上 下
7 / 84
ローナ 10歳編

君は俺のたからもの 後編 ーセシル視点ー

しおりを挟む


「それでも罪を償いたいと言うのなら……どうか、私のそばにいて。見えない私の、"目"になって」


 悪夢から飛び起きて真っ先にローナの部屋へ向かい、医者からの宣告を受けた彼女に差し出したのは、正真正銘俺の命だった。

 失明した彼女への償いとなるなら死すら厭わないと本気で思っていたのに、ローナは俺が側にいることを望んだ。


 まさか、そんな。
 都合のいい、反吐が出る夢でも見ているのだろうか。

 永遠に治せない傷をつけたくせに、まるで彼女が俺を求めているかのような言葉を向けてくれる夢を見ているだなんて。

 自分は決して性格のいい人間ではないと思ってはいたが、こんなにもクソ野郎だったのだろうか。


 最低だ。最悪な野郎だ。


 ……でもそれじゃあ、この手に感じる本物の温かさはなんだろう。

 雪のように白い小さな手が、無骨でマメだらけの手を握りしめているのは何だというのだ。


 前を見ると、この世で一番美しいと思う女の子が決死の覚悟を滲ませて、見えなくなってしまったはずの蜂蜜色の瞳で俺をじっと見据えていた。

 彼女の強い想いが、俺の奥の奥に染み渡っていく。


 ーー夢でもなんでもない、本当のローナが、そばにいることを望んでいる?


 そんな筈はないと、どこか奥深くにいる俺が叫んだ。

 だって彼女は王太子殿下の確固たる婚約者で、彼女もまたそれを遺憾無く受け入れていた。

 俺たちは友人同士としてしか会うことは許されず、その関係もリミットのあるものだ。


 でも……そんな奥深くにいる俺よりも、目の前にいるローナの方が顕著に真実を伝えている。


 彼女が求めているのはーー俺なんだ。


「わかった。俺は、ずっとローナのそばにいる。君の目になる……なってみせる」


 俺がそう言って握り返すと、ローナは嬉しそうに微笑んで頷いた。


 ああ、どうしたことだろう。

 ローナの手を取ってしまった。

 ずっとずっと我慢していた彼女への想いが、無理矢理蓋をしていたところから洪水のように溢れてくる。


 俺の"たからもの"だった君は、思い出と作られた関係の中から飛び出して、現実の俺の手を取ってしまった。

 "たからもの"は枠組みにはめられた物ではなくなり、人となった。



 君が望む通り、俺は君のそばにいよう。

 たとえ君が俺を嫌いになろうとも、前言を撤回しようとしたとしても、絶対に聞いてやれない。


 先に俺の手を取ったのは君なのだ。
 もう二度と、絶対に、君から離れるものか。


 好き、好きだ。
 愛してる。


 どうしようもなくーー狂おしいほど、君が好き。


 どうしようもない俺を、受け入れて。


しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

逃げて、追われて、捕まって

あみにあ
恋愛
平民に生まれた私には、なぜか生まれる前の記憶があった。 この世界で王妃として生きてきた記憶。 過去の私は貴族社会の頂点に立ち、さながら悪役令嬢のような存在だった。 人を蹴落とし、気に食わない女を断罪し、今思えばひどい令嬢だったと思うわ。 だから今度は平民としての幸せをつかみたい、そう願っていたはずなのに、一体全体どうしてこんな事になってしまたのかしら……。 2020年1月5日より 番外編:続編随時アップ 2020年1月28日より 続編となります第二章スタートです。 **********お知らせ*********** 2020年 1月末 レジーナブックス 様より書籍化します。 それに伴い短編で掲載している以外の話をレンタルと致します。 ご理解ご了承の程、宜しくお願い致します。

ヤンデレお兄様に殺されたくないので、ブラコンやめます!(長編版)

夕立悠理
恋愛
──だって、好きでいてもしかたないもの。 ヴァイオレットは、思い出した。ここは、ロマンス小説の世界で、ヴァイオレットは義兄の恋人をいじめたあげくにヤンデレな義兄に殺される悪役令嬢だと。  って、むりむりむり。死ぬとかむりですから!  せっかく転生したんだし、魔法とか気ままに楽しみたいよね。ということで、ずっと好きだった恋心は封印し、ブラコンをやめることに。  新たな恋のお相手は、公爵令嬢なんだし、王子様とかどうかなー!?なんてうきうきわくわくしていると。  なんだかお兄様の様子がおかしい……? ※小説になろうさまでも掲載しています ※以前連載していたやつの長編版です

この世界に転生したらいろんな人に溺愛されちゃいました!

めーめー
恋愛
前世は不慮の事故で死んだ(主人公)公爵令嬢ニコ・オリヴィアは最近前世の記憶を思い出す。 だが彼女は人生を楽しむことができなっかたので今世は幸せな人生を送ることを決意する。 「前世は不慮の事故で死んだのだから今世は楽しんで幸せな人生を送るぞ!」 そこから彼女は義理の弟、王太子、公爵令息、伯爵令息、執事に出会い彼女は彼らに愛されていく。 作者のめーめーです! この作品は私の初めての小説なのでおかしいところがあると思いますが優しい目で見ていただけると嬉しいです! 投稿は2日に1回23時投稿で行きたいと思います!!

軽い気持ちで超絶美少年(ヤンデレ)に告白したら

夕立悠理
恋愛
容姿平凡、頭脳平凡、なリノアにはひとつだけ、普通とちがうところがある。  それは極度の面食いということ。  そんなリノアは冷徹と名高い公爵子息(イケメン)に嫁ぐことに。 「初夜放置? ぜーんぜん、問題ないわ! だって旦那さまってば顔がいいもの!!!」  朝食をたまに一緒にとるだけで、満足だ。寝室別でも、他の女の香水の香りがしてもぜーんぜん平気。……なーんて、思っていたら、旦那さまの様子がおかしい? 「他の誰でもない君が! 僕がいいっていったんだ。……そうでしょ?」  あれ、旦那さまってば、どうして手錠をお持ちなのでしょうか?  それをわたしにつける??  じょ、冗談ですよね──!?!?

長女は悪役、三女はヒロイン、次女の私はただのモブ

藤白
恋愛
前世は吉原美琴。普通の女子大生で日本人。 そんな私が転生したのは三人姉妹の侯爵家次女…なんと『Cage~あなたの腕の中で~』って言うヤンデレ系乙女ゲームの世界でした! どうにかしてこの目で乙女ゲームを見届け…って、このゲーム確か悪役令嬢とヒロインは異母姉妹で…私のお姉様と妹では!? えっ、ちょっと待った!それって、私が死んだ確執から姉妹仲が悪くなるんだよね…? 死にたくない!けど乙女ゲームは見たい! どうしよう! ◯閑話はちょいちょい挟みます ◯書きながらストーリーを考えているのでおかしいところがあれば教えてください! ◯11/20 名前の表記を少し変更 ◯11/24 [13] 罵りの言葉を少し変更

死んだはずの悪役聖女はなぜか逆行し、ヤンデレた周囲から溺愛されてます!

夕立悠理
恋愛
10歳の時、ロイゼ・グランヴェールはここは乙女ゲームの世界で、自分は悪役聖女だと思い出した。そんなロイゼは、悪役聖女らしく、周囲にトラウマを植え付け、何者かに鈍器で殴られ、シナリオ通り、死んだ……はずだった。 しかし、目を覚ますと、ロイゼは10歳の姿になっており、さらには周囲の攻略対象者たちが、みんなヤンデレ化してしまっているようで――……。

ヤンデレ幼馴染が帰ってきたので大人しく溺愛されます

下菊みこと
恋愛
私はブーゼ・ターフェルルンデ。侯爵令嬢。公爵令息で幼馴染、婚約者のベゼッセンハイト・ザンクトゥアーリウムにうっとおしいほど溺愛されています。ここ数年はハイトが留学に行ってくれていたのでやっと離れられて落ち着いていたのですが、とうとうハイトが帰ってきてしまいました。まあ、仕方がないので大人しく溺愛されておきます。

執着系逆ハー乙女ゲームに転生したみたいだけど強ヒロインなら問題ない、よね?

陽海
恋愛
乙女ゲームのヒロインに転生したと気が付いたローズ・アメリア。 この乙女ゲームは攻略対象たちの執着がすごい逆ハーレムものの乙女ゲームだったはず。だけど肝心の執着の度合いが分からない。 執着逆ハーから身を守るために剣術や魔法を学ぶことにしたローズだったが、乙女ゲーム開始前からどんどん攻略対象たちに会ってしまう。最初こそ普通だけど少しずつ執着の兆しが見え始め...... 剣術や魔法も最強、筋トレもする、そんな強ヒロインなら逆ハーにはならないと思っているローズは自分の行動がシナリオを変えてますます執着の度合いを釣り上げていることに気がつかない。 本編完結。マルチエンディング、おまけ話更新中です。 小説家になろう様でも掲載中です。

処理中です...