11 / 43
1章 アマリリス姫様
11話 授業-2
しおりを挟む
▼▼
「リンドウ! リンドウ! 」
五年の教室より一つ上の階にある七年の教室でツユが叫んだ。ツユの声が聞こえるとスイッチが入ったように教室の一番後ろの席でピンとリンドウが立ち上がり、犬のような顔でツユの方を向いた。
「ツユ様! ! ! ! ! 」
リンドウの予想を超える大声が教室に響き、計画していたかのように全員が振り返りリンドウを睨んだ。
「……いつもいつもすみません」
「相変わらず元気ね、リンドウ」
リンドウは頬を掻きながらニコリと謝ると、教室の雰囲気が一気に柔ないものになった。もう何度も見て慣れているツユも苦笑いで見るしかなかった。
「そ、それでツユ様どうしたんですか? 」
「あ、そうそう」
よろけながら教室の外までできたリンドウがツユに尋ねると、思い出したように拳を掌に当ててツユもリンドウに尋ねた。
「私って貴族? 」
「はい。ツユ様はあのサイレゴシェル家のアヤメ様の娘、ツユ様で間違いありません」
即答だった。ツユの言葉に被さるほどの早さでリンドウは答えた。いつもの問いだったから。同じ言葉を、繰り返し何度も何度も数百回も発してきた言葉だったから。
「はぁ。私貴族やめたい」
「残念ながらツユ様は革命でも起きない限り一生を貴族として過ごすことでしょう。俺もさすがに諦めた方が良いと思いますよ」
あからさまに落ち込んでいるツユに少し膝を曲げて身長を合わせたリンドウが励ますように笑顔を見せた。
ツユは貴族として周りから扱われることが嫌で嫌で仕方がない。生まれたときからそう扱われているので平民のように扱われても良いかと言われれば素直に首を縦に振ることはできないが、お世辞を並べられ、貴族だからと陰口を繰り返し聞かされ、何もされていないのに頭を下げられる。そんな扱いが時々我慢できない程嫌になる。
今朝メイドによって下げられた執事になりたての少年もそうだ。初めての仕事を張り切ってツユの前に出てきたのに未熟だからと下げられる。きっとアヤメも気にしないだろうけれど、一番気にしているのはサイレゴシェル邸に遣えている使用人だ。主に敬意を持ちすぎるあまり、周りから主が白い目で見られないようにと厳しくしてしまう。ツユはそれが嫌だった。
「でもさ、やっぱりリンドウは同じ貴族なんだから普通に接してほしいよ」
「ツユ様が可愛すぎるので無理です! 」
これもまた即答だった。リンドウはツユがサイレゴシェル家の娘だからツユ様と呼び、敬語で話しているのではなく、ツユがリンドウにとっての姫のような可愛さなのでツユ様と呼び敬っている。理由は他にもあるが、これも嘘ではない。
しかし、可愛いからという理由でツユが納得できるわけもなく、どうしたらいいかもわからず、ツユは結局軽蔑するような目をリンドウに向けてしまう。悪い気はしない。実際時々リンドウの行動はツユには理解しがたい程おかしなことがあり、変人だと思っているからだ。
多少の申し訳なさを心に留めつつ、ホームルームが終わるからとツユは七年の教室から五年の教室に戻った。幸いかローメリックはまだ戻っておらず、告げ口される心配もないのでバレずに席まで戻ることができた。帰ってきたツユにサクラがにこりと微笑んだのでツユも微笑みを返した。
ローメリックが教室に戻ってきたのはツユが座ってからあまり時間が経たないうちだった。コツコツコツコツと静かだった廊下にローメリックの足音が響くと、少しだけざわついていた教室もシンとなった。
「あら、ここ五年で一番静かだったわね。さて、午前の授業を始めますよ」
ニッコリと笑って扉から顔を出したローメリックの目はやはり半開きで優しい雰囲気だった。怒らずにいるからまだこうだったのだ。三年のときに怒ったローメリックの目はいつもと変わらなかったが、魔法を使ったのか自分の声にエコーをかけ、窓の外は黒い靄が渦巻いていた。それを知っていれば誰もが静かにする。
教卓に持ってきた資料をドサドサッと落とすように置くと、ローメリックは窓に暗幕を張り、薄暗い空間で一冊の分厚い本を手に取った。
「これは今からおよそ九十六年前。十二月の黒い月が昇る革命の月にアヤメ=サイレゴシェル様が主体となり起きた革命の話です」
「リンドウ! リンドウ! 」
五年の教室より一つ上の階にある七年の教室でツユが叫んだ。ツユの声が聞こえるとスイッチが入ったように教室の一番後ろの席でピンとリンドウが立ち上がり、犬のような顔でツユの方を向いた。
「ツユ様! ! ! ! ! 」
リンドウの予想を超える大声が教室に響き、計画していたかのように全員が振り返りリンドウを睨んだ。
「……いつもいつもすみません」
「相変わらず元気ね、リンドウ」
リンドウは頬を掻きながらニコリと謝ると、教室の雰囲気が一気に柔ないものになった。もう何度も見て慣れているツユも苦笑いで見るしかなかった。
「そ、それでツユ様どうしたんですか? 」
「あ、そうそう」
よろけながら教室の外までできたリンドウがツユに尋ねると、思い出したように拳を掌に当ててツユもリンドウに尋ねた。
「私って貴族? 」
「はい。ツユ様はあのサイレゴシェル家のアヤメ様の娘、ツユ様で間違いありません」
即答だった。ツユの言葉に被さるほどの早さでリンドウは答えた。いつもの問いだったから。同じ言葉を、繰り返し何度も何度も数百回も発してきた言葉だったから。
「はぁ。私貴族やめたい」
「残念ながらツユ様は革命でも起きない限り一生を貴族として過ごすことでしょう。俺もさすがに諦めた方が良いと思いますよ」
あからさまに落ち込んでいるツユに少し膝を曲げて身長を合わせたリンドウが励ますように笑顔を見せた。
ツユは貴族として周りから扱われることが嫌で嫌で仕方がない。生まれたときからそう扱われているので平民のように扱われても良いかと言われれば素直に首を縦に振ることはできないが、お世辞を並べられ、貴族だからと陰口を繰り返し聞かされ、何もされていないのに頭を下げられる。そんな扱いが時々我慢できない程嫌になる。
今朝メイドによって下げられた執事になりたての少年もそうだ。初めての仕事を張り切ってツユの前に出てきたのに未熟だからと下げられる。きっとアヤメも気にしないだろうけれど、一番気にしているのはサイレゴシェル邸に遣えている使用人だ。主に敬意を持ちすぎるあまり、周りから主が白い目で見られないようにと厳しくしてしまう。ツユはそれが嫌だった。
「でもさ、やっぱりリンドウは同じ貴族なんだから普通に接してほしいよ」
「ツユ様が可愛すぎるので無理です! 」
これもまた即答だった。リンドウはツユがサイレゴシェル家の娘だからツユ様と呼び、敬語で話しているのではなく、ツユがリンドウにとっての姫のような可愛さなのでツユ様と呼び敬っている。理由は他にもあるが、これも嘘ではない。
しかし、可愛いからという理由でツユが納得できるわけもなく、どうしたらいいかもわからず、ツユは結局軽蔑するような目をリンドウに向けてしまう。悪い気はしない。実際時々リンドウの行動はツユには理解しがたい程おかしなことがあり、変人だと思っているからだ。
多少の申し訳なさを心に留めつつ、ホームルームが終わるからとツユは七年の教室から五年の教室に戻った。幸いかローメリックはまだ戻っておらず、告げ口される心配もないのでバレずに席まで戻ることができた。帰ってきたツユにサクラがにこりと微笑んだのでツユも微笑みを返した。
ローメリックが教室に戻ってきたのはツユが座ってからあまり時間が経たないうちだった。コツコツコツコツと静かだった廊下にローメリックの足音が響くと、少しだけざわついていた教室もシンとなった。
「あら、ここ五年で一番静かだったわね。さて、午前の授業を始めますよ」
ニッコリと笑って扉から顔を出したローメリックの目はやはり半開きで優しい雰囲気だった。怒らずにいるからまだこうだったのだ。三年のときに怒ったローメリックの目はいつもと変わらなかったが、魔法を使ったのか自分の声にエコーをかけ、窓の外は黒い靄が渦巻いていた。それを知っていれば誰もが静かにする。
教卓に持ってきた資料をドサドサッと落とすように置くと、ローメリックは窓に暗幕を張り、薄暗い空間で一冊の分厚い本を手に取った。
「これは今からおよそ九十六年前。十二月の黒い月が昇る革命の月にアヤメ=サイレゴシェル様が主体となり起きた革命の話です」
0
あなたにおすすめの小説
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します
白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。
あなたは【真実の愛】を信じますか?
そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。
だって・・・そうでしょ?
ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!?
それだけではない。
何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!!
私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。
それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。
しかも!
ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!!
マジかーーーっ!!!
前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!!
思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。
世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
【完結】あなたに知られたくなかった
ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。
5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。
そんなセレナに起きた奇跡とは?
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる