盲目のラスボス令嬢に転生しましたが幼馴染のヤンデレに溺愛されてるので幸せです

斎藤樹

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ローナ 13歳編

ラスボス令嬢vs悪役令嬢?

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 何かにつけて恋人の有無を確認してくるオバさんに捕まった時も大体こんな感じだったな……面倒だから答えたくないんだけど、近所付き合いがあるからある程度会話しなければならなくて大変だった……と前世に想いを馳せつつ、私はウェイターがいるだろう方に向けて笑顔を浮かべた。


「どんな玄人であってもミスは起こり得るものですから。私は怪我をしておりませんし、貴方も怪我をしていないのなら、この場はそれで収めるべきだと思うのです。そういう訳ですので……どうでしょう、怪我などはありませんでしたか?」
「は、はひぃ……」
「そうですか。それは良かった」


 一応本当に彼女の怪我の心配していたので、胸を撫で下ろして微笑む。

 さあ、これでリーヴェとしては「ウェイターおっちょこちょい事件」の幕を閉じていいのだが……そうはいかないのが、この事件を引き起こさせただろう人物。


 ウェイターの過剰な謝罪の割に、ドレスを汚した事で控室に案内する等の対処が見られなかった時点で、彼女が誰かに私たちの足止めを指示され、やらされたのだという事はわかっていた。


「随分とお優しいのですわねぇ!わざわざ流行遅れのとっても素敵なお召し物を今宵に選んで着てこられたのですから、さそがし思い入れのあるものなのでしょう?それを給仕ごときに汚されたのですから……然るべき対処というものがあるのでは?」


 そんなこと言われましても。

 確かに流行りのデコルテ見せの肩出しドレスではないが、これはセシルに選んでもらったので。


 セシルに、選んで、もらいましたもので!!


 清楚系好きなセシル曰く「肩を見せるのも胸元を強調するのも許せない。絶対に嫌だ。そういうのはせめて二人だけの時にしてくれ」との事なので、今夜の私は……否、今夜の私流行りとは正反対のドレスを身につけている。

 ここ最近、セシルが本格的に普段身に付けている服にも口を出すようになってきた。
 別に気にしてないどころか嬉しいとさえ思っているけれど、女子として好きな人に服装を全部任せているのもどうなのかと思わなくもない。


 そういう訳で、わざわざ選んで着てきたと言われるほど思い入れがあるかというと、何とも答えにくい。
 セシルが、これが好きだっていうから着て来ただけなので……。


「然るべき対処は必要ありません。双方に怪我など無かったのですから。それとも、貴方に何か被害がありましたか?」


 さっきもウェイターに向けて同じ事を言ったが、カミラに対しても同じ内容を繰り返す。

 もしもカミラ自身にも被害があったとしたら、今以上に喚いていただろうことは想定済みである。
 だから彼女の答えは……。


「……ありませんわ」


 そうでしょうとも。
 心の中で大いに頷いて、表では「それはよろしゅう御座いました」と微笑んだ。


「でも、ドレスはどうなさいますの?私、本当にそのドレスが素敵だと思って、心配しているのですわ。だってそのような型、お婆様の家でしか見たことがなかったものですから、珍しくって!」


 悪かったわね、古臭くて。
 でもバーンッ!と成長途中の無い胸を強調するよりは、よっぽど謙虚で身の程を弁えていると思いますけれど!好きな人の好みに合わせられるし!

 とは言えないので、代わりに「恐れ入ります」と適当な返事を返しておく。


 というかこの状況、彼女はちゃんと理解しているのだろうか?

 私にちょっかいをかけるために足止めさせたまでは明確な証拠がないのでともかくとして、一応お互い初対面なので、名乗りもせずに突然話しかけてくるのは完全にマナー違反である。

 下位の家柄から上位の家柄に対して挨拶を始めるのが基本だが……。


「お可哀想に……ええっと、何というお名前の方でしたっけ?私、お友達は多いのですけれど、王妃様が招いて下さるお茶会にいらっしゃらない方は存じ上げませんの」


 ああ、そうか。これが目的か。


 カミラは私から・・・名乗らせたいのか。


 社交界での私の地位を低いものにする為に歓談という名の蹴落とし合いを挑みに来たついでに、リーヴェとベーゼヴィヒトの上下関係を周りに示しに来たというところか。

 随分と舐められたものだ。


「私のことはお気になさらず。もう帰るところでしたので。それでは、ご機嫌よう」
「えっ、ちょっと……!」


 こういうのは相手の挑発に乗らず、「貴方に知られていようがいまいがどうだっていい」の姿勢で跳ね返してしまえばいい。

 実際、これから先ゲームのシナリオを考えると彼女と知り合っても何も良いことはない。


「お待ちなさい!私の話が途中でしてよ!」
「いいえ、もう済みました。ウェイターの件は解決致しましたし、ドレスのことも、名前のことも、帰宅する者には必要のないことでしょう?」
「っ……」


 第一、"盲目の令嬢"として不本意ながら名を馳せている私を知らない貴族がこの国にいる筈がない。
 腐っても王太子殿下の元婚約者なのだから。

 そんな私に対して「お名前は?」は冗談もいいところだ。

 いくらベーゼヴィヒトを優位に立たせようとしての行為だとしても、それは自分の無知を、貴族としてもぐりだとひけらかしているに過ぎない。


 再び兄さんにエスコートされて歩き出した私の後ろで、今度は子爵ではなくカミラがヒステリックに叫んでいる。

 今日はそういう風に見送られる運命なのかと、優雅では無いが鼻で笑いたくなった。


「待ちなさいよっ……待ちなさい、阿婆擦れ!この私が待てって言ってるのよ!!」


 "阿婆擦れ"は言っちゃダメでしょうーーそう思った矢先、そんなカミラを制止する声がした。



「もう諦めなよ、カミラ。みんながこっちを見てる」



 声変わり前の柔らかいテノール。
 ゲーム内で聞いていたのとはまだ違うけれど、カミラを呼んだという事は、彼で間違いないだろう。


「黙りなさい、グズ!どうしてお前が私に指図できると思って……」
「カミラ。周りをよく見るんだ」
「……っ!何よ、見せ物でなくってよ!」


 ゲームではいつでも明るかった彼が一つ下の女の子にグズ呼ばわりで、でもそれを咎める事はできなくて、暗いトーンで淡々と最低限の注意しかできない状況に人知れず胸が痛む。


「大変だな。リスティヒも」
「……ええ、そうですね」


 彼の名はーーロルフ・リスティヒ。

 男児を授からなかったベーゼヴィヒト家から婿入りを強引に決定された、伯爵家の次男である。


 彼のルートでカミラとの関係が語られたので、すぐ近くから聞こえる一言一言のトゲのある言葉がどれほど年季の入ったものかを、私は知っている。


 いつの間にか私は自然とロルフがいるだろう方を向いて、同情に眉を下げていた。



「ーーっ」



 それを見ていた人がいたとは、露程も知らずに。


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