10 / 84
ローナ 10歳編
二人の関係はゲームが全てではないかもしれない
しおりを挟むえっと……?
『良かった、君に嫌われたのかと思ったよ』……?
何となく違和感を覚える言葉。
それじゃあまるで、王太子殿下はローナに嫌われたくないと言っているような……?
……いやまあ、好きでも嫌いでもない相手だったとしても、嫌われてるとなるとちょっと傷つくもんね。
それが将来結婚するかもしれなかった人なら尚更で。
……それだけの、話よね?
「王太子殿下を嫌うなど、クロイツの民としてそのようなことはあり得ません」
「……クロイツの民としてなの?それにさっきも言ってたけど、"王太子殿下"って……どうして僕のこと、いつもみたいに『アルブレヒト』って呼んでくれないの?」
「えっ……と……」
いやだって貴方、私との婚約を破棄するお話をしに来たのよね?それはゲームの知識云々でなくとも、盲目がわかった時点でみんなが予想できる事柄だったわけで……。
つまり私たちは婚約者の間柄ではなく、将来の君主とその家臣という関係に戻るということ。
だから、私は王太子殿下とお呼びしてるのであって……。
「僕が会いに来た理由を、聡明な君は察しているというわけだ」
まあ……そりゃあ、ねえ。
両親は殿下の手紙が届いた際に腫れ物にでも触れるかのようにやんわりと接してきたし、今日の昼食は私の好きな物で揃えられていた。
誰もが婚約破棄を察して私を気遣う中で、「何にもわかりません」なんていうのはあり得ない。
だからそんな風に言われる筋合いは無いというか……。
そもそもなんで、王太子殿下はそんなに不服そうなの……?
様子のおかしい王太子殿下にとりあえず何か言わなければと頭を回して、私は繰り返したシュミレーションの言葉を実行することにした。
「此度は私の落ち度により、折角王太子殿下とのご縁を結んでいただきました国王陛下ならびに関係者の方々を裏切るような真似をしたこと、深くお詫び申し上げます」
ピクッと重なっている王太子殿下の手が震えた。
けれど言葉を止めるつもりはなく、私は続けて口を開く。
「これからは貴方様に仕える一家臣として、今までにいただいた美しい思い出を胸に抱き、国家に忠誠を誓いたいと思います」
「…………」
反応がない。
失礼にならないように言葉を選んだつもりだったが、失敗だろうか?
慌てて次のプランである「お菓子を食べて和気藹々しつつ帰宅を促す」に移行しこうと手を解こうとしたのだがーー。
逆に、離そうとした手を逃がさんとばかりに掴まれた。
アンに指示を出そうとしていたのを止められたのだが、この人でもこんなにも荒々しい動作ができるのかと享受して呑気に感心する。
しばらくその状態が続き、王太子殿下はたっぷりと時間を置いてからようやく口を開いて話を始めた。
「……手短に話すけど、僕の父や母、それと貴族院は、リーヴェとの婚約を白紙に戻すと言ってきた」
拗ねたような声色で、さっさと終わらたいと言わんばかりの早口。
アルブレヒト・メクレンブルガーのキャラクターらしくない余裕の無さに、私は首を傾げる。
もしゲームでもこんな風に破棄を伝えたのだとしたら、ローナが荒れるのも無理はないのでは?と思うほどに乱雑なのだ。
「ーーでも!」
「っはい!」
突然、手がぎゅっと握り締められたので反射的に簡単な返事をしてしまった。
でもそれは王太子殿下のお気に召したようで、今までのとはまったく真逆のーーあるいはゲームでよく聞いたーー体が蕩けそうな甘い声で、私の名を呼んだ。
雲行きの怪しい王太子殿下に、米神から冷や汗が伝う。
嫌な予感がする。
「僕は絶対に、反対だから」
「…………エッ……?」
ハンタイ……?
ハンタイって何だ……戦隊の親戚か何か?
ハンタイ、はんたい……反対。
ーー反対!!?!?
「何をおっしゃっているのですか!」
王太子殿下相手だということを忘れ、私は思わず声を荒げて叫んだ。
反対って!?婚約破棄について反対って、なに!?
破棄を反対するというなら、つまりはその、婚約はそのままの状態になるということになるわけで。
……なんで!?
「父と母が頷いたら貴族院は自ずと頷かなければならなくなるから、絶対に二人を説得してみせる。だからローナ、君は僕の婚約者のままだ」
待って待って待って待って!!
私を置いて、どんどん話を進めないでいただけますかね!?
私は王太子殿下との婚約を破棄したかったから、だからゲームのローナの通りに粛々とそれを受け入れたわけで。
その通りになれば、ゲームのシナリオ通りに彼は勝手に私を恐れて破棄してくれた筈で。
何?私は何を間違えたの?
天使のような少女が悪魔を背負っていたという点が違うというなら、元一般人だった前世を思い出したところで悪魔は流石に背負えないけど、でも確実に天使ではなくなったはず。
天使ってほど純粋無垢だった美少女に、それなりに汚れた大人の記憶が足されたのだ。天使はない。ありえない。
なんだったら、自分で羽をもぎ取ったくらいに思ってたのだけれど……。
「ローナ。今までは殆ど会う機会がなかったけど、これからはもっと君と時間を共にすると約束する」
「アノ……ソノ……デンカ……」
「アルブレヒト、でしょ?」
ひえっ。
この人本当に十歳か?
十歳とは思えない色気が、私の視界を埋め尽くす白い光の中から伝わってくる。
見えないはずなのに、王太子殿下の顔が私にどんどん近づいてきてるのがわかる。
どうしよう。抵抗するのに殿下の体を押したいのに、どこにあるかわからない。
顔を押し返してしまえばいいのかもしれないが、周りにいるだろう従者たちの反応が怖い。
「ローナ……」
ーーもう駄目だ、私が確かにそう確信したその時。
「お戯れにしては度が過ぎているのではないでしょうか。アルブレヒト王太子殿下」
いるはずのない人の声が、静かな自室に響き渡った。
4
お気に入りに追加
852
あなたにおすすめの小説

ヤンデレお兄様に殺されたくないので、ブラコンやめます!(長編版)
夕立悠理
恋愛
──だって、好きでいてもしかたないもの。
ヴァイオレットは、思い出した。ここは、ロマンス小説の世界で、ヴァイオレットは義兄の恋人をいじめたあげくにヤンデレな義兄に殺される悪役令嬢だと。
って、むりむりむり。死ぬとかむりですから!
せっかく転生したんだし、魔法とか気ままに楽しみたいよね。ということで、ずっと好きだった恋心は封印し、ブラコンをやめることに。
新たな恋のお相手は、公爵令嬢なんだし、王子様とかどうかなー!?なんてうきうきわくわくしていると。
なんだかお兄様の様子がおかしい……?
※小説になろうさまでも掲載しています
※以前連載していたやつの長編版です

じゃない方の私が何故かヤンデレ騎士団長に囚われたのですが
カレイ
恋愛
天使な妹。それに纏わりつく金魚のフンがこの私。
両親も妹にしか関心がなく兄からも無視される毎日だけれど、私は別に自分を慕ってくれる妹がいればそれで良かった。
でもある時、私に嫉妬する兄や婚約者に嵌められて、婚約破棄された上、実家を追い出されてしまう。しかしそのことを聞きつけた騎士団長が何故か私の前に現れた。
「ずっと好きでした、もう我慢しません!あぁ、貴方の匂いだけで私は……」
そうして、何故か最強騎士団長に囚われました。

軽い気持ちで超絶美少年(ヤンデレ)に告白したら
夕立悠理
恋愛
容姿平凡、頭脳平凡、なリノアにはひとつだけ、普通とちがうところがある。
それは極度の面食いということ。
そんなリノアは冷徹と名高い公爵子息(イケメン)に嫁ぐことに。
「初夜放置? ぜーんぜん、問題ないわ!
だって旦那さまってば顔がいいもの!!!」
朝食をたまに一緒にとるだけで、満足だ。寝室別でも、他の女の香水の香りがしてもぜーんぜん平気。……なーんて、思っていたら、旦那さまの様子がおかしい?
「他の誰でもない君が! 僕がいいっていったんだ。……そうでしょ?」
あれ、旦那さまってば、どうして手錠をお持ちなのでしょうか?
それをわたしにつける??
じょ、冗談ですよね──!?!?

悪役令嬢の生産ライフ
星宮歌
恋愛
コツコツとレベルを上げて、生産していくゲームが好きなしがない女子大生、田中雪は、その日、妹に頼まれて手に入れたゲームを片手に通り魔に刺される。
女神『はい、あなた、転生ね』
雪『へっ?』
これは、生産ゲームの世界に転生したかった雪が、別のゲーム世界に転生して、コツコツと生産するお話である。
雪『世界観が壊れる? 知ったこっちゃないわっ!』
無事に完結しました!
続編は『悪役令嬢の神様ライフ』です。
よければ、そちらもよろしくお願いしますm(_ _)m

愛する殿下の為に身を引いたのに…なぜかヤンデレ化した殿下に囚われてしまいました
Karamimi
恋愛
公爵令嬢のレティシアは、愛する婚約者で王太子のリアムとの結婚を約1年後に控え、毎日幸せな生活を送っていた。
そんな幸せ絶頂の中、両親が馬車の事故で命を落としてしまう。大好きな両親を失い、悲しみに暮れるレティシアを心配したリアムによって、王宮で生活する事になる。
相変わらず自分を大切にしてくれるリアムによって、少しずつ元気を取り戻していくレティシア。そんな中、たまたま王宮で貴族たちが話をしているのを聞いてしまう。その内容と言うのが、そもそもリアムはレティシアの父からの結婚の申し出を断る事が出来ず、仕方なくレティシアと婚約したという事。
トンプソン公爵がいなくなった今、本来婚約する予定だったガルシア侯爵家の、ミランダとの婚約を考えていると言う事。でも心優しいリアムは、その事をレティシアに言い出せずに悩んでいると言う、レティシアにとって衝撃的な内容だった。
あまりのショックに、フラフラと歩くレティシアの目に飛び込んできたのは、楽しそうにお茶をする、リアムとミランダの姿だった。ミランダの髪を優しく撫でるリアムを見た瞬間、先ほど貴族が話していた事が本当だったと理解する。
ずっと自分を支えてくれたリアム。大好きなリアムの為、身を引く事を決意。それと同時に、国を出る準備を始めるレティシア。
そして1ヶ月後、大好きなリアムの為、自ら王宮を後にしたレティシアだったが…
追記:ヒーローが物凄く気持ち悪いです。
今更ですが、閲覧の際はご注意ください。

転生したら、6人の最強旦那様に溺愛されてます!?~6人の愛が重すぎて困ってます!~
月
恋愛
ある日、女子高生だった白川凛(しらかわりん)
は学校の帰り道、バイトに遅刻しそうになったのでスピードを上げすぎ、そのまま階段から落ちて死亡した。
しかし、目が覚めるとそこは異世界だった!?
(もしかして、私、転生してる!!?)
そして、なんと凛が転生した世界は女性が少なく、一妻多夫制だった!!!
そんな世界に転生した凛と、将来の旦那様は一体誰!?

記憶を失くした代わりに攻略対象の婚約者だったことを思い出しました
冬野月子
恋愛
ある日目覚めると記憶をなくしていた伯爵令嬢のアレクシア。
家族の事も思い出せず、けれどアレクシアではない別の人物らしき記憶がうっすらと残っている。
過保護な弟と仲が悪かったはずの婚約者に大事にされながら、やがて戻った学園である少女と出会い、ここが前世で遊んでいた「乙女ゲーム」の世界だと思い出し、自分は攻略対象の婚約者でありながらゲームにはほとんど出てこないモブだと知る。
関係のないはずのゲームとの関わり、そして自身への疑問。
記憶と共に隠された真実とは———
※小説家になろうでも投稿しています。

婚約者を奪い返そうとしたらいきなり溺愛されました
宵闇 月
恋愛
異世界に転生したらスマホゲームの悪役令嬢でした。
しかも前世の推し且つ今世の婚約者は既にヒロインに攻略された後でした。
断罪まであと一年と少し。
だったら断罪回避より今から全力で奪い返してみせますわ。
と意気込んだはいいけど
あれ?
婚約者様の様子がおかしいのだけど…
※ 4/26
内容とタイトルが合ってないない気がするのでタイトル変更しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる