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一章.幸せになったのは王子様だけでした。
6-9.
しおりを挟む「(私はリズではなく、聖女を、マリーベルを選んだのだな・・・。)」
立ったまま項垂れるロイドと泣いているリズを眺めマリーベルは満足そうに微笑んでいた。
「分かったかしらリズさん?ロイドは私を選んだのよ。」
リズはボロボロと涙を流し、その涙は手の間から地面にこぼれ落ちる。
マリーベルはリズの姿をじっと見つめた後、突如マリーベルは支えていたサラの手から離れた。
「マリーベル様?」
そしてマリーベルは座り込んでいるリズに視線を合わせてしゃがみ込んだ。
「リズさんは、そんなにロイドの事が好きなの?」
「好きです、好きです、愛しています・・・。」
「じゃあ私がロイドの事をどう思っているか分かる?」
マリーベルが何故こんな事を言うのか分からないがリズは流されるまま答えた。
「好き、じゃない?」
「それもそうだけど正解はーー」
真っ白で美しい指先でリズの頬に触れるマリーベル。
「種馬よ。」
空気が凍った。
もちろん物理的ではない。
リズとロイドは固まり、サラさえも唖然として固まった。
「だから私がロイドの子どもを最低2人生んだら、ロイドを解放してリズさんに返してあげる。2人も生んだら王命は守られている様に見えるでしょう?その後に解放されたロイドとリズさんが駆け落ちしようが、ひっそりと別邸で2人だけの愛の楽園で何人子どもを作ろうが、私は構わないし全面に協力してあげる。」
マリーベルがこんな事を言うなんて、この場にいる誰が想像できたのだろうか。
「私とロイドとの子どもがいれば公爵家は安泰で皆んなが幸せになれるの。秘密の関係だけどリズさんとロイドは元サヤに戻れるし、王命は守られたまま。私は公爵夫人の地位が手に入ればそれでいいもの。ただし・・・。」
触れているリズの顔をマリーベルは掴んだ。
「私が子どもを2人生むまで何もしないでくれる?それまで大人しくしていなさい。私がロイドを解放するまで。」
マリーベルはリズの顔からパッと手を離した。
リズはマリーベルの心の奥底にある恐ろしい程の怒りを感じ、恐怖で怯えた。
「サラ帰りましょ。その前に王妃様とギルフォード様に挨拶しないと。」
ロイドは先程の種馬発言や2人生んだ後に解放などの、マリーベルの言葉に衝撃とショックを受け複雑な顔をして狼狽えていた。
「帰りはロイドと一緒の馬車に乗りたくないからサラと帰るわね。じゃあねロイド。」
マリーベルはロイドとリズに背を向けサラと共に歩き出した。
「あ、そうだ。」
マリーベルは歩きを止め振り返る。
「心中は止めなさい。公表されてないけど、王命を破ったペナルティの中には遺体と結婚させたり、遺体とベッドで寝かせるなんて事があったらしいわよ。私は遺体になったロイドと式はあげたくないし、リズさんだってロイドと死んだ後にロイドが他の人と式をあげるのは嫌でしょ?これを伝えたかったの。」
スタスタと去っていくマリーベルとサラ。
残ったロイドとリズは言葉を発することなく場は静まり返る。
リズはゆっくり立ち上がるとフラフラ何処かへ歩いていく。
その場にはロイドが1人虚しく残っていた。
マリーベルは王妃やギルフォード達に挨拶をし、その後はアルヴァス先生に安静にしなくてはならなかったのに別室を出ていった事を凄く怒られたりした。
そして王宮での用事は全て終わった。
サラの家の馬車に乗ろうと足をかけた時、マリーベルは目眩を感じて倒れそうになった。
「マリーベル様!」
「大丈夫よ、ごめんなさい。」
馬車はゆっくり走り出した。
「無茶な事ばかりしてごめんなさい。サラに気を使わせてばかりだわ。」
「気を使ってなんかいません!好きで私がマリーベル様に付いていってるので幸せです!どんどん私に頼ってください!私はマリーベル様の侍女なんですから!」
「ふふ、ありがとうサラ。」
「はいっ!今日はこのまま私の家で夜を明かしましょう!帰って公爵の顔をなんか見たくないでしょうし。」
「ええ、そうさせてもらうわ。」
馬車はサラの家へと向かい、馬車の中でしばらくマリーベルとサラは無言だった。
「マリーベル様、一つ聞いてよろしいですか?」
「何かしら?」
「マリーベル様は本当に公爵に飴を与えるつもりだったのですか?」
ロイドはリズに会いに言っていいと許可をしたにも関わらず、リズが気になるという理由で覗き見をしていた。
結果的に2人が接触しそうになったので2人の会話に入ったが、覗き見の行為自体見つかる恐れがあるのに、まるで最初から2人の邪魔を企てていたかのようだった。
そんな飴を与えると言ったマリーベルの言動にサラは矛盾を感じた。
サラの疑問に思っていることを察し、マリーベルは少し悲しそうな笑みを浮かべると目を伏せた。
「2人を会わせるつもりなんてなかったの・・・初めはね。でも、リズさんの姿を見たらこのままだと死んでしまうと思ったのよ。」
ロイドが他の女性と踊っていた時のリズの表情を見てマリーベルは胸が痛くなった。
「もしリズさんが死んでしまったら、それこそロイドは何をするかわからないって・・・そうなれば私の目的も果たせなくなるから。」
マリーベルにはどうしても公爵夫人の地位が必要だった。
「だから会って話すぐらいならいいと思ったの。リズさんが少しでも元気になって、ロイドの公爵の仕事が進めばいいと軽い気持ちで思っていたのだけれど・・・。」
マリーベルは自分の行いに自嘲した。
「飴なんて言葉でカッコつけた癖に、気になって覗き見てしまったの。リズさんの人柄ではなく、ロイドがどうするか気になってね。そして2人の会話に入ってしまったわ・・・バカみたいよね私。」
「マリーベル様・・・。」
サラには自嘲しているマリーベルが泣いているように見えた。
「私、ロイドに捨てられるのが怖くなってしまったのよ。」
サラはマリーベルを抱きしめた。
「マリーベル様は悪くありません!ハーレンはあの時断ってマリーベル様の側にいるべきだったのです。例え王命だとしてもマリーベル様はルーベンス領の為に尽力しています。そんなマリーベル様にいつまでも甘えているハーレンが悪いのです。」
「私、自分が何をしたいのか分からなくなってきたわ。虚勢を張って意地を張って見下して意地悪をして・・・結果的にリズさんの恋心を傷付けてしまった。壊してしまったかもしれない。自分を抑えられなかった事をとても後悔しているの。」
サラはマリーベルの両手を握り真剣な顔で言った。
「リズ・アージェントの事はお忘れください。あの子はただの女の子で、元から公爵夫人としての器ではなかったのです。例えハーレンと結婚していたとしても、ルーベンス領に災害がなくとも、結婚生活は破綻していたでしょう。私はマリーベル様のハーレン家での仕事を手伝っているのでよく解ります。リズ・アージェントには無理です。ハーレン家とルーベンス領にはマリーベル様が必要なのです。」
マリーベルは鼻の奥がツンとした。
泣きそうになったが、涙をぐっと堪えて美しい笑みを浮かべた。
「ありがとう、サラ。」
「はい、マリーベル様。」
マリーベルはスッキリとした気分になった。
リズをほぼ一方的に言い負かした形になってしまったが、リズとロイドに対する心の内を本人達に全て吐き出す事ができ、サラが励ましてくれたからだ。
マリーベルの中にリズとロイド2人の中を裂いたという負い目や後悔は、多少は残っているがだいぶ薄くなった。
だからもしリズが自死を選んだとしても何も思わないし、ロイドがリズを想っていようが誰を想っていようがどうでもいい。
そんな事を、気持ちが軽くなったマリーベルは思っていた。
「(邪魔する人は許さない。)」
そして、公爵夫人の地位を脅かす者は誰であろうが排除するとマリーベルは誓った。
「サラ、貴女にお願いがあるの。」
サラはニコリと笑った。
「何なりとお申し付けくださいませ、マリーベル様。」
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〈アトガキ〉
長い長い第6が終わりました。
新連載と交互に書いてやっと激動の第6話を書き終える事ができて良かったです。第6は終盤、トライアングラーという名曲が私の中でBGMとして流れました。嫌な三角関係だ。マクロスハイロゼッタとか嫌だ(*´ω`*)笑
第7からまた新たな展開となりますので引き続きよろしくお願いします(´∀`)
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