻った。前半は男子児童に向けたもので、最後の言葉は、もちろん個室内のマリヤに向けたものだ。


 二時間目の授業が終わり、三時間目が始まる前の休み時間。受け持ちではない学年の女子児童たちに、声をかけられる。たぶん、身長・胸のふくらみ具合から察するに、三年生くらいだろうか。彼女たちの話を聞くに、もう段ボール便座のうわさが周知されているようだった。


「あれ、めっちゃよかったぁ!」


「え?」


「しゃがまなくていいもん」
「うち、しゃがむん苦手~」
「わかるゥ」


 きゃいきゃいと、女の子たちは喜んでくれた。日本人でも、同じような悩みを抱えているらしい。そのときになって初めて、和式便所に不慣れな、最近の小学生事情に気づかされた。思ったよりも深刻な問題そうだ。久しぶりに、俺の股間は沈静化していく。いい先生の態度を崩さず、俺は笑みを浮かべる。


「そうか、よかった。これからも、みんな、どんどん使ってね」
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