書庫の幽霊王妃は、貴方を愛することができない。

鈴木べにこ

文字の大きさ
上 下
11 / 20
一章、終わりのはじまり編

4.77歳拗らせ娘vs32歳冷徹父

しおりを挟む
〈ローズside〉


「ローズお嬢様のお父様であるウォーレン様にお会いになるのは初めてなので、どんな方なのか楽しみです!お嬢様のお父様なのできっと素敵な方なのでしょうね!」

「そうね・・・。」


 私達は今敷地内にある別邸に来ている。
 本邸から徒歩5分の少し離れた位置にある別邸にお父様は住んでいる。
 本邸には妻の愛人とその子供が住んでいるのに、政略結婚で養子にきたお父様が別邸に住んでるなんて複雑だ。

 以前の私は生まれた時からお父様が別邸に住まわされている事に何も思わず、ボアルネでのお父様の扱いに全く疑問を抱かなかった。
 たまに本邸の屋敷で歩いている所を見かけたり、パーティーなどでお母様のパートナーとして参加しているお父様の姿しか見たことがなかった。

 お父様と私はただ血が繋がっている他人だ。
 養子だが別邸へ住んでいる人。
 お母様中心の生活をしている私はお母様の態度から、養子であるお父様は居ても居なくてもどっちでもいい存在だと思っていた。
 
 そして父娘の会話なんて挨拶ぐらいでしか思い出せなかった。

 それぐらいお父様と私の関係は気薄だった。

 父親のという存在をちゃんと考えるようになったのは、書庫に監禁されるようになってからだった。

 書庫にある物語を読んで、物語に出てくる父と子が家族として愛し合って想いあっている姿を描いた話が何冊もの本に描かれていたことから、父親という存在を考えるようになった。

 もしお父様と少しでも親子らしい関係を築いていた私を助けてくれた?
 私が生まれた時どう思った?
 私のことをどう思ってる?
 私のこと、好き?
 愛してる?

 私がお父様を何とも思ってなかったように、お父様も私のことを何とも思ってないことは解っていた。

 でも、物語で子を大切に想っている父親が出てくると、嫌でもお父様と比べてしまう。


『なんでお父様は私を助けに来ないの?』
『お父様も私のこと嫌い?』
『お父様・・・助けにきてよ。』


 膝を抱えて涙を流した所で物語に出てくるような愛情深い父親は助けにこなかった。


『助けてくれないお父様なんて、嫌いよ。大嫌いよ・・・。』


 何故なら私とお父様は血が繋がっているだけの赤の他人だから。
 今更父親の愛を求めたとしても遅いの・・・。


「お嬢様大丈夫ですか?ぼーっとしていましたが?」


 ニイナが顔を覗きこんできてハッとした。


「え・・・えぇ、なんでもないわ・・・。」


 ボアルネから逃げ出したいが為に、藁にも縋る思いで、ろくに会話をした事のないお父様に頼るなんて、所詮私は自分の利益のことしか考えていない最低なボアルネ家の一員なんだと小さくため息をついた。

 
 ニイナは私の一歩前に出て別邸のドアノッカーを掴んでコンコン鳴らすと、初老の知的な印象の男性がドアから顔を出した。
 その初老の男性がお父様に常に付き添っていたことから、お父様が実家から連れてきた専属執事なのだろうと思った。


「どのような御用件で?」

「はい、実はお嬢様がお父上であるウォーレン様にお会いしたいとの事でして・・・。」


 お父様の執事は目線を下に下げてじっと私を見つめてきた。


「解りました。少々お待ちください。」


 執事はドアをいったん閉めると、少ししてドアを開けて私達を別邸の中へと入れた。

 初めて入った別邸は本邸に比べると物は少ないが豪華な作りにはなっていた。

 そしてある部屋へと通されると1人の男性が立っていた。


「まさかお前から私に会いに来るとは。」


 ウォーレン・ボアルネ。
 隣国のアクロアイトの王族の家系で侯爵家の次男。
 アクロアイトの現王様とは従兄弟関係。
 黒髪と深い青の瞳のクールビューティーな容姿と血筋の良さでボアルネとの政略結婚に選ばれた男。
 頭脳明晰で優秀な人物らしく、若くして学院で教鞭をすることもあったとか。
 隣国から養子に来たのに別邸に追いやられた私のお父様。


「なんの用だ?」


 同じ敷地内にいたのに、滅多に会うことのない実の父との何十年ぶりの再会。
 挨拶以外で面と向かって話すことがなかったのに、こうして個人的な話で向かい合った時、お祖父様とはまた種類の違う冷たい目で見つめられ私は少しショックを受けた。

 物語に出てくる子ども想いの父親の様な温かい対応を期待していたのかもしれない。
 精神年齢がお父様より遥かに上なのに、まるで本当の子どもになったかの様にショックを受けた。


「お、お父様にご相談があって来ました。」

「どんな相談だ?」

「私を隣国へ養子に出していただけないでしょうか?」


 お父様は眉をひそめ、同じ部屋にいるニイナとお父様専属の執事は驚いた顔をしていた。


「お嬢様、家出をあきらめていなかったのですか?」

「家出?」

「はい、お嬢様は昨晩家出をしようと画策しまして、罰として私共使用人と同じ部屋でしばらく過ごすことになりました。」


 ニイナの説明でお父様の顔が険しくなった。


「真夜中の騒ぎはお前だったのか・・・。」


 真夜中に騒いでごめんなさい。
 必死だったの。


「私はどうしても王太子なんかの婚約者になりたくないし、ボアルネなんかに居たくないの。でもお祖父様もお母様もどんな手を使ってでも私を王太子の婚約者にしようとするわ。だからお祖父様が納得するような方に私を養子として紹介して欲しいのです!」


 お父様は理解できないという表情をしている。


「お父様は王族の家系で隣国の貴族にはお顔がお広い筈でしょ?だからお父様に私を隣国へ養子に出して頂きたくてお願いにきました!お願いです!お父様の力で私をこの家から出してください!今すぐに!」

「断る。」

「即答ォ!」

「当たり前だ。ボアルネ家当主とダリアを敵に回すと面倒なことになる。」

「娘が困ってるのよ?確かにお父様にとって私は赤の他人の様な存在だけど、お父様だけが私には頼りなの!お願いします!私を隣国へ養子に出してください!ボアルネから逃してください!お願いします!」


 私は両膝をついて頭を下げた。
 私がそこまでしてお願いする姿に3人から驚いている様子が伝わってくる。


「政略結婚。公爵令嬢としての在り方。お前も私も貴族だ、単に嫌という理由だけで貴族の運命から逃れる事はできない。わがままにも限度があるぞ。いつもみたいに王都にでも行ってショッピングでも楽しんでくるんだ。そして当主と次期当主である母親の言うことを聞け、王太子の婚約者という名誉ある運命を受け入れるんだ。」


 お父様の言葉はもっともだ。

 だけど、私はその言葉に頭が沸騰しそうなくらい怒りが沸いた。


「名誉、なんかじゃない・・・。」

「名誉なことだろ。貴族の令嬢が誰もが羨む婚約だ。」

「名誉なんかじゃないわよ!何も知らない癖にッ!」


 私の目から涙がボロボロ溢れた。

 お父様よりもうんと歳上なのに恥ずかしい、子どもになったせいなのか感情が上手くコントロールできない。


「お嬢様・・・パーティーがもうすぐだから緊張で不安定なのですか?」

「違ゔぅぅ!」


 ニイナが私の顔にゴシゴシとハンカチを当てて涙を拭った。
 子ども扱いやめて、あと顔痛い。


「お前の話に付き合ってられないな。ただ単に嫌だ嫌だと駄々をこねて貴族の責務から逃げようとしているお前のわがままなお願いは、お前を知り合いの貴族に紹介するに値しない。これ以上お前のお願いを聞く理由はないだろう。それとも私を説得するだけの理由があるのか?」


 お父様の目には私への呆れの色が浮かんでいた。
 このままだと別邸を追い出されて終わりだ。
 私のは奥歯を噛み締めた。

 そして私はゆっくりと口を開き、あの話をし始めた。


「私、には・・・1回目の人生の、記憶が、あります。」


 書庫の幽霊王妃の話を。


 


 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

婚約破棄された悪役令嬢。そして国は滅んだ❗私のせい?知らんがな

朋 美緒(とも みお)
ファンタジー
婚約破棄されて国外追放の公爵令嬢、しかし地獄に落ちたのは彼女ではなかった。 !逆転チートな婚約破棄劇場! !王宮、そして誰も居なくなった! !国が滅んだ?私のせい?しらんがな! 18話で完結

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

【完結】元婚約者が偉そうに復縁を望んできましたけど、私の婚約者はもう決まっていますよ?

白草まる
恋愛
自分よりも成績が優秀だからという理由で侯爵令息アッバスから婚約破棄を告げられた伯爵令嬢カティ。 元から関係が良くなく、欲に目がくらんだ父親によって結ばれた婚約だったためカティは反対するはずもなかった。 学園での静かな日々を取り戻したカティは自分と同じように真面目な公爵令息ヘルムートと一緒に勉強するようになる。 そのような二人の関係を邪魔するようにアッバスが余計なことを言い出した。

もう、愛はいりませんから

さくたろう
恋愛
 ローザリア王国公爵令嬢ルクレティア・フォルセティに、ある日突然、未来の記憶が蘇った。  王子リーヴァイの愛する人を殺害しようとした罪により投獄され、兄に差し出された毒を煽り死んだ記憶だ。それが未来の出来事だと確信したルクレティアは、そんな未来に怯えるが、その記憶のおかしさに気がつき、謎を探ることにする。そうしてやがて、ある人のひたむきな愛を知ることになる。

悪役令嬢は永眠しました

詩海猫
ファンタジー
「お前のような女との婚約は破棄だっ、ロザリンダ・ラクシエル!だがお前のような女でも使い道はある、ジルデ公との縁談を調えてやった!感謝して公との間に沢山の子を産むがいい!」 長年の婚約者であった王太子のこの言葉に気を失った公爵令嬢・ロザリンダ。 だが、次に目覚めた時のロザリンダの魂は別人だった。 ロザリンダとして目覚めた木の葉サツキは、ロザリンダの意識がショックのあまり永遠の眠りについてしまったことを知り、「なぜロザリンダはこんなに努力してるのに周りはクズばっかりなの?まかせてロザリンダ!きっちりお返ししてあげるからね!」 *思いつきでプロットなしで書き始めましたが結末は決めています。暗い展開の話を書いているとメンタルにもろに影響して生活に支障が出ることに気付きました。定期的に強気主人公を暴れさせないと(?)書き続けるのは不可能なようなのでメンタル状態に合わせて書けるものから書いていくことにします、ご了承下さいm(_ _)m

十分我慢しました。もう好きに生きていいですよね。

りまり
恋愛
三人兄弟にの末っ子に生まれた私は何かと年子の姉と比べられた。 やれ、姉の方が美人で気立てもいいだとか 勉強ばかりでかわいげがないだとか、本当にうんざりです。 ここは辺境伯領に隣接する男爵家でいつ魔物に襲われるかわからないので男女ともに剣術は必需品で当たり前のように習ったのね姉は野蛮だと習わなかった。 蝶よ花よ育てられた姉と仕来りにのっとりきちんと習った私でもすべて姉が優先だ。 そんな生活もううんざりです 今回好機が訪れた兄に変わり討伐隊に参加した時に辺境伯に気に入られ、辺境伯で働くことを赦された。 これを機に私はあの家族の元を去るつもりです。

王子は婚約破棄を泣いて詫びる

tartan321
恋愛
最愛の妹を失った王子は婚約者のキャシーに復讐を企てた。非力な王子ではあったが、仲間の協力を取り付けて、キャシーを王宮から追い出すことに成功する。 目的を達成し安堵した王子の前に突然死んだ妹の霊が現れた。 「お兄さま。キャシー様を3日以内に連れ戻して!」 存亡をかけた戦いの前に王子はただただ無力だった。  王子は妹の言葉を信じ、遥か遠くの村にいるキャシーを訪ねることにした……。

魅了が解けた貴男から私へ

砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。 彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。 そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。 しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。 男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。 元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。 しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。 三話完結です。

処理中です...