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第二章 学院事件編

始まる寮生活

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「ここか! 俺の新たな居住地は!!」

 シュヴァリア勇者学院内の敷地にあるシルバークラスの男性寮、その中の一室を前に俺はそんな声を上げる。
 男女別の上にクラス別という事なので必然的に俺とネスティはこれから夜は一つ屋根の下でという訳にはいかなくなった。

 ま、ネスティの事だ。心配は要らぬだろう。

 そう思いながら俺は扉を開けた。

「あ、こんにちは! ルームメイトのテディ・ロンドです! 今日からよろしく!……って!?」

 そこには既に別の生徒がおり、俺に対しそんな挨拶をする。
 しかも何やら、俺を見た瞬間表情が凍り付いた。

「るーむめいと? 何だそれは?」
「あ……あぁ……!! お前……!!」

 男の発言の意味が分からず疑問を口にする俺だが、どうやら男の方はそれどころでは無く何やら動揺と混乱が体の所作から見て取れる。

「……ん? というかお前どっか見た事あるな……?」

 俺は目の前の男の顔に既視感を覚えた。
 目を細め、よく男の顔を覗き込もうとすると堪らず男が声を上げる。

「お前覚えてないのかよ!? 第一試験の時、お前に言われてニルト・ヒューグの説明を強要された男だよ!」
「おぉ!! そうだそうだ!! どっかで見た顔だと思えばお前『ゾロ目』ではないか!!」
「ゾロ目って言うなぁ!? 結構気にしてるんだよこっちは!! 俺の名前はテディ!! さっき言っただろ!! ていうか俺のルームメイトってお前かよぉ……!! 最悪だぁ!!」

 テディは頭を抱え、膝を床に付けながら分かりやすく絶望した。

「おいテディとやら、るーむめいととは何だ?」
「知らないのかよ! シュヴァリア勇者学院の寮は同じクラスの奴と二人一部屋なんだよ。書類に書いてあったろ!!」
「そんな煩はしいもの見ておらん!」
「あぁそうですか……」

 俺の堂々たる物言いに、何故か意気消沈したようにテディは倒れた。

「あぁ……案内には誰とルームメイトって書いてなかったからなぁ……。コイツ以外なら誰でもいいやって思ってたのに……あぁ、何で俺こんなに運が悪いんだ……?」
「ガハハハハハハハ!! 何を言うか!! むしろ誇りに思うが良い!! お前はこの俺と共に暮らす栄えある栄誉を掴んだのだぞ!!」
「すごいなぁお前のそのポジティブ思考!?」

 俺の美徳に感動したテディは目を見開きながら叫ぶ。

「ふむ……。しかしまさか二人で一部屋とはな……、この俺に対しなんたる扱い。俺はつい数日前まで一部屋を一人で占拠していた男だぞ……って……」

 言いながら俺は部屋を見回す。
 そしてある事実に気付いた。
 
 単刀直入に言おう。
 この部屋は二人で使おうとも俺の寝ていた部屋よりも大きく、内装も豪華だのだ。

 ……。

 何ともやるせない気持ちを抱えながら、俺はこの部屋を受け入れた。



「よ、よろしくお願いします……」
「……」

 イブルにテディが翻弄されている同時刻。
 ゴールドクラスの女子寮ではネスティとそのルームメイトが挨拶を交わしていた。

「あ、あのー……?」
「……」

 挨拶、と言っても一方的に相手の少女がしているだけでネスティは何一つ返事をしていないが。

 ど、どうしよう……? 私この人と上手くやっていけるのかなぁ……?

 そう不安と心配を募らせる彼女の名前はアーシャ・クレイス。
 天職は『魔法剣士』、両親の期待を背負い晴れてゴールド1へ所属する事になった少女だ。

「……」

 さ、さっきからずっと喋らないし……ひょ、ひょっとして私の事嫌いなんじゃ……!?

 被害妄想を膨らませるアーシャ、しかし実際の所それは杞憂でありネスティは魂が抜けたようにぼーっとしているだけである。
 理由は単純明快、今日から彼女は一つ屋根の下でイブルと寝るどころか夕食も別々になってしまったからだ。
 自分が付き従うべき至高の主だけでなく、彼女の生命活力としても多大な貢献を果たしていたイブル。
 その彼と同じ学び舎に通うとは言えこうも離れ離れになってしまった事にネスティは酷く打ちひしがれていた。

 そ、そうだ……! 何かこの人の興味がありそうな事を言えば気が引けるかも!
 で、でも会ったばかりの人の興味ありそうな事なんて……あ!

 ネスティとの会話の糸口を探すアーシャ。
 初対面の彼女は唯一の活路を見出した。

「あ、あの……さっきあなたと一緒にいた人……って」
「イブル様を知っているの?」
「わぁ!?」

 それまで一度も口を開かなかったネスティが喋った事によりアーシャは驚いた

「答えて。どこで知ったの?」

 平坦な口調だが、顔を近付けネスティはアーシャに詰め寄る。

「も、もう学院中で有名ですよ。入学式の時と天職検査の時で物凄く目立ってましたから……それに、あの人と一緒にいた、あなたも」

 その圧に怯みながらも、アーシャはネスティの質問に答えた。

「……そう」
「……え、えーとそのイブルさんって……あなたの恋人なんですか?」
「違う。私とイブル様が……恋人、なんて……烏滸がましいにも程がある」
「じゃ、じゃあ……何なんですか?」

 アーシャが恐る恐るそう聞くと、ネスティはゆっくりと口を開いた。

「家族……仕えるべき人……そして、私の……救世主です」
「きゅ、救世主……?」
「はい」

 壮大な単語が飛び出した事に些か動揺するアーシャ。
 だが彼女はようやく会話の糸口を手に入れたのだ。
 ここで話を広げない手はない、そう思い畳みかける。

「あ、あの……私ルームメイトとして知りたいです。あなたの事!」
「私の事など知っても、何も面白くは無いと思いますが?」
「そ、そう事じゃなくて! 私、あなたと仲良くなりたいんです!」
「……?」

 アーシャの言葉が理解出来なかったネスティはただただ首を傾げる。

「私の名前はアーシャです! あ、あなたの名前を教えて下さい!」
「……ネスティですが」
「ネスティさん! こ、これからよろしくお願いします!」

 そう言ってアーシャは頭を下げた。

「よろしくお願いします」

 それにつられるように、ネスティも頭を下げた。

 イブルを話題に出した事により、先程と比べると明らかに会話が進む。

 う、うーん……こ、怖い人かもしれないし……何を考えているのかよく分からないけど……少なくとも悪い人じゃないと思う……。

 まだ少ししか会話をしていない。
 だが、ようやく口を開き発した言葉……そして一連の所作からアーシャはそう判断した。
 

 こうして、イブルとネスティ……二人はそれぞれのルームメイトと親睦を育んでいく事となった。

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