盲目のラスボス令嬢に転生しましたが幼馴染のヤンデレに溺愛されてるので幸せです

斎藤樹

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ローナ 10歳編

兄妹仲は如何程か

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 イーサン・リーヴェ。

 "ラスボス令嬢"ローナ・リーヴェの10歳も歳の離れた実兄で、『シンデレラの恋 ~真実の愛を求めて~』にて年上兼ミステリアス担当の、全キャラ全ルート攻略後に現れる隠しキャラである。

 他の攻略対象者たちに比べてダントツに年齢が上なため、他にはない年上の魅力やちょっとしたお色気キャラも担っていた。


 見た目はローナの男版といっても過言ではないほどにそっくりな兄妹だがーー二人の仲は壊滅的と言っていいほど、最底辺に悪い。


 どれほど二人の仲が悪いか。


 『シンデレラの恋 ~真実の愛を求めて~』では攻略対象者との仲を深めるためのシステムとして『街でデート』の機能があるのだが、その時にヒロインの服を指定することができる。

 コーディネート次第では好感度が上がったり、はたまた下がったりするその機能。

 スタッフのお遊び要素として、"とある服"を得ることができる。
 全ルート攻略後の特典に、隠しキャラルート開放と共にプレゼントされるそれ・・


 凝ったんだろうな、とは思う。わかる。
 めっちゃ可愛いし、綺麗だし。最高だな、ヒロインに着せたいなと思わなくもなかった。


 でもね?
 だからといって、真相全てを暴いた後に特典としてーー『ローナのドレス』をプレゼントするのは如何なものかと。
 遊びすぎじゃない?


 そしてその『ローナのドレス』を着用してイーサンとのデートの待ち合わせに行くと……。


『……気分が悪い。帰らせてもらう』


 と言って、マジで帰る。
 しかもどんなに高い好感度も底辺になる。

 さらに、その後イーサンをどんなにデートに誘おうとしても断られる。

 イーサンは年齢的に学園に通っていないので、好感度を上げるには『街でデート』モードしかないのに、延々断られる。

 つまり『ローナのドレス』をイーサンとのデートで一度でも着て行ったら、攻略失敗となるのだ。


 ……どれほどイーサンが妹のローナを嫌っているかが明確にわかる設定だった。


 まあ、隠しルート解放前から、断罪劇にて娘を切り捨てきれない両親に代わって完璧に揃えられた縁切りの手配や、僻地への病院送りの手配を進めるのがイーサンなので、ローナのこと嫌いなんだろうなとは思っていたけど。


 ローナの方も、どのルートにおいても兄に関する言及を一切しないどころか、プレイヤーは卒業パーティーの断罪劇でようやく彼女に兄がいたことを知るくらいなので。


 ーーところで今までの十年間の記憶はどうかというと。


 本当に家族か?というくらい、関わり合いがない。

 仲が悪い以前に、二人に"仲"が無いのだ。

 日本で生きた一般人としての前世の記憶が思い出されても、今まで普通に呼んでいたからこそ口に馴染んでいた「お父様」や「お母様」とは違い、「お兄様」に関しては最後にいつ呼んだか思い出せないくらい遠くの記憶で、口馴染みが無い。


 前世の感覚からしたら、正直「お兄様」なんて兄をそんな風に呼ぶのは萌えキャラくらいしか知らない。あとはそういうお店の店員。

 だから先程は抵抗感と馴染みのない言葉に、「オニイサマ」と片言になってしまったのだ。



 そんな訳でーー例えお互い家に居たとしても、何をしていようが関わってくるはずがないと思っていたイーサンが突然話しかけてきたことに、私はかなり動揺した。
 隣のアンも、同じく。


「何をしている、と聞いたんだが」


 挨拶よりも質問に対する答えを求めてくる、なんとも合理的な発言。


 父の後を継ぐ未来の外交官として、イーサンの外面はかなり良い。
 だが身内や友人に対して本当の自分を曝け出す時の彼は、無表情かつ会話に合理性を求めてくるタイプなのだ。

 決して機嫌が悪いとか、私のしていたことが不愉快で注意しているとかではない。


 その証拠に、見えない私だからこそ普通よりも発達してきている耳が彼の感情を聞き分けていた。

 この人は本当に、疑問に思ってるだけだ。


「一人でも車椅子を動かせるよう、練習をしておりました」
「なぜだ。お前には使用人やフントの子息が側にいるだろう。練習の必要性を感じない」


 ぶっきらぼうな話し方……。
 という事は目の前にいるイーサンは、私のことを嫌ってはいないという事だ。

 イーサンルート攻略を思い返してみるに、最初は外向きの完璧な笑顔でヒロインに接してくるイーサンだが、好感度が上がると少しずつ厚い外面の面が剥がれ、ぶっきらぼうな彼が現れる。


 ゲームでのイーサンが妹をあんなにも嫌っていた理由は、今までの特に関わり合いのない記憶からも察せられるに、激変後の性悪ローナが原因だったということだろう。


 だとすると、この人は私のことを一応身内……家族として認識はしているのか。
 突然の襲撃に緊張していた私の肩から力が抜ける。

 そうとわかれば、お父様やお母様を相手にしているくらいの気持ちで挑もうではないか。


「ですが、"もしも"が無いとは言い切れないと思うのです。アンやセシルが側にいない時に私がその場から動かねばならない状況で、例え周りに人がいたとしても、その人に車椅子の心得があるとは限らない。そんな時は、その方には私の目として、私を誘導していただけたら問題は解決すると思うのです」
「…………」
「ですから一人でも操縦できるよう練習しておくのは、必要なことだと思いませんか?」


 反応が返ってこない。
 ……年下の女の子に反論されてイラッとしたとか?

 どうしよう。家族認識なら大丈夫かなと思って素直に話したんだけど、ダメだったかな?

 ゲームでローナを実質的に色々と追い込む役割のこの人を、あんまり敵に回したくないんだけど……。


 そんな私の心配を他所に、たっぷりと時間を置いてからイーサンは小さな声で「成る程」と呟いた。


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