書庫の幽霊王妃は、貴方を愛することができない。

鈴木べにこ

文字の大きさ
上 下
18 / 20
二章、悪の軌跡編

7.悪魔の預言者

しおりを挟む
〈ローズside〉


「お嬢様見てください!このプレゼント凄いですよっ!」

「なんでほとんどのプレゼントが真っ赤なの?しかも趣味悪っ!私ってそんなイメージなの?」

「私には豪華で素敵でお嬢様にとても似合うと思いますが!特にこのネックレスとかお嬢様にぴったりです!」

「ゴテゴテでダサッ!」


 私の誕生日プレゼントが大量に別邸に運ばれて、ニイナが一つ一つプレゼントを楽しそうに開封していくのだけれど・・・。


「好きなのあったらなんでも持っていっていいわよ。」

「絶対に要りませんっ!」

「やっぱりダサいと思ってるじゃないのよぉー!」


 私のイメージに合わせて選んだと思われるプレゼントは真っ赤でゴテゴテで派手な物ばかりでとてもダサかった。
 高そうな物なのにニイナが受け取りを拒否する程のダサさ。

 質にでも売ればいいじゃない!


「コレが最後の一つです。1番小さいですが結構重いですね?」

「・・・今すぐ捨てて来て。」

「えぇ!?」


 赤い箱にキラキラした真っ赤なリボンの小さなプレゼントが最後に残っていた。

 そのプレゼントが視界に入らないように視線を逸らす。


「あぁ、思い出しました!確か王子様からのプレゼントでしたね!」


 余計な事思い出さなくて良かったのに・・・。


「お嬢様がどんなに王子様を嫌っていても、王子様からのプレゼントを捨てるなんて私には出来ません!折角のプレゼントなんですから開けてみましょう!」

「どうせゴールドのブレスレットよ。」


 前世で箱の中身を知っている私はため息をついてベッドに突っ伏した。


「違うみたいですよ。」

「え?」

「見てください!すっごく高価そうな豪華な薔薇のブローチです!」


 ブレスレットじゃない事に驚いてベッドから顔を上げると、ニイナが嬉々としてプレゼントの中身を見せて来た。

 プレゼントの中身は私の予想とは違う物が入っていた。


「すっごいですよ!作りがとても繊細で綺麗でキラキラで、とても美しいです・・・。」
 

 プレゼントの薔薇のブローチに見惚れて口がポカンと開いているニイナ。

 その薔薇のブローチは私が見て来た中でも、トップに入る程の美しさを誇っていた。

 ルビーとダイヤが散りばめられた真紅の大きな薔薇のブローチは、まるで一輪の大輪の薔薇の様に鮮やかに咲いていた。

 ルビーとダイヤの重みでブローチは重く、光に反射してキラキラと輝いている。

 あの男からのプレゼントだというのに、私は心を奪われたかのように目が離せなかった。

 薔薇のブローチを見ていたら、ふと書庫の記憶が蘇る・・・。









『こんな綺麗な本があったのね。』


 その本にはこの国グランツの各地についての事が書かれていた。

 【伯爵令嬢アリスのグランツ旅行記】

 という本は書庫で生活があまりに暇過ぎて端から本を読んでいくという行為を続け、書庫での生活が8年経った時に手に取った本だった。
 
 タイトル通りアリスという伯爵令嬢がグランツの各地を旅行し、各地での出来事や町の様子や文化などを細かく印した内容の本だ。

 特にその本の大きな特徴としては、全てのページの絵に色が着いている事だった。

 書庫の本は全体のまだ3分の1程度にしか読み終わっていないが、今の所本の絵に色が着いているのはこの本しか見つかっていないので、外に出られない私にとってはまるで外の世界を見ているかの様な新鮮な気持ちにさせてくれた。

 その本の中で特に気に入っているページが北の辺境の町についてのページだった。

 その町の名は【スノーベック】。

 北の辺境はそびえ立つ雪山に囲まれ夏でも雪山を見ることができ、5月と6月は名物である薔薇の開花時期なのでスノーベックの町はお祭りで薔薇一色になる。

 町の至る所にある薔薇の柄や模様が必ず目に入り、薔薇関係の商品が店先や露天で並び、町は常に薔薇のいい香りで満ちているとか。

 そしてこの町の名物のスノーベックローズという薔薇は大陸1大きい薔薇の花を咲かせ、人々は見事な大輪に心奪われるそうだ。

 魅力的な町の紹介と共に絵で描かれた真紅の大輪の薔薇に私の気分は高揚した。


『見てアンこの本凄いわよ!珍しく絵に色も着いてるし内容もとても面白くてね、絵がとってもキレイなのっ!』


 アンは掃き掃除をしている手を止めて私の手元の本を覗き込んだ。


 "ほんとうですね とてもきれいです"


 メモに木炭で書いた文字を私に見せて優しく微笑むアンに、私も笑顔になる。


『辺境って田舎だってバカにしてたけど、町中が薔薇一色になって薔薇に関する商品でいっぱいになって薔薇のいい匂いがするそうよ!それにね大陸1の大きい薔薇が咲くんですって!どれくらい大きいんだろ?とっても素敵だと思わない!』


 嗚呼、この町に行ってみたい。


『ねぇアン!いつかここを出られたら一緒にっ・・・・・一緒に・・・。』


 いつかって、いつ?


『ごめんなさい・・・なんでもないわ・・・。』


 ここに閉じ込められて8年も経つのに、誰も助けにこなければ、出してくれる様子もないのに何言ってるんだろ私。


『別の本読も。』


 久しぶりに見たカラフルな風景に心が高揚したけど、現実に戻るとその落差に力が入らなくなった。

 フラフラした足取りでこの本があった場所の本棚に行く。

 本棚に本を戻すと、身体から力が抜けて本棚にもたれかかってズルズルと狭い通路に座り込んだ。


『希望を抱いたら辛くなるのに、バカね・・・。』


 アンが近寄ってきて私の隣に座りこんだ。
 私はアンの左肩に頭を乗せた。

 アンは左手で慰めるように私の頭を撫でる。


"いつかいっしょに みにいきましょう"
 

 アンのメモには不確かな希望が書かれていた。


『フッ、そうね・・・いつか2人で・・・。』


 いつかなんて不確かな物に期待したら駄目だとは分かってる。

 けど、たまには素直にそんな夢を語っていいじゃない?

 少し悲しい気持ちになるけれど。


『いつか・・・綺麗な薔薇を見に行きましょうね。』








 
「・・・・・ハッ!またぼーっとしてた!」


 薔薇のブローチを見てたら書庫での出来事を思い出してまたもやぼーっとしてしまっていた。

 危ない。凄く危ない。


「ブローチのあまりの綺麗さに私も見惚れていました!でもこのブローチまるでお嬢様をイメージしてプレゼントされたようですね?凄く愛を感じます!」

「愛?気のせいじゃない?それにしてもまたしても前世と違う展開だわ。プレゼントは金のブレスレットじゃなくて、豪華な薔薇のブローチだし・・・今世は私の知ってる世界じゃないのかしら?」


 今世の世界は前世とは少し違うかもしれない。
 
 そんな説が浮かんでいた。

 少し違うだけでだいたいは同じだから何が違うかなんて、実際に見てみるまで分からないけど・・・ 。

 だからと言ってルイス様の性格が前世と違って私に優しい性格になったとしても、ルイス様が嫌いなのは変わりないし無理なものは無理。生理的に無理。


「とにかく、ルイス様からの物はどんな物であろうとも私の視界に入らないようにしてちょうだい。売るなり使うなりニイナに任せるから。」

「えぇー!!・・・分かりましたが、お嬢様の視界に入らないようにするので、もし王子様のプレゼントが必要な場合は言ってくださいね。」

「絶対必要にならないと思うけど、分かったわ。」


 ニイナはルイス様のプレゼントを持って部屋から出て行った。


 私は再びベッドに突っ伏した。


「こう前世の事思い出す度に感傷的になってたらもたないわ・・・。」


 切ない。

 私がベッドで項垂れていると、ノックの音がしてお父様とバスティンさんと知らない青年が入ってきた。


「お父様そのお方は誰?」


 セミロングの黒髪と私の真紅の瞳の色よりも明るい赤い瞳の中性的な綺麗な顔の青年だった。


「お前のカウンセリングの先生であり、共にアンダルシア1世の短剣を探してくれる、お前とは従兄弟関係にあたるアクロアイトの伯爵家の者だ。」

「え?従兄弟の先生と魔法の剣探すの?」

「そうだ。こいつはこう見えても様々な分野において優秀でな。お前の前世の話に大変興味を持っていて、お前のトラウマもきっと治してくれる筈だ。」

「私の前世の事話したの?どうせ信じない人がほとんどだから別に言っていいけど、恥ずかしっ!なんだか凄く恥ずかしいわ!」


 後でお父様には私が痛い人に見られるから、これ以上は私の前世の話を他の人に言わないようにしっかりと言わなくちゃ。

 青年はニコニコしながら私に近づきじっと私の顔を見つめると首を傾げた。


「この子ホントに王子の子供ぉ?ダリア・ボアルネと瓜二つじゃーん!超美人だけど可愛くなーい!」

「あ”ぁ?んだとこのクソガキァ!!」


 軽いノリで初対面で失礼な事を言ってきた青年に私は思い切り枕をぶん投げた。
 だけど青年はひらりと枕をかわしてさらに私をムカつかせた。


「怒った時の他人をゴミみたいに見る目は王子そっくりだねー!王子もそう思わない?」

「王子って呼ぶな。」


 お父様はスリッパで青年の頭をスパーン!と叩いた。


「いってぇ!そうだったごめん王子!」


 またしてもお父様にスリッパで頭を叩かれる青年。


「あだっ!?」

「え?お父様って侯爵家の次男なのにアクロアイトで自分の事王子って呼ばせてたの?引く。」


 お父様の痛い一面に私は引いた。


「そうなんだよ~!偉そうな雰囲気とかマジ王子って感じ♪」


 スパパーンッ!と青年と共に今度は私の頭もスリッパで叩かれた。


「いたぁ!」

「うげっ!」

「今度王子って言ったらお前達を木刀で殴る。」


 私と青年は即黙った。


「とりあえずこいつもここに住む事になった。カウンセリングの他にも、お前の吹っ飛んだマナーや王妃教育にも精通しているからあらゆる面でサポートしてくれる。」

「こう見えても超絶天才のエミール・シュミットでーす!20歳でお金持ちの伯爵家の長男でーす!よろしくねお姫様♪」


 こいつチャれぇ!


「前世の記憶とかあるお姫様なんて研究意欲そそられるよ~。」


 それにムカつく。


「お姫様って止めてくれる?お姫様じゃないし。」

「ああそうだった。ローズお嬢様はルイス王子と結婚するから将来王妃様だったね。これからよろしくね王妃様♪」

「わざと言ってんのかテメェ!」


 私は渾身の力でもう一つの枕をチャラ男の顔面に投げた。



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

婚約破棄された悪役令嬢。そして国は滅んだ❗私のせい?知らんがな

朋 美緒(とも みお)
ファンタジー
婚約破棄されて国外追放の公爵令嬢、しかし地獄に落ちたのは彼女ではなかった。 !逆転チートな婚約破棄劇場! !王宮、そして誰も居なくなった! !国が滅んだ?私のせい?しらんがな! 18話で完結

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

【完結】元婚約者が偉そうに復縁を望んできましたけど、私の婚約者はもう決まっていますよ?

白草まる
恋愛
自分よりも成績が優秀だからという理由で侯爵令息アッバスから婚約破棄を告げられた伯爵令嬢カティ。 元から関係が良くなく、欲に目がくらんだ父親によって結ばれた婚約だったためカティは反対するはずもなかった。 学園での静かな日々を取り戻したカティは自分と同じように真面目な公爵令息ヘルムートと一緒に勉強するようになる。 そのような二人の関係を邪魔するようにアッバスが余計なことを言い出した。

もう、愛はいりませんから

さくたろう
恋愛
 ローザリア王国公爵令嬢ルクレティア・フォルセティに、ある日突然、未来の記憶が蘇った。  王子リーヴァイの愛する人を殺害しようとした罪により投獄され、兄に差し出された毒を煽り死んだ記憶だ。それが未来の出来事だと確信したルクレティアは、そんな未来に怯えるが、その記憶のおかしさに気がつき、謎を探ることにする。そうしてやがて、ある人のひたむきな愛を知ることになる。

悪役令嬢は永眠しました

詩海猫
ファンタジー
「お前のような女との婚約は破棄だっ、ロザリンダ・ラクシエル!だがお前のような女でも使い道はある、ジルデ公との縁談を調えてやった!感謝して公との間に沢山の子を産むがいい!」 長年の婚約者であった王太子のこの言葉に気を失った公爵令嬢・ロザリンダ。 だが、次に目覚めた時のロザリンダの魂は別人だった。 ロザリンダとして目覚めた木の葉サツキは、ロザリンダの意識がショックのあまり永遠の眠りについてしまったことを知り、「なぜロザリンダはこんなに努力してるのに周りはクズばっかりなの?まかせてロザリンダ!きっちりお返ししてあげるからね!」 *思いつきでプロットなしで書き始めましたが結末は決めています。暗い展開の話を書いているとメンタルにもろに影響して生活に支障が出ることに気付きました。定期的に強気主人公を暴れさせないと(?)書き続けるのは不可能なようなのでメンタル状態に合わせて書けるものから書いていくことにします、ご了承下さいm(_ _)m

十分我慢しました。もう好きに生きていいですよね。

りまり
恋愛
三人兄弟にの末っ子に生まれた私は何かと年子の姉と比べられた。 やれ、姉の方が美人で気立てもいいだとか 勉強ばかりでかわいげがないだとか、本当にうんざりです。 ここは辺境伯領に隣接する男爵家でいつ魔物に襲われるかわからないので男女ともに剣術は必需品で当たり前のように習ったのね姉は野蛮だと習わなかった。 蝶よ花よ育てられた姉と仕来りにのっとりきちんと習った私でもすべて姉が優先だ。 そんな生活もううんざりです 今回好機が訪れた兄に変わり討伐隊に参加した時に辺境伯に気に入られ、辺境伯で働くことを赦された。 これを機に私はあの家族の元を去るつもりです。

王子は婚約破棄を泣いて詫びる

tartan321
恋愛
最愛の妹を失った王子は婚約者のキャシーに復讐を企てた。非力な王子ではあったが、仲間の協力を取り付けて、キャシーを王宮から追い出すことに成功する。 目的を達成し安堵した王子の前に突然死んだ妹の霊が現れた。 「お兄さま。キャシー様を3日以内に連れ戻して!」 存亡をかけた戦いの前に王子はただただ無力だった。  王子は妹の言葉を信じ、遥か遠くの村にいるキャシーを訪ねることにした……。

魅了が解けた貴男から私へ

砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。 彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。 そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。 しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。 男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。 元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。 しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。 三話完結です。

処理中です...