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第一章 学院入学編

王都へ行こう

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「はぁ~……アイツら本当に行ってなきゃいいんだけど……」
「戻ったぞ!!」
「うわぁ!?」

 駐屯所の前で深くため息を吐いていたレスクに声を掛けると、彼は大声を上げて飛び上がった。

「よ、良かった~。行かなかったんだな……」
「む、行って来たぞ?」
「え……?」
「受け取れ! そして報酬を寄こすがいい!」

 俺は指を鳴らすと、横に空間の歪みを生じさせる。
 そしてそこからガロイウルフの生首を出現させた。

 亜空収納《イラトバ》。
 異空間を形成し、そこに物をしまううスキルだ。
 大きなモノを持ち運ぶ時とても役に立つ。

「……」

 魔獣の死体を見たレスクは、ポカンと口を開けたまま固まった。

「どうした? これがあの紙に書いてあった魔獣だろう?」
「……え、あ、あぁ……え?」

 ようやく口を開いたかと思えばレスクはまともな言葉を発しない。

「全く、仕方のない奴だな」

 俺は放心状態のレスクの肩を掴み、無理やり駐屯所内へ入っていった。

「さぁもらうぞ!」
「あ、はい……どうぞ」

 駐屯所の一室で俺は金貨百枚の入った大きめの袋を受け取る。
 まだ現実を受け止めきれないのか、レスクは対応はしっかりとしているものの、その言葉には丸っきり生気を感じられない。

「ではな!」
「失礼します」

 しかし最早用は無い。
 俺とネスティは短く挨拶をすると、部屋から退出しようとする。
 その時、ネスティが俺に話し掛ける。

「イブル様、外が騒がしいです。面倒事は避けるのが得策かと」
「ふむ、確かに面倒は御免だな。ならば……空間転移《アバタート》!」

 俺は本日三度目の移動スキルを使用し、全ての面倒事を避けて帰宅した。



「……」
「……」

 その日の夜、俺は手に入れた金貨百枚を母さんと父さんに見せた。
 二人はそれを目にし、唖然としていた。

「あんたこれ……」
「見ろ母さん! 俺とネスティに掛かればこの程度余裕だ!」
「何処から盗んできたの!?」
「違うわ!! 何故息子を信用できない!? 第一それだとネスティも盗みに加担した事になるだろう!!」
「そ、そうよね。ごめんなさい、冷静じゃなかったわ……」

 そう言って母さんは深呼吸する。
 
 というか、ネスティを引き合いに出さなければ自分の無罪を証明できないのが悲しくなってくるな……。

「このお金は、ガロイウルフを討伐した事による報奨金です」

 補足するようにネスティは説明する。
 それを聞いた母さんと父さんは、目を丸くした。

「これで、俺達の力が分かったであろう!!」

 俺は得意気に鼻を鳴らす。

「凄いよイブル、ネスティちゃん! まさか二人がそんなに強いだなんて! 母さん、これならひょっとして入学試験合格するかもしれないよ!」

 目を輝かせながら父さんは母さんを見る。

「う、うーん……し、信じられないけど……このお金を見たら……信じざるを得ないわね……」

 少し苦い表情を見せる母さんだが、渋々ながらも了承する。

「ガハハハハハ!! 条件は満たしたぞ!! 母さん、父さん!! 俺とネスティは二週間後の入学試験を受ける!!」

 こうして、俺とネスティは晴れて王都へ向かう事になった。



「はい。これお弁当、お昼に食べて。後これハンカチとか色々必要なモノ入ってるから」
「おい母さん。そこまでしなくても良いぞ」
「だーめ。王都で何があるか分からないんだから、こういう準備はしっかりするの」
「ふむ……」

 入学試験まで後三日。
 王都までの距離を考えると今日出発しなければ間に合わないという事で俺とネスティは母さんから様々な荷物を持たされている事になった。

 空間転移《アバタート》を使っても良いが三回使用した後歩かなければならない。
 それならばここから馬車で行って、王都までの道を楽しんだ方が良いだろうという判断だ。

「後は~……何か必要なモノあったかしら……!?」
「落ち着いて下さいお母様」
「そ、そうは言うけどねネスティちゃん!」

 俺達が勇者学院の入学試験を受ける事が確定してから、母さんは何かと俺達に献身的だった。

「母さん」
「ん、何?」

 俺の呼び声に母さんは首を傾げる。

「ありがとうな」
「まぁ、最初は反対してたけどね……でも、やるって決めてたんなら……最後まで、頑張りなさい!」

 いつもは(俺に対してだけ)厳しいが、やはりこういう所は母さんの美徳だと思う。

 そうこうしている内に、王都まで向かう馬車が俺達の家の前まで来た。
 馬車を運転する馭者《ぎょしゃ》に確認を取り、すぐさま俺達は荷台へと乗り込む。

 いよいよだ。

 馬車に乗った俺達は荷台から顔を出し挨拶をする。

「じゃあ、行ってくる!」
「行ってきます」
「行ってらっしゃい! 頑張ってね二人共!」
「ファイトだよ!! 二人ならきっと合格する!」

 母さんと父さんの激励を受け、馬車は出発した。



「そろそろ着きますよ。お二人さん」

 馭者の言葉を耳にした俺達は荷台から正面を見る。

「おぉ、あれか!」
「はい、イブル様。あれがバレンメイガス国の王都リターナです」

 サークワイドの町を出発してから三日、俺達の眼前には王都を囲む城壁が広がっていた。

「中々に大きいではないか!」
「リターナはバレンメイガス国の中でも最大の面積を誇る都市だそうです」 
「なるほどな! まさに王都の名に恥じぬという訳だ!」

 初めて見る王都の外観に感心しながらも馬車は進み、王都との距離はみるみる内に近付いて行く。
 そして、俺達を乗せた馬車は遂に王都の城門まで辿り着いたのだった。



 城門で簡単な手続きを済ませると、王都の門は俺達を迎え入れるように開いた。
 馭者とは王都へ入った時点で別れ、俺とネスティは歩いて王都を散策する。

「おぉ!!」

 王都内はまるで別世界だった。

「すごいな! あんな建物見た事が無い! それに凄い人の数だ!」
 
 地面は石畳が敷き詰められており、建物の数も人の喧騒も住んでいた町とは大違いだ。
 俺は思わず周囲を見渡した。

「一先ず試験会場の近くまで行き、適当なお店で食事にしますか」
「そうだな! そうしよう! 丁度腹も減っているしな!」

 ネスティの素晴らしい提案に俺は二つ返事で了解する。



「うむ! 美味いな!! 何だこの肉串と言う奴は!! 肉を丸かじりすると言うのはよくやっていたがこれは別の趣があって面白いぞ!!」

 俺はサークワイドの売店では無かった食べ物に舌鼓を打つ。

「どうだ。ネスティも美味いだろう?」
「はい。イブル様と食べるとどんな料理であろうと美味です」
「そ、そういう話ではないのだがな……」

 乾いた笑みを浮かべながら、引き続き俺は食事を続行した。

 いやぁ……にしても美味いな! いくらでも食えるぞ!! 幸い金はいくらでもある!

 俺達が稼いだ額は金貨百枚、どれだけ食費を重ねようが懐事情が切迫する事は無い。

 お、あれも美味そうだ! 後あれも!!

 匂いや見た目に釣られ俺は次々と出店の料理を買い、食して行った。



 一通り気になった料理を食べた後、俺は食後のデザートを探していた。

「うーん、塩気のあるモノは沢山あったが……甘味《かんみ》となると中々無いものだな」

 別の通りを探せば良いのかも知れないがそれも中々に面倒臭い。

「イブル様、アレはどうでしょうか?」
「む?」

 ネスティの声に反応し彼女が示した指の先へ俺は視線を向ける。
 その売店には、看板にこう書かれていた。

「あいす、くりーむ……?」

 これまた初めて見る名前である。
 しかし、見た目からそれが甘味である事は何となく分かった。
 しかもとても美味そうなのだ。

 まさに俺が求めていた出店、今の俺にはその店が輝いて見えた。

 よし、ここに決めたぞ!

 俺は即購入を決意する。

「店主! このあいすくりーむとやらをくれ!」
「アイスクリーム一つ」

 ……。

「ん?」

 同じタイミングであいすくりーむを求める声がした俺は、声のした右へと首を曲げる。
 そこには一人の少女が立っていた。

 紅蓮のような鮮烈色の長髪に、平坦な目尻。
 幼さを多分に含む整った面《つら》だが、どこか達観した様子を見せている。
 
 そんな少女が、俺と同じモノを店主に求めていた。
 ここで問題が発生する。
 それは先にどちらがあいすくりーむを買うかという事だ。

 しかし、この問題は即解決する。
 この俺の圧倒的慈悲によってな。

「先に買うが良い。俺は肝要だからな……それくらいは許す!」

 俺は『魔王』としての矜持を見せるべく少女に先に注文するように促す。

「流石イブル様、何と寛大なお心遣い」
「ふっ、よせネスティ。当然の事をしたまでよ……」

 決め顔をする俺、その横で少女があいすくりーむを購入しようとする。

「ありがとう。それでは店主、私にアイスクリームを一つ」
「お、良かったねお嬢ちゃん。昼時で飛ぶように売れてさ。作れて後一個なんだよ」
「それは幸運」

 ふむ……。

「やはり今の話は無しだ」

 俺は光の速さで矜持を捨てた。
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