盲目のラスボス令嬢に転生しましたが幼馴染のヤンデレに溺愛されてるので幸せです

斎藤樹

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ローナ 13歳編

ひとり反省会と、付き合う兄

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「な~~~~~~にが、『ローナが好きだからだよ』なもんですか!セシル一筋なので響きませんけれど、あまりの心無さにちょっとだけ……ほんのちょっとだけ傷ついてしまったのですけれど!?」
「……よし、よし」
「んんん、許せない……せっかく、せっかくお茶会に向けて色々と対策を立てていたのに……」
「よし、よし」


 「ブラウエ・ブルーメの会」への招待から二日が経った今日ーー私は13年間で完璧に仕上げた淑やかな令嬢の面をかなぐり捨て、怒りのままにクッキーを貪るように口へ運んでいた。

 隣に座る兄さんは、私の淑女らしくない行動を咎める事なく、「よしよし」と言いながら頭を撫でてくれる機械になっている。


「……結局、何も得たものはありませんでした。ただただ、彼の方の掌の上で転がされただけに終わってしまったもの」


 本当は、現実の何倍もの爪痕を残すつもりでいたのに。


 結局、うっかり・・・・涙を落としてしまった私を目にした王太子殿下から、久しぶりにゆっくり話せて良かったと言われて、これ以上の用はないと言わんばかりに帰宅を促された。

 まだ王太子殿下に言いたいことや聞きたいことが沢山あったけれど、優しく手渡された偽物の「好き」を持て余していた私は何の意趣返しも思いつかなくてーー気がついた時には馬車に乗っていた。

 どうやって退室したのかも覚えてなくて、ただ一つ記憶にあるのは、リーヴェ邸に戻るまでずっと、セシルが私の手を握っていてくれたということだけ。


 どうしてあんなにも王太子殿下の発言にショックを受けていたのかは、改めて冷静に客観視して分析してみるに「私は、こんな偽物の感情に人生を振り回されているのか」という衝撃だったのだと思う。


 反省ついでにハァと深いため息を吐いた私に、兄さんは慰めてくれようとしているのか「そんな事はない」と否定の言葉を呟いた。

 荒れている私を慰めようとしてくれるのは有り難いが、すぐに何も変わっていない現状が突きつけられて虚しいだけだ。

 だから「お気遣いは有難いですが……」と紡ごうとしたのだが、それよりも先に兄さんが続きを話す方が早かった。


「エルンスト公爵の戦争案に賛成したのが王太子殿下だとわかった。それだけで十分だ」
「と、言いますと?」


 父が話してくれた「王太子殿下とローナ・リーヴェの婚約破棄について」の貴族院会議の様子は、私だけでなく兄も同時に聞いていた。

 その時にエルンスト公爵の案に王太子殿下がのったと、同じように聞いていた筈だけれど。


「ローナをより追い込む為には、我々が知りえないような事実を言うのが定石だろう。例えば、父親である国王陛下もその案に賛成している、とか」
「……私を追い込むためだけにそのような重要事項を、あくまで一臣下である私とセシルに教えるはずが……」
「どうだろう。私は、あの方ならやりかねないと思うが」


 うーん……そうかしら。
 でもそんなことを私に話してしまったら、王太子殿下にとっての不利益がかなり大きいのではないだろうか。


 戦争案に反対しているのは、何もリーヴェ家だけではない。

 先の戦争である五年戦争で、軍事同盟国としてサポートで参加しただけのクロイツでさえも国力の低下が見られたのだから、それ以上の被害を被ることになるかもしれない戦争に主戦力として参加しようものなら、どうなるかなど火を見るよりも明らかで。


 だから陛下や殿下という国を動かす最高権力者たちが戦争に賛成しているという情報を私やセシルが流してしまえば、たちまち国内で革命や反乱やらが起きかねないーーと、ここまで考えて私はハッと気付かされた。

 兄も私の考えが至った事に気がついたのだろう。肯定の言葉を返す代わりに、前髪を優しく撫でられた。


「そうなれば、ローナやセシルは絶対に・・・誰にも話さないだろう。自分たちが話すことで起こりうる事態を想像できるほどに賢いと評価して、殿下はローナを追い込む為だけに嬉々として話すだろう」
「では……」
「殿下がそうしなかったという事は、陛下は戦争案に反対、もしくは反対寄りなのだろう」


 「それがわかっただけでも十分な成果だ」と兄さんは微かな微笑みの音を交えながら言って、改めて私の頭を撫でた。

 目から鱗の情報に、やっぱり兄さんはすごい人だと感心する。
 尊敬の念を込めて兄さんがいるだろう方を見つめると、誤魔化すように手のひらで目を覆われた。


「……兄さんは褒めてくださったけれど、それでも私の中には悔しさが残っておりますもの」
「…………」


 適度な温かさが伝わってくる、微睡むような眠気を誘う瞼の上の手のひらを退けて、歯痒さから滲む後悔の色を乗せた声で呟いた。


「せっかく、ヘンリー様にも一筆書いていただいたのに……」


 つい玩具を取り上げられて拗ねた子供のような声色になってしまったが、しかしそうなるのも致し方ないというものだ。


 自然と視線は厳重に手紙がしまってあるだろう方へ向き、白い視界の奥にあるだろう姿を思い浮かべた。

 兄さんに読み上げてもらった手紙の内容を思い出し、呆然とするのではなく反論すべきだったと改めて反省してガックリと肩を落とす。


「ヘンリー様はお気になさらないだろう。一応、私から王家に伝えられなかったと手紙を出すが」
「お忙しい中くださったお手紙だったのに……」


 兄さんはそう言うけれど、普段は私的な手紙のやり取りさえままならないくらいお忙しいお方なのだ。

 具体的にどれほどヘンリー様が忙しいかというと。



 大国一つとその配下の国々の運営に日々追われなくてはならないくらい、お忙しい方である。



 つまりヘンリー様とは母の一番上の兄の御子息で、私たち兄妹の従兄にあたるーーレーヴェ王国の国王陛下のことである。


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