書庫の幽霊王妃は、貴方を愛することができない。

鈴木べにこ

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一章、終わりのはじまり編

4-2.

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 私は書庫の幽霊王妃の物語を語った。
 
 できるだけ要点をまとめて短く語るようにした。
 そうでないと、長くなりそうだし泣きそうになるからだ。

 そして私は、あえて死ぬ前の1ヶ月間のあの男との過ごした日々の出来事は省いた。
 必要ないし。


「お嬢様・・・え?」


 ニイナは私の話を聞いてポカーンとしていた。

 書庫の幽霊王妃の話は1回目の私の人生の話で、今が2回目で、2回目の人生が最近始まったばかりなんて非現実的な話を信じる方が可笑しい。

 だけどバカな私はお父様を説得できるような理由を考えることが出来なくて、そのままバカ正直にボアルネから逃げたい理由を言ってしまった。

 凄く後悔してる。
 絶対バカにされるか呆れられる。


「でもお嬢様、60年間書庫に閉じ込められていて77歳まで生きたというのはリアリティに欠けます!ここは10年間塔に閉じ込められていて27歳で首を吊って自殺したことにしましょう!」

「ほらぁー!創作だと思ってるー!だから言いたくなかったのよォ!私だってまさかあんな場所であんなに長生きするとは思わなかったんだからね!てっきり40代くらいで大病を患って死ぬと思ってたんだから!」

「場所も牢屋でもなく塔でもなく書庫ってのがちょっとリアリティに欠けますよね!」

「創作話じゃないっての!私だってなんで書庫になったのか経緯を知りたいわ!いっそ国外追放にしてほしかったわよ!」


 ニイナは私の話をその場で考えた創作話のような嘘だと思っている。

 下手な創作だと思っているニイナに腹が立つけど、ニイナの反応が一般的な反応だ。


「(はぁ~、やっぱりこんな話するんじゃなかった・・・。)」


 きっとお父様は呆れて冷たい目で私を見つめていると思うと、私はまともにお父様の顔を見れないでいた。


「もっと、細かくお前の話が聞きたい。」

「(食いついた!?)」


 お父様を見ると真剣な表情をしていた。
 そしてお父様の執事の名前はバスティンさんといい、バスティンさんも真剣な表情をしていた。

 冗談が通じなさそうな性格のお父様とバスティンさんが興味を表したことに逆に私は驚いたし、ちょっと引いた。


「信じてくれるの?」

「半身半疑だ。信じられない話だが嘘だと決めつけるには早計だからな。」

「私の話に説得力を感じてくれたのね!流石は私!」

「違う。」

「違うってなんでよ!そしていっそのこと私の話全部信じて欲しいのだけれど!」


 お父様はバスティンさんと目配せをすると部屋の隅にある本棚の方へ歩いて行った。
 なんだ?貴方達付き合ってんの?


「お前達はこの国の成り立ちを知っているか?」


 お父様は私とニイナの前に【大陸年表記】と書かれた一冊の歴史書を取り出した。


「私は近所の教会でシスター達が読み書きを教えるついでに、大雑把ですが昔話の一つとして教えて頂きました。確かこの国はーー」

「最後の魔法使いアンダルシア1世。」


 私の口が自然に動いた。


「そうです流石はお嬢様!この国はアンダルシア1世が統治をして出来たんですよね?」

「正確にはアンダルシア1世が小さな村の長になる所から始まり、大陸全土の統一という偉業を果たして支配した。彼の死後、時代と共に彼の子孫達が王座を巡って国が割れて様々な国家が出来た。その内の一つがこの国だ。」


 私はお父様の真意がわかって私の足元はぐらついた。


「もしかしてお父様は・・・・・そんなバカな、バカバカしい!ありえない!ありえないわ!」


 私は呆れて頭を抱えて狼狽えた。


「何故そう言い切れる?お前の話はそういう類いの話になるだろ?」


 お父様が考えていること、それは・・・


「お父様は私が魔法で人生をやり直したと思っているの!?」

「ありえる事だろ。500年前には魔法使いが存在したからな。」

「魔法なんて非現実的な物がある訳ないじゃない!500年前にはあったとか言われているけど、そんな大昔の物語の様な物は現代では存在していないじゃない!魔法なんてあり得ない!」

「ではお前が1回目の人生、【前世の記憶】があるのはお前のホラ話か?」

「違う!ホント、だけど・・・。」


 お父様が【前世】と呼んだ私の1回目の人生。
 それを魔法なんて物でやり直したなんて信じたくなかった。

 だって77年間も生きてきたのに魔法を見たことなかったし、魔法があれば書庫の外に出れるのに・・・と何度も願っても魔法は宿らなかった。

 それに、物語のように魔法使いは助けにこなかった。

 だから魔法なんて信じない。

 大昔にあったとしても今ではただの夢物語だ。

 私を書庫という檻にいる事を一時でも忘れる為の夢物語・・・。


「ではお前は2回目の生をどうやって迎えたと考えている?」

「神様のただの気紛れよ。」


 どうせ神様の気紛れで起こした奇跡なんでしょ?


「私、魔法があるかないかの議論なんてどうでもいいの!養子の話は考えてくれなさそうだし部屋に帰らせてもらいます。」


 あんな話するんじゃなかった。


「お父様が納得する理由をと思って正直に語りましたが、非現実的過ぎて魔法うんぬんの詰まらない話の方向になって残念です。ではサヨウナラ!前世のように血が繋がっただけの赤の他人としてお互い過ごしましょう!」

「待て。養子の話は考えてやらないこともない。」

「え?」


 帰ろうとした私をお父様が引き留めた。


「アンダルシア1世の話はお前と魔法の議論をする為に持ち出したんじゃない。お前がこの家を出る為には必要な話だからだ。」

「どこがよ?」

「最後まで話を聞け。アンダルシア1世は最後の魔法使いと言われているだろ?それはアンダルシア1世が自分以外の魔法使いを排除したからだ。魔法の使用を禁じ、魔法に関する書物や魔法に関するありとあらゆる物を殆ど燃やした。それでも魔法を使うようなら拷問や処刑を行った。」

「酷いわね、魔法を独り占めしたいが為にそこまでするなんて。」

「魔法が使えない人間の方が多かったおかげで、アンダルシア1世の改革を支持する人間達は多かった。そのお陰で改革は一気に進んだ。後にこの事は【魔王による死の改革】と名付けられた。」

「確か魔法を使っている人間を密告したらお金を貰えるようにしたんでしょ?」

「死の改革には魔法が使えない人間にも被害を及ぼし、嘘の密告や冤罪でどんどんたくさんの人間が処刑された。そしてついに大陸全土で革命が起こったが、最後の魔法使いの名に相応しく、アンダルシア1世は神の如き強力な魔法でこれを全て鎮圧し革命が失敗した。」

「どんだけ強いのよ。」

「アンダルシア1世の強力な魔法は大陸の外まで影響し、大陸の外の国の人間もアンダルシア1世の配下となった。」

「世界征服?」

「革命以降、誰もが魔法をタブーとして使用することも語ることも無くなり、年月が経つに連れて魔法は忘れ去られ、魔法を使える人間はこの世から1人も居なくなった。」

「魔法に関する重要な資料がほとんど無いから、アンダルシア1世が死んで何百年経っても魔法を復活させることが出来なかったらしいわね。一応歴史書には魔法のことが記されているけど、魔法なんて最初から無かったんじゃない?」

「・・・・・。」

「何よ?」


 お父様が鋭く睨んでくる。

 え?そんなに魔法信じてるの?
 子どもね。可愛くないけど。


「魔王による死の改革で殆どの資料が無くなったが、大陸又は世界の何処かに必ず魔法に関する重要な資料や痕跡が多少は残っている筈だ。」

「かもね。」

「そしてお前がボアルネから解放されるには、これが必要だ。」


 お父様は机の上に丸めて置いてあったボロボロの羊皮紙を広げた。

 羊皮紙には短剣の絵が描かれていた。


「剣?ですねお嬢様。」

「もしかして、この剣を探せば養子になれるなんて言わないでしょうね?」


 私の言葉にお父様はフッと笑った。


「その通りだ。」

「は?嘘でしょ?」

「本当だ。これはアンダルシア1世の遺品の魔法の短剣。もしこの剣を見つけることができれば、ボアルネ家当主やダリアにも邪魔されない家柄との養子縁組を組んでやる。」


 お祖父様やお母様が到底敵わないような権力者への養子?
 侯爵か大公かはたまた王族か、貴族筆頭ボアルネ家を上回るほどの権力がある家への養子に行ける程の価値がこの剣にはあるってこと?


「そしてこの魔法の短剣には時を操る力もあったとされている・・・お前にとっても無関係な話ではないかもしれないぞ?」

「・・・・・。」


 魔法なんて信じてないけど、少しその剣が気になる気がする。


「手がかりはあるの?」

「100年前に戦争で無くなって以来、手掛かりはそれっきりだ。」


 無理じゃね?


「ニイナ!帰るわよっ!」

「えぇ!帰っちゃうんですか!宝探ししないんですかぁ?」

「ホントばっかみたい!これなら隙見て逃げ出した方がまだ希望があるわっ!」

「それで次捕まったら今度は屋敷に監禁されてボアルネ家の幽霊公爵令嬢なんて呼ばれちゃいますね!」

「うるさいわよニイナ!」


 こんな所二度と来るか。


「さよならお父様!やっぱり一生他人よ!フンッ!」



 その後私は家出にまたしても失敗して使用人の部屋に監禁された。
 ニイナも罰を受けることを忘れていた私は、ニイナが罰で2日間食事抜きにさせられてしまったので、私の食事を分けてあげたら半分以上食べられた。
 まぁ、私が悪いので良しとする。
 今度はニイナに迷惑をかけないような方法で逃げ出そうと私は思った。
 

 そんなこんなでパーティー当日を迎えた。

 もうすぐあの男との最悪な出会いという再会だ。






〈視点無し〉

 騒がしい娘がいなくなった後の部屋は、いつもよりとても静かだとウォーレンは思った。


「私がこの国に来て初めての収穫だ。調べる価値は十分にある。」

「えぇ・・・まさかお嬢様からあのような話が聞けるとは。」

「バスティン、アクロアイトから信頼出来る人物を20人程送ってくれ。」

「ハッ!かしこまりました第二王子殿下。」

「必ず手に入れてみせる・・・。」



next→5.その姿は紅に揺れて



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