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一章.幸せになったのは王子様だけでした。
2-4.
しおりを挟む入浴の時間になると数人のメイド達がマリーベルの部屋にやってきた。
冷たい視線を感じながらメイド達に入浴の世話をされた後に寝巻きに着替えさせられるとメイド達はさっさと部屋から出て行った。
「(サラは大丈夫かしら?夜になっても会えないなんて。)」
サラはマリーベル専属の侍女として城から付いて来たのにメイド長に連れて行かれてからというもその姿を見ていなかった。
王宮とは勝手が違う新しい屋敷ではサラが覚えないといけない事がたくさんあり忙しいというのは分かっているが、寝る前にサラに会いたかった。
そしてマリーベルの侍女という事でサラが使用人達からイジメを受けてないか心配だった。
入浴の世話をしてくれたメイド達にサラの様子を聞こうとしたら、話しかけるなオーラが出ていたので聞く事が出来なかった。
「私って王宮で大切にされていたのね。」
平民出なのに王宮でお姫様のように使用人達から扱わられていたマリーベルは、ハーレン家の使用人達からの冷たい態度でいかに自分が王宮で大切にされていたのかを気付かされた。
使用人達からの冷たい態度やロイドとマーガレットとの重い会話など、初日から精神的に疲れる事ばかりでこの調子だと明日はどうなるのだろうかと少し憂鬱になった。
「考えたって仕方ないわね。」
小さくため息をついた。
マリーベルは寝ようとベッドの中に足を入れた。
「いっ!!?」
足に痛みを感じ直ぐに布団を捲ると、シーツの上にたくさんのガラスの破片が散りばめられていた。
「はぁー・・・・・。」
片手で頭を抱えた。
こうなるだろうとは予想はしていた。
屋敷に到着した時から表面上は歓迎してても使用人達のマリーベルに対する怒りを肌で感じていた。
だから使用人達からの嫌がらせが始まるのも時間の問題だと思っていた。
でもまさか初日から本格的な嫌がらせが始まるとは思ってなかったが・・・。
「容赦ないわね。」
マリーベルの美しい足にできた大きな切り傷から真っ赤な血が流れた。
鋭く尖ったガラスの破片で足を切ったマリーベルは癒しの魔法で傷を治していく。
一歩間違えれば足の傷だけでは済まされない嫌がらせにマリーベルは眉をひそめた。
『私は殿下の代わりに婚約者として聖女様を大切にします。』
ロイドは口ではそう言っていたが現時点でケガをするような嫌がらせが行われている。
食堂でのロイドの大切にしますという言葉を聞いてた使用人達は主人が無理をして言っている事をわかっていたし、本心でないと分かっていた。
マリーベルもロイドが自分を大切にしてくれるなんて思っていないしできないと思っている。
口では大切にすると言ってもマリーベルを疎ましく思う主人の意思を察して使用人達はマリーベルを排除しようとするだろう。
「嫌がらせは使用人の独断にせよ、ハーレン様やお義母様の指示にせよ、騒いで怒るなんて資格は私にはないわ。」
だってマリーベルのせいで愛し合う2人の仲は引き裂かれたのだから。
「魔法でとっとと片付けて寝ましょ。」
私生活で無駄に魔法を使うことを王妃から禁止にされていたが、やむを得ない事情だからと自分に言い聞かせ、風の魔法を操ってシーツの上の全ての破片を残らずゴミ箱に移動させて綺麗にした。
そしてやっとベッドに入る事ができた。
「ハーレン様が嫌がらせを指示してなかったとしても、私が使用人達から嫌がらせを受けていると言っても信じてくれないわよね。」
主人であるロイドとマーガレットを使用人達は信頼し慕っている。
主人2人も使用人達を信頼している事は使用人達の様子でマリーベルは理解していた。
マリーベルと使用人達。
どちらかの言葉を信じるとしたらロイドもマーガレットも使用人達を信じるだろうと思った。
「サラには言えないわ。」
マリーベルのベッドの中に破片が撒かれていた事をサラが知ったら直ぐに王宮に知らせに行くだろう。
そうなるとロイドに更に迷惑がかかるのでサラには内緒にしようとこの事は胸にしまった。
そして疲れたマリーベルは目をつむるとそのまま夢の世界へと旅立っていった。
「おはようございます聖女様。」
朝になりマリーベルが目を開けると背筋をピンっと伸ばして立っているメイド長がいた。
「おはようございますメイド長さん。」
マリーベルは綺麗に微笑んで挨拶をした。
それからメイド達が手慣れた感じでマリーベルの着替えを手伝い、髪を解かして美しく仕上げた。
「サラはどうしていますか?」
朝のこの場にもサラが居なかった事についてメイド長に聞いてみる。
「侍女殿は昨日の続きでお屋敷の仕事について学んでおります。」
「そう・・・。」
メイド長のその言葉に仕方ないと思いながら早くサラに側に居て欲しいと思った。
メイド長はマリーベルをベッドの隣にある小さな丸テーブルの前にある椅子に座らせると食事が運ばれてきた。
丸テーブルの上にクローシュ(銀の蓋)で蓋をされている料理が置かれた。
「お召し上がり下さい。」
メイド長がクローシュを開けた。
マリーベルは絶句した。
何故なら料理が悪臭を放ち明らかに腐っていたから。
「これは・・・・・。」
マリーベルは戸惑いながらメイド長を見上げる。
すると無表情だったメイド長はクスリと意地悪な笑みを浮かべた。
「聖女様が旦那様とご婚約をされたと聞いた時から聖女様をおもてなし出来るようにずっと用意してたんです。」
「・・・新しいのに変えてくれないかしら?」
「それは残念です。王宮に住んでた聖女様は我が屋敷の料理が気に入らないみたいですね。申し訳ありませんが新しい料理に変えることは出来ません。ですがどうしてもと聖女様がおっしゃるなら同じ料理をご用意しますがいかが致しますか?」
クスクスと他のメイド達の嘲笑が聞こえる。
してやったと満足そうな顔のメイド長に、マリーベルは気にしてないという風にニッコリと綺麗に微笑んだ。
「そういう事なら結構ですわ。お料理下げてください。 」
「・・・・・チッ。」
マリーベルの笑顔にイラッとしたメイド長はデカイ舌打ちをして食事を下げさせた。
メイド長は他のメイド達を連れて部屋から出て行く。
「そうそう聖女様にお伝いしたい事がございました。」
部屋から出る寸前でメイド長は振り返った。
「なんでしょうか?」
メイド長は先程のマリーベルの笑顔をやり返すようにニッコリと綺麗に笑微笑んだ。
「人の恋路を邪魔する奴は馬に蹴られて死んじまえ。私は貴女みたいな悪い聖女を許しません。必ずこの屋敷から追い出して差し上げますから。」
堂々と宣戦布告された。
昨日から常に感じていた使用人達全員のマリーベルへの敵意をメイド長が堂々と代弁した。
そんなメイド長にマリーベルは逆に気持ちいいぐらいの清々しさを感じた。
「ではまた夕食時に呼びに来ますので失礼いたします。」
バタンと扉が閉まり1人になるマリーベル。
「私が1番思ってるわよ!」
マリーベルはソファにあるクッションを床に強く叩きつけた。
馬に蹴られて死ねだの悪い聖女だのマリーベルが自分自身に対して思っている事だ。
「ベッドの中にガラスの破片撒かれたり、腐った朝食を出されたり、これも全てギルフォード様が自分勝手に馬鹿な事考えたせいよ!」
マリーベルは悔し涙が溢れてその涙を乱暴に腕で拭った。
サラに何をされても言われても大丈夫と言っていたマリーベルだったが、実際に嫌な事をされたり言われたりすると傷付くしとても腹が立っていた。
全ての元凶であるギルフォードに対する怒りを可愛らしいクッションにぶつけるくらいしかマリーベルにはできなかった。
マリーベルの前途多難なハーレン家での生活はまだ始まったばかりだった。
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