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一章.幸せになったのは王子様だけでした。
7-4.
しおりを挟むシャルルとアダムはカフェ・エルダの奥の部屋に入り、向かい合って座っている。
2人の目の前にはケーキが置かれ、シャルルは目の前のショートケーキを笑顔で頬張っていた。
対してアダムは思い詰めたように深刻な顔をして俯いて座っていた。
「もっとリラックスしたら?ここには俺と君しかいないんだからさ。」
「・・・・・。」
「真面目だね~。」
アダムはゆっくり顔を上げ重い口を開いた。
「シャルル殿下、先程言った通りアージェント家はシャルル第一王子殿下の派閥に入りたく思っています。そしてシャルル殿下を王太子にすべく全力で貴方様に尽くします。どうか我が家を貴方様の派閥に・・・。」
真剣な表情をしてお願いをするアダムにシャルルは鼻で笑った。
「俺は来る物拒まずだから君が好きなようにすればいいと思うけど、俺が気に入らないのはさー・・・なんで当主じゃなくて君がそのお願いをすんだよ?」
シャルルは柔らかい笑みのままだが、その声から多少の怒りを感じとれた。
家の名を出し派閥に入るという事は、その家は忠誠を誓うという意味になるのだが・・・。
家の名を出したのにも関わらず、忠誠を誓ったのが当主ではない次期当主の令息だ。
次期当主だとしても現当主ではない者が代表者のように1人の王族に忠誠を誓うなど、侮辱行為と受け取られても仕方ない。
そんな行為をアダムはしていた。
「寵愛の無い俺の立場だから舐められても仕方ないけど・・・多少はムカつくんだよねぇ。」
スッと細められた金の瞳がアダムを射抜く。
アダムは顔を真っ青になり慌てふためいた。
「も、申し訳ございません!殿下の怒りはごもっともです!で、ですが、僕やアージェント家は決して殿下を舐めたり軽んじてなんかいません!この件に関して父上は僕に一任をしているのです!」
「一任?なんで?」
「それは・・・父上は、姉上を傷付ける王族と関わりたくないと。」
アダムは気まずそうに俯き、シャルルは眉を顰めた。
「君の父上は、愚弟でも俺でもどっちが王太子になろうがどうでもいいし関わりたくないって事じゃないの?派閥について任された君は俺を選んだみたいだけど。」
「侮辱と捉えられても仕方ないと思いますが、僕はどうしてもシャルル第一王子殿下についていきたいのです。父上は僕の意思を汲んでくれました。僕がつきたい派閥について行くと・・・。だからお願いします。殿下の派閥に入れてください。」
シャルルはやれやれと言い溜め息をついた。
「俺は次期王太子としての見込みは全く無いよ?デメリットしかない俺についても意味無いし、わざわざ派閥に入らなくてもアージェント家は今まで通り中立の立場で良かったと思うけど?」
「中立のままでいたくないのです。僕は姉の幸せを奪った第二王子殿下と王命を出した陛下がどうしても許せないのです・・・第二王子殿下が王太子確定なのは承知していますが、何もしないのは歯痒いんです。シャルル殿下の派閥につくことがデメリットしか無いとしても僕は次期当主として、第二王子殿下が王太子になる事に断固反対です!」
「復讐・・・ていうのは大袈裟かもしれないけど、傷付けられた姉の為に黙って見過ごせないって事ね。」
「今の僕は何の力もありませんが、僕にできる事は何でもするつもりです!」
「俺は別に王太子の座に興味はないんだけど。」
「えぇ!?」
アダムはショックを受ける。
「悪いけど俺は何もしないよ。」
「そんな・・・最近の第ニ王子殿下の行動からシャルル殿下を王太子にと望む人は増えて来ていると思うのですが。」
シャルルはニッコリと微笑んだ。
「馬鹿な王命を出す王と、都合が悪くなったら派閥を変えるような臣下達のいる国に誰が王になりたいと思う?もちろんその臣下達には君も入ってるよ。」
柔和な笑みを浮かべているが、それは冷たい笑みだった。
シャルルのその言葉と態度には生まれてから現在に至るまでの自分の置かれていた理不尽な立場から来ていた。
「僕はっ・・・。」
アダムは姉のリズが第二王子の婚約破棄騒動に巻き込まれるまではシャルルに全く関心がなかった。
そしてシャルルに無関心だった大臣達も最近ではシャルルに胡麻を擦るようになった。
今更好意的に都合良く自分に接してくる臣下達に、シャルルは思う所があるようで不快に感じている様だ。
アダムは何と言ったら良いか分からず口をパクパクとさせ、首筋に汗が伝う。
「冗談だよ~。」
シャルルは先程までのピリついていた雰囲気からパッと態度を変え、いつもの柔和な笑みと雰囲気になる。
「ごめんごめん。つい意地悪しちゃった。ほら、俺の母上って以前は王の寵愛を受けていたのに、俺が産まれて寵愛を失った途端に周りが掌返してきてね。そして今度は愚弟がやらかしたら俺に擦り寄るなんて虫がいいよねぇ~・・・。だからムカついて君に当たっちゃった。許してね。」
「は、はい・・・。」
アダムは取り敢えず返事をしたが、シャルルの事をただののんびりとしたマイペースな王子だと見誤り、簡単に派閥に入れてくれると思っていた自分に後悔した。
突然派閥の話をするのではなく、徐々に信頼関係を築いてからシャルルに派閥に入れてもらうように話をすれば良かったと、アダムはぎゅっと口を結んで俯いた。
「それでも俺の派閥に入りたければ入ればいいよ。君の家が貴族達から孤立しても俺は責任取らないけど。」
「分かっています・・・これは我が家と僕のプライドの問題です。陛下や第ニ王子殿下から見たら微々たる反抗だとしても、敵対心を抱いていると分からせる事に意味があるのです。」
「姉の為ねぇ~・・・羨ましい家族愛だよ。」
アダムはシャルルについて行くと言ったが、自分の選択がこれで良かったのかと少し不安になった。
不安にはなるが、自分の決定を曲げるつもりはないアダムは真っ直ぐにシャルルを見つめた。
「君の覚悟は分かった。兄弟の為ってのが俺には理解できないけど君が良い子だってのは分かったからさ、好きについてくればいいよ。とりあえずよろしくねアダム。」
「は、はいっ!よろしくお願いしますシャルル殿下!」
アダムは明るい表情を浮かべた。
「それで君が俺に求める見返りって何かな?」
「え?」
これで目的の話は終わったと思っていたアダムはシャルルからのふいの問いに固まる。
「僕は見返りなんて別に・・・。」
「欲しい物とかないの?金とか上の爵位とか。」
「僕は別に姉を悲しませた陛下と第ニ王子殿下に反抗の意を示す為にシャルル殿下の派閥に・・・。」
「それは聞いたよ。俺が聞きたいのは褒美だよ。アダムは俺に何を求める?」
「僕は、別に、何も・・・ただ殿下に忠誠を・・・。」
「忠誠なんて安い言葉は望んでないよ。今まで接点も無い君に俺は忠誠を誓わせるような事をした覚えはないからね。」
アダムは笑顔のシャルルから圧を感じた。
「俺が王太子になれたら何が欲しい?俺に何をして欲しい?俺はそこにこそ人間性が現れると思うんだ。正直に言ってよ。」
「僕は・・・・・。」
見透かすようなシャルルの視線に、アダムは気まづそうに目を逸す。
「アダムってつまんな~い。」
「っ・・・。」
「もしかして悲劇のヒロインになったお姉さんを大切に想う心優しい弟ってポジションに酔ってんの~?見込みの無い俺の派閥に入った理由も、ただ悲劇要素増やして悲劇に酔いたいだけ?それってオ○ニーじゃん!俺君のオ○ニーに利用されてるだけじゃん!俺かわいそ~。」
「違うッ!僕は姉の悲劇に便乗して酔ってなんかない!」
「じゃあ教えてよ。俺に求める見返りを。」
アダムはギリリと奥歯を噛み締め、愉快に笑うシャルルを睨んだ。
「それは殿下が王太子になった仮定での話でもいいと言う事ですよね?」
「いいよ~。俺が王太子になれなかったとしても、俺に出来る範囲で叶えてあげたいと思ってるから。」
そしてアダムは意を決して真っ直ぐにシャルルを見つめた。
「では僕の姉であるリズをシャルル殿下の婚約者にしてください。」
「は?」
シャルルは目を丸くした。
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